性機能不全

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針間 克己
はりまメンタルクリニック
DOI XXXX/XXXX 原稿受付日:2013年12月15日 原稿完成日:2013年月日
担当編集委員:加藤 忠史(独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)

英語名:sexual dysfunctions 独:sexuellen Dysfunktion, sexuellen Funktionsstörung 仏:dysfonction sexuelle

 性機能不全とは性反応の各過程における心理的生理的変化の障害である。射精遅延勃起障害女性オルガズム障害女性の性的関心/興奮障害性器・骨盤痛/挿入障害男性の性的欲求低下障害 、早漏などがある。

(編集コメント:500字程度を目安にお願いいたします)。

性機能不全とは

 性機能不全とは性反応の各過程における心理的生理的変化の障害である。性反応は従来、欲求相興奮相オルガズム相解消相に分けられ、それぞれの相ごとに障害が分類されていた。しかし、2013年にアメリカ精神医学会より発行されたThe Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth EditionDSM-5)においては、女性では性反応の障害は各相をまたがったり、反応が直線的ではなく循環的な場合もあることなどより、各相ごとには障害は分類されていない。

 具体的疾患名としては、射精遅延勃起障害女性オルガズム障害女性の性的関心/興奮障害性器・骨盤痛/挿入障害男性の性的欲求低下障害早漏などがある。

射精遅延

delayed ejaculation

 射精遅延とは、パートナーとの性的活動において、本人が遅い射精を望んでいないのに、ある特定の状況ないしはすべての状況の、ほとんどの場合に(約75%以上の割合)、

  1. 射精の著明な遅延
  2. 射精の著明な欠如ないし減少

のどちらかがあることである。

 2に相当する概念は、日本の医学界においては腟内射精障害として疾患概念が議論されている。すなわち、自慰では射精が可能だが、性交時、腟内においては射精な困難なものたちがおり、その原因としては、手を使わずペニスを布団などにこすりつける、強いグリップでペニスを握るなどの不適切な自慰の方法が指摘されさている。

 「遅延」に関しては、具体的に「何分以上」などの定義はない。射精までの時間がどれくらいが正常なのか、どのくらいの時間だと受け入れがたい長さなのかという点については、医学的合意がないからである。

勃起障害

erectile disorder

 勃起障害を指す言葉として、近年「ED」が広く使われるようになったが、これは「Erectile Disorder」ではなく「Erectile Dysfunction」の略語である。「Erectile Dysfunction」は泌尿器科領域で使われる用語であり、勃起の機能面の障害に重点を置き「Dysfunction」を用いている。いっぽうで、DSMでは精神疾患の一つとしての立場から、他の精神疾患と同様に「Disorder」を用いている。

 勃起障害は、性的活動において、ある特定の状況ないしはすべての状況の、ほとんどの場合に(約75%以上の割合)、

  1. 勃起を得ることの著明な障害
  2. 性的活動を完了するまでに勃起を維持することの著明な障害
  3. 勃起の硬度の著明な減少

 のいずれか一つ以上があることである。また診断基準として、他の性機能不全疾患と同様に、6カ月以上症状が持続すること、が必要である。6か月以内の短期の症状では診断は下されない。

女性オルガズム障害 

female orgasmic disorder

 女性オルガズム障害は、性的活動において、ある特定の状況ないしはすべての状況の、ほとんどの場合に(約75%以上の割合)、

  1. オルガズムを得ることの著明な遅延、または著明な頻度の減少、または欠如、ないし、
  2. オルガズム感覚の著明な減少

 のいずれか一つ以上があることである。

 多くの女性はクリトリスへの刺激によってはオルガズムに達しやすいが、腟ペニス性交で達するものは多くはない。そのため、自慰行為ではオルガズムに達するが、性交では達しないものは、診断基準は満たさない。またオルガズムに達するのは十分な性的刺激がなされていない場合もあるため、診断上考慮する必要がある。

女性の性的関心/興奮障害

female sexual interest /arousal disorder

 「女性の性的関心/興奮障害」はDSM-5における性機能不全疾患分類の主要な変更点の一つである。従来は欲求相の障害である「性的欲求低下障害」と興奮相の障害である「女性の性的興奮の障害」と二つの疾患であったのが、DSM-5では、この二つの疾患は統合され、「女性の性的関心/興奮障害」とひとつの疾患単位となった。これは女性においては、男性とは異なり、欲求相と興奮相は明確に区分されるものではなく、その境界はあいまいで、多くの場合は重なり合うこと、あるいは互いに影響を及ぼしあうこと、また性的欲求低下と女性の性的興奮の障害も、多くの場合併存することが指摘されてきたからである。

