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== 機能  ==
== 機能  ==
神経系におけるWntシグナルの機能を一部紹介する。
神経軸索ガイダンス
脊椎動物の脊髄の背側にある交連神経細胞は、最初は神経管の外縁近くを腹側に向けて軸索を伸ばし、運動神経円柱の近くで腹側正中部の底板(floor plate)に向けて方向を転換して軸索を伸長する。底板の腹側を交叉した後、吻側に高く尾側に低い濃度勾配を形成するWnt4とその受容体Fz3により、交連神経は吻側に進行方向を転換して軸索を伸長する。<ref><pubmed>14671310</pubmed></ref>
ショウジョウバエの正中線は正中線グリア細胞(midline glia)とよばれる非神経細胞群から構成され、グリア細胞に発現する分泌因子Netrinにより、Netrinの受容体であるFrazzledを発現する交連神経細胞に対して誘引的に作用する。交連神経細胞は、正中線を交叉するときに体節の前側を投射する交連神経(anterior commissure)あるいは体節の後ろ側を投射する交連神経(posterior commissure)という前後2つの交連神経束のいずれかを選択して交叉する。この選択はWnt5とその受容体であるDerailedによって制御されている。<ref><pubmed>12660735</pubmed></ref>
シナプス形成
マウスWnt7aは小脳の顆粒神経細胞に発現している。Wnt7a欠失マウスにおいて、顆粒神経細胞にシナプス形成する苔状線維中のシナプシンIの発現が著しく低下しており、またWnt7aが培養した苔状線維に対してシナプシンIのクラスタリングを促進した。これらの結果から、Wnt7aが苔状線維の顆粒神経細胞へのシナプス形成において、顆粒神経から苔状線維に対して逆行性の促進因子として働くと考えられた。<ref><pubmed>10721990</pubmed></ref>
幹細胞の維持と再生
魚類・両生類・鳥類において、網膜幹細胞は網膜の最もレンズに近い領域(網膜辺縁部)に特異的に存在し、生涯にわたって増殖能をもち、分化した網膜神経細胞を生み出すことができる。網膜辺縁部に近接する網膜先端部ではWnt2bが発現しており、網膜辺縁部の幹細胞のもつ増殖能・未分化性を維持している。<ref><pubmed>12490564</pubmed>
成熟した脊椎動物の網膜中心部領域は、すでに細胞周期から逸脱し最終分化を終えた細胞から構成されており、ここでは増殖する細胞は観察されない。しかし、網膜組織に細胞障害を与えるような条件下では、すでに分裂を終了した網膜グリア細胞であるミュラーグリア細胞が分裂するようになる。このような増殖を開始したミュラーグリア細胞ではWntシグナルの活性が誘導されていることから、Wntシグナルは網膜の再生を促進する重要なファクターであることが考えられる。<ref><pubmed>17428999</pubmed>
毛様体形成
毛様体は血管に富んだ眼球の膜状組織である中膜の一つで、前方は虹彩に、後方は脈絡膜に連続している。水晶体の赤道部に相当する部位にある輪状の組織で、前方の内面には70-90個の毛様体突起とよばれるひだが放射状に並んでいる。Tsukushiはスモール・ロイシンリッチ・プロテオグリカンファミリーに属する分泌型タンパク質で、11.5日目マウス胚から網膜辺縁部に発現が観察され、その発現は成体まで持続する。TsukushiはFz4のN末端に位置するシステインリッチドメイン(Wnt結合部位)への結合をWnt2bと競合することによりWntシグナルを細胞外領域で調整し、毛様体形成に関与している。<ref><pubmed>21856951</pubmed>
=== 受容体  ===
=== 受容体  ===


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 上記のシグナル伝達に加えて、Ror2がWnt5aと結合し、[[Cdc42]]と[[JNK]]を介してアフリカツメガエルの原腸形成における細胞運動を制御したり、[[filamin A]]と結合することにより[[アクチン]]を再構成し、細胞運動を促進することから、Ror2がWnt5aの受容体として機能して、β-カテニン非依存性経路の活性化に関与する可能性が高い。  
 上記のシグナル伝達に加えて、Ror2がWnt5aと結合し、[[Cdc42]]と[[JNK]]を介してアフリカツメガエルの原腸形成における細胞運動を制御したり、[[filamin A]]と結合することにより[[アクチン]]を再構成し、細胞運動を促進することから、Ror2がWnt5aの受容体として機能して、β-カテニン非依存性経路の活性化に関与する可能性が高い。  


