色覚

2015年2月4日 (水) 10:01時点におけるTfuruya (トーク | 投稿記録)による版

英語名:color vision 独: 仏:

色覚とは,波長構成の異なる光に対し異なる視覚的感覚を生じる主観的体験.波長選択性の異なる複数種類の光受容器を備える必要があるが,複数の受容器を備えているからといって色覚があるとは限らない.色覚は内観報告に基づく主観検査によってのみ判定されうる.

背景

ヒトの場合,網膜に3種類の錐体(cone)受容器と1種類の悍体(rod)受容器の4種類が存在しうる.このうち,明所視(photopic vision)では錐体受容器が主に色覚に寄与し,薄明視(mesopic vision)では悍体の寄与が存在すると考えられている.薄明視における悍体の寄与を示す体験として赤と青の物体の相対的な明るさ感が明所視と薄明視で変化するプルキンエシフトが知られている(←脚注?).錐体および悍体受容器に含まれているものと異なる光受容色素をもつ網膜神経節細胞(メラノプシン神経節細胞)の存在が確認されている(文献)が,色覚への寄与は明らかではない.(←脚注?)

3種類の錐体が発現および機能している3色覚(trichromat)と,2種類が機能または発現している2色覚( dichromat),1種類のみが機能または発現している1色覚(monochromat)が存在する.1色覚には,悍体のみ(rod monochromat: 機能する錐体を全く持たない)の場合もある.錐体単体の信号では色覚を生じず(ユニバリアンスの原理 principles of univariance:文献),複数種類の錐体の差によって波長構成の差に依存した信号が生じるため,1色覚では光の強弱の感覚しか得ることができない.3種類の錐体が網膜に発現しているものの,うち1種類の錐体の色覚への寄与が小さい(発現しているが機能が不完全,もしくは波長選択性が他の1種類と極めて近いため,差信号が弱い)場合には異常3色覚(anomalous trichromat)と呼ばれる. 註:「色覚正常,色覚異常,3色覚,2色覚,1色覚,異常3色覚」はいずれも医学用語である.参照:http://jams.med.or.jp/dic/colorvision.html

網膜に発現しうる錐体は遺伝的に決まるものと考えられており,X染色体の特定の座位の配列によって網膜に発現しうる錐体の種類が決まる(文献).主に劣性遺伝子を持つX染色体を受け継いだ男性に発現する事が多く,X染色体を2つ持つ女性は劣勢遺伝子のキャリアとなることが多い.ただし女性において,X染色体の組み合わせによっては,稀に4種類の錐体が発現し色覚に寄与する場合(4色覚 tetorachromat)がある事が知られている(文献).※遺伝の記述については他所と重複していたらスキップ.もしくは生理学的背景へ.


色覚の多様性(生理学↓の方へ入れるべきか?)

2色覚者では,3色覚者が見分けられる色のうち特定のペアの弁別ができず,異常3色型も弱いながら類似の傾向が見られる(カラーバリアフリーには言及すべき?).これらの症状はアノマロスコープ(anomaloscope),色覚検査票(石原式仮性同色表:Ishihara’s pseudo isochromatic plates,Farnswars-Munsell’s 100 hue test,等)によって検査され,医学的には色覚異常と判定される.2色覚および異常3色覚者は日本人男性の約5%(白人男性の場合約8%)程度存在すると考えられている(文献).


知覚

色覚は,光の波長と1:1の対応関係を持たない.これは環境光の変化に適応する機構を備えているためと考えられる.例えば朝−昼−夕の太陽光のスペクトルの変化にも かかわらず物体の色を一定に知覚する機能(色恒常性:color constancy)を持つ.この機能を持たない場合,環境光の変化によって生存に必要な情報を逸失する場合もあり,色恒常性は魚類にも存在する事が確認されている(金魚:文献).逆に,色覚は他の感覚情報(触覚など)によって原点を校正する手段を持っていない点が,他の視覚感覚と異なる固有の特徴である.

色弁別

通常型の色覚では錐体応答のコントラストで約 1:10,000 程度の信号強度で検出が可能.(何万色とかいう記述はあまり入れたくないが,一般には記述が期待されている?)MacAdam の弁別楕円? 色弁別の課題を行うに際して,検査対象となる個別の色みが知覚されている必要はなく,信号としての差が検出できればよい.

色の見え

個別の色みとして評価できる知覚を「色の見え(color appearance )」と言う.色の見えは日常生活で経験している,対象物や光の色として知覚/評価されるものを指している.

