「コンドロイチン硫酸プロテオグリカン」の版間の差分

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[[Image:CSunits.002.jpg|thumb|400px|'''図1''']]
[[Image:CSunits.002.jpg|thumb|400px|<b>図1 図のタイトルを御願い致します。</b>必要に応じ、説明も御願い致します。]]  


 発生過程の[[神経細胞]]は[[軸索]]を伸長させ正確な回路網を形成する。神経回路形成においては[[ガイダンス因子]]とその[[レセプター]]の作用が正確な神経軸索路の形成をみちびくことがしられている。軸索が神経系の様々な地点で経路を選択する際にコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)は軸索ガイダンス因子としてやその調節因子として働くことが知られている<ref name=ref1><pubmed>15247486</pubmed></ref> <ref name=ref2><pubmed>15848796</pubmed></ref> <ref name=ref3><pubmed>15721753</pubmed></ref>。CSPGはコアタンパク質とコンドロイチン硫酸(CS)という糖鎖からなるハイブリッド分子である。CSPGの機能はCSに由来した性質と、コアタンパクに由来するものに分けて考えることができる。コアタンパクの機能は、分子間相互作用を介して[[細胞外マトリックス]]を構成する。CSPGとCSの一般的な事柄やその生化学については "Glycoforum"<ref>http://www.glycoforum.gr.jp/indexJ.html</ref>の詳しい解説が役立つ。
 コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)はコアタンパク質とコンドロイチン硫酸(CS)という糖鎖からなるハイブリッド分子であり、分子間相互作用を介して[[細胞外マトリックス]]を構成する。神経系においては[[軸索ガイダンス]]因子としてやその調節因子として働く。


 CSは[[wikipedia:ja:グルクロン酸|グルクロン酸]](GlcA)と[[wikipedia:ja:N-アセチルガラクトサミ|N-アセチルガラクトサミ]](GalNAc)の二糖ユニットが繰り返した直鎖の[[wikipedia:ja:糖|糖]]鎖高分子である。他の[[成長因子]]と相互作用し、機能を調節すると従来から考えられていたことに加えて、糖鎖そのものの機能が注目されている。軸索伸長に及ぼすCSの効果はおもに抑制性であることが多く、その効果はさまざまな場面で観察されている。たとえば、[[網膜]][[神経節]]細胞の培養下の軸索伸長や、生体に於ける軸索路形成では[[中脳]]背側正中線に於ける[[グリア細胞]][[蓋板]]や[[脊髄]]内の軸索路形成における抑制効果がよく知られている
==コンドロイチン硫酸プロテオグリカンとは==
<ref name=ref4><pubmed>2141574</pubmed></ref> 
<ref name=ref5><pubmed>1811954</pubmed></ref> 
<ref name=ref6><pubmed>1738848</pubmed></ref> 
<ref name=ref7><pubmed>8052616</pubmed></ref>
<ref name=ref8><pubmed>9671675</pubmed></ref> 
<ref name=ref9><pubmed>10821765</pubmed></ref> 
<ref name=ref10><pubmed>10790883</pubmed></ref> 
<ref name=ref11><pubmed>11717364</pubmed></ref> 
<ref name=ref12><pubmed>11319553</pubmed></ref> 
<ref name=ref13><pubmed>11826114</pubmed></ref> 
<ref name=ref14><pubmed>12382261</pubmed></ref> 
<ref name=ref15><pubmed>15019939</pubmed></ref>。さらに中枢神経系が損傷したときにCSが軸索再伸長(軸索路再生)を抑制することが知られており、[[グリア瘢痕]]からCSを取り除くことで治療効果が期待されるので、CSが医薬研究開発のひとつの焦点となっている<ref name=ref16><pubmed>11948352</pubmed></ref> 
<ref name=ref17><pubmed>12440375</pubmed></ref>
<ref name=ref18><pubmed>17223033</pubmed></ref> 
<ref name=ref19><pubmed>19005065</pubmed></ref>。


