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''慶應義塾大学先導研究センター''<br>
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DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年2月1日 原稿完成日:2016年月日<br>
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担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0048432 定藤 規弘](自然科学研究機構生理学研究所 大脳皮質機能研究系)<br>
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2016年2月11日 (木) 15:23時点における最新版

山﨑 由美子
慶應義塾大学先導研究センター
DOI:10.14931/bsd.6817 原稿受付日:2016年2月1日 原稿完成日:2016年2月10日
担当編集委員:定藤 規弘(自然科学研究機構生理学研究所 大脳皮質機能研究系)

英語名:stimulus equivalence

同義語:等価関係(equivalence relations)

(藤永保監修『最新 心理学事典』(平凡社、2013年12月発行)の項目「刺激等価性」に基づく転載)

 刺激等価性とは、任意の事物・刺激間に成立した、機能的な交換可能性を指す。成立した関係に焦点を置いて等価関係とも呼ばれる。ことばの学習に例証され、子どもが母親から「ウサギさんはどれ?」と尋ねられてウサギのぬいぐるみを選ぶことができ、かつ、母親から「これは何かな?」と尋ねられて子どもが「ウサギ」と答えられた時、「ウサギ」という音声とウサギのぬいぐるみの間に刺激等価性が成立したという。訓練刺激が等価な刺激クラスとなるばかりでなく、派生的・創発的に刺激間関係の拡張が示されることを要件とする。他の種と比べてヒトにおいて特別に成立しやすいことから、刺激等価性は言語・表象機能の発現に不可欠な背景となる認知能力と考えられている。

 刺激等価性の成立は、代表的にはことばの学習に例証される。

 子どもが母親から「ウサギさんはどれ?」と尋ねられてウサギのぬいぐるみを選んだり、ウサギのぬいぐるみを見て[うさぎ]の文字カードを選んだりできたとき、その子は「ウサギ」という母親の発声がどの事物を指し、どのような記号に対応するかについて、何らかの理解をしたと考えられる。この後、子どもは特に教えられなくても、ぬいぐるみを見て「ウ・サ・ギ」と発声したり、文字カードを見てウサギのぬいぐるみを指差したり、「ウサギ」と聞いて[うさぎ]の文字カードを選んだり、文字カードを見て「ウ・サ・ギ」と読めたりする。これらが観察されたとき、「ウサギ」という音声、ウサギのぬいぐるみ、[うさぎ]の文字カードの間に刺激等価性が成立したという。

 このような現象は日常の語彙の獲得場面では当然のこととして知られていたが、背景にある行動原理は明らかでなかった。「ウサギ」の音声は聴覚刺激、写真と文字は視覚刺激だがそれぞれの間に物理的な連続性・類似性がないため、刺激般化による説明は難しい。すべての関係が明示的に訓練(強化)されていたわけではないため、オペラント条件づけ反応-強化随伴性や、古典的条件づけ刺激-刺激連合のみによる説明にも困難がある。

 そこで、このような現象を実証的分析の対象とするため、研究の枠組みを作ったのがアメリカの心理学者シドマンである。彼は、1970年代から小頭症ダウン症と診断された知的発達障害者において、音声反応、図形刺激、つづり単語の間にある関係の一部を訓練し獲得させることにより、直接訓練されていなかった関係が創発したことを報告した[1]。また、1982年にはアカゲザルアヌビスヒヒヒトの幼児を対象とした実験を行い[2]、刺激等価性がヒトに固有であり、言語的能力との深い関係が示唆されることを指摘し、初めて刺激等価性の概念の整理と研究の定式化を行った[3]

 オペラント条件づけを用いた逆転学習を通して機能的に等価な刺激カテゴリーを作る機能的等価性(functional equivalence)や、パブロフ型(古典的)条件づけにより刺激-強化関係を共有することで共通の機能を持つに至る獲得性等価性(acquired equivalence)も刺激等価性と呼ばれることがあるが、本稿では、訓練刺激が等価な刺激クラスとなるばかりでなく、派生的・創発的に刺激間関係の拡張が示されることを要件とする、シドマンSidman, M.の枠組みによる刺激等価性について述べる。

