「ミトコンドリア」の版間の差分
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ミトコンドリアはシトクロムcの放出により、[[プログラム細胞死]]の一つである[[アポトーシス]]の誘導の決定的な過程の場となっている。[[Bcl-2]]ファミリータンパク質[[Bax]]と[[Bak]]はオリゴマー化しミトコンドリア外膜へ挿入された後、ミトコンドリア外膜に孔 (pore) を形成する。そして、ミトコンドリアのintermembrane space (IMS) から[[シトクロムC]]、[[Smac]]/[[DIABLO]]、[[プロテアーゼ]][[Omi]]/[[HtrA2]]、[[ヌクレアーゼ]][[EndoG]]、[[酸化還元酵素]][[アポトーシス誘導因子]] (AIF)の細胞質への放出を担う。このBax/Bakポアの形成は、[[栄養飢餓]]、[[DNA損傷]]、[[小胞体ストレス]]等の刺激に依存した[[ホスファチジルイノシトール3キナーゼ]] ([[PI3K]])-[[Akt]]経路の不活性化、[[c-Jun N-terminal kinase]] (JNK) の活性化などにより制御される。放出されたシトクロムcは[[Apaf-1]]と結合して[[アポプトソーム]]を形成し、[[イニシエーターカスパーゼ]]である[[カスパーゼ-9]]を活性化する。カスパーゼ-9は[[エフェクターカスパーゼ]]である[[カスパーゼ-3]]や[[カスパーゼ-7]]を活性化してアポトーシスが誘導される。 | ミトコンドリアはシトクロムcの放出により、[[プログラム細胞死]]の一つである[[アポトーシス]]の誘導の決定的な過程の場となっている。[[Bcl-2]]ファミリータンパク質[[Bax]]と[[Bak]]はオリゴマー化しミトコンドリア外膜へ挿入された後、ミトコンドリア外膜に孔 (pore) を形成する。そして、ミトコンドリアのintermembrane space (IMS) から[[シトクロムC]]、[[Smac]]/[[DIABLO]]、[[プロテアーゼ]][[Omi]]/[[HtrA2]]、[[ヌクレアーゼ]][[EndoG]]、[[酸化還元酵素]][[アポトーシス誘導因子]] (AIF)の細胞質への放出を担う。このBax/Bakポアの形成は、[[栄養飢餓]]、[[DNA損傷]]、[[小胞体ストレス]]等の刺激に依存した[[ホスファチジルイノシトール3キナーゼ]] ([[PI3K]])-[[Akt]]経路の不活性化、[[c-Jun N-terminal kinase]] (JNK) の活性化などにより制御される。放出されたシトクロムcは[[Apaf-1]]と結合して[[アポプトソーム]]を形成し、[[イニシエーターカスパーゼ]]である[[カスパーゼ-9]]を活性化する。カスパーゼ-9は[[エフェクターカスパーゼ]]である[[カスパーゼ-3]]や[[カスパーゼ-7]]を活性化してアポトーシスが誘導される。 | ||
シトクロムcの放出はミトコンドリア外膜上でのBax/Bakによるポア形成に加えて、クリステの再構成や電子伝達系の不安定化によっても促進される。ミトコンドリア膜電位の脱分極に応答して、[[OMA1プロテアーゼ]]が[[Opa1]]を分解し、クリステ再構成を促進し、シトクロムcの放出を促進することが示唆されている<ref name=Jiang2014><pubmed>25275009</pubmed></ref> | シトクロムcの放出はミトコンドリア外膜上でのBax/Bakによるポア形成に加えて、クリステの再構成や電子伝達系の不安定化によっても促進される。ミトコンドリア膜電位の脱分極に応答して、[[OMA1プロテアーゼ]]が[[Opa1]]を分解し、クリステ再構成を促進し、シトクロムcの放出を促進することが示唆されている<ref name=Jiang2014><pubmed>25275009</pubmed></ref>。興味深いことに、Opa1はニューロンの成熟に伴って発現が増加し[[神経保護作用]]を持つことが示されており、ニューロンにおいてもOpa1を介したクリステ再構成がシトクロムc放出、引いてはアポトーシス制御に関わると考えられる。 | ||
多くの細胞種では、シトクロムc放出は不可逆的にアポトーシスを誘導するが、[[交感神経]]ニューロンでは[[BH3-onlyタンパク質]]の過剰発現やシトクロムcのmicroinjectionではアポトーシスが誘導されないことから、一部のニューロンではシトクロムc放出はアポトーシス誘導に十分ではない<ref name=Deshmukh1998><pubmed>9808457</pubmed></ref><ref name=Deshmukh2000><pubmed>10893262</pubmed></ref><ref name=Martinou1999><pubmed>10085288</pubmed></ref> | 多くの細胞種では、シトクロムc放出は不可逆的にアポトーシスを誘導するが、[[交感神経]]ニューロンでは[[BH3-onlyタンパク質]]の過剰発現やシトクロムcのmicroinjectionではアポトーシスが誘導されないことから、一部のニューロンではシトクロムc放出はアポトーシス誘導に十分ではない<ref name=Deshmukh1998><pubmed>9808457</pubmed></ref><ref name=Deshmukh2000><pubmed>10893262</pubmed></ref><ref name=Martinou1999><pubmed>10085288</pubmed></ref>。交感神経ニューロンは、[[神経成長因子]] ([[nerve growth factor]], [[NGF]]) の存在下で生存が維持され、神経成長因子の除去によりアポトーシスが誘導される。神経成長因子の除去によりシトクロムcが放出されても、ミトコンドリア膜電位が失われる前に神経成長因子を再添加するとニューロンは生存するが、膜電位が失われた後に神経成長因子を再添加してもニューロンの生存は回復されない。このことから、交感神経ニューロンにおけるアポトーシス誘導の可逆性の閾値は、シトクロムc放出ではなくミトコンドリア膜電位の脱分極が決定すると考えられる。 | ||
