脳弓
羅:fornix 英:fornix
脳弓は主として海馬体から出て乳頭体などに至る線維束で、脳梁の下で左右対をなして弓形を画く。これは脳弓柱、脳弓体、脳弓脚および海馬采に区分される。
解剖
脳弓は主として海馬体から出て乳頭体などに至る白い線維束で、脳梁の下で左右対をなして弓形を画く(図1ー3)。海馬台や狭義の海馬(アンモン角)の錐体細胞の軸索は、海馬白板を通り、海馬采 (fimbria)に集められる。両側の海馬采は後方へ進むにつれて太くなり、海馬の後端に至って脳梁膨大の下を脳弓脚となって弧を描いて上ると同時に両側のものが互いに近づいてくる。このあたりで多数の線維が反対側の脳弓に入る。すなわち交叉線維が薄く板状に広がって脳弓交連 (fornical comissure)を形成する。両側の脚は合して脳弓体 (body of the fornix)となり脳梁の直下を前方に視床の吻側端まで行き、ここで再び線維束が左右に分かれ脳弓柱 (colums of the fornix)として室間孔から前交連の後ろまで腹方に曲がる。神経線維が薄い帯状になった海馬采は脳弓のほぼ全経過にわたって外側に位置しているが、吻側では脳弓の本体である脳弓柱に混ざる。脳弓線維のほぼ半数は前交連の尾側を交連後脳弓として下行し、残りは前交連の前方を交連前脳弓として走る(図4)[2]。[2]。
脳の白質には左右の脳を結ぶ交連線維と同側の大脳半球の異なる領域を繋ぐ連合線維(association fiber)が存在し、後者には隣接する脳回を繋ぐ短い連合線維と異なる領域にまたがる長い連合線維が存在するが、脳弓は長い連合線維の代表的なもので海馬体から出て乳頭体などに至る線維束である。また、対側海馬へ投射する交連線維も含まれる。
機能
脳弓は大脳辺縁系をつなぐ線維連絡として知られている。大脳辺縁系の領域は文献により異なるが、古くは1937年に、アメリカの神経解剖学者である James Papez が「帯状回が興奮すると、海馬体、乳頭体、視床の前核を経て帯状回に刺激が戻る」という神経回路を想定し、このモデルは古典的な「パペッツの情動回路 Papez circuit」として知られている(図5)。パペッツの理論はマクレーン Paul D.MacLean により、より広い領域に対する、現在の概念に近い「大脳辺縁系」に対して拡張された。現在は辺縁系のうち、扁桃体と海馬体の機能が解明されてきている。
脳弓下器官
近年、脳弓下器官 (subfornical organ; SFO)に血液や脳脊髄液に代表される体液(細胞外)中のNa(ナトリウム)濃度や細胞内のNa濃度の恒常性を保つためのNaxチャンネルというセンサーがあることがわかってきた。Nax は中枢神経系では、主に脳室周囲器官 (circumventricular organs;CVOs) に発現しており、脳弓下器官の他には終板脈管器官 (organum vasculosum of the lamina terminalis; OVLT) や最後野 (area postrema) にも存在が確認されている。この3領域は他の多くの脳領域と神経結合をつくっており、脳室表面に位置し、血液脳関門が無いことから、体液中の物質の受容や感知に適した場所であると考えられる [3] [4]。(編集コメント:図6、7を本文でご説明下さい)
関連項目
参考文献
(執筆者:藤山文乃 執筆協力:赤沢年一 担当編集委員:藤田一郎)