解離症/解離性障害
柴山 雅俊
東京女子大学
DOI:10.14931/bsd.7047 原稿受付日:2016年3月30日 原稿完成日:2016年月日
担当編集委員:加藤 忠史(国立研究開発法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)
英:dissociative disorders 独:dissoziative Störungen 仏:troubles dissociatifs
Janet Pは夢遊病状態をヒステリーの解離として典型的であると考え、外傷による人格の統合の失敗の結果であるとした。現代の解離理論はこうしたJanetの考えに基づいている。DSM-5は解離症の特徴を「意識、記憶、同一性、情動、知覚、身体表象、運動制御、行動の正常な統合における破綻(disruption)および/または不連続(discontinuity)」としている。下位分類としては、解離性健忘、離人感・現実感消失症、解離性同一症、他の特定の解離症、特定されない解離症などがある。症候は離人感や体外離脱体験などの離隔、健忘や人格交代などの区画化、精神病様症状(その多くは侵入体験)と3つに分けられる。解離症には外傷や虐待の既往が高頻度にみられる。とりわけ解離性同一症(DID)ではその頻度が高く、北米の報告では約80~90%が性的虐待、約70%が身体的虐待を受けている。治療の基本的枠組みとしては段階的治療がある。第1段階の安心・安全と症状低減から第2段階の外傷記憶の統合へ、さらに第3段階の人格の統合とリハビリテーションへと、患者の安定度に合わせて進めることが必要である。
歴史
解離(dissociation, désagrégation)という概念を1845年に最初に用いたのは、フランスのMoreau de Tours(1804-1884)という精神科医である。解離は観念の分裂であり、それが人格の分裂をもたらすと考えられた。Charcot M(1825-93)は、ヒステリー症状を説明するためのモデルとして人工的夢遊病や催眠状態を重視し、ヒステリー症状は意識から分離された意識下観念によって生じると考えた。
Janet P(1859-1947)は夢遊病状態を解離として典型的であると考え、それを人格の統合の失敗の結果であるとした。外傷の程度が重度であれば解離は重度になり、それだけ人格の断片化が促進される。彼はまたフラッシュバックや人格交代、(外傷に関連した悪夢、空想、幻覚などを特徴とする)ヒステリー性精神病、疼痛、自動運動、感覚異常などの陽性症状や、感覚喪失、運動不能、健忘などの陰性症状などについても言及している。現代の解離理論はこうしたJanetの考えに基づいている。
診断と分類
DSM-Ⅳ-TRでは解離を「意識、記憶、同一性、または周囲の知覚についての、通常は統合されている機能の破綻(disruption)」[1]と定義していたが、DSM-5は、解離症群の特徴を「意識、記憶、同一性、情動、知覚、身体表象、運動制御、行動の正常な統合における破綻(disruption)および/または不連続(discontinuity)」としている[2]。ICD-10では、運動機能や感覚の喪失、けいれんなどの身体症状も解離症状に含め、解離性(転換性)障害は転換性障害を含んでより広い概念となっている。またDSM-5の日本語版では、それまでの解離性障害が解離症にすることが提案され、従来の解離性障害と併記されている。以下では解離症と表記するが、特にDSM-5以前の解離性障害ないしはその下位分類に言及するときは解離性障害とする。
DSM-Ⅳ-TRとDSM-5の記載を比較すると、DSM-5では以下のように2つの点で変化をみることができる。1つは解離の定義についてである。DSM-Ⅳ-TRの「意識、記憶、同一性、または周囲の知覚」からDSM-5の「意識、記憶、同一性、情動、知覚、身体表象、運動制御、行動」へと、解離をより広範囲の領域に拡大し、心理機能のあらゆる領域において破綻が生じる可能性があるとした。このことはICD-10の解離の定義である「過去の記憶、同一性と直接的感覚の意識、そして身体運動のコントロールの間の正常な統合が部分的にあるいは完全に失われること」を若干取り入れたかたちになっている。「身体表象、運動制御、行動」などの追加記載が解離症の診断に今後どのような影響を与えるかについては不明であるが、解離にみられる身体症状の多くを取り込んでおり、臨床の実際に沿った変更であるといえよう。ただし変換症/転換性障害との関係については曖昧さを残すことになるかもしれない。
