随意運動と不随意運動
蔵田 潔
弘前大学 大学院医学研究科 統合機能生理学講座
DOI:10.14931/bsd.2425 原稿受付日:2012年12月6日 原稿完成日:2016年1月12日
担当編集委員:田中 啓治(独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)
英語名:voluntary movement and involuntary movement
随意運動は、必ずしも外的な感覚刺激要因によらず、手や足(特に手指)に加え、顔面筋や眼球など体のさまざまな部分を、自らの意思によって自在に動かすことによって、自らの意図する行動の目的を達成するだけでなく、言語の生成や、表情を表わすことによって、社会生活に欠かせないコミュニケーションをとることができる。一方、何らかの脳病変により、随意運動の生成に障害をきたすのみならず、自らが意図しない異常な規則的あるいは不規則的運動が発生してしまうことがあり、不随意運動と呼ばれている。
今日の脳研究の理解では、随意運動に関連する主要な脳領域は大脳皮質、小脳、それに大脳基底核である。随意運動を伝える経路として、20世紀の初頭に始まる近代脳研究の黎明期から、延髄錐体が注目されてきた。大脳皮質から脊髄への直接下行路である錐体路が延髄錐体を構成する。錐体路の神経線維は延髄尾部の錐体交差で左右大脳皮質からの線維が反体側に交差し、脊髄に直接あるいは間接投射することで、左脳が右半身を、右脳が左半身の随意運動を制御している。錐体路が傷害されると、特に手指の精緻な随意運動に障害が生じることから、このときに生じる症状が「錐体路症状」と呼ばれてきた。一方、大脳基底核の病変に伴い生じるさまざまな不随意運動が臨床的に「錐体外路症状」と呼びならわされてきた。しかし、「錐体外路」は錐体路以外の運動系下向路の総称であり、必ずしも大脳基底核を通る神経経路だけを指すわけではないので、錐体外路症状の名称には問題がある。