カドヘリン

2012年8月27日 (月) 11:48時点におけるTakeshikawauchi (トーク | 投稿記録)による版

英語名:Cadherin

 カドヘリンは、カルシウム依存的に細胞と細胞を接着させる作用をもつ主要な細胞接着分子であり、竹市雅俊によって発見・命名された。カドヘリン(Cadherin)の名前は、Calcium(カルシウム)+ Adherence(接着)に由来する。カドヘリンは、細胞外領域にECドメイン(カドヘリン・リピートとも呼ばれる)をもつ細胞膜タンパク質であり、ヒトでは100種類を超えるスーパーファミリーを形成している。そのほとんどが膜貫通ドメインをもつが、T-カドヘリン(CDH13)はGPIアンカーを介して細胞膜と結合している。カドヘリンは、上皮細胞におけるアドへレンス・ジャンクションや神経細胞におけるシナプスを含む細胞-細胞間接着部位に局在し、主にホモフィリックな接着機能を介して細胞間相互作用を制御するが、細胞内へシグナルを伝える受容体として働く場合もある。

カドヘリンスーパーファミリー

 カドヘリンスーパーファミリーは、クラッシックカドヘリンと非クラッシックカドヘリンに大別され、クラッシックカドヘリンは5個のECドメインと1個の膜貫通領域をもつ(図1)。なお、デスモソームに局在するデスモソーマルカドヘリンも同様の分子構造をもつが、細胞内ドメインなどの配列が異なり、非クラッシクカドヘリンに分類される(下記参照)。クラッシックカドヘリンは、タイプIとタイプIIに分けられる。タイプIには、最も研究が進んでいるE-カドヘリン(CDH1)やN-カドヘリン(CDH2)などが含まれる(表1)。クラッシックカドヘリンおよびデスモソーマルカドヘリンの細胞内領域には、カテニンと呼ばれる分子群が結合する。βカテニンとp120カテニンはクラッシックカドヘリンの細胞内領域に直接結合するのに対して、αカテニンはβカテニンを介して間接的に結合する(図1)。これらのカテニンやその結合分子(ビンキュリン、エプリンなど)は、カドヘリンと細胞骨格をつなぐなどの重要な働きをもつ。

 カドヘリンの分類は論文によって異なる場合もあるが、非クラッシックカドヘリンは、皮膚や心筋などにみられる強固な細胞間接着であるデスモソームに局在するデスモソーマルカドヘリン(デスモグレイン、デスモコリン)、GPIアンカー型のT-カドヘリン(CDH13)、プロトカドヘリン、7回膜貫通型で平面極性の制御因子であるCelsr(ショウジョウバエのFlamingo)、Fatとその結合相手であるDachsousなどが知られている。プロトカドヘリンのうち、プロトカドヘリンα、β、γ遺伝子は、それぞれゲノム上に遺伝子クラスターを形成しており、例えばプロトカドヘリンα遺伝子のクラスターからは、N末端側が異なるエクソンにコードされた15種類のタンパク質が作られる。

神経管形成におけるカドヘリンの役割

 神経系は外胚葉由来であり、外胚葉が陥没した管(神経管)から脳・脊髄が形成される。外胚葉における上皮の頂端(apical)側が神経管の内腔側になり、神経管の内腔は脳室となる。神経管の形成に伴い、E-カドヘリンの発現が消失し、N-カドヘリンに置き換わることが知られている。神経管の形成には、N-カドヘリンとプロトカドヘリン19が協調的に働くことが必要であることが、ゼブラフィッシュで示されている。

神経前駆細胞におけるカドヘリンの役割

 脳を構成する神経細胞は、発生期において脳室近辺に存在する神経前駆細胞から産生される。神経前駆細胞はいくつかの種類に分類されるが、脳室に面した細胞層である脳室帯に存在する放射状グリア(グリアという名前が付いているが、その実体は神経前駆細胞である)は、神経細胞のみならず他の種類の神経前駆細胞も産生する、主要な神経前駆細胞である。