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== 機能 == | == 機能 == | ||
(編集 林 コメント:この節と次の節に若干の重複が見られます。統合して、かつ電気生理などの最新の知見を入れてはどうでしょうか。) | (編集 林 コメント:この節と次の節に若干の重複が見られます。統合して、かつ電気生理などの最新の知見を入れてはどうでしょうか。) | ||
海馬は[[大辺縁葉]](le grand lobe linbique, Broca | 海馬は[[大辺縁葉]](le grand lobe linbique, [[wikipedia:ja:ピエール・ポール・ブローカ|Broca]])<ref>'''Paul Broca'''<br>Localisations des fonctions cérébrales. Siège de la faculté du langage articulé.<br>''Bulletin de la Société d"Anthropologie'' 4: 200–208, 1863.</ref>の一部を構成し、[[嗅脳]]に隣接するからか、20世紀中頃まで[[嗅覚]]機能に関与すると考えられていた。しかしBrodal(1942)(文献情報ございましたらご指示ください)は、これまでの神経結合の所見を検討して、海馬嗅覚皮質説に疑問を示した。[[嗅球]]から海馬への一ないし二シナプス性入力は、現在の解剖・生理実験でも否定的所見が多い。近年、嗅覚一次中枢は、[[前頭葉]]下面後部に推定されているようである。 | ||
[[wikipedia:James Papez|Papez]] (1937) は、[[情動]]発現を司る部位として[[視床下部]]を、[[情動]]経験の部位として大脳半球内側皮質([[帯状回]]、海馬)と視床を推定した<ref name= Papez><pubmed> 7711480 </pubmed></ref>。そして解剖的に知られていた、海馬—[[脳弓]]—[[乳頭体]]—[[乳頭体視床束]] ([[Vicq d'Azyr束]]) —[[視床前核]]—帯状回—海馬と続く回路は情動に関与すると考えた。のちに[[ | [[wikipedia:James Papez|Papez]] (1937) は、[[情動]]発現を司る部位として[[視床下部]]を、[[情動]]経験の部位として大脳半球内側皮質([[帯状回]]、海馬)と視床を推定した<ref name= Papez><pubmed> 7711480 </pubmed></ref>。そして解剖的に知られていた、海馬—[[脳弓]]—[[乳頭体]]—[[乳頭体視床束]] ([[Vicq d'Azyr束]]) —[[視床前核]]—帯状回—海馬と続く回路は情動に関与すると考えた。のちに[[パペッツの回路]]と呼ばれるが、実はこれが記憶に密接に関与する回路であることがわかってきた。 | ||
海馬が知的機能や記憶に関与するとの示唆は、Brown とSchäfer (1888)の実験に見られる。海馬を含む側頭葉内側部を両側性に傷害した[[wikipedia:ja:アカゲザル|アカゲザル]]では、凶暴だった性格がおとなしくなった。[[視覚|視]]・[[聴覚|聴]]・[[触覚|触]]・[[味覚|味]]・嗅覚の感覚それ自体にはには異常を認めないが、音や見える物の意味が理解できない。見慣れた物を与えても、はじめて接する物のごとく口にいれたり、嗅いだりして確かめ、しばらくして同じ物を与えてもやはり同様の行動を何回もくりかえした。Klüver とBucy (1939)はアカゲザルの海馬・[[鈎]]の両側切除術によって、[[思考脱線]]、[[精神盲]]([[視覚失認]])、[[易馴応性]]、[[性欲]]亢進などの症状が起こることを観察し<ref name= Klüver><pubmed> 9447506 </pubmed></ref>、Brown らの所見を追認した。 | 海馬が知的機能や記憶に関与するとの示唆は、Brown とSchäfer (1888)の実験に見られる。海馬を含む側頭葉内側部を両側性に傷害した[[wikipedia:ja:アカゲザル|アカゲザル]]では、凶暴だった性格がおとなしくなった。[[視覚|視]]・[[聴覚|聴]]・[[触覚|触]]・[[味覚|味]]・嗅覚の感覚それ自体にはには異常を認めないが、音や見える物の意味が理解できない。見慣れた物を与えても、はじめて接する物のごとく口にいれたり、嗅いだりして確かめ、しばらくして同じ物を与えてもやはり同様の行動を何回もくりかえした。Klüver とBucy (1939)はアカゲザルの海馬・[[鈎]]の両側切除術によって、[[思考脱線]]、[[精神盲]]([[視覚失認]])、[[易馴応性]]、[[性欲]]亢進などの症状が起こることを観察し<ref name= Klüver><pubmed> 9447506 </pubmed></ref>、Brown らの所見を追認した。 | ||
[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]では、Bechterew (1899)、Grünthal (1947)、GleesとGriffith (1952)ら<ref name= Glees><pubmed>14947832</pubmed></ref>が、近時記憶に著しい障害のあった患者の脳を死後剖検し、両側の海馬や海馬傍回に器質性病変のあることを報告した。そして、ScovilleとMilner (1957)が難治性[[てんかん]]患者の治療目的で、両側[[側頭葉]]内側部([[扁桃体]]、海馬傍回、海馬前方2/3 )の切除術を行ったところ、強度の順行性記憶障害を惹起したことを報告した<ref name= Scoville><pubmed> 13406589 </pubmed></ref>。患者らは知能指数にはまったく問題がみられないが、術後の事象の記憶が全然できない。人の顔や名前は全く記憶することができず、受けた指示の内容だけでなく指示されたことも覚えていない。また術前3年までぐらいの[[逆行性健忘]]も見られた。一方、数年より以前の事象は思い出すことが可能で、以来、海馬が[[近時記憶]]と[[長期記憶]]の形成([[記銘]])の部位として注目されるようになった。海馬の構造と機能についての詳細は文献<ref name=ref1>'''Amaral DG, Insausti R.'''