「核内受容体」の版間の差分

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英語名:nuclear receptor 英略語:NR 独:Kernrezeptoren 仏:récepteur nucléaire   
英語名:nuclear receptor 英略語:NR 独:Kernrezeptoren 仏:récepteur nucléaire   


 核内受容体は、[[ステロイド]]や[[甲状腺ホルモン]]、[[レチノイド]]、[[ビタミンD]]などの受容体であり、主に、リガンドが結合すると[[細胞質]]から[[核]]内へ移行して[[転写調節因子]]としてはたらく<ref name="ref1">'''Alberts B, Johnson A, Lewis J, Raff M.'''<br>Molecular Biology of the Cell, 5th Edition, <br>pp889-891, ''Garland Science'', New York, 2008.</ref>。リガンドの不明な核内受容体、リガンド結合とは別のしくみで活性が調節される核内受容体もある<ref name="ref2"><pubmed>16892386</pubmed></ref>。ヒトで48の遺伝子にコードされており、[[wikipedia:ja:|代謝]]、[[wikipedia:ja:|恒常性]]、[[wikipedia:ja:|分化]]、[[wikipedia:ja:|成長]]、[[wikipedia:ja:|発生]]、[[wikipedia:ja:|老化]]、[[wikipedia:ja:|生殖]]などの機能を担う。  
 核内受容体は、[[ステロイド]]や[[甲状腺ホルモン]]、[[レチノイド]]、[[ビタミンD]]などの受容体であり、主に、リガンドが結合すると[[細胞質]]から[[核]]内へ移行して[[転写調節因子]]としてはたらく<ref name="ref1">'''Alberts B, Johnson A, Lewis J, Raff M.'''<br>Molecular Biology of the Cell, 5th Edition, <br>pp889-891, ''Garland Science'', New York, 2008.</ref>。リガンドの不明な核内受容体、リガンド結合とは別のしくみで活性が調節される核内受容体もある<ref name="ref2"><pubmed>16892386</pubmed></ref>。ヒトで48の遺伝子にコードされており、[[wikipedia:ja:代謝|代謝]]、[[wikipedia:ja:恒常性|恒常性]]、[[wikipedia:ja:分化|分化]]、[[wikipedia:ja:成長|成長]]、[[wikipedia:ja:発生|発生]]、[[wikipedia:ja:老化|老化]]、[[wikipedia:ja:生殖|生殖]]などの機能を担う。  


== 研究の歴史、背景==
== 研究の歴史、背景==
*1985年 [[ヒト]][[GR]]のクローニング<ref name="ref2" />   
*1985年 [[ヒト]][[GR]]のクローニング<ref name="ref2" />   
*1986年 ヒト[[ERα]]のクローニング  
*1986年 ヒト[[ERα]]のクローニング  
*[[wikipedia:ja:|ウイルス]][[wikipedia:ja:|ガン遺伝子]]の[[v-erbA]]と[[wikipedia:ja:|ホルモン]][[受容体]]とに、相同性のあることがわかった。  
*[[wikipedia:ja:ウイルス|ウイルス]][[wikipedia:ja:ガン遺伝子|ガン遺伝子]]の[[v-erbA]]と[[wikipedia:ja:ホルモン|ホルモン]][[受容体]]とに、相同性のあることがわかった。  
*1986年 [[TR]]がv-erbAであることが明らかにされた。  
*1986年 [[TR]]がv-erbAであることが明らかにされた。  
*その後、[[MR]], [[PR]], [[AR]], 脂溶性[[wikipedia:ja:|ビタミンA]], Dの受容体のクローニングが相次いだ。配列相同性からオーファン核内受容体が多くクローニングされた。  
*その後、[[MR]], [[PR]], [[AR]], 脂溶性[[wikipedia:ja:ビタミンA|ビタミンA]], Dの受容体のクローニングが相次いだ。配列相同性からオーファン核内受容体が多くクローニングされた。  
*PXR(1998年)やPNR (1999年)が、遺伝子情報(ESTデータベース)をもとに発見された最後のNRメンバーとなった。  
*PXR(1998年)やPNR (1999年)が、遺伝子情報(ESTデータベース)をもとに発見された最後のNRメンバーとなった。  
*2001年 [[wikipedia:ja:|ヒトゲノム]]が明らかにされ、核内受容体はヒトでは48遺伝子、[[マウス]]では49遺伝子にコードされることがわかった。
*2001年 [[wikipedia:ja:ヒトゲノム|ヒトゲノム]]が明らかにされ、核内受容体はヒトでは48遺伝子、[[マウス]]では49遺伝子にコードされることがわかった。