構成

 刺激等価性を成立させるためには、刺激間にありうるすべての関係を訓練する必要はない。部分的な訓練の後、未訓練の刺激間に派生的、創発的に新規な関係を成立させることが可能であり、これこそが般化や転移で説明できない刺激等価性の特徴といえる。

 刺激等価性をテストするためには、前提となる刺激間関係を獲得させる必要があり、典型的には条件性弁別 conditional discrimination手続きが用いられる。条件性弁別とは、例えば3つの刺激A、B、Cを使った場合、見本刺激(A)に対して提示された比較刺激の中から特定の刺激(B)を選択させる手続きを指し、これを通して「AならばB」の関係が構築される。これに加えて、Bを見本刺激として比較刺激Cを選択させ、もうひとつの条件性弁別「BならばC」を訓練する。それぞれを見本刺激・比較刺激として6種類の条件性弁別が可能であるが、ここではその中の2つが訓練されたことになる。残りの4つの関係は、刺激等価性の成立を示す決定的なテストとして、訓練せずに残しておく。

 シドマンは、この4つの刺激間関係が包含する性質を数学的概念から引用して反射性(reflexivity)、対称性(symmetry)、推移性(transitivity)、等価性(equivalence)と呼び、訓練から派生した刺激間関係を最も節約的に評価するための構成要素とすることを提案した。これらの性質が成立したかどうかは、非分化強化場面で学習の要素を排除しながらテストする。

  1. 反射性(reflexivity):見本刺激Aに対して比較刺激Aを選ぶことで表されるような、刺激それ自身に対する関係を指す。反射性は、見本刺激と同じ比較刺激を選べば示されることから、反射性テストと「同じ」の概念を形成する同一見本合わせ訓練後の転移テストとは、手続き上は同じであるが、概念的に両者は全く異なる。前者は刺激間に等価クラスが成立した後で見られる、刺激等価性のひとつの特徴として捉えられ、機能的に等価であることが要件となるが、後者は見本刺激と物理的に同じ特徴を持った刺激を選ぶことにより強化される関係の転移である。
  2. 対称性(symmetry):「AならばB」「BならばC」の訓練後に成立する、「BならばA」「CならばB」という双方向の刺激間関係の成立を指し、訓練時の見本刺激と比較刺激を交換することによってテストする。ここでの対称とは、物理的・形態的な意味ではなく、事物・刺激間の機能的な対称関係と言える。条件性弁別「AならばB」が論理学の条件法に相当するとすれば、対称性の成立はその逆、つまり必ずしも真ではない非論理的導出となる。
  3. 推移性(transitivity):「A ならばB」「BならばC」という訓練の後、「A ならばC」という推移的関係が成立することにより示される。三段論法推移律に相当する関係を指し、論理的には真である。
  4. 等価性(equivalence):「AならばB」「BならばC」という訓練後に成立した「CならばA」という関係を指す。すなわち、等価性は対称性と推移性の両方の要素を含み、2つの条件性弁別の推移的関係が双方向関係となったときに示される。反射性、対称性、推移性、等価性の各要件を示すことで、等価関係の成立が証明された刺激群(ここではA、B、C)は、等価クラスと呼ばれる。

 反射性、対称性、推移性、等価性の各テストで用いられる見本刺激と比較刺激の組み合わせは、被験者・被験体に対してそれまで提示されたことがないものであるため、強化履歴によるバイアスは存在せず、理論的にはランダムな選択反応が予測される。それにもかかわらず、ヒトはほとんどの場合、これらの関係の成立を示すことが知られている。選択に対してフィードバックがない場合でさえ、等価性テスト試行に繰り返しさらされるだけで徐々に成績が上がるという報告もある[4]。このことは、ヒトでの刺激等価性が、条件性弁別が獲得されるのと同時に、付随するように成立する可能性を示している。そして、ヒト以外の動物では、条件性弁別後に4つの関係を示すことは極めて稀という結果と比べて対照的である[5]

