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{{box|text= 企図振戦は、特に小脳失調において姿勢保持や動作遂行の際に脊髄運動ニューロンの群発放電が起こることにより発現する。典型的には、到達運動を伴う目的動作の実行中に出現する手指の激しい震えで、目標に達しても持続する。}}
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== 企図振戦とは ==
== 企図振戦とは ==
 企図振戦とは、到達運動を伴う目的動作の実行中に出現し、手指が目標に達しても持続する激しい振戦のことである<ref>監修 伊藤正男、編集 金澤一郎、篠田義一、廣川信隆、御子柴克彦、宮下保司<br>脳神経科学<br>三輪書店、2003</ref>。[[小脳]]歯状核から視床に向かう神経線維で構成される上小脳脚の病変の際に発現する企図振戦を典型例として示す(図)。すなわち、指鼻試験で示指を鼻につける動作の際に、膝から鼻に向かう指は3~4 Hzのほぼ規則的な振戦を示しつつ、全体として目標に向かうコースをとり、鼻に到達した後もさらに激しく震える。企図振戦は、随意運動の発現に際して、小脳振戦の機序による脊髄[[運動ニューロン]]の律動的かつ不随意的な興奮が加わったものであると考えられる。すなわち、小脳失調では安静時に筋緊張は低下しており、姿勢保持や動作遂行の際にのみ脊髄運動ニューロンの群発放電が起こり、小脳振戦が発現する。四肢、特に上肢の運動に関与する小脳の出力部は歯状核(外側核)であり、歯状核を含む病変では、企図振戦に加えて、運動解体や推尺異常などの激しい運動失調が誘発される。
 企図振戦とは、到達運動を伴う目的動作の実行中に出現し、手指が目標に達しても持続する激しい振戦のことである<ref>監修 伊藤正男、編集 金澤一郎、篠田義一、廣川信隆、御子柴克彦、宮下保司<br>脳神経科学<br>三輪書店、2003</ref>。[[小脳]]歯状核から視床に向かう神経線維で構成される上小脳脚の病変の際に発現する企図振戦を典型例として示す(図)。すなわち、指鼻試験で示指を鼻につける動作の際に、膝から鼻に向かう指は3~4 Hzのほぼ規則的な振戦を示しつつ、全体として目標に向かうコースをとり、鼻に到達した後もさらに激しく震える。企図振戦は、随意運動の発現に際して、小脳振戦の機序による脊髄[[運動ニューロン]]の律動的かつ不随意的な興奮が加わったものであると考えられる。すなわち、小脳失調では安静時に筋緊張は低下しており、姿勢保持や動作遂行の際にのみ脊髄運動ニューロンの群発放電が起こり、小脳振戦が発現する。四肢、特に上肢の運動に関与する小脳の出力部は歯状核(外側核)であり、歯状核を含む病変では、企図振戦に加えて、運動解体や推尺異常などの激しい運動失調が誘発される。

2015年6月27日 (土) 18:58時点における版

英語名:intention tremor 独:Intentionstremor 仏:tremblement avec intention, tremblement intentionnel

 企図振戦は、特に小脳失調において姿勢保持や動作遂行の際に脊髄運動ニューロンの群発放電が起こることにより発現する。典型的には、到達運動を伴う目的動作の実行中に出現する手指の激しい震えで、目標に達しても持続する。

図 企図振戦
左:正常、右:病態

企図振戦とは

 企図振戦とは、到達運動を伴う目的動作の実行中に出現し、手指が目標に達しても持続する激しい振戦のことである[1]小脳歯状核から視床に向かう神経線維で構成される上小脳脚の病変の際に発現する企図振戦を典型例として示す(図)。すなわち、指鼻試験で示指を鼻につける動作の際に、膝から鼻に向かう指は3~4 Hzのほぼ規則的な振戦を示しつつ、全体として目標に向かうコースをとり、鼻に到達した後もさらに激しく震える。企図振戦は、随意運動の発現に際して、小脳振戦の機序による脊髄運動ニューロンの律動的かつ不随意的な興奮が加わったものであると考えられる。すなわち、小脳失調では安静時に筋緊張は低下しており、姿勢保持や動作遂行の際にのみ脊髄運動ニューロンの群発放電が起こり、小脳振戦が発現する。四肢、特に上肢の運動に関与する小脳の出力部は歯状核(外側核)であり、歯状核を含む病変では、企図振戦に加えて、運動解体や推尺異常などの激しい運動失調が誘発される。

定義

 不随意運動(意思とは無関係に起こる運動)のうち最も発現頻度が高いものが振戦である。振戦は身体の一部あるいは全身の震えであり、“等しい時間間隔で類似の運動が繰り返されること”[2]、“規則的な時間間隔で繰り返されるあらゆる型の動き”[3]などと定義される。振戦の多くは1関節での単純な屈伸運動であり、2関節に及ぶ場合には回旋の要素が加わる。一定の振幅で規則正しく震えるものばかりでなく、動きごとに振幅が変化するものも含まれる。また、手指の振戦では個々の指がバラバラに動くことがある。

種類

 振戦には、神経質、疲労、筋力低下など、正常でもみられる生理的振戦と、運動中枢の障害による異常あるいは病的振戦がある。異常振戦はさらに安静時振戦、姿勢時振戦、動作時振戦の3つに分類される。

  • 安静時振戦は、安静位において上肢や下肢が規則的に震えるもので、主としてパーキンソン病の際に認められる。毎秒4~6回の頻度で手指を摺り合わせ、丸薬をまるめるような、あるいは貨幣を数えるような手指の動きの繰り返しが特徴的である。
  • 姿勢時振戦動作時振戦は通常、同じ病態で現れることが多く、小脳失調による小脳振戦、脳卒中や外傷による脳幹振戦などが代表的である。これらの振戦は毎秒3~4回の頻度で出現する。姿勢時振戦は指鼻試験の上肢筋や立位の下肢筋に生じるが、筋電図では規則的な群発放電が屈筋と伸筋に交互に出現する。動作時振戦は粗大かつ不規則で、回旋性の要素を伴う企図振戦である。

機序

 振戦は、基本的に筋の短い収縮が規則的に繰り返されることによって生じ、このことは脊髄運動ニューロンの群発放電に起因する。群発放電の機序としては、中枢神経系内部のリズム形成回路もしくは反射回路の活動による脊髄運動ニューロンの周期的興奮が考えられる。異常振戦は、中枢神経系の障害によるもので、脳内に構築されたリズム形成回路を介して規定される脊髄運動ニューロンの群発放電のパターンに基づき、脊髄反射弓の活動が振戦のリズムやばらつきを修飾する。具体的な神経機構は不明であるが、視床腹外側核(VL)や腹側中間核(Vim)の定位脳手術によって消失することから、振戦を発現するリズム情報は視床から大脳皮質への投射を経て脊髄運動ニューロンに伝達されると推測される。

関連項目

参考文献

  1. 監修 伊藤正男、編集 金澤一郎、篠田義一、廣川信隆、御子柴克彦、宮下保司
    脳神経科学
    三輪書店、2003
  2. S.A.K. Wilson
    Disorders of motility and muscle tone, with special reference to the striatum
    Lancet 2 (1925), pp. 1–53
  3. J. Marshall
    In Handbook of Clinical Neurology.
    Ed. P. J. Vinken and G. W. Bruyn. North-Holland, Amsterdam; 6, 809