むずむず脚症候群

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井上雄一

東京医科大学睡眠学講座

英:Restless legs syndrome


同義語:下肢静止不能症候群、周期性四肢運動障害、エクボム症候群 / periodic limb movements disorder

{{box|test= むずむず脚症候群は、夜間の下肢の運動促迫を主症状とする疾患で、これに加えて睡眠中に生じる反復性の下肢の不随意運動(周期性四肢運動)を高頻度に随伴するため、強度の不眠、抑うつ・不安症状、心血管系合併症をきたす可能性がある。本症候群は症候性(二次性)と特発性に分類され、前者に関して、末期腎不全やパーキンソン病患者、妊娠中の女性で有病率が一般人口の数倍に達することが知られている。後者に関しては、いくつかの遺伝学的特性、中枢ドパミン系神経の機能異常、鉄欠乏などが、その病態生理に関与している可能性が推測されている。むずむず脚症候群の治療においては、ドパミン受容体作動薬の効果が最も優れているが、長期連用下で治療前より症状が悪化するaugmentationという現象をきたす可能性があるため、その使用には慎重を期する必要がある。これに代わって、近年では中枢神経の興奮を抑制するα2δリガンドのむずむず脚症候群治療における重要性がクローズアップされており、さらに鉄剤による治療の可能性も検討されている。

むずむず脚症候群とは

 主に夜間に下肢を中心に不快な感覚異常を生じる疾患で、

  1. 脚を動かしたくてたまらなくなる欲求
  2. この症状が安静臥位ないし座位で出現ないし悪化する
  3. この症状が脚を動かすことにより改善する
  4. 夕方から夜間に増悪する

という四徴により特徴づけられ、診断基準の数回の変遷を経てもこれらが基本症状であることに変わりは無い{Allen, 2014 #1}1)。

 むずむず脚症候群の概念は古くから知られており、その特徴的な症状は17世紀のイギリスの内科医Thomas Willisにより最初に報告されたが、この病名はスウェーデンの神経内科医Karl-Axel Ekbomにより1945年に命名された[1] 2)。本邦では下肢静止不能症候群とも呼ばれる。

診断基準

 診断基準を示す(表1)。むずむず脚症候群は夜間の就床時に下肢の症状が出現しやすいため、入眠障害、もしくは中途覚醒後の再入眠障害を呈しやすく、また、高頻度に足関節を中心にした反復性の運動(周期性四肢運動(Periodic limb movements during sleep: PLMs 15回/時間が病的基準とされている)を随伴することにより熟眠感欠如を随伴しやすい[2] 3)。むずむず脚症候群の運動促迫症状を欠き、周期性四肢運動による熟眠障害ならびに睡眠の頻回な分断による日中眠気を呈している症例は周期性四肢運動障害Periodic limb movements disorder; PLMD)と呼ばれるが、むずむず脚症候群と周期性四肢運動障害の基本病態は共通している。

 むずむず脚症候群は、有病率の比較的高いcommon diseaseであり、睡眠障害[3] 4)とQOLの低下をもたらす[4] 5)。患者の75%に不眠が生じ、その結果、日中の認知機能に悪影響が及ぶとともに、健康関連のQOLを評価するSF-36の8項目すべてが健常群に比べて悪化したとの報告がある[5] 6)。さらに、周期性四肢運動を合併するむずむず脚症候群では、周期性四肢運動に伴って収縮期・拡張期血圧が上昇することがわかっており、これが高血圧を含めた循環器系疾患のリスク要因になるか否かにつき議論がなされている7)8)[6][7]

疫学

 欧米での調査では、大多数でむずむず脚症候群の有病率はおよそ5-10%の水準にあり4)、6)[3][5] 、いずれの調査においても男性より女性の有病率が高い傾向が示されている。本邦を含めてアジア人では1.8-4%程度9) [8] と若干低い。また女性に多いという性差は人種間で共通しているが、白人では高齢者層で有病率が上昇するのに対し、アジア人では年齢による変化は乏しいようである[9][10] 10)-11)。アジア諸国で有病率が低い原因として、自覚症状評価に関する文化的な違い、および後述する遺伝的要因の人種差が考えられるが、これらの点は今後の研究で明らかにすべき課題である。