刺激等価性と言語機能

 刺激等価性はラベル獲得や語彙の拡張を促進し、刺激様相による制約を受けずにコミュニケーションを可能にさせることから、その研究の開始当初から言語の恣意性や象徴的・指示的機能との関わりの可能性が指摘されてきた。これに加え、ヒト以外の動物で成立が非常に困難であることがわかったため、刺激等価性がある程度の言語能力を前提とするか、ネーミング(命名反応)のような言語行動を媒介としているのではないかという説が出された。

 しかし、命名反応のみならず機能的な発声すら困難な重度発達障害者やカリフォルニアアシカで、刺激等価性が成立するという結果が得られたため[6]、成立には特定の言語能力を必要としないことが明らかになった[7]。むしろ、刺激等価性は、対象物と記号との間の、恣意的関係の成立を可能にすることから、ヒトの言語・表象機能の発現に不可欠な能力として背景にあると考えられている。

 刺激等価性と言語発達との関係を考える上で注目すべきは、ヒト以外で等価関係を示したアシカとチンパンジーがどちらも排他律exclusion(排他による選択)を示したことである[8] [9]。排他律とは、「AならばB」の条件性弁別獲得の後に「AでないならばBでない」の反応が示されることに対応する。前述の例を使えば、ウサギは分かるがタヌキがどのようなものか知らない子どもが、未知の見本刺激「タヌキ」という音声に対し、比較刺激として既知のウサギのぬいぐるみと未知のタヌキのぬいぐるみが提示されたとき、タヌキのぬいぐるみを選ぶことによって示される。これは、AとBの既知関係が排他的な1対1対応を持つものとして捉えられ、未知関係を導いたといえる。

 排他律は言語発達研究では相互排他性(mutual exclusivity)として知られ、1つの事物に1つの名称を対応させる傾向であり、特に言語習得中の子どもに観察される。相互排他性は新たなラベル獲得にとって重要な特性であり、これに加えてラベルと、ラベルに指示されるものとの双方向性、すなわち対称性が付随することにより、迅速な語彙獲得が可能になると考えられる。発達的に排他律よりも対称性の方が早く現れるという報告もあるが、研究例が少なく定かではない。排他律は非論理的推論であるが、対称性「BならばA」は排他律の対偶に相当し、いずれか一方が成立していれば、他方の成立は論理的導出となる。

順序の処理と対称性

 ヒトとヒト以外の動物との間で、等価性テストの結果に大きな差が存在する理由として、刺激順序の処理における違いが考えられる[10]。標準的な条件性弁別課題では見本刺激が比較刺激の提示に先行する。このような時間的順序はヒト以外の動物において、次のような理由から、とりわけ対称性の成立に対し妨害的に働いている可能性がある。

 第1に、条件性弁別課題中に行う反応は、見本刺激Aの提示後比較刺激Bを選択することであり、2つの刺激AとBの関係が学習される保証はなく、刺激系列ABの学習となっていても不思議はない。

 第2に、各刺激の物理的特性は出現順序に関わらず不変であっても、見本刺激、比較刺激のどちらとして現れるかにより機能が全く異なる。このような刺激提示順序の影響から、ヒト以外の動物では刺激順序の逆転を求める対称性の成立が極めて稀で、訓練対と刺激の出現順序が変わらない推移性を示す例の方が多いと考えられる。

 一方、ヒト被験者はこれらの要因に影響されないかのように等価関係を示す。ヒトの刺激処理におけるこの特徴が、言語のような時空間の制約を受けずに存在することのできる象徴的記号の利用を背景で支えている可能性がある。

系統発生

 刺激等価性はヒトの言語の運用上必要不可欠な行動特性であるばかりでなく、論理学的な真偽はともかく迅速な判断が求められるヒトの推論の背後にあるメカニズムとしても捉えられる。このように、ヒトにとって刺激等価性は、ヒトの認知能力を特色付けるような要素に関わっていると考えられる一方、ヒト以外の動物における刺激等価性成立の証拠は大変少ない。

