GSK-3β

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グリコーゲン合成酵素キナーゼ3 (Glycogen synthase kinase 3; GSK-3)は、プロリン指向性セリン/スレオニリン酸化酵素のひとつであり、最初にグリコーゲン合成酵素をリン酸化して不活化する酵素として見出された。哺乳類では、GSK-3は51 kDaのalpha (GSK-3alpha)と47kDaのbeta (GSK-3beta)の二つのアイソフォームに分類される[1]。これらの2つのアイソフォームは、キナーゼドメイン内では98%と高い相同性を示すが、76個のC末アミノ酸残基では36%の相同性しかない。GSK-3betaには、スプライシング変異体;GSK-3beta2が存在する。GSK-3beta2の量はGSK-3beta全体の15%以下であり、GSK-3betaのキナーゼドメイン内に13アミノ酸残基の挿入を認める。GSK-3beta2は、tauタンパクに対するキナーゼ活性がGSK-3betaよりも減弱しており神経細胞体に認められる[文献]。GSK-3betaは、Wnt, Shhなどのシグナル伝達の制御に関与しており、代謝、胚発生における体軸形成や神経系の分化に重要な役割を果たしている[2] [3]


=構造、機能=

GSK-3betaは、細胞が静止状態にあるときには活性型である。その細胞がインスリンなどの物質で処理をされると、GSK-3betaはホォスファチジルイノシトール‐3キナーゼ(PI-3K)の関与で不活化される。つまり、インスリンなどで処理された細胞の内部ではPI-3K - Akt経路が活性化し、その結果GSK-3betaのセリン9のリン酸化が起こり不活性型となる[文献]。

GSK-3betaの基質は、本来のリン酸化部位のC末に位置する"priming"残基が先にリン酸化(priming phosphorylation)を受けている方が効率よくリン酸化できる。GSK-3betaのactivation loop (T-loop)に位置するスレオニン216のリン酸化により基質結合部位が開き、アルギニン96, アルギニン180, リシン205からなるpositively charged pocketにリン酸化された基質の"priming"残基が結合する。この結合によってキナーゼドメインの方向が最適化され、基質がGSK-3betaのcatalytic grooveの適切な位置にはまりリン酸化をうける[1]。   

=シグナル伝達に関する経路=
==Wntシグナル経路==

Wntの非存在下では、GSK-3 betaはβ-catenin, Axinやがん抑制遺伝子産物APC, casein kinase 1αと複合体を形成しており、この複合体内でcasein kinase 1αとともに効率よくβ-cateninをリン酸化する。リン酸化されたβ-cateninはユビキチン化を受け、プロテオソーム内で分解される。Wntが7回膜貫通型受容体のFrizzled(Fz)と1回膜貫通型受容体のLRP5/6に結合すると、そのシグナルが細胞内に伝達されDishevelledがGSK-3 beta依存性のβ-catenin,のリン酸化を抑制する。低リン酸化状態のβ-cateninはプロテオゾーム内での分解を免れ、細胞質内に蓄積し核へ移行しWnt - β-catenin経路下流の遺伝子発現を調節する。

==Shhシグナル経路==

GSK-3 betaはヘッジホッグシグナルでも重要な役割を果たしている。ヘッジホッグシグナルはショウジョウバエから哺乳類にいたる様々な生物に見られるシグナル経路である。

ヘッジホッグシグナルは、12回膜貫通型タンパク質であるPatched(Ptc)と7回膜貫通型であるSmoothened(Smo)によって調節されている。細胞外に ヘッジホッグタンパクが存在しない時、PtcがSmoの活性化を抑制している。この状態でCiは、GSK-3 beta - サイクリン依存性キナーゼ阻害因子 (CKI)  - プロテインキナーゼC (PKA) 複合体にリン酸化され、プロセスシングをうけリプレッサー型になる。ヘッジホッグタンパクが存在する時、ヘッジホッグファミリーの一つであるソニックヘッジホッグは、哺乳類の神経系も含めた胚発生に大事な役目を果たしている。