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英略語:VBM | |||
Voxel-based morphometryは、頭部Magnetic resonance imaging (MRI)を半自動的に処理し、脳全体を細かなボクセル単位(1〜8mm立方程度)で統計解析し、様々な精神神経疾患の患者における脳体積の減少や増加、あるいは健常ヒトにおける様々な精神機能や行動パターンなどと関連した脳形態特徴などを同定する事に貢献してきた。コンピュータや画像技術の進歩と共に1990年代の後半から登場し、従来の用手的な体積測定法に変わって脳形態解析の定番となっている。 | |||
<br> | == 特長 == | ||
[[Image:VBMfigure2.jpg|thumb|350px|'''図.VBMの画像処理の流れ(概念図)'''<br>従来のstandard VBMでは、欧米の健常者のデータから作成したテンプレートや、組織がその位置に存在している確率情報(Prior probability map)を用いて、空間正規化(Spatial normalization)や組織の区分(Tissue segmentation)を行っていた。それに対して、optimized VBMでは、研究対象からなるサンプルから作成したテンプレートや、組織がその位置に存在している確率情報による画像処理を導入して、空間正規化や組織の分類の精度を高めている。さらに、信号調節による補正(Intensity modulation)を行うことで、空間正規化の非線形変換(Non-linear transformation)のステップで失われた分の解剖学的情報を反映している。]] | |||
1990年代までは多くの脳形態解析研究には、関心領域(ROI: Region-of-interest)法が用いられており、知見のほとんどがROI法によって得られたものであった。このROI法では、測定者がスライス一枚ごとに、解剖学的構造物を基準として厳密に定義された方法で、関心領域の境界を手書きで書き込んでいき、部位によっては数10スライスにわたる作業をやり遂げて、初めて体積が測定可能となる。そして、十分に測定の妥当性と信頼性を高めるために、測定者は繰り返しトレーニングを受ける必要があった。こうした特徴から、ROI法では、測定に著しい時間と労力が必要とされるために、研究対象となる脳部位はある特定の仮説に基づいた部位に限定され、サンプルサイズも制限されがちであった。また、明確な境界を定義可能な部位に制限されやすく、出来るだけ簡便で分かりやすい境界を用いて測定者間一致度を高めることと、細胞構築や脳機能の観点から出来る限り妥当な境界を設定することとは、時として食い違う場合もあった。 | |||
< | それに対してVBMは、各個人のMRI画像データを標準脳座標上に変換し、空間正規化をする事で、自動的に全脳の形態学的解析を行なう事が出来る比較的新しい方法である<ref><pubmed> 10860804 </pubmed></ref>(図)。仮説に基づいた関心領域のみを手書きで計測するROI方法と対照的に、比較的簡便に自動的に解析でき、測定者の違いに左右されないという特徴がある。また、より大きなサンプルでの研究が可能で、これまでは境界の定義が困難であるために研究されにくかった脳部位についても研究でき、ある特定の要因に関連のある部位を全脳から検出出来るという利点が得られている。こうした利点を生かして、近年のVBMを用いた研究は、単にROI法で得られた知見の追試にとどまらず、新たな知見を付け加えてきている。そして、現在までに統合失調症<ref><pubmed> 9988836 </pubmed></ref>、気分障害、自閉症スペクトラム障害、心的外傷後ストレス性障害(Post traumatic stress disorder: PTSD)<ref><pubmed> 12853571 </pubmed></ref>やアルツハイマー型認知症などの様々な精神神経疾患、および健常範囲の脳形態の個体差とタクシー運転手としての経験<ref><pubmed>1071673</pubmed></ref>や男女差と性格<ref><pubmed> 18234682 </pubmed></ref>や遺伝子多型<ref><pubmed> 15880108 </pubmed></ref>さらには朝食のスタイル<ref><pubmed> 21170334 </pubmed></ref>などとの関連の解明に応用されて新たな知見を提供してきた。 | ||
== 原理と方法 == | |||
各個人のMRI画像データを標準脳テンプレートを用いて標準脳座標上に変換(空間正規化:Spatial normalization)し、画素の持つ信号強度の情報とその画素の位置情報から推測される灰白質(白質)である確率(Probability map)を基に灰白質と白質と脳脊髄液を区分し(Segmentation)、同一の脳座標空間上で濃度の情報として局所体積の個人差が反映される。この濃度が正規分布に近づく様に、そして空間正規化の精度を高める様に平滑化(Smoothing)を行う。これらの前処理を経て、特定の位置における濃度の統計解析が行える事になる。脳全域では数10万ボクセルの多重検定を行う事になるためfalse-positive やfalse-negativeを最小限にするための有意水準補正の方法が問題になる。用手的な体積測定法との一致もある程度示されているが、正確には体積とは異なる指標を用いて統計解析を行っている事には留意が必要である。 | |||
< | 画像の前処理の際の空間正規化や組織の区分において精度を高める様に、Optimized VBM <ref><pubmed> 11525331 </pubmed></ref>やDARTEL <ref><pubmed> 17761438 </pubmed></ref>といった方法が出現してきた。Optimized VBMでは、組織の区分の精度を高めるためにprobability mapを研究サンプルから作成することで研究独自のスキャナー・人種・年齢層などの属性に基づいたmapを用いている。そして、空間正規化で失われる解剖学的情報を最小にするために、区分した組織ごとに正規化を行うこと、研究固有のサンプルから作成したテンプレートを作成すること、正規化で失われた情報を濃度に反映させて回復するためのintensity modulationを行うこと、などの改良を加えている。DARTELでは、何百万ものパラメータを使って各被験者の脳の形態をモデリングすることにより、テンプレートに繰り返し合わせながら、被験者間の位置合わせの精度を高めている。 | ||
