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細 (→非ヒストンタンパク質) |
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==== 脳血管障害 ==== | ==== 脳血管障害 ==== | ||
脳血管障害は急性の神経変性疾患であり日本では死因の第三位を占めている。脳血管障害の一つの大きな原因として脳虚血が挙げられる。脳虚血のモデル動物は[[中大脳動脈閉塞術(midle cerebral artery occlusion:MCAO)]]により作成することができる。ラット及びマウスのMCAOモデルでは、虚血脳全体のヒストンのリジン残基でアセチル化が抑制されるが、この変化はHDAC阻害剤の投与により梗塞体積の減少と共に回復される<ref name="ref25"><pubmed>15189338</pubmed></ref><ref name="ref26"><pubmed>17371805</pubmed></ref><ref name="ref27"><pubmed>16946032</pubmed></ref>。ラットのMCAOモデルでは傷害後のVPA、SB、TSAの投与により、状態の改善がみられることが示されている<ref name="ref25" /><ref name="ref26" />。SBを投与したMCAOラットでは虚血脳で、[[神経新生]]の増加が確認されるが、これはBDNF-TrkBの経路を遮断すると消失してしまう<ref><pubmed>19549282</pubmed></ref>。さらに、マウスへのフェニルブチレートの投与は[[EIF2α(eukaryotic translation initiation factor2α)]]のリン酸化減少とeIF2αに制御される[[CHOP(C/EBP homologous protein)]]の発現によって[[ERストレス(endoplasmic reticulum stress)]]から虚血脳を保護できることが報告されている<ref><pubmed>15226415</pubmed></ref>。HDAC阻害剤の投与は虚血によって引き起こされるp53の発現上昇を抑制し、[[HSP70(heat-shock protein 70)]]の発現を誘導することが知られている<ref name="ref25" /><ref name="ref26" /><ref name="ref27" />(図3)。HSP70はマウスMCAOモデルでHSP70- I-κBα- NF-κB(nuclear factor-kappa B)の安定な複合体を形成することにより、 NF-κBを不活性化することで抗炎症作用を示すことが明らかにされている<ref><pubmed>17473852</pubmed></ref>。<br> | |||
細胞骨格タンパク質の発現は虚血条件においてHDAC阻害による神経保護効果と関連している。例としてHDACの阻害は[[アクチンフィラメント]]の構成に重要な[[ゲルソリンタンパク質]]を増加させ、虚血傷害から神経を保護する<ref><pubmed>18234195</pubmed></ref>。加えてVPAはHDAC阻害と転写活性化、及び[[Fas-L(fas ligand protein)]]、[[IL-6(interleukin-6)]]、[[MMP-9(matrix metalloproteinase-9)]]を含む[[炎症誘発性因子]]の発現を抑制して抗炎症効果を示すことにより、脳血管障害の脳内出血モデルにおいて神経保護を示す<ref><pubmed>17398106</pubmed></ref>。以上の報告より、急性の神経疾患においてもHDACの阻害が効果的であることが示されている。 | 細胞骨格タンパク質の発現は虚血条件においてHDAC阻害による神経保護効果と関連している。例としてHDACの阻害は[[アクチンフィラメント]]の構成に重要な[[ゲルソリンタンパク質]]を増加させ、虚血傷害から神経を保護する<ref><pubmed>18234195</pubmed></ref>。加えてVPAはHDAC阻害と転写活性化、及び[[Fas-L(fas ligand protein)]]、[[IL-6(interleukin-6)]]、[[MMP-9(matrix metalloproteinase-9)]]を含む[[炎症誘発性因子]]の発現を抑制して抗炎症効果を示すことにより、脳血管障害の脳内出血モデルにおいて神経保護を示す<ref><pubmed>17398106</pubmed></ref>。以上の報告より、急性の神経疾患においてもHDACの阻害が効果的であることが示されている。 | ||
本文では以上3つの例を紹介したが、これらの例からも、脳機能においてヒストンのアセチル化は重要な役割を担い、HDAC阻害剤は脳疾患治療薬として有用であると考えられる。 | 本文では以上3つの例を紹介したが、これらの例からも、脳機能においてヒストンのアセチル化は重要な役割を担い、HDAC阻害剤は脳疾患治療薬として有用であると考えられる。 | ||
== 非ヒストンタンパク質のアセチル化と神経機能・神経疾患 == | == 非ヒストンタンパク質のアセチル化と神経機能・神経疾患 == |