== 構造  ==
== 構造  ==
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[[Image:核内受容体1.png|thumb|300px|<b>図1. 核内受容体の基本構造</b><ref name="ref2" /><ref name="ref3"><pubmed>18023286</pubmed></ref>]]
[[Image:核内受容体1.png|thumb|300px|<b>図1. 核内受容体の基本構造</b><ref name="ref2" /><ref name="ref3"><pubmed>18023286</pubmed></ref>]]


[[Image:核内受容体2.png|thumb|300px|<b>図2. 核内受容体の2量体化とDNA結合配列の3つのパターン</b><ref name="ref3" /><br>ホモダイマー化したGRなどホルモン受容体は、[[wikipedia:ja:|パリンドローム]](回文配列)状に並んだ2つのホルモン応答エレメント(HRE)に結合する。ヘテロダイマー化したRXRと他の核内受容体(XR)は、同方向に並んだ(ダイレクトリピート)2つのHREに結合する。ERRなどオーファン受容体は、モノマーのまま1つのHRE(ハーフサイト)に結合する。]]
[[Image:核内受容体2.png|thumb|300px|<b>図2. 核内受容体の2量体化とDNA結合配列の3つのパターン</b><ref name="ref3" /><br>ホモダイマー化したGRなどホルモン受容体は、[[wikipedia:ja:パリンドローム|パリンドローム]](回文配列)状に並んだ2つのホルモン応答エレメント(HRE)に結合する。ヘテロダイマー化したRXRと他の核内受容体(XR)は、同方向に並んだ(ダイレクトリピート)2つのHREに結合する。ERRなどオーファン受容体は、モノマーのまま1つのHRE(ハーフサイト)に結合する。]]
 N末端にAF-1領域 (かつてA/Bドメインと呼ばれた)があり、リガンド非依存的に転写活性化作用をもつ。AF-1は、核内受容体間で多様性に富む領域である。中央部にDNA結合領域 (DBD) (C) があり、2つのジンクフィンガーモチーフ(70アミノ酸)から成る。DBDは、受容体間のホモロジーが高い。C末端側にリガンド結合領域 (LBD) (E)(250アミノ酸)をもつ。LBDのC末端 (F領域) にあるαヘリックスをAF-2ヘリックスといい、受容体の活性調節に関係がある。構造の特殊なNRとして、A/B領域を欠くもの(HNF4g)、A/B, C領域を欠くもの(SHP)がある。D領域はヒンジ領域で、DBDとLBDの連結部位である。  
 N末端にAF-1領域 (かつてA/Bドメインと呼ばれた)があり、リガンド非依存的に転写活性化作用をもつ。AF-1は、核内受容体間で多様性に富む領域である。中央部にDNA結合領域 (DBD) (C) があり、2つのジンクフィンガーモチーフ(70アミノ酸)から成る。DBDは、受容体間のホモロジーが高い。C末端側にリガンド結合領域 (LBD) (E)(250アミノ酸)をもつ。LBDのC末端 (F領域) にあるαヘリックスをAF-2ヘリックスといい、受容体の活性調節に関係がある。構造の特殊なNRとして、A/B領域を欠くもの(HNF4g)、A/B, C領域を欠くもの(SHP)がある。D領域はヒンジ領域で、DBDとLBDの連結部位である。  


