「白質」の版間の差分

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[[image:白質.jpg|thumb|350px|'''図.白質'''<br>矢印の範囲が大脳髄質(白質)]]
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 白質(はくしつ)とは、脳と脊髄からなる中枢神経組織の中で、神経細胞(ニューロン)の細胞体に乏しく主に神経線維が集積し走行している領域である。白質は、大脳や小脳では深層を占め、大脳髄質、小脳髄質とよばれる(図を参照)。脊髄では、白質は表層を占め、その位置により前索、側索、後索と命名されている。その他の神経領域では、投射系の違いに応じて神経線維が集まって投射路(伝導路)となり、神経組織や神経核間の特定の部位を走行する。例えば、[[大脳皮質]]運動野から脊髄前角に下行する運動路は、間脳では内包、中脳では大脳脚、橋では縦橋線維、延髄では錐体を通り、脊髄白質の前索と側索を下行する。しばしば、白質内を走行する投射路は、出発地と到着地の[[灰白質]]や神経核の名称を用いて、皮質脊髄路、脊髄視床路、脊髄小脳路などと表記される。
 白質(はくしつ)とは、脳と脊髄からなる中枢神経組織の中で、神経細胞(ニューロン)の細胞体に乏しく主に神経線維が集積し走行している領域である。白質は、大脳や小脳では深層を占め、大脳髄質、小脳髄質とよばれる(図を参照)。脊髄では、白質は表層を占め、その位置により前索、側索、後索と命名されている。その他の神経領域では、投射系の違いに応じて神経線維が集まって投射路(伝導路)となり、神経組織の特定の部位を走行する。例えば、大脳皮質運動野から脊髄前角に下行する運動路は、間脳では内包、中脳では大脳脚、橋では縦橋線維、延髄では錐体を通り、脊髄白質の前索と側索を下行する。しばしば、白質内を走行する投射路は、出発地と到着地の灰白質や神経核の名称を用いて、皮質脊髄路、脊髄視床路、脊髄小脳路などと表記される。


 神経細胞は、神経情報の入力部となる樹状突起、核を保有する細胞体、神経情報の出力部となる軸索、神経伝達物質を貯蔵し放出する終末部の4つの基本的構成からなる。このうち、白質は軸索が豊富な部位で、[[有髄神経]]線維を包む[[ミエリン]]鞘が大量に存在している部位である。このため、白質の組織学的検出には、[[髄鞘]](ミエリン)に含まれる髄鞘蛋白(例えばミエリン塩基性蛋白)や軸索に含まれる分子(例えばニューロフィラメント)に対する免疫組織化学を行うことで、容易に同定できる。
 神経細胞は、神経情報の入力部となる樹状突起、核を保有する細胞体、神経情報の出力部となる軸索、神経伝達物質を貯蔵し放出する終末部の4つの基本的構成からなる。このうち、白質は軸索が豊富な部位で、有髄神経線維を包む髄鞘(ミエリン)が大量に存在している部位である。このため、白質の組織学的検出には、髄鞘に選択的な髄鞘蛋白(例えばミエリン塩基性蛋白)や軸索に選択的な分子(例えばニューロフィラメント)に対する免疫組織化学を行うことで、容易に同定できる。