 他方、CSは抑制性の効果ばかりではなく、異なる神経細胞にたいして多様な効果を示すことが報告されている。たとえば、CSは培養下の[[海馬]]神経細胞の神経突起伸長を促進し<ref name=ref20><pubmed>9000441</pubmed></ref> 
 発生過程の[[神経細胞]][[軸索]]を伸長させ正確な回路網を形成する。神経回路形成においては軸索ガイダンス因子とその[[受容体]]の作用が正確な神経軸索路の形成をみちびくことがしられている。軸索が神経系の様々な地点で経路を選択する際にコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)は CSPGはコアタンパク質とコンドロイチン硫酸(CS)という糖鎖からなるハイブリッド分子であり、軸索ガイダンス因子としてやその調節因子として働くことが知られている<ref name="ref1"><pubmed>15247486</pubmed></ref><ref name="ref2"><pubmed>15848796</pubmed></ref><ref name="ref3"><pubmed>15721753</pubmed></ref>。コアタンパクの機能は、分子間相互作用を介して細胞外マトリックスを構成する。
<ref name=ref21><pubmed>9774473</pubmed></ref> 
<ref name=ref22><pubmed>10454148</pubmed></ref> 
<ref name=ref23><pubmed>7519189</pubmed></ref> 
<ref name=ref24><pubmed>7962187</pubmed></ref> 
<ref name=ref25><pubmed>9452446</pubmed></ref>、[[wikipedia:ja:ラット|ラット]]の網膜神経節細胞に対して標的由来[[栄養因子]]として機能することも報告されている<ref name=ref26><pubmed>7691433</pubmed></ref>。[[マウス]][[一次視覚野]]における神経回路の[[可塑性]]におよぼすCSの効果が示されている<ref name=ref27><pubmed>9045722</pubmed></ref>
<ref name=ref28><pubmed>12424383</pubmed></ref>
<ref name=ref29><pubmed>16709670</pubmed></ref>
<ref name=ref30><pubmed>20566484</pubmed></ref>。これらのことはCSPGまたはCSは一つの分子エンティティーではあるが、その中には異なった機能特異性を有する多様な分子が含まれていることを示唆している。


 このような多様な機能はCSが構造多様性を示すこと関係があるかもしれない。CSの二糖ユニット(GlcA-GalNAc)の上の様々な位置に[[wikipedia:ja:硫酸基|硫酸基]]の負荷が行われる結果、多様なユニットが形成されることが知られている。それらはアルファベットを冠してO-, A-, B-, C-, D-, E-unitなどと呼ばれ、これらのユニットが組み合わされてCS鎖の構造多様性が生み出される[O-unit (GlcA-GalNAc), A-unit (GlcA-GalNAc4S), C-unit (GlcA-GalNAc6S), D-unit (GlcA2S-GalNAc6S), E-unit (GlcA-GalNAc4S6S)]。イズロン酸(IdoA:GlcAのC5位のエピマー)とGalNAcの二糖が作るユニットをB-unitと呼ぶ[B-unit (IdoA-GalNAc)]。(図1)