もう1つは解離の症候学についてである。DSM-Ⅳ-TRまでの解離の定義である「統合の破綻」から、DSM-5では「統合の破綻と不連続性、またはそのどちらか」となっており、破綻よりもより穏当な表現である「不連続性」が付け加えられたことになる。「破綻」がより客観的な解離の機能を表わしているとするならば、「不連続性」はより主観的で微細な解離体験を表わしているように思われる。今回の「不連続性」についての変更は、解離の主観的体験や微細な症候をより明確に解離の症候に取り入れたことを示している。実際、DSM-5では解離の主観的体験がより詳細に記述されている。
また解離症状は、a) 主観的体験の連続性喪失を伴った、意識と行動へ意図せずに生じる侵入(すなわち、同一性の断片化、離人感、現実感消失といった「陽性」の解離症状)、および/または、b) 通常は容易であるはずの情報の利用や精神機能の制御の不能(例:健忘のような「陰性」の解離症状)に分けられる。離人感や現実感消失を陽性とし健忘を陰性の解離症状とすることの妥当性については、今後の課題であろう。
表1にDSM-5の解離症の診断・分類をあげる。すべての診断において、症状は臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしていることが条件である。
解離性健忘 | 重要な自伝的情報で、通常、心的外傷的またはストレスの強い性質をもつものの想起が不可能であり、通常の物忘れでは説明ができない。解離性遁走を伴う場合、目的をもった旅行や道に迷った放浪のように見え、同一性または他の重要な自伝的情報の健忘を伴う。(DSM-5ではそれまでの解離性遁走が解離性健忘に吸収された) |
解離性同一症 | 2つまたはそれ以上の、他とははっきりと区別されるパーソナリティ状態によって特徴づけられた同一性の破綻である。文化によっては憑依体験と記述される。症候は他の人によって観察される場合もあれば、本人から報告される場合もある。解離性健忘を伴う。 |
離人感・現実感消失症 | 自らの考え、感情、感覚、身体、または行為について、非現実、離脱、または外部の傍観者であると感じる体験(離人感)や、周囲に対して非現実または離脱の体験(現実感消失)が持続的または反復的にみられる。現実検討は正常に保たれている。 |
他の特定される解離症 | 解離症状が優勢であるが、上記の診断分類のいずれの基準も完全に満たさない場合に診断される。
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特定不能の解離症 | 解離症状が優勢であるが、以上の特定の解離症の診断基準を満たさない場合に分類される |
危険要因
解離症には外傷や虐待の既往が高頻度にみられることはよく知られている。米国の報告では解離症の約70%が性的虐待、身体的虐待の既往を訴えている。とりわけ解離性同一症の患者の約80~90%が性的虐待、約70%が身体的虐待を受けているといわれる。DIDは慢性的な発達上の外傷体験と関連している。
日本での多人数の報告はいまだないが、米国に比較して虐待の頻度は低いと言われている。著者の解離症173名の治療経験では性的虐待が49%、身体的虐待が35%であり、DIDに限定した場合、性的虐待が64%、身体的虐待が46%であった。今後、これらの割合が増加することが予想される。また一見正常であるかのように見える家庭であっても、機能不全が隠されている可能性があり注意を要する。
症候学
解離症の症候は離隔(detachment)と区画化(compartmentalization)に分けるとわかりやすい[3]。ここではさらに解離にみられる精神病様体験についても解説する。
A. 離隔 | 情動麻痺、離人感・現実感消失、体外離脱体験、自己像視 (気配過敏、被注察感) |
B.区画化 | 健忘、遁走、人格交代、一部の転換症状 |
C.精神病様症状 | 思考促迫、幻聴、幻視、一部の一級症状 |
離隔
離隔とは日常的な経験からの分離感覚を特徴とする意識変容であるが、現実検討が保たれている。闘争・逃避・凍結(fight/flight/freeze)などの反応の結果である。離隔において、情報は十分にコード化されない。症候としては離人感・現実感消失、体外離脱体験、情動麻痺などがある。多くの患者は「ボーッとしている」、「離れたところから自分を観察しているようだ」、「自分が夢の中にいるようだ」などといった表現をする。従来、解離では離人症状はあまり取り上げられてこなかったが、このような症候に注目することは解離の病態の全体像を把握するのに有用である。