 診断基準としては、以下の項目のうち3つ以上によって示される、性的関心・興奮の欠如ないし著明な減少である。

  1. 性行為への興味の欠如ないし減少
  2. 性的思考・空想の欠如ないし減少
  3. 性行為の開始の欠如ないし減少
  4. 性行為において、ある特定の状況ないしはすべての状況の、ほとんどの場合に(約75%以上の割合)、性的興奮・喜びの欠如ないし減少
  5. 性的刺激への反応としての性的関心・興奮の欠如ないし減少
  6. 性行為において、ある特定の状況ないしはすべての状況の、ほとんどの場合に(約75%以上の割合)、性器ないし性器以外の感覚の欠如ないし減少

 診断において留意すべきものとして、二者間の性欲の不一致がある。たとえば、パートナーが毎日セックスを求めるが、本人は週に1度程度のセックスを望むような場合である。このような場合には診断は下されない。

 また、鑑別すべき概念として「アセクシュアル(asexual)」がある。これは、異性を性愛の対象とする異性愛、同性を性愛の対象とする同性愛、両性を性愛の対象とする両性愛、などの性指向とは異なり、同性、異性のいずれにも性愛的欲求を持たないものを言う。アセクシュアルに関しては、精神医学的研究やエビデンスは乏しいが、現在のところ、同性愛両性愛ゲイレズビアンバイセクシュアルと呼ぶように、精神疾患や性的異常ではなく、多様なセクシュアリティの一つとして捉えられている。そのため、本人がアセクシュアルとしてのアイデンティティを持っていれば、女性の性的関心/興奮障害とは診断されない。

性器・骨盤痛/挿入障害

genito-pelvic pain/penetration disorder

 性器・骨盤痛/挿入障害もDSM-5における性機能不全疾患分類の主要な変更点の一つである。従来は性交疼痛障害である「性交疼痛症」と「腟けいれん」と二つの疾患であったのが、DSM-5では、この二つの疾患は統合され、「性器・骨盤痛/挿入障害」という、ひとつの疾患単位となったのである。ひとつにされた理由としては、実際上、二つの疾患の鑑別は困難だったからである。腟けいれんにおいては、腟れん縮の存在を確認する必要があったが、診察場面での確認は困難であった。すなわち、性交時に腟への挿入が困難なものは、婦人科的診察場面においても、診察器具を腟に挿入することは困難だからである。また、腟けいれんでは、痛みへの恐怖や挿入への恐怖も、多くの場合同時に見られたのである。これらのことより、二つの疾患は、多くは重なり合うものとして認識されるようになり、DSM-5ではひとつの疾患単位に統合された。 診断基準は、以下の項目のうち1つ以上が持続的ないし反復的に存在することである。

  1. 性交中の腟への挿入が困難
  2. 腟への挿入中ないし挿入しようとしたときの、性器や骨盤の著明な痛み
  3. 腟挿入の前・中・後における性器や骨盤の痛みに関する著明な恐怖や不安
  4. 腟挿入をしようとしたときの骨盤底筋肉群の著明な緊張

男性の性的欲求低下障害

male hypoactive sexual desire disorder

 男性の性的欲求低下障害とは、性的思考・空想と性的活動に関する欲求の持続的または反復的な不足(または欠如)である。不足の判断は、臨床家が、年齢及びその個人の全般的、文化社会的背景などの性機能に影響を与える要因を考慮して行う。

 鑑別診断では、女性の性的関心/興奮障害と同様に、アセクシュアルと本人がアイデンティティを思っている場合は、男性の性的欲求低下障害は診断されない。

早漏

premature (early) ejaculation

 早漏とは、は、パートナーとの性的活動において、持続的ないし反復的に、腟挿入後1分以内に、本人が望む以前に射精することである。腟挿入以外の性的活動については、射精までの時間の定義は確立されていない。

 射精までの時間に重症度は三段階に分類される。射精までの時間が30秒から1分までが軽度、15秒から30秒までが中程度、直後ないし15秒以内が重度である。

 異性愛以外の性指向でも、射精までの時間は異性愛男性と近似しているので、早漏が1分以内という基準はあてはまりうる。

 また、最初の性交時は射精が早期だったものが、慣れるにつれ射精をコントロールし射精までの時間が長引くのはよくあることなので、診断にあたっては、6カ月以上続くことが必要である。

関連項目

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参考文献

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