岩本 義輝
筑波大学
DOI:10.14931/bsd.3531 原稿受付日:2013年5月7日 原稿完成日:2013年月日
担当編集委員:田中 啓治(独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)
英語名:visual fixation、fixation、steady fixation 独:Fixation 仏:fixation
同義語:注視
固視とは
われわれの眼の網膜には視野内のさまざまな物体の像が映し出されている。一方、網膜の視力は一様でなく網膜中心部のある一カ所(網膜中心窩)で際立って高い。また、鮮明な視覚を得るためには像が網膜上でほぼ静止する必要がある。従って、目標をよく見るためにはその像を中心窩に移動させ、そこに固定する必要がある。像の中心窩への移動を担うのがサッケード眼球運動(サッケード)であり、その後の像の固定を実現するのが固視の仕組み (fixation system)である。別の言葉で言えば、サッケードにより視線が対象に移動し、固視により視線が対象に固定されるということになる。
術語としては「固視」が正しいが、「注視」と言った方がわかりやすいことが多い。但し、注視麻痺というような場合の「注視」には目標への視線移動という意味が含まれている。
神経機構
固視に関与する脳部位としては、上丘吻側部のfixation zone がよく知られている。固視に一致したニューロン活動がみられ、下流のサッケード生成回路を抑制する。前頭葉の前頭眼野にもfixation zoneに相当する領域があり、サッケードの発現を抑制すると考えられている。固視が維持されるためには、眼球位置の指令信号を生み出す神経積分器の働きが重要である。神経積分器は狭義には脳幹の神経機構であるが、その正常な動作には小脳が必要である。
追跡眼球運動との関係
固視は、追跡眼球運動 smooth pursuit eye movementの特殊なケース(つまり速度ゼロの smooth pursuit)とみなせるだろうか。それとも追跡眼球運動とは別に、独立したfixation system が存在するのだろうか。この問題は長年議論されているが、未だ結論が出ていない。
マイクロサッケード
鮮明な視覚のためには対象の像が網膜上でほぼ静止することが必要であると述べたが、実際は固視中も0.1-0.3° 程度のサッケードが生じている。これは順応による視力低下を防ぐためと考えられている。針に糸を通す時のように一点をじっと見ること (steady fixation) が要求される条件ではマイクロサッケードが抑制される。
関連項目
参考文献
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