 CSのユニット組成の違いが神経突起の伸長や、[[大脳皮質]]の層形成に異なった効果を有することが報告されているが、どの様なレベルの構造多様性がどの様に神経細胞の振る舞いに影響を与えているかという機構については不明の点が多い。近年の研究は細胞が特定のCSの構造を識別していることを示唆している(Clement <ref name=ref21 /> 
<ref name=ref25 />
<ref name=ref31><pubmed>10871047</pubmed></ref>
<ref name=ref32><pubmed>10978312</pubmed></ref>
<ref name=ref33><pubmed>15936953</pubmed></ref>
<ref name=ref34><pubmed>15673437</pubmed></ref>。CS結合タンパク質が8糖(4 units)や10糖(5 units)の長さにわたる特定のユニット配列を特異的に認識することが報告されており、従来に想定されていたようなCS鎖全体の長さや負の荷電量が非特異的に影響を与えているのではないと考えられるようになった
<ref name=ref35><pubmed>17260946</pubmed></ref>
<ref name=ref36><pubmed>17317718</pubmed></ref>
<ref name=ref37><pubmed>17284053</pubmed></ref>
<ref name=ref38><pubmed>17884822</pubmed></ref> 
<ref name=ref39><pubmed>20467806</pubmed></ref>。これらの報告は細胞表面のCSの構造多様性を認識する[[受容体]]の探索という分野を導くこととなった。近年報告された[[transmembrane protein tyrosine phosphatase]] (PTPσ)と[[contactin]]-1はCS特異的な受容体の候補分子として注目を集めている
<ref name=ref40><pubmed>19075012</pubmed></ref>
<ref name=ref41><pubmed>19833921</pubmed></ref>
<ref name=ref42><pubmed>21454754</pubmed></ref>。  