3色説,反対色過程

Edwald Hering は,赤みと緑み,青みと黄色みがそれぞれ同時に知覚されない現象面に着目し,反対色による色の表現を提案した.これは3錐体により色の情報が必要十分に表現できると考えたThomas Young, Hermann von Helmnolz による3色説と対立した概念として捉えられていた.3色説は網膜における3錐体の存在に対応し,反対色説は,後に網膜において発見されたL錐体とM錐体が対立的に入力する双極細胞(bipolar cell) の存在により,生理学的対応が裏付けられたと考えられた.反対色空間の赤ー緑,青ー黄の2軸を構成する4色は基本色相(landmark color)と呼ばれる.また,この反対色空間に対応する生理学的な過程を反対色過程(cone-opponent process)と呼ぶ.

色空間

錐体応答が選択的かつ対立的に刺激される軸は,錐体分光感度から計算により導出することができる.このようにして導出された,L/M錐体が対立して刺激される軸と,S錐体のみが選択的に刺激される軸の2軸を取った等輝度平面における色座標系を錐体拮抗色空間(cone-opponent color space)と言う.代表的な物として,Derrington, Krauskopf & Lennie が提唱した DKL 空間,MacLeod と Boynton が提唱した MacLeod-Boynton 空間が存在する.両者は軸の正規化の方法が異なる.

国際照明委員会(Commission internationale de l'éclairage: CIE)において標準化された色空間は,1931年に制定された CIE XYZ 空間,1976年に提案された CIE LUV 空間,CIE LAB 空間などが存在する.これらの基本となる CIE XYZ 空間は,可視波長域の色光を基本3波長の色光によって視覚的に一致させる実験(等色実験: color matching experiment)によって導出された架空の分光感度(等色関数: color matching functions)によって定義された.この空間の定義は3錐体の応答の組み合わせにより色光が一意に表現できるという3色説の概念に基づいていると考えることができる.

錐体や神経説細胞の応答とは別に,色の見え方を基本とした色空間の構成方法も存在する.色の見え方の要素として明るさ(明度),色相,彩度の3つが挙げられる.これらの要素を視感的に系統化した色空間として,Munsell 色空間,NCS 色空間などが存在する.主に色を塗装した紙(色票)を系統的に並べた色見本により定義する方法が取られている.Munsell 色空間では,赤,緑,青,黄に加えて紫の5色相を基本としている.明度軸を決める場合,まず最初に明度の最大(白)と最小(黒)の2色を置き,その間に中間程度の色みを感じる色票(灰)を選ぶ.次に求められた中間の色票に対し,またその他の隣り合う色票との中間の色票を決め,このステップを繰り返す,色相方向,彩度方向についても同様の方法で視感的に決められている. Munsell色空間は色票等の表面色を均等に表す色空間としては高く評価されており,CIE LAB 空間の制定の最には,等彩度曲線が LAB 空間上で等間隔の円になる事,また等彩度曲線が放射状に等間隔に広がることを目標に制定された.しかし,Munsell色空間のの明度軸(value)は輝度と一致しない.

反対色過程後の色情報表現と色の見え

他の色みを感じない純粋な基本色相(ユニーク色:unique hue)とは必ずしも1:1に対応しない事が指摘されている (Jameson & Hurvich, ; De Valois et al., 2000).例えばL錐体とM錐体のみが選択的かつ拮抗的に刺激される光と,ユニーク赤(unique red)およびユニーク緑(unique green)は一致しない.Jameson & Hurvich は,可視波長の光に対し,赤/緑,青/黄の成分を補色によって打ち消す実験を行い,それぞれの基本色成分に対する波長感度分布を導出した.しかし,これらの波長分布感度曲線は錐体分光感度の線形和では表現することができなかった.De Valois et al. はコンピュータ画面上に,錐体拮抗的色空間における色相環上の色光を呈示し,基本色相(赤,緑,青,黄)の成分で評価させる実験を行った.その結果,錐体拮抗軸とユニーク色とは一致しなかった.Webster & Miyahara は,ユニーク色の錐体拮抗色空間上での個人差の分布について調べた.顕著な個人差が確認されたが,特に青と黄はこの空間上で直線に並ぶ事が無いことが示された. これらの心理物理学的な実験結果は,錐体拮抗軸が色の見えの基本要素であるユニーク色と対応しない可能性を強く指摘している.従って「色の見え」を表現している生理学的なメカニズムは反対色過程以降(post cone-opponent process)に存在すると考えられ,研究が推進されている.

