「パルミトイル化」の版間の差分

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=== ''S''-パルミトイル化酵素の発見とその反応機構  ===
=== ''S''-パルミトイル化酵素の発見とその反応機構  ===


 2002年に[[wikipedia:ja:酵母|酵母]]を用いた[[wikipedia:Forward genetics|順行性遺伝学]]的手法によりErf2/Erf4複合体<ref name=Lobo><pubmed>12193598</pubmed></ref>、Akr-1<ref name=Amy><pubmed>12370247</pubmed></ref>が''S''-パルミトイル化酵素(PAT)として同定された。Erf2(effector of Ras function 2)は4回膜貫通タンパク質でErf4と複合体を形成してRas2のパルミトイル化を担う。Akr-1(ankyrin repeat containing-1)は酵母[[カゼインキナーゼ]]Yck2をパルミトイル化する。相同性解析の結果これらはともに複数回の膜貫通領域に加えて、細胞質内領域に約50アミノ酸からなるシステインリッチドメイン(cysteine rich domain; CRD)を有しており、このドメイン内にパルミトイル化に不可欠なDHHC(Asp-His-His-Cys)配列を有していた(図2A)。[[wikipedia:ja:ゲノム|ゲノム]]データベース上、酵母では7種類、[[wikipedia:ja:哺乳動物|哺乳動物]]では24種類のDHHCファミリータンパク質が存在する(図2B;表2)。これまで、パルミトイル化反応がパルミトイル-CoA存在下で非酵素的に進行することも知られていたが、少なくとも酵母ではDHHCファミリータンパク質が細胞内のパルミトイル化の大部分を担っていることが示された<sup>[6]</sup>。また哺乳類のDHHCファミリー遺伝子を用いた活性スクリーニング法(下記参照)などにより、24種類のうちのほとんどが何かしらの基質に対して酵素活性を示すことが明らかになってきた(表2)。DHHCタンパク質ファミリーは、CRDの相同性からさらにサブファミリーに分類できる(図2B)。DHHC酵素の基質特異性は、サブファミリーごとに保存される傾向にあり、またひとつの基質は複数のDHHCタンパク質(サブファミリー)により修飾されうる(表2)。  
 2002年に[[wikipedia:ja:酵母|酵母]]を用いた[[wikipedia:Forward genetics|順行性遺伝学]]的手法によりErf2/Erf4複合体<ref name=Lobo><pubmed>12193598</pubmed></ref>、Akr-1<ref name=Amy><pubmed>12370247</pubmed></ref>が''S''-パルミトイル化酵素(PAT)として同定された。Erf2(effector of Ras function 2)は4回膜貫通タンパク質でErf4と複合体を形成してRas2のパルミトイル化を担う。Akr-1(ankyrin repeat containing-1)は酵母[[カゼインキナーゼ]]Yck2をパルミトイル化する。相同性解析の結果これらはともに複数回の膜貫通領域に加えて、細胞質内領域に約50アミノ酸からなるシステインリッチドメイン(cysteine rich domain; CRD)を有しており、このドメイン内にパルミトイル化に不可欠なDHHC(Asp-His-His-Cys)配列を有していた(図2A)。[[wikipedia:ja:ゲノム|ゲノム]]データベース上、酵母では7種類、[[wikipedia:ja:哺乳動物|哺乳動物]]では24種類のDHHCファミリータンパク質が存在する(図2B;表2)。これまで、パルミトイル化反応がパルミトイル-CoA存在下で非酵素的に進行することも知られていたが、少なくとも酵母ではDHHCファミリータンパク質が細胞内のパルミトイル化の大部分を担っていることが示された<ref name=Amy_Cell><pubmed>16751107</pubmed></ref>。また哺乳類のDHHCファミリー遺伝子を用いた活性スクリーニング法(下記参照)などにより、24種類のうちのほとんどが何かしらの基質に対して酵素活性を示すことが明らかになってきた(表2)。DHHCタンパク質ファミリーは、CRDの相同性からさらにサブファミリーに分類できる(図2B)。DHHC酵素の基質特異性は、サブファミリーごとに保存される傾向にあり、またひとつの基質は複数のDHHCタンパク質(サブファミリー)により修飾されうる(表2)。  