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== 核内受容体スーパーファミリー  ==
== 核内受容体スーパーファミリー  ==
===分子系統樹に基づく分類===
===分子系統樹に基づく分類===
 分子系統樹から7つのサブファミリー(NR0〜6)に分類され、個々の慣用名に対応する正式名がある<ref name="ref4"><pubmed>10219237</pubmed></ref>(表1)。サブファミリー0 (NR0)は、DNA結合領域(DBD, C領域)またはリガンド結合領域(LBD, E領域)の一方しか持たないもので、例えばSHPはLBDしか持たずNR0B2と呼ばれる。各サブファミリーはさらにA, B,,,のグループに分けられ、1つのグループはパラログによって構成される。例えば、甲状腺ホルモン受容体 (TR) はサブファミリー1グループA (NR1A)で、TRαはNR1A1, TRβはNR1A2となる。また、例えばNR5A1a (=SF1)とNR5A1b(ELP)とは、同じ遺伝子から[[wikipedia:ja:|スプライシング]]の違いによってできた異なったアイソフォームである。  
 分子系統樹から7つのサブファミリー(NR0〜6)に分類され、個々の慣用名に対応する正式名がある<ref name="ref4"><pubmed>10219237</pubmed></ref>(表1)。サブファミリー0 (NR0)は、DNA結合領域(DBD, C領域)またはリガンド結合領域(LBD, E領域)の一方しか持たないもので、例えばSHPはLBDしか持たずNR0B2と呼ばれる。各サブファミリーはさらにA, B,,,のグループに分けられ、1つのグループはパラログによって構成される。例えば、甲状腺ホルモン受容体 (TR) はサブファミリー1グループA (NR1A)で、TRαはNR1A1, TRβはNR1A2となる。また、例えばNR5A1a (=SF1)とNR5A1b(ELP)とは、同じ遺伝子から[[wikipedia:ja:スプライシング|スプライシング]]の違いによってできた異なったアイソフォームである。  


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| SF1  
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| rowspan="2" | [[wikipedia:ja:|性分化]]とステロイド合成
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| DAX1
| DAX1
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| TRa  
| TRa  
| rowspan="3" | [[wikipedia:ja:|心臓]][[wikipedia:ja:|血管]]機能の調節
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| MR
| MR
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| style="text-align:center" rowspan="9" | IV  
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| rowspan="9" | [[wikipedia:ja:|胆汁酸]]と生体異物の代謝  
| rowspan="9" | [[wikipedia:ja:胆汁酸|胆汁酸]]と生体異物の代謝  
| HNF4a  
| HNF4a  
| [[wikipedia:ja:|胃]]・[[wikipedia:ja:|腸]]・[[wikipedia:ja:|肝]]の発生
| [[wikipedia:ja:|胃]]・[[wikipedia:ja:|腸]]・[[wikipedia:ja:|肝]]の発生
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| HNF4g  
| HNF4g  
| [[wikipedia:ja:|糖代謝]]と[[wikipedia:ja:|インスリン]]作用
| [[wikipedia:ja:糖代謝|糖代謝]]と[[wikipedia:ja:インスリン|インスリン]]作用
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| FXRa  
| FXRa  
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| RORg  
| RORg  
| リンパ管の発生、[[wikipedia:ja:|胸腺]][[wikipedia:ja:|リンパ球]]形成
| リンパ管の発生、[[wikipedia:ja:胸腺|胸腺]][[wikipedia:ja:リンパ球|リンパ球]]形成
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| style="text-align:center" rowspan="7" | V  
| style="text-align:center" rowspan="7" | V  
| rowspan="11" | 脂質代謝とエネルギーの恒常性 <br> <br>  
| rowspan="11" | 脂質代謝とエネルギーの恒常性 <br> <br>  
| TRb  
| TRb  
| 熱発生、脂肪酸・[[wikipedia:ja:|コレステロール]]代謝
| 熱発生、脂肪酸・[[wikipedia:ja:コレステロール|コレステロール]]代謝
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| PPARa, PPARd  
| PPARa, PPARd  
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**ステロイドホルモン [ER, GR, MR, PR, AR](略称は表1を参照)  
**ステロイドホルモン [ER, GR, MR, PR, AR](略称は表1を参照)  
**ビタミンD(ステロイドから生成)[VDR]  
**ビタミンD(ステロイドから生成)[VDR]  
**[[昆虫]][[脱皮ホルモン]]([[wikipedia:ja:|エクジソン]]ecdysone)(ステロイド骨格をもつ)  
**[[昆虫]][[脱皮ホルモン]]([[wikipedia:ja:エクジソン|エクジソン]]ecdysone)(ステロイド骨格をもつ)  
**甲状腺ホルモン([[wikipedia:ja:|チロシン]]tyrosineから生成)[TR]  
**甲状腺ホルモン([[wikipedia:ja:チロシン|チロシン]]tyrosineから生成)[TR]  
**レチノイド(ビタミンA):レチノイン酸など [RAR]
**レチノイド(ビタミンA):レチノイン酸など [RAR]