離隔の場合、一般的な離人症を越えて、本来の「私」とずれた「私」は自分の身体の背後、やや上方、ときに横に位置するように感じられることが多い。そうすると背後から、目の前に自分の身体とりわけ背後を見ることもあり、それが体外離脱体験へとつながっている。 離隔がみられるときには、同時に背後に誰かがいる気配を強く感じるとか、他者の眼差しをありありと感じるといった被注察感を訴えることも多い。こうした気配に過敏な状態は離隔の裏側の症状ともいえる。より広範囲にみられると、「窓の辺りに誰かがいる」とか「家の中に誰かがいる」「ドアの隙間から誰かが覗いている」などと感じることもある。
区画化
区画化とは、すでにコード化され貯えられた情報に意識的にアクセスできない状態を指している。症状としては従来解離に典型的とされてきた健忘、遁走、人格交代などがあげられる。区画化された外傷体験は通常の記憶システムに統合されず、いま・ここに侵入イメージとして再体験されることがあり、それが精神病様症状の基盤になっている。
精神病様症状
解離症の患者はときに「頭の中がゴチャゴチャして混乱している(思考促迫)」「勝手に考えが出てくる」「死ねという声が聞こえる」「影が目の前を横切る」「人影や幽霊が見える」など一見精神病を思わせる訴えをする。これら精神病様症状の多くは、自己の遂行機能や自己感に対して不随意的に侵入する体験に相当する[4] [5]。
幻聴は通常「頭の中に聞こえる」とされる偽幻覚である。統合失調症の幻覚は外部から聴こえることが多いが、解離では必ずしも内部だけではなく外部からも聞こえることがある。とりわけ背後から「死ね」とか「手首を切れ」と聴こえ、後を振り向くこともしばしばである。解離性幻聴の内容は患者の気分や思考との連続性がみられることが多い。幻視については、要素的な影が目の前を横切ったり、視野の端で動いたりする。窓の辺りやドアの隙間、物陰に人の気配をありありと感じ、そこに人影を見ることもある。「頭の中に固まりがある」とか四肢を「虫が這っている」などと訴える体感異常もときにみられる。しかし、その確信性は弱く病像の前景に来ることはない。周囲の物が大きく見えたり、小さく見えたりする。自分の身体が大きくなったり小さくなったりもする。壁や床が波打って見えることもある。「人込みが怖い」とか「周りから変な目で見られる」などの対人過敏症状がみられることがあるが、それらは統合失調症の妄想知覚とは異なる。
症状評価
症状評価方法は自記式質問紙法と構造化面接法に大きく分けられる。一般に自記式質問紙法は簡便であるが診断の精度は構造化面接に劣る。一方で、構造化面接では直接の交流から得られる情報が多いが、評価に時間を要すること、被面接者の負担が大きいなどの問題がある。
自記入式質問紙でもっともよく用いられているのは28項目からなる解離体験尺度(Dissociative Experiences Scale,DES)[6]である。これは日常的な解離から病的な解離まで解離の連続性を想定して作成されている。自記入式の質問紙に回答できない児童に対しては、他者評定で解離をとらえる20項目のChild Dissociation Checklist(CDC)がある[7]。これらは解離症のスクリーニングに用いられることが多い。
Dellによるmultidimensional Inventory for Dissociation(MID)は218項目からなる自記入式質問紙があるが、その実施には約1時間かかる[5]。
構造化面接法としては、解離の5つの症状(健忘、離人感、現実感喪失、同一性混乱、同一性変容)を評価する277項目のStructured Clinical Interview for DSM-Ⅳ Dissociative Disorders-Revised(SCID-D-R)[8]や 132項目のDissociative Disorder Interview Schedule(DDIS)[9]などがある。
病態メカニズム
解離症や外傷ストレスによる病態で特徴的なのは分離して不連続な自己状態である。こうした解離症の病態メカニズムについては、神経生理学研究、神経内分泌研究、脳画像研究など多くの報告がなされているが、いまだ十分にはわかっていない。
脳の新皮質、辺縁系、脳幹は互いに関連し合っており、通常新皮質が下位組織を制御している。皮質下領域は右脳とつながっているが、左脳とのつながりは右脳に比較して乏しい。右半球の最高位の皮質辺縁系の中枢が眼窩前頭皮質(orbitofrontal cortex)である。皮質と皮質下の構造の間に局在する眼窩前頭皮質は、視床下部、扁桃体、脳幹などとつながっており、そこから自律神経系を調整する。