 シドマンの定式化以後、様々なヒト以外の動物を対象として刺激等価性の成立がテストされてきた。哺乳類ではアヌビスヒヒ、アカゲザルカニクイザルフサオマキザル、チンパンジー、シロイルカ、カリフォルニアアシカ、ラット鳥類ではカワラバトセキセイインコハシブトガラスなどが挙げられる[5]。この中で、刺激等価性の成立が確認されたのはカリフォルニアアシカとチンパンジーであった。中でも、成立した等価クラスの数、関連する認知機能の検査を加えての追試により、個体内で繰り返し刺激等価性の成立を確認できたのは、シュスターマン(R. Schusterman)らの被験体であるカリフォルニアアシカのみである[6]

 刺激等価性の構成要素の中で成立・不成立の結果を概観すると、対称性が鍵となっていることがわかる。反射性、推移性を示す動物は決して少なくないが、対称性を示す動物は稀である。シドマンは、刺激等価性は強化随伴性の中にビルトインされたもので、ヒトは刺激等価性を成立させるように作られていると論じている。事実、ヒトにおける刺激等価性成立の頑健さは様々な認知的障害にも影響を受けない。言語使用能力と刺激等価性成立との関係を文献調査したところ、知的障害、自閉的傾向などの特定の障害と刺激等価性の成立/不成立との間には明瞭な関係が存在しないことが指摘されている[7]。不成立の場合でも、ヒトとヒト以外の動物の成績は明瞭に異なる。ヒトは刺激等価性が成立しなかった場合は、前提となる条件性弁別課題がある基準以上の成績に達しなかったことが原因であると考えられる一方、ヒト以外の動物では訓練された条件性弁別試行の成績が十分に高いのに、テストセッションの途中で挿入される刺激等価性テスト試行の成績が訓練済み試行に比べて有意に低いか、チャンスレベルとなっている[11]

 このようにヒトとヒト以外の動物との間に大きな溝があることから、刺激等価性の成立の背景に系統発生上の諸要因を考える必要が出てくる。まず第1に生態学的要因が考えられる。刺激等価性を示したカリフォルニアアシカは、生後まもなくから、母親を嗅覚、視覚、聴覚の多様相刺激により同定しなければならない必要に迫られており、これが刺激間関係の柔軟な組み合わせに寄与しているとする説がある[12]。これに加えて、アシカは集団間の闘争が頻繁であるため、集団内・集団間に階層的なカテゴリーが存在していることも、より抽象的な記号操作を可能にする基盤となっていると考えられている。このような生態的特徴は、ヒトがそれぞれの言語共同体の中で生まれ、恣意的な記号のやりとりに常に囲まれながら成長していくことに相当する。

 第2に神経学的要因がある。条件性弁別訓練後に、刺激等価性テスト中の脳活動を機能的MRIにより検討した実験では、全関係のテストで右前頭前野頭頂葉での賦活が認められた[13]。右前頭前野は刺激のカテゴリー学習に関連する脳部位とされており、等価クラスの形成と関連した活動と考えられる。頭頂葉は多感覚入力とその統合、および刺激の空間的処理に関わる部位とされているため、等価クラスを構成する多様相刺激とその提示順序位置の処理に関連する活動と考えられる。対称性ではMRIスキャン中の短時間でも、テストを重ねるごとに賦活部位が限局されていき、行動データもこれを裏付けるように訓練済の条件性弁別と変わらない成績に達した。このような刺激等価性課題遂行時の脳活動は、ヒトで特に発達したと考えられている前頭前野と頭頂葉の神経連絡を基盤としている可能性を示唆するものであり、刺激等価性の生物学的基盤の有力な候補と考えられる。

個体発生

 ヒトでは、生後まもなくから養育者に言葉をかけられ、名前のついた物に囲まれて成長していく。このようなことから、ヒト以外の動物での等価性不成立の理由には、記号操作を要するような環境での強化履歴が少ないことによるのではないかと考えられた。

 事実、ヒト以外の動物で刺激等価性の成立を示した個体は、いずれも刺激等価性以外の実験に従事した履歴が長く、条件性弁別課題の経験も少なくなかった。そして、彼らが刺激等価性成立を示した実験では、通常の訓練とテストの方法を修正し、いくつかの例を用いて刺激等価性の訓練をした後に、新規な刺激対への転移を評価するという手続きが用いられていた。