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[[Image:核内受容体3.png|thumb|300px|<b>図3. 核内受容体活性化の2つのメカニズム</b><ref name="ref3" /><br>上図:リガンド結合による活性化。リガンドのないとき(左図)、核内受容体はHDAC(ヒストンデアセチラーゼ)やSMRT/NCORなどとリプレッサー複合体を形成しており、転写抑制状態にある。リガンドが結合すると(右図)、コリプレッサーが解離し、HAT(ヒストンアセチルトランスフェラーゼ)やクロマチン再編成複合体から成るコアクチベーターを取り込んで、転写活性化状態になる。<br>下図:リガンド結合によらない活性化。ERRなどリガンドなしに活性化される核内受容体もある。コアクチベーター(PGC-1など)が結合することで、さらに大きなコアクチベーター複合体を呼び込んで転写活性化状態になる。]]
[[Image:核内受容体3.png|thumb|300px|<b>図3. 核内受容体活性化の2つのメカニズム</b><ref name="ref3" /><br>上図:リガンド結合による活性化。リガンドのないとき(左図)、核内受容体はHDAC(ヒストンデアセチラーゼ)やSMRT/NCORなどとリプレッサー複合体を形成しており、転写抑制状態にある。リガンドが結合すると(右図)、コリプレッサーが解離し、HAT(ヒストンアセチルトランスフェラーゼ)やクロマチン再編成複合体から成るコアクチベーターを取り込んで、転写活性化状態になる。<br>下図:リガンド結合によらない活性化。ERRなどリガンドなしに活性化される核内受容体もある。コアクチベーター(PGC-1など)が結合することで、さらに大きなコアクチベーター複合体を呼び込んで転写活性化状態になる。]]