 β-カテニン非依存性経路の機能として、β-カテニン経路を抑制することが知られている。その抑制メカニズムとして、Wnt5aがCaMKを介して[[TGF-β-activated kinase1]]([[TAK1]])と[[Nemo-like kinase]]([[NLK]])を活性化し、NLKがTcfをリン酸化することにより[[wikipedia:ja:DNA|DNA]]との結合を抑制すること、Wnt5aが[[ユビキチンリガーゼ]][[Siah2]]の発現を介してユビキチン化によるβ-カテニンの分解を促進する。さらに、Wnt5aは細胞膜上でWnt3aとFzとの結合において競合することにより、Wnt3aによるβ-カテニン経路の活性化を阻害する。  
 β-カテニン非依存性経路の機能として、β-カテニン経路を抑制することが知られている。その抑制メカニズムとして、Wnt5aがCaMKを介して[[TGF-β-activated kinase1]]([[TAK1]])と[[Nemo-like kinase]]([[NLK]])を活性化し、NLKがTcfをリン酸化することにより[[wikipedia:ja:DNA|DNA]]との結合を抑制すること、Wnt5aが[[ユビキチンリガーゼ]][[Siah2]]の発現を介してユビキチン化によるβ-カテニンの分解を促進する。さらに、Wnt5aは細胞膜上でWnt3aとFzとの結合において競合することにより、Wnt3aによるβ-カテニン経路の活性化を阻害する。
 
==神経系における働き==
 
=== 神経軸索ガイダンス ===
 
 脊椎動物の脊髄の背側にある交連神経細胞は、最初は神経管の外縁近くを腹側に向けて軸索を伸ばし、運動神経円柱の近くで腹側正中部の底板(floor plate)に向けて方向を転換して軸索を伸長する。底板の腹側を交叉した後、吻側に高く尾側に低い濃度勾配を形成するWnt4とその受容体Fz3により、交連神経は吻側に進行方向を転換して軸索を伸長する<ref><pubmed>14671310</pubmed></ref>。
 
 ショウジョウバエの正中線は正中線グリア細胞(midline glia)とよばれる非神経細胞群から構成され、グリア細胞に発現する分泌因子Netrinにより、Netrinの受容体であるFrazzledを発現する交連神経細胞に対して誘引的に作用する。交連神経細胞は、正中線を交叉するときに体節の前側を投射する交連神経(anterior commissure)あるいは体節の後ろ側を投射する交連神経(posterior commissure)という前後2つの交連神経束のいずれかを選択して交叉する。この選択はWnt5とその受容体であるDerailedによって制御されている<ref><pubmed>12660735</pubmed></ref>。
 
===シナプス形成===
 
 マウスWnt7aは小脳の顆粒神経細胞に発現している。Wnt7a欠失マウスにおいて、顆粒神経細胞にシナプス形成する苔状線維中のシナプシンIの発現が著しく低下しており、またWnt7aが培養した苔状線維に対してシナプシンIのクラスタリングを促進した。これらの結果から、Wnt7aが苔状線維の顆粒神経細胞へのシナプス形成において、顆粒神経から苔状線維に対して逆行性の促進因子として働くと考えられた<ref><pubmed>10721990</pubmed></ref>。
 
===幹細胞の維持と再生===
 
 魚類・両生類・鳥類において、網膜幹細胞は網膜の最もレンズに近い領域(網膜辺縁部)に特異的に存在し、生涯にわたって増殖能をもち、分化した網膜神経細胞を生み出すことができる。網膜辺縁部に近接する網膜先端部ではWnt2bが発現しており、網膜辺縁部の幹細胞のもつ増殖能・未分化性を維持している<ref><pubmed>12490564</pubmed></ref>。
 
 成熟した脊椎動物の網膜中心部領域は、すでに細胞周期から逸脱し最終分化を終えた細胞から構成されており、ここでは増殖する細胞は観察されない。しかし、網膜組織に細胞障害を与えるような条件下では、すでに分裂を終了した網膜グリア細胞であるミュラーグリア細胞が分裂するようになる。このような増殖を開始したミュラーグリア細胞ではWntシグナルの活性が誘導されていることから、Wntシグナルは網膜の再生を促進する重要なファクターであることが考えられる<ref><pubmed>17428999</pubmed></ref>。
 
===毛様体形成===
 
毛様体は血管に富んだ眼球の膜状組織である中膜の一つで、前方は虹彩に、後方は脈絡膜に連続している。水晶体の赤道部に相当する部位にある輪状の組織で、前方の内面には70-90個の毛様体突起とよばれるひだが放射状に並んでいる。Tsukushiはスモール・ロイシンリッチ・プロテオグリカンファミリーに属する分泌型タンパク質で、11.5日目マウス胚から網膜辺縁部に発現が観察され、その発現は成体まで持続する。TsukushiはFz4のN末端に位置するシステインリッチドメイン(Wnt結合部位)への結合をWnt2bと競合することによりWntシグナルを細胞外領域で調整し、毛様体形成に関与している<ref><pubmed>21856951</pubmed></ref>。


== 参考文献  ==
== 参考文献  ==