カルモジュリン
カルモジュリン 英:Calmodulin
要約
カルモジュリンは148アミノ酸残基、分子量約16.7kDa、酸性のCa2+結合タンパク質であり、それぞれ2つのEFハンドドメインからなるN末側ドメインとC末側ドメインがリンカーでつながった構造をしている。カルモジュリンは、酵母、植物、昆虫からヒトまで真核生物に発現しており、特に脊椎動物の中では高い保存性を示す。Ca2+のバッファーとして働く他、Ca2+と下流のエフェクター分子の間のシグナルを伝達する。特に脳においては、神経発生、軸策突起進展、長期記憶など様々な機能に関わる。
発見
カルモジュリンは環状ヌクレオチドフォスフォジエステラーゼの活性化因子として発見された[1][2][3]。その後、その活性化因子の正体がCa2+結合タンパク質であることが明らかとなり(Teo 1973)、トロポニンCに類似したタンパク質として精製され[4] [5]、アミノ酸配列が決定された[6]。また、分光学的解析によってCa2+結合に伴って構造が変化することが示された(Klee 1977, Wolff 1977, Dedman 1977)。環状ヌクレオチドフォスフォジエステラーゼのみではなく、アデニル酸シクラーゼ、ミオシン軽鎖キナーゼ、フォスフォリラーゼキナーゼなどを制御するCacium modulator proteinからCalmodulin、カルモジュリンと名づけられた(Cheung 1978)。
構造
カルモジュリンは148残基のアミノ酸からなる、分子量約16.7kDaのタンパク質である。Ca2+と結合する4つのヘリックス・ループ・ヘリックス構造のEFハンドモチーフを持ち、2つずつがそれぞれペアとなってN末側ドメイン、C末側ドメインを形成し、その間をリンカーがつながったダンベル様の構造をしている。1985年にウシ由来カルモジュリンのX線結晶構造が解かれ、原子レベルでの構造が明らかになった(Babu 1985)。Ca2+と結合することで、疎水性領域が露出し+、ターゲットとなるタンパク質のカルモジュリン結合ドメインと相互作用する。
サブファミリー
Calmodulin1 Calmodulin2 Calmodulin3
ヒト、ラットのCalmodulin1, Calmodulin2, Calmodulin3は同一のアミノ酸配列のタンパク質をコードしている。
機能
カルモジュリンは脳内で10~100マイクロモル/リットルの濃度で発現しており、細胞内で上昇したCa2+と結合し、様々なカルモジュリン結合タンパク質と結合して生理機能を発揮する。カルモジュリン結合タンパク質の多くはCa2+依存的であり、Ca2+/カルモジュリンと結合するが、Ca2+と結合していないカルモジュリンと結合するタンパク質や、Ca2+非依存的に結合するタンパク質も存在する。カルモジュリンの主要な機能は、細胞内のCa2+濃度の変化を感知し、カルモジュリン結合タンパクの機能制御を通じて、細胞機能を制御することである。
カルモジュリン結合タンパク質としては、環状ヌクレオチド代謝酵素(フォスフォジエステラーゼ、アデニル酸シクラーゼ)、膜タンパク質(ATP依存的Ca2+ポンプ、代謝型グルタミン酸受容体、L型カルシウムチャネル、IP3 受容体)、リン酸化酵素(MLCK、Ca2+/CaM依存的キナーゼI/II/IV、ホスホリラーゼキナーゼ)、 脱リン酸化酵素(カルシニューリン)、 細胞骨格系タンパク質(カルデスモン、MAP2、アデューシン、カルスペクトリン、ミオシン)、シグナル伝達タンパク質(RasGRF1、一酸化窒素合成酵素)などが知られている。こうした様々なタンパク質と結合し、その活性や機能を制御することがカルモジュリンの機能である。
阻害剤
W-7 (Hidaka 1980) ナフタレンスルホンアミド誘導体。カルモジュリンの疎水性領域に結合する。
カルミダゾリウム (Van Belle, 1989)
カルモジュリンを用いたCa2+インディケーター
カルモジュリンがCa2+依存的にターゲットペプチドと相互作用することを用いて、様々な遺伝子にコードされたCa2+インディケーターが開発されている。大まかには、2色の異なる色の蛍光タンパク質を用いたFRETセンサーと(Romoser 1997, Miyawaki 1997)、円順列変異GFPを用いた単色蛍光プローブがある(Nakai, 2001 Nagai, )。2010年前後から、GCaMPの改良が非常に進み、脳活動を神経細胞レベルで長期間観察するのに用いられている()。
- ↑
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