 なお、周期性四肢運動障害に関しては、下肢運動の存在を自覚している者が非常に少ないため、疫学調査にあたってはポリソムノグラフィないし体動/静止ロガーによる下肢運動の計測を必要とすることから、大規模な研究は少ないが、病的基準(周期性四肢運動指数15/時間以上)を満たす者は、白人では一般人口の20%以上に達すると考えられている11)-12)[11][10]

症状特性

 その症状発現が月2回以上の頻度になると慢性化しやすく11),13)[10][12] 、週2回以上になるとQOLに悪影響を及ぼすようになる5)[4] 。また、初期には夜間に限局していた症状が、罹病の長期化、重症化につれて日中にも生じるようになることが少なくない11),14)[10][13] 。また、その症状は季節変動を示すことがかなり多い11),15)[14][10]

 若年発症例に比べて高齢発症例の方が進展が早い。認知症を有する高齢者にもむずむず脚症候群はしばしば存在するが、このような症例では症状を正確に表現できないため、下肢の不快感に伴う頻回な歩行を、せん妄を始めとする精神症状と見誤られてしまうことがある。夜間特に前半に症状が集中する、睡眠中の周期性四肢運動、家族歴が存在する、後述するドパミン受容体作動薬が有効である、などの特徴の有無を吟味すべきである15)[14]

 小児期に発現することもある。この場合、症状が夜間だけでなく日中の座学での授業中などで生じることも少なくない。時には夜間よりも日中の方がむずむず脚症候群症状が強いこともあるし、日中症状のために学業に影響が及ぶケース、落ち着きのなさや注意集中の困難から注意欠陥多動障害と見誤られるケースも散見される。総じて、小児のむずむず脚症候群は成人例より家族歴を有するケースが多いので、問診では必ずこれを確認するべきであろう。周期性四肢運動は、これにより中途覚醒を誘発するため先に述べたように熟眠障害・日中眠気をきたすが、周期性四肢運動の睡眠感に対する影響は、むずむず脚症候群に合併した症例の方が非合併例より強いし、15回/時間という病的基準の妥当性に疑義を唱える向きもある16)[10]

鑑別診断

 Heningら17) [15] は、むずむず脚症候群の4徴のみを項目として設定した従来の質問紙による疫学調査において、むずむず脚症候群の確定診断の陽性的中率が低い理由として、むずむず脚症候群 mimicsが少なからず含まれている可能性を指摘している。

 これと関連して、Tisonらは欧米の女性の約1/3が慢性の静脈性疾患(下肢静脈瘤)に罹患しており、これによる下肢の不快感をむずむず脚症候群の症状と混同していることが、白人女性での有病率が高い原因になっていると述べている18) [16] 。その他のむずむず脚症候群 mimicsとして、アカシジア痛む脚と動く趾症候群Painful legs & moving toes syndrome)、線維筋痛症(ただしむずむず脚症候群の合併が少なくないことに注意19)[17] )、多発性神経障害、下肢血行障害感情障害(特にうつ病)などが挙げられている。

 アカシジアは、明確な日内変動がない点、主たる責任薬剤となる抗精神病薬の服用ないし増量のタイミングとの因果関係を確認することで除外可能である。

 痛む脚と動く趾症候群(主に第一趾に多い)は運動による疼痛軽減が見られないし、むずむず脚症候群のような症状の日内変動はみられない。

 下肢血行障害では、運動時に疼痛が増してしばしば間欠性跛行を呈するし、安静時に改善するというむずむず脚症候群とは反対の特徴を有する。

 多発性神経障害も日内変動や運動による症状軽減を認めないことからむずむず脚症候群と鑑別できる。しかし、多発性神経障害がしばしばむずむず脚症候群を合併する点には注意を要する。

 うつ病や身体表現性障害では、下肢の不快感やしびれ感などのむずむず脚症候群に類似した症状を呈することがあるし、治療に用いられる抗うつ薬がむずむず脚症候群を誘発する可能性があること20)[18] にも留意したい。他方、むずむず脚症候群患者は不眠と、これに伴う日中の疲労感・機能低下から抑うつ症状を呈することが少なくない。むずむず脚症候群様症状を有するうつ病患者では、これらの可能性を考慮しながら鑑別を進めるべきである。

