脊髄神経

2019年1月25日 (金) 22:32時点におけるWikiSysop (トーク | 投稿記録)による版

(差分) ← 古い版 | 承認済み版 (差分) | 最新版 (差分) | 新しい版 → (差分)

端川 勉
独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター
DOI:10.14931/bsd.1542 原稿受付日:2012年5月15日 原稿完成日:2019年1月25日
担当編集委員:渡辺 雅彦 (北海道大学大学院医学研究院 解剖学分野 解剖発生学教室)

羅:nervi spinales 英:spinal nerves 独:Spinalnerv 仏:nerf spinal

 脊椎動物の神経系は中枢神経系(脳と脊髄)と末梢神経系(たとえば顔面神経や坐骨神経など、いわゆる体中に張りめぐらされた神経の総称)に区分される。末梢神経系は脳や脊髄から伸びて全身の器官、組織を支配する神経からなる。脊髄神経は、脊髄から伸び出る末梢神経のことをいう。一方、脳から伸び出る末梢神経のことは脳神経と呼ぶ。脊髄神経は機能的には求心性(感覚性)の神経(体性感覚神経、臓性感覚神経)と遠心性(運動性)の神経(骨格筋を支配する体性運動神経と血管や内臓の筋を支配する臓性運動神経)を含んでいる。四肢と体幹に分布する神経のほとんどは脊髄神経であるが、一部、脳神経である迷走神経が胸腹部の内臓を支配している。

図1.脊髄外景
[1]による。日本語名称は船戸和弥による。
図2.脊髄と脊髄神経
[1]による。日本語名称は船戸和弥による。

名称

 
図3.脊髄神経の構成
青:求心性感覚神経(体性、臓性)
赤:体性遠心性運動神経
緑:交感神経節前線維
黒:交感神経節後線維
[2]より改変

 脊髄神経(図1)は脊柱を構成する上下の椎骨の間にできる椎間孔を通って脊柱管を出てくるので、関連する椎骨に対応して名づけられている。ヒトでは左右31対(第1頚神経~第8頚神経:C1-C8、第1胸神経~第12胸神経:T1-T12もしくはTh1-Th12、第1腰神経~第5腰神経:L1-L5、第1仙骨神経~第5仙骨神経:S1-S5、尾骨神経:Co)ある。C1は頭蓋の後頭骨と第1頸椎環椎)のあいだからでるものをさし、C8は第7頸椎と第1胸椎のあいだからでるものをさす。第1胸椎と第2胸椎の間から出る神経をT1、次のものをT2というように、漸次各椎骨名に倣って名づけられている。ここでの説明はヒトの解剖所見をもとに書かれているが、基本的には他の脊椎動物にもあてはまることである。

解剖

 脊髄神経は脊髄から伸びる各々数本の後根前根が合流して一本の束となって椎間孔を通り脊柱管の外に出る(図2、3)。

前根

 脊髄の前角から出る遠心性の体性運動神経線維と、側角中間質外側核中間質外側部)からでる遠心性の臓性運動神経自律神経節前線維)が通る(図3)。

後根

 脊髄後角後索に入る求心性の体性および臓性の感覚神経線維が通る(図3)。

 後根には前根との合流直前に後根神経節脊髄神経節)という膨らみがあって、その中に神経節細胞とよばれる一次感覚ニューロン細胞体が集まっている。この神経細胞は細胞体から神経突起を一本だけ出し、すぐにT字型に二分する偽単極性ニューロンである。一方の突起は脊髄に向かい(中枢枝central branch)、もう片方は皮膚や粘膜などの支配領域に向かう(末梢枝 peripheral branch)。末梢枝の先端部は感覚情報を受容する受容器receptorとなる。

 受容器には、軸索がむき出しの自由終末から、感知する感覚の種類に応じて特殊化した終末グリアが取り囲む複雑で固有名称を有するものまである。

 末梢枝が受容した感覚情報は、求心性に神経節細胞や中枢枝へと伝えられる。中枢枝の先端部は脊髄後角や延髄まで上行し、そこで二次感覚ニューロンシナプス連結する。

 
図4.腕神経叢[2]
 
図5.デルマトーム[2]

脊髄神経の形成

 脊髄神経は前根と後根が合流したあとで、前枝と後枝に分岐する。これら前枝、後枝は運動神経と感覚神経が混じり合い、それぞれ背部以外の体幹と四肢、背部の神経支配を担う。概して、前枝は後枝より太く支配領域も広い。

 隣り合う脊髄神経の前枝は吻合と分岐を繰り返しながら、複雑な神経叢頚神経叢:C1-C4、腕神経叢:C5-T1(図4)、腰神経叢:L1-L4、仙骨神経叢:L4-S3)を形成し、そこから固有の名称を持つ脊髄神経を送り出して特定の皮膚や筋の支配領域に向かう。それぞれの脊髄レベル由来する脊髄神経の皮膚での分布領域は分節的となり、デルマトームとよばれる(図5)。

交感神経系

 
図6.自律神経系[2]
赤:交感神経系、青:副交感神経系

 胸髄~腰髄レベルの前根を通る交感神経(遠心性)の節前線維は、白交通枝を通って交感神経幹に入る(図6)。交感神経幹は幹神経節が数珠状に連なって脊柱の両側を縦に走る。

 交感神経幹に入った節前線維は、幹神経節で節後ニューロンとシナプス結合して、ここから節後線維が血管に絡まったり、あるいは末梢神経の分岐に合流しながら、支配臓器に向かう。

 腹部臓器に向かう節前線維は、幹神経節でシナプス結合せずにここを素通りして、太い動脈周囲にある腹腔神経節や上下の腸間膜動脈神経節で節後ニューロンにリレーする。支配臓器の周辺では、よく発達した神経叢(心臓神経叢肺神経叢腹腔神経叢骨盤神経叢など)の形成をみる。

 このように、交感神経の神経節には、交感神経幹にある幹神経節と動脈周囲の神経節の2種類があり、前者を椎傍神経節、後者を椎前神経節に分類する。

副交感神経系

 副交感神経の節前線維は脊髄レベルでは第2仙髄から第4仙髄の中間質外側部の神経細胞に発する(図6)(脳神経に含まれる副交感神経については脳神経の項参照)。これらの節前線維は脊髄神経に混じって結腸下部、直腸膀胱などに進み、臓器周辺の骨盤神経節で節後ニューロンにリレーする。

関連項目

参考文献

  1. 1.0 1.1 Werner Spalteholz
    Handatlas der Anatomie des Menschen
    Verlag von S. Hirzel, Leiptig 1933
  2. 2.0 2.1 2.2 2.3 Henry Gray
    Anatomy of the Human Body
    Longman Ltd., Edinburgh, 1973

その他の文献

  1. A. Brodal
    Neurological Anatomy in Relation to Clinical Medicine: 3rd edition
    Oxford University Press, New York, USA, 1981.