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2012年5月9日 (水) 11:43時点における版
もともとはショウジョウバエで同定された遺伝子(dNumb)で、変異体は外感覚器前駆細胞(Sensory Organ Precursor、SOP)の細胞系譜選択異常を示す[1] 。ショウジョウバエのNumbタンパク質は前駆細胞の分裂時に非対称に分配され、ノッチ(Notch)タンパク質と相互作用してノッチシグナル伝達を抑制することで、娘細胞の運命決定の非対称性を作り出しているとされる。哺乳類ではNumb(mNumb)とNumb-like(Numbl)の2つの遺伝子が同定されている。また、mNumbでは、オルタナティブスプライシングによって活性の異なるタンパク質アイソフォームが作られる[2][3]ため、その機能は多様である。
構造
dNumb、mNumb、Numbl、さらには他の脊椎動物で報告されているNumbといった各タンパク質に共通するモチーフとして、アミノ末端側にリン酸化チロシン結合ドメイン(phosphotyrosine-binding domain , PTB domain)がある[4]。また、カルボキシ末端側にはEps15ホモロジー領域(DPFとNPF)がある。またmNumbにはPTBドメインとDPFの間にプロリンに富む配列(proline-rich region, PRR)があり、PRR中にSrc homology-3 binding site様の配列を含んでいる。mNumbについてはPTBドメインとPRRにオルタナティブスプライシングがあり、全部で4種類(p72、p71、p66、p65)のタンパク質ができる。P71は全長であるp72のPTBドメインの一部を欠いており、P66はPRRの対部分、p65は両方を欠損している。NumblはPRRを持たないが、特徴的なグルタミンに富む配列を持つ。
生化学的な活性とその調節
Numbはその構造から各種のタンパク質と相互作用して働くアダプターのような機能をしていると予想され、相互作用する相手によって様々な活性を持つと考えられている。 (1)Notchシグナルの抑制 Numbの機能としてよく知られているのは、ノッチシグナルの抑制である。ノッチが活性化されて細胞内領域(Notch intracellular domain, NICD)が切り出され、核内に移行して転写制御に関わるのだが(ノッチの項参照)、NumbはNICDに結合するとともに、HECT-domain E3 ubiquitin ligaseであるItch(ショウジョウバエのSuppressor of Deltex)に結合することで、NICDのポリユビキチン化とそれに続く分解を促進している[5]。また、Numbは後述するようにエンドサイトーシスに関連した機能をもっており、エンドサイトーシスによって細胞膜上のノッチタンパク質の量を調節している可能性も指摘されている。 (2)エンドサイトーシスによる細胞間、細胞—基質接着の制御 dNumbやNumblも含め、Numbタンパク質はカルボキシ末端のDPFとNPFモチーフを持っており、これを介してClathrinアダプタータンパク質であるα-adaptinやEpsin 15 homology domainファミリータンパク質と結合し、エンドサイトーシスの制御に関わっている[6]。NumbはRab11陽性のエンドソームに分布し、カドヘリン/カテニン複合体(cadherin/catenin complex)の継続的な取り込みとリサイクルによる接着結合(adherens junction、アドヘレンスジャンクションの項を参照)の維持に働いている[7]。また、移動中の細胞のリーディングエッジではβ-integrin(細胞外基質の受容体)に結合し、clathrinを含む構造(おそらくはエンドソーム)への取り込みに関わっていると思われる。atypical protein kinase C(aPKC)によるリン酸化によってNumbタンパク質とβ-integrinの結合が外れることから、aPKCがNumbの偏った細胞内局在とそれに続く方向性を持つ細胞移動を制御していると考えられる[8][9]。 (3)その他 mNumbやNumblが膜結合型β-amyloid precursor protein(APP、アミロイドタンパク質の項を参照)やAPPの細胞内領域に結合し、APPの輸送とプロセシングを制御するという報告がある[10]。また、Hedgehogシグナルのターゲットである転写因子Gli1と結合してItchをリクルートすることで、Gli1のプロテアソーム依存性の分解を促進することが報告された[11][12]。さらに、ヒトにおいてmNumbがE3 ubiquitin ligaseの一種であるHDM3に結合して不活性化し、ガン抑制タンパク質であるp53のHDM3によるユビキチン化とそれに続く分解を抑制するという報告もある[13]。これらの報告から、Numbの多様な機能が明らかになりつつある。
