「エンハンサーRNA」の版間の差分

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 [[エンハンサー]]とは標的[[遺伝子]]がいつ、どこで、どのくらい発現するかを決める非コードDNA領域の総称である<ref name=Li2016><pubmed>26948815</pubmed></ref><ref name=Sartorelli2020><pubmed>32514177</pubmed></ref><ref name=Statello2021><pubmed>33353982</pubmed></ref><ref name=TheENCODEProjectConsortium2012><pubmed>22955616</pubmed></ref> 。遺伝子が適時・適所に機能するために重要なゲノム領域として古くから盛んに研究されてきた。実際、エンハンサーの活性は状況や細胞系譜に特異的に調節されていることが多い。
 [[エンハンサー]]とは標的[[遺伝子]]がいつ、どこで、どのくらい発現するかを決める非コードDNA領域の総称である<ref name=Li2016><pubmed>26948815</pubmed></ref><ref name=Sartorelli2020><pubmed>32514177</pubmed></ref><ref name=Statello2021><pubmed>33353982</pubmed></ref><ref name=TheENCODEProjectConsortium2012><pubmed>22955616</pubmed></ref> 。遺伝子が適時・適所に機能するために重要なゲノム領域として古くから盛んに研究されてきた。実際、エンハンサーの活性は状況や細胞系譜に特異的に調節されていることが多い。


 ヒトゲノムには40万もの数のエンハンサーが存在すると見積もられている<ref name=Sartorelli2020><pubmed>32514177</pubmed></ref> 。エンハンサーの包括的な同定を可能にしたのは大規模シークエンス技術の発展である。例えば、H3K27ac (27番目のリジンがアセチル化されたヒストンH3) はエンハンサーの同定のためによく使われる<ref name=Li2016><pubmed>26948815</pubmed></ref><ref name=Sartorelli2020><pubmed>32514177</pubmed></ref><ref name=Statello2021><pubmed>33353982</pubmed></ref><ref name=Zhou2011><pubmed>21116306</pubmed></ref> 。クロマチン免疫沈降<ref name=Park2009><pubmed>19736561</pubmed></ref> によってH3K27acに巻き付いているDNAを精製し、その配列を大規模に決定しゲノム配列と比較することによって、H3K27acに富むゲノム領域を網羅的に同定できる<ref name=Barski2007><pubmed>17512414</pubmed></ref><ref name=Heintzman2007><pubmed>17277777</pubmed></ref>  (図1)。
 ヒトゲノムには40万もの数のエンハンサーが存在すると見積もられている<ref name=Sartorelli2020><pubmed>32514177</pubmed></ref> 。エンハンサーの包括的な同定を可能にしたのは大規模シークエンス技術の発展である。例えば、H3K27ac (27番目のリジンがアセチル化されたヒストンH3) はエンハンサーの同定のためによく使われる<ref name=Li2016><pubmed>26948815</pubmed></ref><ref name=Sartorelli2020><pubmed>32514177</pubmed></ref><ref name=Statello2021><pubmed>33353982</pubmed></ref><ref name=Zhou2011><pubmed>21116306</pubmed></ref> 。クロマチン免疫沈降<ref name=Park2009><pubmed>19736561</pubmed></ref> によってH3K27acに巻き付いているDNAを精製し、その配列を大規模に決定しゲノム配列と比較することによって、H3K27acに富むゲノム領域を網羅的に同定できる<ref name=Barski2007><pubmed>17512414</pubmed></ref><ref name=Heintzman2007><pubmed>17277777</pubmed></ref>  ('''図1''')。


 一般に、エンハンサーの同定には複数のヒストンマーカーや転写因子の情報を組み合わせる。興味のある領域がDNaseに対して高感受性を示すDNA領域かどうか (クロマチン構造が開いているか) を考慮することも多い。複数の方法によるエンハンサー候補領域の同定は強力な手法である一方、これらはあくまでエンハンサー「候補」領域と考えるべきで、実際に標的遺伝子の発現に貢献しているかどうかを調べるにはエンハンサー欠失などの実験が必要である。
 一般に、エンハンサーの同定には複数のヒストンマーカーや転写因子の情報を組み合わせる。興味のある領域がDNaseに対して高感受性を示すDNA領域かどうか (クロマチン構造が開いているか) を考慮することも多い。複数の方法によるエンハンサー候補領域の同定は強力な手法である一方、これらはあくまでエンハンサー「候補」領域と考えるべきで、実際に標的遺伝子の発現に貢献しているかどうかを調べるにはエンハンサー欠失などの実験が必要である。
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 なお、これらの手法をもってしても検出されないエンハンサーRNAが存在する可能性もある。
 なお、これらの手法をもってしても検出されないエンハンサーRNAが存在する可能性もある。
 
[[ファイル:Kawaoka enhancer RNA fig2.png|サムネイル|'''図2. エンハンサーRNA (eRNA) の構造'''<br>両方向性に転写され、ポリアデニル化 されず、不安定なeRNAと、一方向性に転写され、ポリアデニル化および スプライシング を受ける、より安定なeRNAが存在する。]]
== 構造 ==
== 構造 ==
 複数の特徴を持つエンハンサーRNAが見つかっている<ref name=Koch2011><pubmed>21765417</pubmed></ref><ref name=Sartorelli2020><pubmed>32514177</pubmed></ref>  (図2)。
 複数の特徴を持つエンハンサーRNAが見つかっている<ref name=Koch2011><pubmed>21765417</pubmed></ref><ref name=Sartorelli2020><pubmed>32514177</pubmed></ref>  ('''図2''')。


 一つが、両方向性に転写され、スプライシングを受けず、ポリアデニル化もされず、かつ不安定なエンハンサーRNAである<ref name=Kim2010><pubmed>20393465</pubmed></ref> 。これらは、転写が早期に終結した証拠であると考えられている。
 一つが、両方向性に転写され、スプライシングを受けず、ポリアデニル化もされず、かつ不安定なエンハンサーRNAである<ref name=Kim2010><pubmed>20393465</pubmed></ref> 。これらは、転写が早期に終結した証拠であると考えられている。