<br>Hippocampal formation. In: Paxinos G, editor. The Human Nervous System. <br>San Diego: Academic Press. pp. 711-755. 1990.</ref> <ref name=ref2>'''Amaral DG, Witter MP.'''<br>Hippocampal formation. Paxinos G, ed. "The Rat Nervous System". <br>San Diego: Academic Press. pp. 443-493. 1995.</ref> <ref name=ref3><pubmed>8915675</pubmed></ref> <ref name=ref4>'''Gloor P'''<br>The Temporal Lobe and Limbic System. <br>Oxford University Press, New York, 1997 </ref>(英文)、文献<ref name=ref5>'''石塚典生'''<br>海馬の細胞構築と神経結合<br>神経進歩 38:5-22 (1994)</ref> <ref name=ref6>'''石塚典生'''<br>海馬の構造と線維連絡<br>脳と神経 50:881-892 (1998)</ref> <ref name=ref7>'''石塚典生'''<br>記憶のしくみ 解剖学的面から<br>CLINICAL NEUROSCIENCE 16:130-134 (1998)</ref> <ref name=ref8>'''石塚典生'''<br>大脳辺縁系の神経結合と細胞構築<br>神経進歩 50:7-17 (2006)</ref> <ref name=ref9>'''石塚典生'''<br>海馬領域における縦走性線維投射<br>BRAIN and NERVE 60:737-745 (2008)</ref>(和文)、池谷による[http://gaya.jp/research/index.htm Website]を参照。 | [[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]では、Bechterew (1899)<ref>Bechterew, W.V.<br>Die Leitungsbahnen im Gehirn und Rückemark<Leipzig Verlag von Arthur Georgi., Leipzig, 1899</ref>、Grünthal (1947)<ref>'''Grünthal, E.'''<br>Über das klinische Bild nach umschriebenen beiderseitigem Ausfall der Ammonshornrinde.<br>''Monatsschr. Psychiat. Neurol.'', 113, 1-16, 1947</ref>、GleesとGriffith (1952)ら<ref name= Glees><pubmed>14947832</pubmed></ref>が、近時記憶に著しい障害のあった患者の脳を死後剖検し、両側の海馬や海馬傍回に器質性病変のあることを報告した。そして、ScovilleとMilner (1957)が難治性[[てんかん]]患者の治療目的で、両側[[側頭葉]]内側部([[扁桃体]]、海馬傍回、海馬前方2/3 )の切除術を行ったところ、強度の順行性記憶障害を惹起したことを報告した<ref name= Scoville><pubmed> 13406589 </pubmed></ref>。患者らは知能指数にはまったく問題がみられないが、術後の事象の記憶が全然できない。人の顔や名前は全く記憶することができず、受けた指示の内容だけでなく指示されたことも覚えていない。また術前3年までぐらいの[[逆行性健忘]]も見られた。一方、数年より以前の事象は思い出すことが可能で、以来、海馬が[[近時記憶]]と[[長期記憶]]の形成([[記銘]])の部位として注目されるようになった。海馬の構造と機能についての詳細は文献<ref name=ref1>'''Amaral DG, Insausti R.'''<br>Hippocampal formation. In: Paxinos G, editor. The Human Nervous System. <br>San Diego: Academic Press. pp. 711-755. 1990.</ref> <ref name=ref2>'''Amaral DG, Witter MP.'''<br>Hippocampal formation. Paxinos G, ed. "The Rat Nervous System". <br>San Diego: Academic Press. pp. 443-493. 1995.</ref> <ref name=ref3><pubmed>8915675</pubmed></ref> <ref name=ref4>'''Gloor P'''<br>The Temporal Lobe and Limbic System. <br>Oxford University Press, New York, 1997 </ref>(英文)、文献<ref name=ref5>'''石塚典生'''<br>海馬の細胞構築と神経結合<br>神経進歩 38:5-22 (1994)</ref> <ref name=ref6>'''石塚典生'''<br>海馬の構造と線維連絡<br>脳と神経 50:881-892 (1998)</ref> <ref name=ref7>'''石塚典生'''<br>記憶のしくみ 解剖学的面から<br>CLINICAL NEUROSCIENCE 16:130-134 (1998)</ref> <ref name=ref8>'''石塚典生'''<br>大脳辺縁系の神経結合と細胞構築<br>神経進歩 50:7-17 (2006)</ref> <ref name=ref9>'''石塚典生'''<br>海馬領域における縦走性線維投射<br>BRAIN and NERVE 60:737-745 (2008)</ref>(和文)、池谷による[http://gaya.jp/research/index.htm Website]を参照。 | ||
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