脊髄介在ニューロン

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東島 眞一
自然科学研究機構 生命創成探究センター 自然科学研究機構 基礎生物学研究所 神経行動学研究部門
DOI:10.14931/bsd.3511 原稿受付日:2013年3月18日 原稿完成日:2019年1月30日
担当編集委員:渡辺 雅彦 (北海道大学大学院医学研究院 解剖学分野 解剖発生学教室)

英語名:spinal interneurons

同義語:脊髄介在神経

 脊髄内の神経細胞で、軸索の伸長部位が脊髄内に限られ、脊髄内での情報処理に関わるニューロンのこと。

脊髄介在ニューロンとは

 脊髄内のニューロンは軸索の投射部位によって、大きく以下の3つに分けられる

  1. 運動ニューロン(motoneuron):前根軸索を送り、を支配する。
  2. 上行路ニューロン:軸索を脳にまで伸ばし、脳に情報を伝える。
  3. 介在ニューロン(interneuron):軸索の伸長部位が脊髄内に限られ、脊髄内での情報処理に携わる。

 ニューロンの数としては、介在ニューロンが圧倒的に多く、運動ニューロンのクラスターを除く脊髄のすべての領域に存在する。

 軸索の範囲が脊髄内に限られるニューロンを示す言葉としては、脊髄固有ニューロン(propriospinal neuron)も使われる。介在ニューロンと脊髄固有ニューロンの区別は必ずしも明確ではない。厳密には、軸索が白質内を走行し、細胞体とは異なる髄節に終止するニューロンを脊髄固有ニューロンというが、白質内の軸索の走行距離が比較的短く、近くの髄節に終止するニューロンは介在ニューロンと呼ばれることが多い。

 また、軸索の伸長範囲が明確に分かっていない場合も多く、そのような場合、脊髄内の情報処理に関わるニューロンとして介在ニューロンの言葉が広い意味で使われる。したがって、比較的長距離の情報伝達を行うニューロンも介在ニューロンとして扱われる。この場合、大脳皮質における介在ニューロン(局所介在ニューロンの意味で用いられる)とは、意味するポイントが異なる点に注意が必要である。

 脊髄内には非常に他種類の介在ニューロンが存在すると考えられているが、一般に、介在ニューロンの役割、結合様式を電気生理学的、解剖学的手法のみで調べることは簡単ではなく、何種類の介在ニューロンが存在しているか答えることは難しい。

 介在ニューロンの多様性に関しては、遺伝子発現との関連から、ニューロンのクラスを同定する手法が有力な手段であると考えられ、その方向からの研究が、注目されている[1][2]。特に、発生の時期に一過的に発現する転写因子によって規定される神経細胞の特性に研究の焦点が当てられてきた。発生期には、脊髄の神経前駆体領域は、背腹軸に沿って転写因子の発現によって10程度のドメインに分割され、それぞれのドメインから異なったタイプの介在ニューロンが生じることが明らかにされた(生じるドメインに応じて、V0-V3ニューロン、dI1-dI6ニューロンと呼ばれる)[3]。最近15年程度の解析により、これらは、介在ニューロンの軸索走行や興奮性・抑制性、といった、おおまかな性質と対応していることが明らかとなってきた。たとえば、V1ニューロン(転写因子En1の発現によって規定される)は、すべて同側に投射する抑制性のニューロンであり[4]、また、V2aニューロン(V2ニューロンの中で興奮性のもの;転写因子Chx10の発現により規定される)は、すべて同側に投射する興奮性のニューロンである[5]

 さらに近年になって、より細かな介在ニューロンサブタイプの分類が、単一細胞からのRNAシークエンシング研究により可能となってきている[6]。今後、この方面からの研究がますます進展すること期待される。

図1. レンショウ細胞
文献[7]より改変
図2. Ia抑制性介在ニューロン
文献[7]より改変

よく知られている脊髄介在神経

 感覚ニューロンや運動ニューロンと特徴的な結合をしている介在ニューロンに関しては再現的な同定が可能である。そのような介在ニューロンの例として、たとえばレンショウ(Renshaw)細胞Ia抑制性介在ニューロンがあげられる。なお、この両者はともに、上記のV1ニューロンに属することが明らかにされている[4]

レンショウ細胞

 運動ニューロンからの反回抑制(recurrent inhibition)に関わる介在ニューロンである[8][9](図1)。

 運動ニューロンからの出力は筋に伝達されるが、同時に軸索側枝を介してレンショウ細胞に伝えられる。レンショウ細胞はグリシン作動性で抑制性であり、その軸索は同名筋と協力筋を支配する運動ニューロンに投射する。したがって、運動ニューロン軸索のインパルスは、2シナプス性に運動ニューロンを抑制することになる(反回抑制)。反回抑制は、運動ニューロンの出力の利得を調節しているものと考えられる。

Ia抑制性介在ニューロン

 伸長反射(stretch reflex)において脊髄内の拮抗抑制(antagonistic inhibition)に携わるニューロンである[10](図2)。

 伸長反射が起こる際には、筋紡錘に一次終末をもつIa感覚ニューロンが発火し、その発火は当該筋を支配する運動ニューロンに興奮性の作用を誘発する(Ia感覚ニューロンはその筋を支配する運動ニューロンに直接興奮性のシナプスを作っている)。同時に、Ia感覚ニューロンの発火は拮抗筋を支配する運動ニューロンに抑制を導く。これは、Ia感覚ニューロンが脊髄内でIa抑制性介在ニューロンに興奮性のシナプスを作っており、そして、Ia抑制性介在ニューロンが拮抗筋を支配する運動ニューロンに抑制性のシナプスを作っていることによる(2シナプス性の抑制)。すなわち、Ia抑制性介在ニューロンは、Ia感覚ニューロンから直接入力を受け、符号を反転して拮抗筋を抑制するニューロンである。この拮抗抑制は、スムーズな反射の達成に重要である。

 またIa抑制性介在ニューロンにはIa感覚ニューロンからの一次求心性線維からだけでなく、皮質、赤核前庭脊髄路などの下行性線維からの入力が入ることが知られており、反射の際だけでなく、通常の運動においても大事な役割を果たしていると考えられている。

前肢の巧緻運動に携わる脊髄介在(脊髄固有)ニューロン

 脊髄介在ニューロン、ないし、脊髄固有ニューロンは、歩行運動や反射運動といった定型的な運動だけでなく、巧緻な運動にも携わっていることが示されてきている。

 たとえばマカクザルにおいて、頚髄第3髄節から頚髄第5髄節(C3-C5)に存在する脊髄固有ニューロンが前肢の指の巧緻な運動の制御に重要な役割を果たしていることが、ウイルスベクターを駆使した精巧な実験によって示されている[11]マウスにおいても、習熟が必要とされる前肢の到達運動において、C3-C4に存在する、発生学的にはV2aクラスに属する脊髄固有ニューロンが重要な役割を果たしていることが示されている[12]

関連項目

参考文献

  1. Goulding, M., & Pfaff, S.L. (2005).
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  2. Goulding, M. (2009).
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  3. Briscoe, J., Pierani, A., Jessell, T.M., & Ericson, J. (2000).
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