外傷や脅威においては、こうしたつながりがうまく機能しなくなる。解離症や外傷関連の病態では、上位脳と下位脳の統合だけではなく、左脳と右脳の統合もまた妨げられている。左脳と右脳の統合はトップダウンやボトムアップの過程を促しているといわれており、その統合不全においては上位の水準で感覚入力、情動、思考などに問題が生じるという[10]。
Allan Score[11]によれば、外傷を含んだ早期のアタッチメント体験はとりわけ右脳と辺縁系に衝撃を与える。そのため右半球における皮質と皮質下辺縁領域との間の垂直的なつながりに障害がみられ、さらに情動調整のための迷走神経回路を上位の皮質辺縁系が調整することができなくなる。こうしたことが解離の症候学に反映されているという。
過覚醒はストレスに対する最初の反応であり、交感神経系の活動亢進と関係している。解離はこうした過覚醒の次に起こる反応である。過覚醒状態ではHPA軸を通して交感神経が活性化される。こうした過覚醒に対する反応として副交感神経優位の解離状態が生じ、低覚醒や離隔をきたす。この低覚醒状態は背側迷走神経複合体(dorsal vagal complex, DVC)[12]の活動によるとされる。
Hopperらの研究によれば[13]、離隔など低覚醒的な病的関与減弱状態(pathological under-engagement)は前頭前皮質(prefrontal cortex)の活動と関連しており、再体験やフラッシュバックなど過覚醒的な病的関与過剰状態(pathological over-engagement)は辺縁系と関連しており、これら2つの状態は異なった神経学的パターンを示すという。SteinとSimeon[14]は、前頭前皮質の過活動が扁桃体や島などの辺縁系を過剰に抑制することで、離人状態が引き起こされるとしている。現在において解離は、離人感など離隔、低覚醒、無動状態の視点から精神生物学的研究が行なわれている。
併存症
解離性障害は併存症を呈することが多い。心的外傷後ストレス障害、不安症、抑うつ障害、境界性パーソナリティ障害(BPD)、変換症、身体症状症、摂食障害、物質関連障害、強迫症などが併存診断されることが多いが、解離性障害の下位分類によってそれらは異なる。
鑑別診断
解離症との鑑別に注意すべき病態には、気分障害、統合失調症、境界性パーソナリティ障害(BPD)、てんかん、自閉スペクトラム症(ASD)、物質関連障害などがある。実際には解離症と気分障害、BPD、ASD、物質関連障害などは併存することが多い。人格同一性や人格状態の交代によって気分の急激な変動や自傷行為や大量服薬などの衝動的行動がみられるが、これと類似した病像はBPDでもみられ、しばしば解離症の併存診断となる。しかし解離症ではBPDにみられるような激しい攻撃性や操作性、規範や治療構造の逸脱・破壊、理想化や脱価値化などはみられない。解離症すなわちBPDという先入観を拭い去ることが必要である。
解離症にみられる精神病様体験の多くは統合失調症の初期症状に類似しており、鑑別は重要である。解離性同一症では高頻度に一級症状を呈するという報告がいくつかある。もちろん詳細に体験を聴けば、鑑別はある程度可能である。簡単な一級症状の確認によって安易に統合失調症と診断するのではなく、統合失調症の構造的特徴を把握しておく必要がある。統合失調症では、「気づいた時にはすでに他者に先回りされている」といった時間的/空間的な他者の先行性(「パターン逆転」に由来する)が特異的である[15]。初期状態が見出された場合には「パターン逆転」や他者の先行性が確認されることが望ましく、統合失調症のむやみな拡大化は避けるべきであろう。
治療
解離の治療原則は、安全な環境の場で、解離のためにうまく調整されていない患者のなかの情動を、耐えられる分量だけふたたび経験できるようにすることである。その結果、圧倒的な外傷部分が患者のなかで統合される。以下に示す「段階的治療(phase-oriented treatment)」が有名である。その基本的枠組みについてはすでにジャネが提出している。治療者はつねに患者の安定性やペースに注意を払うべきであり、患者が不安定になればときに前の段階に戻ることも必要である。
段階的治療
- 安心・安全と症状低減
- 外傷記憶の統合
- 人格の統合とリハビリテーション