 診断、治療状況を知る上で重要な研究として、欧米6カ国の一般人口を対象(n=15,391名)とした調査がある5) [4] 。本調査においては、症状を週に2回以上認めた者は2.7%(416名)であった。この確定診断群の81%(337名)はプライマリケア医を受診していたが、むずむず脚症候群の診断を受けていたのはその中のわずか6.2%(21名)で、多くはむずむず脚症候群類似の下肢不快感を訴える下肢血行障害(18.3%)、関節炎(14.3%)、脊椎疾患(12.7%)、静脈瘤(7.5%)、抑うつ不安障害(6.3%)と診断(誤診)されていた。この結果は、医療従事者のむずむず脚症候群に対する認知度がまだまだ低いことを示していると言えよう。

病態生理

特発性むずむず脚症候群

 特に45歳以前の発症例では、約30%程度で家族集積性がみられ、常染色体優性遺伝すると考えられている21) [19] 。候補遺伝子に関しては、いくつかの全ゲノム関連解析(genome-wide association study:GWAS)と、これらから得られた候補遺伝子についてのケースコントロール研究がおり、その結果、MEIS1(染色体2p)、BTBD9(染色体6p)、PTPRD(染色体9p)、MAP2K5(染色体15q)、LBOXCOR1(染色体15q)などがその候補となっている22),23) [20][21] 。これらに関するノックアウトマウスの研究から、特にMEIS1とBTBD9が、重要視されており、前者はむずむず脚症候群ならびに周期性四肢運動との関連性が24)[22] 、後者はむずむず脚症候群のみならず下に述べる鉄代謝にも影響することが示されている2)[1] 。しかしながら、これらの遺伝子多型に関する人種差は未だ十分解明されていない。

 低用量のドパミン受容体作動薬の有用性はむずむず脚症候群のドパミン仮説を支持するものだが26) [23] 、鉄はドパミン合成に関わるチロシン水酸化酵素補因子であるとともにドパミンD2受容体の構成要素でもある。一般に血清鉄は日中に濃度が上昇し夜間に低下するとされており、これが症状の日内変動と関連する可能性がある。また、患者の脳脊髄液中の鉄が低下しているという報告があるし、後述するように鉄剤の投与が血清鉄の欠乏の有無によらず有効であることもわかっている。これらは、むずむず脚症候群病態を鉄代謝障害で説明する上で魅力的な所見であり、現時点では、遺伝学的特性とともに、中枢ドパミン神経機能ならびに鉄代謝異常の側面を中心にむずむず脚症候群の病態生理研究が進められている。

 また、アデノシン受容体GABA神経やドパミン神経上に存在するが、ラットを用いた研究により、鉄欠乏状態により線状体シナプス前アデノシン(A2)受容体がアップレギュレーションされると報告されており27) [24] 、むずむず脚症候群とアデノシン受容体異常の関連の詳細も明らかにすべき課題である。

 Clemensらは、図1に示すように、背後側視床下部ドパミンA11細胞群からの抑制性投射線維連絡の機能不全を病態の中心的存在と捉えている28) [25] 。すなわち、ドパミンA11細胞群からの信号は、体性感覚入力に関わる前頭前野と、直接あるいは背側縫線核を介して脊髄の自律神経回路を構成する脊髄中間外側細胞(IML)、ならびに体性神経回路の脊髄後角細胞へ抑制性の投射線維連絡を形成しているが、このA11細胞群におけるドパミン活動低下がこれらの抑制性投射系の機能不全をもたらし、その結果、脚の筋肉からの筋求心路を介した不特定の体性感覚入力が増大し、むずむず脚症候群の異常感覚発現をもたらすと考えられている。

 また、この抑制性投射系の異常はノルアドレナリン系を介した交感神経の活性化をもたらし、この結果、高閾値の求心性神経の活動異常をもたらし、筋の異常活動、すなわち周期性四肢運動を誘発するとされる。また、セロトニン作動性の背側縫線核も病態に関与しているので、これがSSRIなどの抗うつ薬がむずむず脚症候群の症状を誘発・悪化させる原因29) [26] になっていると理解できる。

二次性むずむず脚症候群

 原因となりうる疾患・身体条件として、慢性腎臓病パーキンソン病関節リウマチ、鉄代謝異常、妊娠中期以降(但し、妊娠中にむずむず脚症候群症状を呈した妊婦は、呈さない妊婦に比べ、後年において特発性むずむず脚症候群を発症するリスクが4倍高いと報告されている30) [27] )、また、前述した抗精神病薬などの中枢性ドパミン受容体遮断薬や抗うつ薬、抗ヒスタミン剤の投与なども挙げられる。