色差

色差は2つ以上の色光に大して感じる主観的な色の見えの差である.視覚実験などにおいて実験刺激を定義する際には,CIE 色空間上の測色的な色度の間のユークリッド距離が用いられる事が多い.

色カテゴリー(鯉田さん?)

色度の異なる複数の色を同じ範疇(カテゴリー)の色としてカテゴライズしたものを色カテゴリーと呼ぶ.Berlin & Kay (1969)(←文献)が複数言語において共通の色カテゴリー(と,それに対応する色名)が存在する事を指摘した.成熟した言語を持つ文化圏では11の基本色名(赤,緑,青,黄,紫,橙,茶,桃,白,灰,黒)を共通して持つと指摘している.←ガンガンいじって下さい. 基本色カテゴリー.Motif (Lindsey & Brown) の話?生得的か,経験に基づくものかについては,controversial.

錯視

色の見えに関する錯視は主に,物理的に同じ光が異なる見えを呈する形で存在する.それは色誘導(chromatic induction)と呼ばれる.色誘導には同化(chromatic assimilation)と対比(chromatic contrast)の2種類がある.同化や対比のメカニズムについては議論が多いが,コントラスト感度の空間周波数特性(Contrast Sensitivity Function: CFS)における最大周波数が,輝度のコントラスト感度の空間周波数特性に比べて低い(空間的に粗い)方向にシフトしていることが主な要因だと考えられている(Wandell et al.).

同化

対比

生理学的な側面

動物種による色覚の違い

波長応答特性の異なる光受容器が複数存在すれば、その個体には広い意味での色覚があると言える。そのような色受容器は幅広い動物種において見つかっており、それぞれ異なる分光特性や個数で構成されている。例えば昆虫、魚類、鳥類においてはヒトよりも多くの種類の受容器があり、4原色以上の色で世界を見ている。一方で哺乳類は二色性の色覚特性を持っていることが多く、これは哺乳類の共通祖先が夜行性の動物であることとの関連性が指摘されている。哺乳類の中でも一部の霊長類(旧世界ザル、類人猿、ヒト)は例外的に共通の三色性の色覚を有している。以下に記載する生理学的側面については、ヒトおよび旧世界ザルを対象とした研究に基づいたものである。

光受容器と多様性の起源

coneについてのみ述べる。

三色性

LMSの存在比率:そのバラエティ

マカカ属サルの比率はちょっと違うが個体差があまりないようだ

色覚異常(1色覚,2色覚,変則的3色覚,4色覚) マカク及びチンプでの2色覚はごくまれにしか見つからない

rodについては→ロドプシンに詳しい

網膜内部

Bipolarに始まるON, OFF型応答。その時空間応答特性。

中心と周辺で色受容器が異なる場合、色情報を強く引き出すことになる。反対色チャネルの発生 →受容野

中心、周辺の配線はランダムワイヤリングか選択的ワイヤリングか

視床

眼球から出た視神経は、外側膝状体、上丘、視交差上核などの各種神経核に投射する。色覚に関わるのは主に外側膝状体である。

LGNは視床の一部。RGCの特性をほぼ再現する。Magno/Parvo/Konioに空間的に分離して存在する。色に寄与するのはParvoとKonio。Parvoは4つの層で構成され、そのうち2層は同側の眼球から、もう2層は対側の眼球から神経投射を受け、眼選択性を維持したまま大脳皮質にワイヤリングする。これらの2層が視覚および色覚にどのよな機能的違いをもたらすかは明らかでない。Konioは主に青黄選択的応答と強い関連性がありそう。


大脳皮質

色情報は主に、視覚関連領野の腹側経路(V1,V2,V4,IT)において階層的に処理されている。

初期視覚野(第一次視覚野,第二次視覚野)

サルとヒトで高い共通性がある。 V1:入力層構造:色についてはParvoから投射される**層。  カラム構造:CO-blob:色選択的応答細胞が比較的多い。 V2:thin stripe:エレガントな色構造 V3,V3A:色との関係性はあまり明らかでない

高次視覚野 (V4, IT)

サルとヒトで対応が難しくなる V4とhV4:視野地図かかなり違う ITとFusiform: サルに限ると: V4~ITには、それぞれ数個程度のパッチ構造があり、色選択的応答細胞が密集して存在する。特に前側のIT(TE野)に存在する色選択的応答パッチでは、刺激の輪郭形状によらない色選択的応答特性を示す細胞が多く見つかることからより独立性の高い色情報が存在すると言える。 これら高次の神経領野では、神経活動は生体の動的な機能と関連性が強まり、注意、判断、認知行動といった影響でゲインコントロールされるようになる。





参考文献