安心・安全と症状低減の段階では、治療に対する恐怖、特に治療者に対するアタッチメントやその喪失に対する恐怖、心的体験に対する恐怖、解離的人格部分に対する恐怖などさまざまな恐怖の解消と安心・安全の確保を目的とする。この段階は統合する能力を育てる土台となる。活動を適度に行なうことで余裕を持ち、エネルギーの消耗を防ぐ。行動の低下がみられるときにはむしろ活動を増やす必要がある。安心・安全が過度であるのもよくない。問題行動については明確に制限を設ける。
外傷記憶の治療の段階では、加害者に関するアタッチメントの恐怖、解離性人格部分に対する恐怖など、外傷記憶に関連するさまざまな恐怖の解消を目的とし、外傷記憶を自伝的記憶と自己感に取り入れ統合する段階である。
人格統合およびリハビリテーションの段階では、正常な生活を営むことに対する恐怖、健康な範囲での危険なことへ立ち向かう恐怖、身体イメージの恐怖、性愛を含む親密性に対する恐怖などの解消を目的とする。そして新たな対処スキルによって世界と関わり合う段階である。日常生活の目標を立て、自信をつけて人格の発達を促していくことが重要である。
こうした段階的治療の基本は、自我状態療法(ego state therapy)[16]や感覚運動心理療法(sensorimotor psychotherapy)[17]、眼球運動による脱感作および再処理法(eye movement desensitization and reprocessing:EMDR)[18]などの治療にもおいても基本となっている。今後はマインドフルネスやACT(Acceptance & Commitment Therapy)などの効果なども期待される[19]。
薬物療法については状態像に合わせて適宜処方する。緩和精神安定剤や睡眠薬は漫然と使用しない。緊張、興奮、衝動性が目立つときはバルプロ酸などの気分安定剤や抗精神病薬を処方することもある。「頭が騒がしい」などの思考促迫、周囲に対する過敏性、幻覚などがみられるときには、リスペリドンやクエチアピンなど非定型抗精神病薬を少量処方するのもよい。抑うつ状態が目立つときには抗うつ剤を適宜処方するが、攻撃性の亢進や軽躁状態がみられることがあるので注意を要する。睡眠薬や抗不安薬はときに解離を悪化させるため、使用は最小限にとどめる。
疫学
現在のところ、我が国の一般人口中における解離症の患者数や有病率の確かなデータはない。解離性障害面接スケジュール(Dissociative Disorders Interview Schedule, DDIS)を用いたカナダの調査では、一般人口の11.2%が解離性障害と推察された[20]。またトルコでは解離性障害が一般人口の18.3%にみられた[21]。下位分類については、特定不能の解離性障害(4.3-8.3%)がもっとも多く、解離性健忘(2.6-7.3%)、解離性同一性障害(1.1-1.4%)、離人症性障害(0.9-1.4%)、解離性遁走(0.2%)である[21] [22]。一般人口におけるスクリーニング調査では性差はないとされることが多い。
北米の精神科施設における解離症は入院患者の13.0-20.7%[23] [24]であり、トルコの精神科病院における入院および外来患者の10.2-13.8%にみられ,救急患者では34.9%であった[25] [26] [27]。ヨーロッパでは入院患者の4.3-8.0%と若干少ない[28] [29]。概して精神科入院および外来患者の10%前後が解離症と推定されるが、最近の北米の報告では、外来患者の29.0%、入院患者の40.8%と高率である[30] [31]。一般人口の調査に比較して、精神科施設では解離性同一症の割合が高いこと、女性が男性よりも多いことが特徴である。日本では精神科臨床で解離症と診断される患者の8割から9割が女性である[32]。成人男性患者は解離症状や外傷歴を否定する傾向があり、このことが診断の偽陰性率を高めているといわれる。
関連項目
参考文献
- ↑ Resource not found in PubMed.
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- ↑ 5.0 5.1 Resource not found in PubMed.
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- ↑ 21.0 21.1 Resource not found in PubMed.
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