 慢性腎臓病では、段階3以上でむずむず脚症候群有病率が上昇することがわかっており31) [28] 、特に末期腎不全患者におけるむずむず脚症候群有病率は世界的に高く、筆者らの日本人を対象とした調査でも23%程度32) [29] であった。慢性腎不全患者では血液透析の導入や時間の延長、あるいは腎移植により改善することから、尿毒症物質の蓄積が発症に関連すると推測されている。

 野性マウスとBTBD9をノックアウトしたマウスに透析患者の血清を腹腔内投与した場合、後者においてのみ周期性四肢運動様の下肢筋活動が発現したとの研究報告もある33) [30] 。むずむず脚症候群の動物モデル作成と、その運動評価の研究は近年大きく進歩を遂げており、研究手法の標準化も進められているので34) [31] 、特に遺伝学的側面での進歩が期待されよう。

 図2にTrenkwalderらが動物実験の結果をまとめた、むずむず脚症候群の低酸素状態に関連した細胞内での病態生理を示す6) [5] 。図3に、むずむず脚症候群症状の発現に関わる遺伝学的背景と環境(二次性)要因の関与の関係を示す35) [32] 。一般に若年発症の家族性発症の症例では遺伝的要素が主体となり、中高年期以降の症例では、身体的な背景の関与が高くなると考えられている。

治療

 まず、二次性むずむず脚症候群特に鉄欠乏が背景となって生じているケースでは、その治療が最優先となる。薬剤誘発性の場合には、原因となりうる薬物の中止や減量、あるいは変更を検討する。飲酒喫煙カフェインは誘発因子となるので36) [33] 、これらの摂取を避けるように指導する。また、過労・睡眠不足によって悪化することもあるので、これを是正すること、適度な運動と入眠前の四肢マッサージ、症状から注意をそらす工夫なども検討すべきである。

ドパミン作動薬

 薬物療法において、長くその中核になってきたのは、ドパミン作動薬ないしL-DOPAの投与であった37) [34] 。我が国で保険適応となっているプラミペキソールロチゴチンは、共にドパミンD3受容体サブタイプへの親和性が強い36) [33] 。ロチゴチンに比べてプラミペキソールの方が効果発現が早く高力価との印象があるが、貼付剤で作用が終日持続するロチゴチンは症状が昼間にも発現する症例には適していると考えられる。プラミペキソール治療により、70%以上の症例で症状の重症度が50%以下に軽減する37) [34]

 プラミペキソールの主な副作用として、嘔気傾眠頭痛、胃部不快感(6.9%)、さらに、高用量を服用した場合には、前兆なく突然眠りに落ちてしまう突発的睡眠衝動制御障害の報告があるので、これらに対する注意が必要である37),38) [34][35] 。また、プラミペキソールは未変化体が腎排出性のため、重度の腎障害患者への投与は原則禁忌である。他方ロチゴチンは、肝排泄性のため、腎機能への配慮は必要ないものの、貼付部位の発赤・かゆみに中止すべきである。

 ドパミン受容体作動薬によるむずむず脚症候群治療において、もっとも注意すべきなのは、長期服用下でむずむず脚症候群症状の発現が2時間以上早まり、症状の増悪、ならびに症状発現部位が拡大する症状促進現象 (augmentation)を生じる危険性がある点である39) [36] 。表2に症状促進現象の診断基準を記す40) [37]

 その発現メカニズムとして、ドパミン作動薬投与によるシナプス後膜のD2受容体のdown regulation、短時間作用のドパミン作動薬での血中濃度の変動性、ドパミン神経活動の概日変動などが考えられている41,42,43) [37][38][39] が、症状促進現象の動物モデルが作成されていないためか、その病態は確定されていない。症状促進現象は治療を阻害する重要な副作用であり、プラミペキソールではその発現頻度は8~56%と報告されており44) [40] 、日本人患者においては本剤の投与量が多いこと(0.375㎎/日以上)がその発現リスク上昇と関連していると考えられている43))[39] 。安易にドパミン作動薬の用量を増加させることは症状促進現象発現リスクを高めるので、慎重を期するべきである44) [40] 。症状の発現時刻を考慮して、一日量は増やさず、分割投与や服用時刻を前進させるといった対応を行うのも一法である45) [34] 。また、症状促進現象を生じる症例では血清フェリチン値が比較的低水準にあるという報告もあり、これも治療管理上の注意点になるだろう。