また、false-positive やfalse-negativeを最小限にするための有意水準補正法としては、ボンフェローニタイプの補正であるFamily-wise error補正や、棄却された仮説のうち誤って棄却された真の帰無仮説の割合を制御するFalse discovery rate correction <ref><pubmed> 11906227 </pubmed></ref>などの補正法が、事前に予測された関心領域を定義しその関心領域内で多重比較補正を行うSmall volume correctionなどと組み合わせて用いられている。 | |||
== 参考文献 == | |||
<references/> | |||
(執筆者:山末英典 担当編集委員:加藤忠史) |
2013年3月18日 (月) 09:57時点における版
英略語:VBM
Voxel-based morphometryは、頭部Magnetic resonance imaging (MRI)を半自動的に処理し、脳全体を細かなボクセル単位(1〜8mm立方程度)で統計解析し、様々な精神神経疾患の患者における脳体積の減少や増加、あるいは健常ヒトにおける様々な精神機能や行動パターンなどと関連した脳形態特徴などを同定する事に貢献してきた。コンピュータや画像技術の進歩と共に1990年代の後半から登場し、従来の用手的な体積測定法に変わって脳形態解析の定番となっている。
特長
1990年代までは多くの脳形態解析研究には、関心領域(ROI: Region-of-interest)法が用いられており、知見のほとんどがROI法によって得られたものであった。このROI法では、測定者がスライス一枚ごとに、解剖学的構造物を基準として厳密に定義された方法で、関心領域の境界を手書きで書き込んでいき、部位によっては数10スライスにわたる作業をやり遂げて、初めて体積が測定可能となる。そして、十分に測定の妥当性と信頼性を高めるために、測定者は繰り返しトレーニングを受ける必要があった。こうした特徴から、ROI法では、測定に著しい時間と労力が必要とされるために、研究対象となる脳部位はある特定の仮説に基づいた部位に限定され、サンプルサイズも制限されがちであった。また、明確な境界を定義可能な部位に制限されやすく、出来るだけ簡便で分かりやすい境界を用いて測定者間一致度を高めることと、細胞構築や脳機能の観点から出来る限り妥当な境界を設定することとは、時として食い違う場合もあった。
それに対してVBMは、各個人のMRI画像データを標準脳座標上に変換し、空間正規化をする事で、自動的に全脳の形態学的解析を行なう事が出来る比較的新しい方法である[1](図)。仮説に基づいた関心領域のみを手書きで計測するROI方法と対照的に、比較的簡便に自動的に解析でき、測定者の違いに左右されないという特徴がある。また、より大きなサンプルでの研究が可能で、これまでは境界の定義が困難であるために研究されにくかった脳部位についても研究でき、ある特定の要因に関連のある部位を全脳から検出出来るという利点が得られている。こうした利点を生かして、近年のVBMを用いた研究は、単にROI法で得られた知見の追試にとどまらず、新たな知見を付け加えてきている。そして、現在までに統合失調症[2]、気分障害、自閉症スペクトラム障害、心的外傷後ストレス性障害(Post traumatic stress disorder: PTSD)[3]やアルツハイマー型認知症などの様々な精神神経疾患、および健常範囲の脳形態の個体差とタクシー運転手としての経験[4]や男女差と性格[5]や遺伝子多型[6]さらには朝食のスタイル[7]などとの関連の解明に応用されて新たな知見を提供してきた。
原理と方法
各個人のMRI画像データを標準脳テンプレートを用いて標準脳座標上に変換(空間正規化:Spatial normalization)し、画素の持つ信号強度の情報とその画素の位置情報から推測される灰白質(白質)である確率(Probability map)を基に灰白質と白質と脳脊髄液を区分し(Segmentation)、同一の脳座標空間上で濃度の情報として局所体積の個人差が反映される。この濃度が正規分布に近づく様に、そして空間正規化の精度を高める様に平滑化(Smoothing)を行う。これらの前処理を経て、特定の位置における濃度の統計解析が行える事になる。脳全域では数10万ボクセルの多重検定を行う事になるためfalse-positive やfalse-negativeを最小限にするための有意水準補正の方法が問題になる。用手的な体積測定法との一致もある程度示されているが、正確には体積とは異なる指標を用いて統計解析を行っている事には留意が必要である。
画像の前処理の際の空間正規化や組織の区分において精度を高める様に、Optimized VBM [8]やDARTEL [9]といった方法が出現してきた。Optimized VBMでは、組織の区分の精度を高めるためにprobability mapを研究サンプルから作成することで研究独自のスキャナー・人種・年齢層などの属性に基づいたmapを用いている。そして、空間正規化で失われる解剖学的情報を最小にするために、区分した組織ごとに正規化を行うこと、研究固有のサンプルから作成したテンプレートを作成すること、正規化で失われた情報を濃度に反映させて回復するためのintensity modulationを行うこと、などの改良を加えている。DARTELでは、何百万ものパラメータを使って各被験者の脳の形態をモデリングすることにより、テンプレートに繰り返し合わせながら、被験者間の位置合わせの精度を高めている。
また、false-positive やfalse-negativeを最小限にするための有意水準補正法としては、ボンフェローニタイプの補正であるFamily-wise error補正や、棄却された仮説のうち誤って棄却された真の帰無仮説の割合を制御するFalse discovery rate correction [10]などの補正法が、事前に予測された関心領域を定義しその関心領域内で多重比較補正を行うSmall volume correctionなどと組み合わせて用いられている。
参考文献
- ↑
Ashburner, J., & Friston, K.J. (2000).
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(執筆者:山末英典 担当編集委員:加藤忠史)