 核内受容体のリガンドは、輸送タンパク質に結合して血中や体液中を運搬され、標的細胞の中へは単独で入り、細胞質に存在する核内受容体に結合する。例えば、グルココルチコイド受容体 (GR) は、細胞質でシャペロンタンパク質であるhsp90やp23と結合しており、リガンドが結合するとシャペロンから離れて核内に移行し、標的遺伝子の「グルココルチコイド応答エレメント(glucocorticoid response element: GRE)」と呼ばれるDNA配列に結合する<ref name="ref1" />。リガンドおよびDNAと結合したNRは、コアクチベータータンパク質などと結合して、クロマチンの構造を変えて転写を調節する大きな複合体としてはたらく。また、細胞核内でリガンドと結合していないNRはコリプレッサータンパク質と結合しており、標的遺伝子の転写を抑制している(図3)。NRは、細胞質タンパク質であるSMAD3やJNKとも相互作用する。AF-1領域にはリン酸化部位があり、リン酸化による活性調節を受ける。
 核内受容体のリガンドは、輸送タンパク質に結合して血中や体液中を運搬され、標的細胞の中へは単独で入り、細胞質に存在する核内受容体に結合する。例えば、グルココルチコイド受容体 (GR) は、細胞質で[[シャペロンタンパク質]]である[[hsp90]]や[[p23]]と結合しており、リガンドが結合するとシャペロンから離れて核内に移行し、標的遺伝子の「[[グルココルチコイド応答エレメント]](glucocorticoid response element: GRE)」と呼ばれるDNA配列に結合する<ref name="ref1" />。リガンドおよびDNAと結合したNRは、コアクチベータータンパク質などと結合して、[[wikipedia:ja:クロマチン|クロマチン]]の構造を変えて転写を調節する大きな複合体としてはたらく。また、細胞核内でリガンドと結合していないNRはコリプレッサータンパク質と結合しており、標的遺伝子の転写を抑制している(図3)。NRは、細胞質タンパク質である[[SMAD3]]や[[JNK]]とも相互作用する。AF-1領域には[[リン酸化]]部位があり、リン酸化による活性調節を受ける。


 認識するDNA配列(ホルモン応答エレメント:hormone response element)は6塩基RGGTCA(DNAハーフサイト)が、同じ方向あるいは反対方向に反復したDNA配列である。リガンドによって、GREなどと呼ぶ。モノマーの場合は1つのハーフサイトのみに結合する(図2)。
 認識するDNA配列(ホルモン応答エレメント:hormone response element)は6塩基RGGTCA(DNAハーフサイト)が、同じ方向あるいは反対方向に反復したDNA配列である。リガンドによって、GREなどと呼ぶ。モノマーの場合は1つのハーフサイトのみに結合する(図2)。
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== 病気、創薬との関連  ==
== 病気、創薬との関連  ==


 処方薬上位200のうち34がNRを標的としたものであるというデータがある(2003年)<ref name="ref2"><pubmed>16892386</pubmed></ref> 。Tamoxifenが最初に合成されたNRリガンドで、更年期障害の改善薬として使用されたが、子宮体ガンのリスクを高めることがわかり、現在ではER陽性の乳ガン治療薬として用いられている。その後、NRサブタイプ特異的アゴニスト薬剤の開発が進み、ER beta 特異的なアゴニストは骨粗鬆症に対する効果のみをもち、子宮内膜への増殖作用はないなど、副作用が極力抑えられるようになった。
 処方薬上位200のうち34がNRを標的としたものであるというデータがある(2003年)<ref name="ref2"><pubmed>16892386</pubmed></ref> 。[[タモキシフェン]](tamoxifen)が最初に合成されたNRリガンドで、[[wikipedia:ja:更年期障害|更年期障害]]の改善薬として使用されたが、[[wikipedia:ja:子宮体ガン|子宮体ガン]]のリスクを高めることがわかり、現在ではER陽性の[[wikipedia:ja:乳ガン|乳ガン]]治療薬として用いられている。その後、NRサブタイプ特異的アゴニスト薬剤の開発が進み、ER beta 特異的なアゴニストは[[wikipedia:ja:骨粗鬆症|骨粗鬆症]]に対する効果のみをもち、[[wikipedia:ja:子宮内膜|子宮内膜]]への増殖作用はないなど、副作用が極力抑えられるようになった。


 HNF4a遺伝子変異により、糖尿病の一つ である成人発症型若年性糖尿病(Maturity Onset Diabetes of the Young [MODY1])がおこる<ref name="ref3"><pubmed>18023286</pubmed></ref>。また、HNF4a遺伝子のプロモータ配列の多型性により成人発症2型糖尿病がおこる。SHP遺伝子の変異で肥満症となる。
 HNF4a遺伝子変異により、[[wikipedia:ja:糖尿病|糖尿病]]の一つ である[[wikipedia:ja:成人発症型若年性糖尿病|成人発症型若年性糖尿病]](Maturity Onset Diabetes of the Young [MODY1])がおこる<ref name="ref3"><pubmed>18023286</pubmed></ref>。また、HNF4a遺伝子の[[プロモータ]]配列の[[多型性]]により[[wikipedia:ja:成人発症2型糖尿病|成人発症2型糖尿病]]がおこる。SHP遺伝子の変異で[[肥満症]]となる。