 半減期の長いロチゴチンは、プラミペキソールに比べて症状促進現象をきたすリスクは明らかに低いが46) [41] 、用量が多いと発現リスクは上昇していくので注意すべきである。

α2δリガンド

 興奮性神経終末において、電位依存性カルシウムチャネルα2δサブユニットに結合し、興奮性神経伝達物質の遊離を抑制し、GABA系の活動を上昇させる。当初、α2δリガンドの中で、ガバペンチンのむずむず脚症候群に対する有効性がMellickら47) [42] により報告されたが、半減期や生体利用効率の問題を考慮してガバペンチンのプロドラッグであるガバペンチンエナカルビル(Gabapentin enacarbil; GEn)やプレガバリン(日本では保険適応外)が治療に導入されている48)49)[43][44]

 この群の薬剤使用下では、眠気・めまいといった副作用が生じる可能性に注意すべきだが、ドパミン作動薬のような症状促進現象リスクは否定的である。また、この群の薬剤は周期性四肢運動の抑制性ではドパミン作動薬に劣るものの、睡眠の安定化作用において優れている。ガバペンチンエナカルビルないしプレガバリンも未変化体が腎排泄性であるため、腎障害を有する患者では減量もしくは投与を避ける必要がある。プラミペキソールとプレガバリンの効果の同等性を証明した研究でのプレガバリン用量は300㎎/日とかなり高い49) [43]

 これに比べて日本国内で適応を得ているガバペンチンエナカルビルの量は600㎎とかなり低い(もちろんプレガバリンと等力価ではないが)ので、ドパミン作動薬に比べると有効性は低い。われわれが国内のプラセボ対照二重盲検比較試験データを結合して、ガバペンチンエナカルビルの有効例の特性を検討した研究では、家族歴があること、血清フェリチン値が正常であること、先行するドパミン作動薬による治療歴が存在することが本剤の有効性と関連していた[45] 50)。しかしながら、効果が若干劣るというデメリットを抱えながらも、症状促進現象リスクが決定的に低いことから、全世界的には治療の第一ラインをα2δリガンドにするという流れが出来つつある[46] 51)。

 症状促進現象を避ける上では、血清フェリチン値を定期的に測定し、50-75μg/l以上を保つことが必要である。ドパミン作動薬使用下で症状促進現象が生じた場合には、分割投与や投与時刻の前進、α2δリガンドの投与を考慮する。International restless legs syndrome study group (IRLSSG)の治療アルゴリズム52) [36] )(表2)では、症状促進現象重症例では、ドパミン系薬剤の休薬(10日間程度)、ロチゴチン、α2δリガンド、オピオイド製剤(わが国では保険適応外)などを検討すべきとされている。

その他

 むずむず脚症候群治療研究においては、より有効性と安全性の高い薬剤が模索されている。その中では、鉄剤投与が、血清フェリチン値が正常であっても有効な可能性が示唆されているが53),54) [47][48] 、まだその効果がドパミン作動薬に比肩しうる水準なのか、日中機能や睡眠の質を改善しうるか、投与のタイミングをどうすべきか、など明らかにすべき課題は多い。また、ベンゾジアゼピン製剤であるクロナゼパムは、全世界的にむずむず脚症候群に対して長年オフラベル使用されてきたが、その効果と位置づけは不明瞭で、多剤ないしプラセボを対照とした盲検比較試験を含めた系統的な研究が必要であろう。

おわりに

 むずむず脚症候群は有病率の高いcommon diseaseであるが、その認知度はまだ低い。そのため、患者がむずむず脚症候群に精通していない医療機関を受診することが多く、適切な診断・治療を受けられないために高額の医療費が無駄に費やされているという医療経済学的問題も指摘されている5)。この10年でむずむず脚症候群の病態研究は確実に進展し、診断基準や治療ガイドラインが作成されているが、本症候群病態に関わる決定的なバイオマーカーの同定が今後の重要な課題となろう。治療に関しては、本稿で紹介した薬物だけでなく、ドパミン再取込阻害薬やアデノシン受容体作動薬も、今後その候補に上がる可能性があると思われる。

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