神経発生における機能と活性
前述したように、ショウジョウバエではSOPの分裂時にdNumbが非対称に局在して、娘細胞に不等分配されることから、dNumbが非対称分裂による発生運命の決定に関わっていることが示されている[1]。このことから、脊椎動物の神経発生においても同様のことが期待された。マウスでは神経上皮組織において脳室側、すなわち頂端(apical)側に局在することから、分裂期の神経上皮細胞の分裂方向によっては、不等分配される可能性が示唆された。しかし、その後の観察で、apicalに局在するmNumbを不等分配できるような脳室面に平行な分裂面での細胞分裂が非常に稀であったことが示され、このモデルの妥当性は失われている。一方、ニワトリについては分裂期前期から中期の神経上皮細胞においてNumbが基底膜側に局在していることが示されている[14]。この場合には、分裂面が脳室面に対して直交していても、分裂期中期以降にNumbが側方に輸送されることで不等分配を可能にしている。これは、基底膜側に非対称に局在している中間径フィラメントの一種であるTransitinにNumbが結合して一緒に運ばれることによる[15]。マウスではTransitin遺伝子そのものが無い(比較的構造の似ているネスチン(Nestin)は非対称な細胞内局在を示さない)ため、同様の分子メカニズムは生物種間で保存されていないと思われる。ゼブラフィッシュでもNumbの細胞内局在が調べられているが、分裂期の神経上皮細胞では基底膜側から側方にかけて分布しており、不等分配もされないようである。 mNumbやNumblの神経発生における機能については、ノックアウト(KO)マウスを用いた解析がおこなわれている[4]。複数のグループが通常のノックアウトやコンディショナルノックアウト(CKO)によって大脳皮質における機能を調べているが、結果がまちまちで、とりわけニューロン分化における機能についてコンセンサスが得られないままである。NumblのKOマウスの発生は正常らしい一方、mNumbとNumblのダブルノックアウトはmNumb単独よりも明瞭な表現型(後述)を示すとされるが、そもそも神経上皮細胞で広く発現しているmNumbと、分化したニューロンで発現する(すなわち非対称分裂には関与しないと考えられる)Numblのダブルノックアウトで機能重複について論ずることに疑問が残る。また、Nestin-Creを用いたダブルCKOの場合には神経上皮細胞の数が減少することで間接的にニューロンの数が減少すると報告されたが、Emx-Creを用いた研究では神経上皮細胞の過増殖と分化の抑制が示されている。さらにD6-Creを用いた論文では、mNumbとNumblが神経上皮細胞の維持に働いていると報告している。このような結果の一貫性の無さの原因がどこにあるのかは明らかではないが、これらの3種類のCreによるノックアウトの時期が、それぞれ8.5、9.5、10.5日胚とずれているのが原因ではないかとする考えもある[4]。この説にある程度の根拠を与えているのが、前述したオルタナティブスプライシングによって作られるアイソフォームの存在である。in vitroの培養系を用いた解析では、PRRを持っているアイソフォーム(上記のp72とp71に相当する)は増殖を促進する一方、PRRのほとんどを持たないアイソフォーム(上記のp66とp65に相当する)はニューロン分化を促進することが示されている[3]。これと対応して、PRRを持つアイソフォームは主に7〜10日胚の時期に発現しておりその後低下するが、PRRを持たないアイソフォームの発現は胚発生期から成体の脳にいたるまで発現が続く。これらの活性がどのような分子メカニズムによるものかは明らかでは無いが、おそらくは直接的にNotchシグナルを抑制したり、接着結合を維持することによって間接的にNotchシグナルを促進したりすることが重要なのであろう。 一方、小脳の発生過程では異なる機能があると示唆されている。すなわち、小脳顆粒細胞の前駆細胞の増殖はヘッジホッグ(Hedgehog)シグナル(SHHの項を参照)によって促進されているが、上記のようにmNumbはGli1の分解促進によってHedgehogシグナルを抑制することで小脳顆粒細胞の分化を促進していると考えられる。
参考文献
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