 GFP融合DHHCタンパク質を過剰発現させた系で局在が調べられており、ほとんどが[[wikipedia:ja:小胞体|小胞体]]または[[wikipedia:ja:ゴルジ体|ゴルジ体]]に存在しており、一部細胞膜に局在していた(表2)<ref><pubmed>16647879</pubmed></ref>。したがって発現部位の特異性は低いと思われるが、DHHCタンパク質の発現量の少なさゆえに[[wikipedia:ja: 抗体|抗体]]による特異的検出が難しく、内在性DHHCタンパク質の局在に関してはほとんど明らかにされていない。最近の特異的抗体を用いた局在解析の結果、DHHC2は過剰発現系では小胞体/ゴルジ体に確認されたのに対して、内在性DHHC2は小胞(vesicle)上にも局在していた。その一方で、同じく過剰発現系でゴルジ体に見られたDHHC3は内在性酵素もゴルジ体に局在していた<ref><pubmed>19596852</pubmed></ref>。DHHC2および3は複数の基質において重複が確認されている。DHHCタンパク質それぞれの細胞内局在が''S''-パルミトイル化反応の時間・空間的制御機構に関与する可能性を示唆している。  
 GFP融合DHHCタンパク質を過剰発現させた系で局在が調べられており、ほとんどが[[wikipedia:ja:小胞体|小胞体]]または[[wikipedia:ja:ゴルジ体|ゴルジ体]]に存在しており、一部細胞膜に局在していた(表2)<ref><pubmed>16647879</pubmed></ref>。したがって発現部位の特異性は低いと思われるが、DHHCタンパク質の発現量の少なさゆえに[[wikipedia:ja: 抗体|抗体]]による特異的検出が難しく、内在性DHHCタンパク質の局在に関してはほとんど明らかにされていない。最近の特異的抗体を用いた局在解析の結果、DHHC2は過剰発現系では小胞体/ゴルジ体に確認されたのに対して、内在性DHHC2は小胞(vesicle)上にも局在していた。その一方で、同じく過剰発現系でゴルジ体に見られたDHHC3は内在性酵素もゴルジ体に局在していた<ref><pubmed>19596852</pubmed></ref>。DHHC2および3は複数の基質において重複が確認されている。DHHCタンパク質それぞれの細胞内局在が''S''-パルミトイル化反応の時間・空間的制御機構に関与する可能性を示唆している。  
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 後者は末端アルキルを有するパルミチン酸誘導体17-ODYAで、細胞内のパルミトイル化タンパク質を代謝標識し、[[wikipedia:ja:クリックケミストリー|クリックケミストリー]]を利用してタグを導入する方法で、タグを利用して[[wikipedia:Affinity chromatography|アフィニティー精製]]が可能である(図4B)。  
 後者は末端アルキルを有するパルミチン酸誘導体17-ODYAで、細胞内のパルミトイル化タンパク質を代謝標識し、[[wikipedia:ja:クリックケミストリー|クリックケミストリー]]を利用してタグを導入する方法で、タグを利用して[[wikipedia:Affinity chromatography|アフィニティー精製]]が可能である(図4B)。  


 両者は[[質量分析]]と合わせて大規模''S''-パルミトイル化タンパク質探索法として用いられており、既知のパルミトイル化タンパク質に加えて、多くの新規基質が同定されている<sup>[6][7]</sup><ref><pubmed>19137006</pubmed></ref><ref><pubmed>19801377</pubmed></ref>。  
 両者は[[質量分析]]と合わせて大規模''S''-パルミトイル化タンパク質探索法として用いられており、既知のパルミトイル化タンパク質に加えて、多くの新規基質が同定されている<ref name=Amy_Cell><pubmed>16751107</pubmed></ref>[7]</sup><ref><pubmed>19137006</pubmed></ref><ref><pubmed>19801377</pubmed></ref>。  


[[Image:Palmitoylation Figure4.png|thumb|right|300px|図4 S-パルミトイル化タンパク質の精製方法]]  
[[Image:Palmitoylation Figure4.png|thumb|right|300px|図4 S-パルミトイル化タンパク質の精製方法]]  
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=== DHHC酵素-基質ペアの同定法   ===
=== DHHC酵素-基質ペアの同定法   ===


 哺乳類のDHHCファミリー遺伝子を用いた活性スクリーニング法が用いられている。培養細胞に基質タンパク質および各DHHC酵素を共発現させ、[<sup>3</sup>H]-パルミチン酸代謝標識により酵素依存的なS-パルミトイル化の上昇を調べる<sup>[8][9]</sup>。一方、酵母では、7種類のDHHCファミリータンパク質のそれぞれ(あるいは複数)を欠失した変異体と上記ABE法-質量分析法を組み合わせて、変異体でパルミトイル化レベルが低下するタンパク質を同定することにより、DHHC酵素-基質ペアが同定されている<sup>[6]</sup>。  
 哺乳類のDHHCファミリー遺伝子を用いた活性スクリーニング法が用いられている。培養細胞に基質タンパク質および各DHHC酵素を共発現させ、[<sup>3</sup>H]-パルミチン酸代謝標識により酵素依存的なS-パルミトイル化の上昇を調べる<sup>[8][9]</sup>。一方、酵母では、7種類のDHHCファミリータンパク質のそれぞれ(あるいは複数)を欠失した変異体と上記ABE法-質量分析法を組み合わせて、変異体でパルミトイル化レベルが低下するタンパク質を同定することにより、DHHC酵素-基質ペアが同定されている<ref name=Amy_Cell><pubmed>16751107</pubmed></ref>。  


=== DHHC酵素阻害剤  ===
=== DHHC酵素阻害剤  ===