「抑制性シナプス」の版間の差分

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== 基本構造 ==
== 基本構造 ==


 抑制性シナプスにおいては、抑制性[[神経伝達物質]]が[[小胞]]放出され、[[シナプス後膜]]に存在する[[wikipedia:ja:陰イオン|陰イオン]]透過性の[[イオンチャネル]]を活性化する。この結果、細胞外に最も高濃度で存在する陰イオンは[[wikipedia:ja:クロールイオン|クロールイオン]]であるため主にクロールイオンの透過性が亢進することになる。クロールイオンチャネルとしては、[[GABAA受容体|GABA<sub>A</sub>受容体]]及び[[グリシン受容体]]が存在しこれらは各々複数のサブタイプを持っている。中枢神経系のニューロンは抑制性及び興奮性の両方の入力を受けており、両者のバランスによってニューロンの興奮性の制御が行われている。
 抑制性シナプスにおいては、抑制性[[神経伝達物質]]が[[小胞]]放出され、[[シナプス後膜]]に存在する[[wikipedia:ja:陰イオン|陰イオン]]透過性の[[イオンチャネル]]を活性化する。この結果、細胞外に最も高濃度で存在する陰イオンは[[wikipedia:ja:塩化物イオン|クロールイオン]]であるため主にクロールイオンの透過性が亢進することになる。クロールイオンチャネルとしては、[[GABAA受容体|GABA<sub>A</sub>受容体]]及び[[グリシン受容体]]が存在しこれらは各々複数のサブタイプを持っている。中枢神経系のニューロンは抑制性及び興奮性の両方の入力を受けており、両者のバランスによってニューロンの興奮性の制御が行われている。


== 機能 ==
== 機能 ==
 細胞内のクロールイオン濃度の調節に寄与しているのは主に、[[ナトリウム-カリウム-クロール共輸送体]]([[NKCC]])及び[[カリウム-クロール共輸送体]]([[KCC]])で、これらは細胞内へのクロールイオンの取り込み及び細胞外へのクロールイオンの排出を担っており、両者のバランスで神経細胞内のクロールイオンの濃度が決定されている<ref name=ref1><pubmed>16022677</pubmed></ref>。


 [[wikipedia:ja:哺乳類|哺乳類]]においては通常の細胞内外のクロールイオン濃度は総陰イオン濃度の約70%及び1%程度で濃度としては約150mM 及び数mM付近にあるため、その[[平衡電位]]は-70~-80 mV付近となり、通常の神経細胞の静止膜電位よりも若干深い。GABA及びグリシン受容体の活性化により、これらのチャネルのコンダクタンスが上昇すると、[[膜電位]]が[[静止電位]]付近の場合には低い電位勾配のため大量のクロールイオンの移動(流入)は起こらず膜電位に与える影響も少ない。しかし、興奮性シナプスが活性化され膜電位に[[脱分極]]が生じている状況においてはクロールイオンの電位勾配に従い比較的大量のクロールイオンの細胞内への流入が起こり、膜電位は静止電位付近へ引き戻される。この結果、興奮性入力により生じた脱分極幅の縮小が生じ、活動電位発生の確率を下げる。
===生理条件下===
 輸送体タンパク質により通常の状態では、細胞内クロールイオン濃度は比較的低い状態に保たれており、この事により[[GABA]](及び[[グリシン]])作動性のクロールコンダクタンスの上昇が膜電位の過分極作用をもたらす。[[wikipedia:ja:哺乳類|哺乳類]]においては通常の細胞内外のクロールイオン濃度は総陰イオン濃度の約70%及び1%程度で濃度としては約150mM 及び数mM付近にあるため、その[[平衡電位]]は-70~-80 mV付近となり、通常の神経細胞の静止膜電位よりも若干深い。GABA及びグリシン受容体の活性化により、これらのチャネルのコンダクタンスが上昇すると、[[膜電位]]が[[静止電位]]付近の場合には低い電位勾配のため大量のクロールイオンの移動(流入)は起こらず膜電位に与える影響も少ない。しかし、興奮性シナプスが活性化され膜電位に[[脱分極]]が生じている状況においてはクロールイオンの電位勾配に従い比較的大量のクロールイオンの細胞内への流入が起こり、膜電位は静止電位付近へ引き戻される。この結果、興奮性入力により生じた脱分極幅の縮小が生じ、活動電位発生の確率を下げる。


== 病態時及び幼若期の抑制性シナプスの機能 ==
===病態時及び幼若期===


[[image:抑制性シナプス2.png|thumb|300px|'''図2.細胞内塩素イオン濃度の発達性変化に伴う、抑制性神経伝達物質の機能的な変化''']]
[[image:抑制性シナプス2.png|thumb|300px|'''図2.細胞内塩素イオン濃度の発達性変化に伴う、抑制性神経伝達物質の機能的な変化''']]


 細胞内のクロールイオン濃度の調節に寄与しているのは主に、[[ナトリウム-カリウム-クロール共輸送体]]([[NKCC]])及び[[カリウム-クロール共輸送体]]([[KCC]])で、これらは細胞内へのクロールイオンの取り込み及び細胞外へのクロールイオンの排出を担っており、両者のバランスで神経細胞内のクロールイオンの濃度が決定されている<ref name=ref1><pubmed>16022677</pubmed></ref>。これらの輸送体タンパク質により前述の如く通常の状態では、細胞内クロールイオン濃度は比較的低い状態に保たれており、この事により[[GABA]](及び[[glycine]])作動性のクロールコンダクタンスの上昇が膜電位の過分極作用をもたらす。ところが神経損傷等の病態時には、これらのバランスが崩れることが知られており、例えば[[軸索切断]]や[[過酸化水素水]]暴露等を行った神経細胞は[[KCC2]]のダウンレギュレーションとそれに伴うクロールイオン平衡電位の上昇が生じることが知られており、結果的にGABA受容体活性化に伴う脱分極が生じる事が知られている<ref name=ref2><pubmed>12040048</pubmed></ref> <ref name=ref3><pubmed>17301172</pubmed></ref>。また、正常時においても幼若期にはクロライドホメオスタシスの脆弱性が有り、細胞内クロールイオン濃度が相対的に高い事、またこれに伴いGABA作動性入力に対して神経細胞が脱分極を来す事などが知られている<ref name=ref4><pubmed>10191302</pubmed></ref>(図2)。
 一方、神経損傷等の病態時には、これらのバランスが崩れることが知られており、例えば[[軸索切断]]や[[過酸化水素水]]暴露等を行った神経細胞は[[KCC2]]のダウンレギュレーションとそれに伴うクロールイオン平衡電位の上昇が生じることが知られており、結果的にGABA受容体活性化に伴う脱分極が生じる事が知られている<ref name=ref2><pubmed>12040048</pubmed></ref> <ref name=ref3><pubmed>17301172</pubmed></ref>。また、正常時においても幼若期にはクロライドホメオスタシスの脆弱性が有り、細胞内クロールイオン濃度が相対的に高い事、またこれに伴いGABA作動性入力に対して神経細胞が脱分極を来す事などが知られている<ref name=ref4><pubmed>10191302</pubmed></ref>(図2)。


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==