 白質を通るニューロンの軸索は、長いものでは1メートル近くに及ぶ。神経情報は、軸索上を活動電位というインパルスが伝導し、高速かつ確実に標的まで到達する。それは、有髄神経線維では軸索初節やランビエ絞輪の軸索膜に電位依存性Na+チャネルや電位依存性[[K+チャネル]]が高密度に集積し、跳躍伝導が起こることによる。しかし、[[多発性硬化症]]などにより、一度形成された髄鞘が何らかの病因により脱落(脱髄)すると、これらの[[イオンチャネル]]の集積化が失われ、無髄神経線維のように広汎な低密度分布様式となる。このような状況では伝導速度が著しく低下し、インパルスが途中で止まり伝導ブロックが発生する。このような白質病変が起こると、末梢で捉えた感覚情報は大脳皮質に伝わらなくなり、大脳皮質が司令する運動情報も筋に伝わらなくなり、麻痺が起こる。
 白質を通るニューロンの軸索は、長いものでは1メートル近くに及ぶ。神経情報は、軸索上を活動電位(インパルス)として伝導し、高速かつ確実に標的まで到達する。それは、有髄神経線維では特定の部位(軸索初節とランビエ絞輪)の軸索膜に電位依存性Na+チャネルや電位依存性K+チャネルが高密度に集積し、跳躍伝導が起こることによる。しかし、多発性硬化症などにより、一度形成された髄鞘が何らかの病因により脱落(脱髄)すると、これらのイオンチャネルの集積化が失われ、無髄神経線維のように広汎な低密度分布様式となる。このような状況では伝導速度が著しく低下し、インパルスが途中で止まり伝導ブロックが発生する。このような白質病変が起こると、末梢で捉えた感覚情報は大脳皮質に伝わらなくなり、大脳皮質が司令する運動情報も筋に伝わらなくなり、麻痺が起こる。

2013年6月14日 (金) 22:32時点における版

渡辺 雅彦
北海道大学大学院医学研究科解剖学講座
DOI XXXX/XXXX 原稿受付日:2013年6月14日 原稿完成日:2013年XX月XX日
担当編集委員:柚崎 通介(慶應義塾大学 医学部生理学)

図.白質
矢印の範囲が大脳髄質(白質)

 白質(はくしつ)とは、脳と脊髄からなる中枢神経組織の中で、神経細胞(ニューロン)の細胞体に乏しく主に神経線維が集積し走行している領域である。白質は、大脳や小脳では深層を占め、大脳髄質、小脳髄質とよばれる(図を参照)。脊髄では、白質は表層を占め、その位置により前索、側索、後索と命名されている。その他の神経領域では、投射系の違いに応じて神経線維が集まって投射路(伝導路)となり、神経組織の特定の部位を走行する。例えば、大脳皮質運動野から脊髄前角に下行する運動路は、間脳では内包、中脳では大脳脚、橋では縦橋線維、延髄では錐体を通り、脊髄白質の前索と側索を下行する。しばしば、白質内を走行する投射路は、出発地と到着地の灰白質や神経核の名称を用いて、皮質脊髄路、脊髄視床路、脊髄小脳路などと表記される。

 神経細胞は、神経情報の入力部となる樹状突起、核を保有する細胞体、神経情報の出力部となる軸索、神経伝達物質を貯蔵し放出する終末部の4つの基本的構成からなる。このうち、白質は軸索が豊富な部位で、有髄神経線維を包む髄鞘(ミエリン)が大量に存在している部位である。このため、白質の組織学的検出には、髄鞘に選択的な髄鞘蛋白(例えばミエリン塩基性蛋白)や軸索に選択的な分子(例えばニューロフィラメント)に対する免疫組織化学を行うことで、容易に同定できる。

 白質を通るニューロンの軸索は、長いものでは1メートル近くに及ぶ。神経情報は、軸索上を活動電位(インパルス)として伝導し、高速かつ確実に標的まで到達する。それは、有髄神経線維では特定の部位(軸索初節とランビエ絞輪)の軸索膜に電位依存性Na+チャネルや電位依存性K+チャネルが高密度に集積し、跳躍伝導が起こることによる。しかし、多発性硬化症などにより、一度形成された髄鞘が何らかの病因により脱落(脱髄)すると、これらのイオンチャネルの集積化が失われ、無髄神経線維のように広汎な低密度分布様式となる。このような状況では伝導速度が著しく低下し、インパルスが途中で止まり伝導ブロックが発生する。このような白質病変が起こると、末梢で捉えた感覚情報は大脳皮質に伝わらなくなり、大脳皮質が司令する運動情報も筋に伝わらなくなり、麻痺が起こる。