== 参考文献 ==
== 構造 ==


<references />
 CSPGの機能はCSに由来した性質と、コアタンパクに由来するものに分けて考えることができる。


 CSは[[wikipedia:ja:グルクロン酸|グルクロン酸]](GlcA)と[[wikipedia:ja:N-アセチルガラクトサミ|N-アセチルガラクトサミ]](GalNAc)の二糖ユニットが繰り返した直鎖の[[wikipedia:ja:糖|糖]]鎖高分子である。他の[[成長因子]]と相互作用し、機能を調節すると従来から考えられていたことに加えて、糖鎖そのものの機能が注目されている。
 CSの二糖ユニット(GlcA-GalNAc)の上の様々な位置に硫酸基の負荷が行われる結果、多様なユニットが形成されることが知られている。それらはアルファベットを冠してO-, A-, B-, C-, D-, E-unitなどと呼ばれ、これらのユニットが組み合わされてCS鎖の構造多様性が生み出される[O-unit (GlcA-GalNAc), A-unit (GlcA-GalNAc4S), C-unit (GlcA-GalNAc6S), D-unit (GlcA2S-GalNAc6S), E-unit (GlcA-GalNAc4S6S)]。イズロン酸(IdoA:GlcAのC5位のエピマー)とGalNAcの二糖が作るユニットをB-unitと呼ぶ[B-unit (IdoA-GalNAc)](図1)。
== 機能 ==
 軸索伸長に及ぼすCSの効果はおもに抑制性であることが多く、その効果はさまざまな場面で観察されている。たとえば、[[網膜]][[神経節]]細胞の培養下の軸索伸長や、生体に於ける軸索路形成では[[中脳]]背側正中線に於ける[[グリア細胞]][[蓋板]]や[[脊髄]]内の軸索路形成における抑制効果がよく知られている <ref name="ref4"><pubmed>2141574</pubmed></ref><ref name="ref5"><pubmed>1811954</pubmed></ref><ref name="ref6"><pubmed>1738848</pubmed></ref><ref name="ref7"><pubmed>8052616</pubmed></ref><ref name="ref8"><pubmed>9671675</pubmed></ref><ref name="ref9"><pubmed>10821765</pubmed></ref><ref name="ref10"><pubmed>10790883</pubmed></ref><ref name="ref11"><pubmed>11717364</pubmed></ref><ref name="ref12"><pubmed>11319553</pubmed></ref><ref name="ref13"><pubmed>11826114</pubmed></ref><ref name="ref14"><pubmed>12382261</pubmed></ref><ref name="ref15"><pubmed>15019939</pubmed></ref>。さらに中枢神経系が損傷したときにCSが軸索再伸長(軸索路再生)を抑制することが知られており、[[グリア瘢痕]]からCSを取り除くことで治療効果が期待されるので、CSが医薬研究開発のひとつの焦点となっている<ref name="ref16"><pubmed>11948352</pubmed></ref><ref name="ref17"><pubmed>12440375</pubmed></ref><ref name="ref18"><pubmed>17223033</pubmed></ref><ref name="ref19"><pubmed>19005065</pubmed></ref>。
 他方、CSは抑制性の効果ばかりではなく、異なる神経細胞にたいして多様な効果を示すことが報告されている。たとえば、CSは培養下の[[海馬]]神経細胞の神経突起伸長を促進し<ref name="ref20"><pubmed>9000441</pubmed></ref><ref name="ref21"><pubmed>9774473</pubmed></ref><ref name="ref22"><pubmed>10454148</pubmed></ref><ref name="ref23"><pubmed>7519189</pubmed></ref><ref name="ref24"><pubmed>7962187</pubmed></ref><ref name="ref25"><pubmed>9452446</pubmed></ref>、[[wikipedia:ja:ラット|ラット]]の網膜神経節細胞に対して標的由来[[栄養因子]]として機能することも報告されている<ref name="ref26"><pubmed>7691433</pubmed></ref>。[[マウス]]の[[一次視覚野]]における神経回路の[[可塑性]]におよぼすCSの効果が示されている<ref name="ref27"><pubmed>9045722</pubmed></ref><ref name="ref28"><pubmed>12424383</pubmed></ref><ref name="ref29"><pubmed>16709670</pubmed></ref><ref name="ref30"><pubmed>20566484</pubmed></ref>。これらのことはCSPGまたはCSは一つの分子エンティティーではあるが、その中には異なった機能特異性を有する多様な分子が含まれていることを示唆している。
 このような多様な機能はCSが構造多様性を示すこと関係があるかもしれない。CSのユニット組成の違いが神経突起の伸長や、[[大脳皮質]]の層形成に異なった効果を有することが報告されているが、どの様なレベルの構造多様性がどの様に神経細胞の振る舞いに影響を与えているかという機構については不明の点が多い。近年の研究は細胞が特定のCSの構造を識別していることを示唆している(Clement <ref name="ref21" /> <ref name="ref25" /> <ref name="ref31"><pubmed>10871047</pubmed></ref><ref name="ref32"><pubmed>10978312</pubmed></ref><ref name="ref33"><pubmed>15936953</pubmed></ref><ref name="ref34"><pubmed>15673437</pubmed></ref>。CS結合タンパク質が8糖(4 units)や10糖(5 units)の長さにわたる特定のユニット配列を特異的に認識することが報告されており、従来に想定されていたようなCS鎖全体の長さや負の荷電量が非特異的に影響を与えているのではないと考えられるようになった <ref name="ref35"><pubmed>17260946</pubmed></ref><ref name="ref36"><pubmed>17317718</pubmed></ref><ref name="ref37"><pubmed>17284053</pubmed></ref><ref name="ref38"><pubmed>17884822</pubmed></ref><ref name="ref39"><pubmed>20467806</pubmed></ref>。これらの報告は細胞表面のCSの構造多様性を認識する受容体の探索という分野を導くこととなった。近年報告された[[Transmembrane protein tyrosine phosphatase]] (PTPσ)と[[Contactin]]-1はCS特異的な受容体の候補分子として注目を集めている <ref name="ref40"><pubmed>19075012</pubmed></ref><ref name="ref41"><pubmed>19833921</pubmed></ref><ref name="ref42"><pubmed>21454754</pubmed></ref>。  
== 関連項目 ==
*細胞外マトリックス
*(他にございましたらご指摘下さい)
==外部リンク==
*CSPGとCSの一般的な事柄やその生化学については [http://www.glycoforum.gr.jp/indexJ.html Glycoforum]の詳しい解説が役立つ。
== 参考文献  ==
<references />


(執筆者:一條裕之 担当編集委員:大隅典子)
(執筆者:一條裕之 担当編集委員:大隅典子)