== 脳科学との関連  ==
== 脳科学との関連  ==
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 表1のように中枢神経系に存在して機能を担うNRがある。
 表1のように中枢神経系に存在して機能を担うNRがある。


 最近、NRは概日リズムを調節することがわかった<ref name="ref6"><pubmed>22411605</pubmed></ref>。概日リズムの形成には、1)転写アクチベーターであるBMAL1とCLOCKのヘテロダイマーが、Period (PER)とCryptochrome (CRY)遺伝子の転写を活性化すること、2)PERとCRYのヘテロダイマーは、逆にBMAL1/CLOCKのリプレッサーとして働くことが重要である。BMAL1/CLOCKはオーファンNRであるREV-ERBsの発現を促し、逆にREV-ERBsはBMAL1の発現を抑制する。  
 最近、NRは[[概日リズム]]を調節することがわかった<ref name="ref6"><pubmed>22411605</pubmed></ref>。概日リズムの形成には、1)転写アクチベーターである[[BMAL1]]と[[CLOCK]]のヘテロダイマーが、[[Period]] (PER)と[[Cryptochrome]] (CRY)遺伝子の転写を活性化すること、2)PERとCRYのヘテロダイマーは、逆にBMAL1/CLOCKのリプレッサーとして働くことが重要である。BMAL1/CLOCKはオーファンNRであるREV-ERBsの発現を促し、逆にREV-ERBsはBMAL1の発現を抑制する。  


 糖質グルココルチコイド(Gc)の血中濃度は、視床下部視交叉上核や副腎のはたらきにより日内変動する。Gcと結合したGRは、GREを介してPER1, PER2遺伝子発現を調節するので、Gcの日内変動もまた概日リズムの強化に関わっている。  
 グルココルチコイド(Gc)の血中濃度は、[[視床下部]][[視交叉上核]]や[[副腎]]のはたらきにより日内変動する。Gcと結合したGRは、GREを介してPER1, PER2遺伝子発現を調節するので、Gcの日内変動もまた概日リズムの強化に関わっている。  


 甲状腺ホルモンの血中濃度にも日内変動がある。甲状腺を除去するとPER2の周期的な発現が消失する。PPARgのリガンドであるoleoylethanolamide (OEA)も食餌摂取によって昼間に高値を示し、PPARgはBMAL1, REV-ERBaの転写を直接制御している。他にレチノイド受容体もCLOCKと関連がある。  
 甲状腺ホルモンの血中濃度にも日内変動がある。[[甲状腺]]を除去するとPER2の周期的な発現が消失する。PPARgのリガンドである[[oleoylethanolamide]] (OEA)も食餌摂取によって昼間に高値を示し、PPARgはBMAL1, REV-ERBaの転写を直接制御している。他にレチノイド受容体もCLOCKと関連がある。  


 このように、概日リズムと代謝は核内受容体シグナル経路によって連携的にはたらくようになっている。概日時計が、核内受容体の周期的な発現を直接制御して代謝を調節している。核内受容体は、逆に代謝性のシグナルに応答して概日リズムを制御する。
 このように、概日リズムと代謝は核内受容体シグナル経路によって連携的にはたらくようになっている。概日時計が、核内受容体の周期的な発現を直接制御して代謝を調節している。核内受容体は、逆に代謝性のシグナルに応答して概日リズムを制御する。
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<references />  
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<br> (執筆者:大内淑代 担当編集委員:大隅典子)
 
(執筆者:大内淑代 担当編集委員:大隅典子)