また、シトクロムc放出後にニューロンが膜電位を維持するメカニズムとして、電子伝達系を逆方向に動かす経路が働いていることが知られている。神経成長因子の除去に応答してアポトーシスを開始したニューロンは、酸化的リン酸化ではなく解糖系に依存してATP産生を行う。このATPは通常の細胞機能維持だけでなく、電子伝達系 (複合体V) を逆方向に動かし、プロトン勾配を生成し短期的ではあるがミトコンドリア膜電位の維持に働く<ref name=Chang2003><pubmed>12876275</pubmed></ref> | また、シトクロムc放出後にニューロンが膜電位を維持するメカニズムとして、電子伝達系を逆方向に動かす経路が働いていることが知られている。神経成長因子の除去に応答してアポトーシスを開始したニューロンは、酸化的リン酸化ではなく解糖系に依存してATP産生を行う。このATPは通常の細胞機能維持だけでなく、電子伝達系 (複合体V) を逆方向に動かし、プロトン勾配を生成し短期的ではあるがミトコンドリア膜電位の維持に働く<ref name=Chang2003><pubmed>12876275</pubmed></ref>。このようにして、交感神経ニューロンはアポトーシス誘導の可逆性の閾値を遅らせることを可能にしている。 | ||
さらに、ニューロンがシトクロムcに抵抗性を示す他のメカニズムとして、シトクロムcの酸化還元状態の制御とシトクロムcの分解制御の2つが考えられている。シトクロムcには酸化型と還元型があり、酸化型シトクロムcは還元型よりも強力にカスパーゼを活性化する。健常なニューロンは高度に解糖的であり、[[ペントースリン酸経路]]への[[グルコース-6-リン酸]]のフラックスによって高レベルの[[グルタチオン]](GSH)が生成され、細胞内環境を還元状態に保っている。その結果、ミトコンドリアから放出されたシトクロムcは還元型で不活性化され、カスパーゼを活性化できない<ref name=Vaughn2008><pubmed>19029908</pubmed></ref>15。アポトーシス時にはROSの増加により細胞内環境が酸化的になり、シトクロムc依存のカスパーゼ活性化が促進される<ref name=Vaughn2008><pubmed>19029908</pubmed></ref><ref name=Greenlund1995><pubmed>7857640</pubmed></ref><ref name=Kirkland2002><pubmed>12151527</pubmed></ref><ref name=Kirkland2001><pubmed>11245680</pubmed></ref> | さらに、ニューロンがシトクロムcに抵抗性を示す他のメカニズムとして、シトクロムcの酸化還元状態の制御とシトクロムcの分解制御の2つが考えられている。シトクロムcには酸化型と還元型があり、酸化型シトクロムcは還元型よりも強力にカスパーゼを活性化する。健常なニューロンは高度に解糖的であり、[[ペントースリン酸経路]]への[[グルコース-6-リン酸]]のフラックスによって高レベルの[[グルタチオン]](GSH)が生成され、細胞内環境を還元状態に保っている。その結果、ミトコンドリアから放出されたシトクロムcは還元型で不活性化され、カスパーゼを活性化できない<ref name=Vaughn2008><pubmed>19029908</pubmed></ref>15。アポトーシス時にはROSの増加により細胞内環境が酸化的になり、シトクロムc依存のカスパーゼ活性化が促進される<ref name=Vaughn2008><pubmed>19029908</pubmed></ref><ref name=Greenlund1995><pubmed>7857640</pubmed></ref><ref name=Kirkland2002><pubmed>12151527</pubmed></ref><ref name=Kirkland2001><pubmed>11245680</pubmed></ref>。GSHはミトコンドリアからのシトクロムc放出の抑制など複数の機構を介してアポトーシスを制御しており、上述のシトクロムcの酸化還元状態を介したカスパーゼ活性化の抑制も、その重要な機構の一つと考えられる。さらに、シトクロムcの酸化還元状態による不活性化に加え、ニューロンは細胞質内シトクロムcを分解する機構を有し、シトクロムcは[[E3ユビキチンリガーゼ]][[Cul9]]/[[Parc]]によって分解される<ref name=Gama2014><pubmed>25028717</pubmed></ref>。 | ||
== 動態 == | == 動態 == | ||