 特に、カリフォルニアアシカは30対という通常用いられるよりもはるかに多い刺激対をベースラインとして訓練され、その一部については刺激等価性の要件すべてを訓練により獲得させていた[6]。テストにおいても、最初から一様に高い成績を示したのではなく、テストを繰り返すごとに刺激等価性成立の割合が増加していった。物理的に類似しない刺激間に存在する関係が他の対に転移することを説明するのは難しいが、実験を行ったシュスターマンは、刺激等価性を直接訓練することにより「双方向概念bidirectional concept」とも呼ぶべきものが形成され、これがアシカの刺激等価性成立を支えたのかもしれないと論じた。つまり、ある種の学習がその後の刺激等価性の成立に影響を与えるという立場である [1]

 しかし、等価関係に強化履歴を与えてもテストの成績にほとんど違いが見られなかった例はいくつかあり、顕著なものでは、多くの恣意的記号を用いた訓練を受けたことのあるチンパンジーで、対称性の訓練とテストを繰り返すという強化履歴を大量に与え、10年を挟んで2回テストしても対称性が全く成立しなかったという報告もある。つまり、強化履歴が特定の個体の対称性や刺激等価性の成立を助けることがあっても、種全体に、ましてや多くの動物種に一般化できるとは言えない要因であり、刺激等価性の成立の決定因とはいえない。

 刺激等価性がヒトの発達の中でいつ発現するのかについての研究は少ない。乳幼児を対象とした縦断的研究は、いずれも2歳未満で刺激等価性の成立を報告しており、必ずしも表出言語の出現を前提としていない[14] [15]。順序としては、最初に対称性が示され、続いて推移性・等価性がそれぞれ成立することが示されている。健常成人を被験者とした場合、条件性弁別訓練の後いちどきに刺激等価性の要件すべてが観察されることが多く、刺激等価関係は刺激間関係を強化随伴性によって成立させた後に創発的に生じる分割不可能な行動単位、と考えるシドマンの主張とも合致するが [1]、より詳細に乳幼児の発達を追って見た場合要件間に時間差が存在する可能性もある。

応用

 刺激等価性はその枠組が明快で、条件性弁別課題という多くの種に適用可能な実験方法を土台としているため、幅広い被験者を対象に応用研究が進められてきている。中でも、言葉やコミュニケーションに問題がある被験者を対象として行われた研究は数多い。例えば、サイン言語と文字と対象物の理解に何らかの問題がある場合、どの関係の、どの方向の理解に問題があるのかを機能的に評価し、最小セットの直接訓練から効率良く双方向関係を引き出すことを計画できる。失語症の患者を対象とした場合、漢字、ひらがな、読みの間のどこに問題があるのかを知るための分析ツールとして、刺激等価性の枠組みが有効であることがわかっている。

 脳損傷患者を対象とした研究では、損傷後に感情を表す言葉と表情との対応関係が理解できなくなったり、名前と顔が一致しなくなったりした患者に対し、刺激等価性の枠組みを用いて一部を訓練したところ、未訓練対に等価な関係が成立したことが報告されている[16]。脳損傷の程度や部位との関係は定かではないが、脳内の回路の一部を修復させることにより直ちに広範な関係が復活することは、ヒトの脳において等価関係を支える基盤が頑健であることを窺わせている。

 統合失調症患者の独特な推論様式に対称性が見出される可能性も指摘されている。健常のヒトにおいては、非論理的推論となる条件法の逆という関係は、何にでも適用できるわけではなく、例えば因果関係が含まれる場合や(飲み過ぎれば吐く⇔吐くのは飲み過ぎたから)、一般論の場合(日本人ならば魚が好き⇔魚が好きならば日本人)、これと逆の推論が正しいとは限らないことに容易に気づく。しかし、統合失調症の患者にはこのような誤った対称性を過剰に適用する傾向が見られるという[17]。これはまだ理論的考察の域を出ず、今後の実証研究の成果を待たねばならないが、ヒトの対称性や等価性が文脈や条件などにより過剰適用されないように制御されており、これが何らかの疾患で損なわれることがあるならば、その疾患と認知機能の改善の評価に刺激等価性の枠組みが有用となろう。

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