細胞時計
鳥居 雅樹、深田 吉孝
東京大学 大学院理学系研究科 生物化学専攻
DOI XXXX/XXXX 原稿受付日:2013年3月25日 原稿完成日:2013年月日
担当編集委員:河西 春郎(東京大学 大学院医学系研究科)
英語名:cellular clock
同義語: 末梢時計(peripheral clock)
一日サイクルで変化する生命現象は多いが、この日内変動が一定の環境条件においても継続する時、その生命現象は生体内の計時機構によって支配されていることが分かる。このような計時機構は「概ね一日」を刻む時計という意味で概日時計(circadian clock)と呼ばれ、この時計が制御している変動を概日リズム (circadian rhythm)と呼ぶ。
動物の概日リズムを生み出す概日時計システムは、脳に存在する中枢時計と、末梢組織に存在する末梢時計とが階層構造をなして構成されている。哺乳類においては、個体の行動リズム形成には視床下部の視交叉上核(suprachiasmatic nucleus; SCN)が重要な役割を果たしている。例えば、SCNを破壊したり、SCNと他の脳部位との神経連絡を切断すると、行動の概日リズムが消失する。SCNのように、個体の概日リズム形成に決定的な役割を果たす振動体を主時計(master clock)もしくは中枢時計(central clock)という。哺乳類の中枢時計が存在するSCNは、視交叉の直上に存在する左右一対の神経核である。SCNに存在する左右合わせて約20,000個のニューロンは、個々の細胞内に強力な振動体を有しており、実際、個体から単離して分散培養したSCNニューロンは、神経発火の頻度リズムや時計遺伝子の発現リズムが何十日間にもわたって観察される。
一方、哺乳類の多くの組織の細胞は、生体から取り出して培養しても時計遺伝子の発現リズムが自由継続する。したがって、SCN以外の全身の多くの細胞にも自律発振する時計が存在している事になる。このような末梢組織の概日時計は、SCNの中枢時計と対比させて末梢時計(peripheral clock)または細胞時計と呼ばれ、各組織において固有の位相の概日リズムを生み出す。