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[[wikipedia:ja:メソポタミア文明|メソポタミア文明]]から、ケシの栽培、アヘンの精製が行われていた、[[wikipedia:ja:ギリシャ神話|ギリシャ神話]]においてもケシの記載があり、[[wikipedia:ja:ローマ時代|ローマ時代]]には[[頭痛]]、[[wikipedia:ja:難聴|難聴]]、[[痙攣]]、[[wikipedia:ja:喘息|喘息]]、[[wikipedia:ja:咳|咳]]、[[疝痛]]、[[発熱]]、[[メランコリー]]の治療ならびに贅沢品としてアヘンが使用され、[[wikipedia:ja:中世|中世]]には、手術の際の鎮痛薬として使用された記載が[[wikipedia:ja:イタリア|イタリア]]、[[wikipedia:ja:サレルノ|サレルノ]]近くの[[wikipedia:ja:モンテカシノ|モンテカシノ]]にある[[wikipedia:de:Abtei Montecassino|ベネディクト修道院]]の文献にある。 | [[wikipedia:ja:メソポタミア文明|メソポタミア文明]]から、ケシの栽培、アヘンの精製が行われていた、[[wikipedia:ja:ギリシャ神話|ギリシャ神話]]においてもケシの記載があり、[[wikipedia:ja:ローマ時代|ローマ時代]]には[[頭痛]]、[[wikipedia:ja:難聴|難聴]]、[[痙攣]]、[[wikipedia:ja:喘息|喘息]]、[[wikipedia:ja:咳|咳]]、[[疝痛]]、[[発熱]]、[[メランコリー]]の治療ならびに贅沢品としてアヘンが使用され、[[wikipedia:ja:中世|中世]]には、手術の際の鎮痛薬として使用された記載が[[wikipedia:ja:イタリア|イタリア]]、[[wikipedia:ja:サレルノ|サレルノ]]近くの[[wikipedia:ja:モンテカシノ|モンテカシノ]]にある[[wikipedia:de:Abtei Montecassino|ベネディクト修道院]]の文献にある。 | ||
[[wikipedia:ja:中国|中国]]では[[wikipedia:ja:後漢|後漢]]末期、[[wikipedia:ja:華佗|華佗]]が医術や薬の処方に詳しく、麻酔を最初に発明したのは華佗とされており、大麻が成分とされる「[[wikipedia:ja:麻沸散|麻沸散]]」と呼ばれる麻酔薬を使って腹部切開手術を行った記載が[[wikipedia:ja:三国志|三国志]] | [[wikipedia:ja:中国|中国]]では[[wikipedia:ja:後漢|後漢]]末期、[[wikipedia:ja:華佗|華佗]]が医術や薬の処方に詳しく、麻酔を最初に発明したのは華佗とされており、大麻が成分とされる「[[wikipedia:ja:麻沸散|麻沸散]]」と呼ばれる麻酔薬を使って腹部切開手術を行った記載が[[wikipedia:ja:三国志|三国志]]にある。また、[[wikipedia:ja:五石散|五石散]]と言う麻薬が[[wikipedia:ja:三国時代|三国時代]]、あるいは後漢の頃からあったと言われている。さらに「[[wikipedia:ja:本草綱目|本草綱目]]」(1892種の本草([[wikipedia:ja:生薬|生薬]])について薬効などを詳しく記述されている文献)では阿片を主薬とする「一粒金丹」という製剤の記載があり、万能薬として用いられた。日本では、華佗が使ったとされる麻沸散(別名:[[wikipedia:ja:通仙散|通仙散]])による[[wikipedia:ja:全身麻酔|全身麻酔]]下で[[wikipedia:ja:乳癌|乳癌]]摘出手術に成功した。1803年にドイツの薬剤師である[[wikipedia:Friedrich Sertürner|フリードリッヒ・ヴィルヘルム・ゼルチュルネル]]がアヘンからモルヒネの単離にはじめて成功した。 | ||
=== オピオイド受容体の発見 === | === オピオイド受容体の発見 === | ||
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このように、人類は紀元前より[[オピオイド]]の鎮痛作用や陶酔作用といった効果を知っていたが、その薬理作用の仕組みが理解されるようになったのは最近のことである。研究者達はなぜ植物由来の成分が動物や人間の生体内でこれほど強い効果を引き出すことができるのかという素朴な疑問を持ち続け、それは次第に“モルヒネ感受性受容体の存在”という概念にたどり着いた。1971 年、Goldsteinは[[オピオイド受容体]]の発見の基になる報告をし <ref name="ref1"><pubmed>5288759</pubmed></ref>、1973年にそれぞれ、[[Solomon H. Snyder|Snyder]]とPert<ref name="ref2"><pubmed>4687585</pubmed></ref>、Simon<ref name="ref3"><pubmed>4583407</pubmed></ref>、Terenius<ref name="ref4"><pubmed>4801083</pubmed></ref>の3つのグループからオピオイド受容体の存在が提唱され、広く研究者の間で受け入れられるようになった。1975 年には Hughes と Kosterlitz ら<ref name="ref5"><pubmed>1207728</pubmed></ref>が[[エンケファリン]]を発見し、さらに、1979 年に Goldstein と Tachibanaら<ref name="ref6"><pubmed>230519</pubmed></ref>が[[ダイノルフィン]]を抽出し、生体内に存在するモルヒネ様物質、いわゆる“[[内因性オピオイド]]”が発見された。[[オピオイド受容体]]は [[Μ受容体|μ]] (MOR)、[[Δ受容体|δ]] (DOR)および [[Κ受容体|κ]] (KOR)に大別され、これら3種のオピオイド受容体の研究がもっとも盛んに行われてきた。 | このように、人類は紀元前より[[オピオイド]]の鎮痛作用や陶酔作用といった効果を知っていたが、その薬理作用の仕組みが理解されるようになったのは最近のことである。研究者達はなぜ植物由来の成分が動物や人間の生体内でこれほど強い効果を引き出すことができるのかという素朴な疑問を持ち続け、それは次第に“モルヒネ感受性受容体の存在”という概念にたどり着いた。1971 年、Goldsteinは[[オピオイド受容体]]の発見の基になる報告をし <ref name="ref1"><pubmed>5288759</pubmed></ref>、1973年にそれぞれ、[[Solomon H. Snyder|Snyder]]とPert<ref name="ref2"><pubmed>4687585</pubmed></ref>、Simon<ref name="ref3"><pubmed>4583407</pubmed></ref>、Terenius<ref name="ref4"><pubmed>4801083</pubmed></ref>の3つのグループからオピオイド受容体の存在が提唱され、広く研究者の間で受け入れられるようになった。1975 年には Hughes と Kosterlitz ら<ref name="ref5"><pubmed>1207728</pubmed></ref>が[[エンケファリン]]を発見し、さらに、1979 年に Goldstein と Tachibanaら<ref name="ref6"><pubmed>230519</pubmed></ref>が[[ダイノルフィン]]を抽出し、生体内に存在するモルヒネ様物質、いわゆる“[[内因性オピオイド]]”が発見された。[[オピオイド受容体]]は [[Μ受容体|μ]] (MOR)、[[Δ受容体|δ]] (DOR)および [[Κ受容体|κ]] (KOR)に大別され、これら3種のオピオイド受容体の研究がもっとも盛んに行われてきた。 | ||
オピオイド受容体遺伝子のクロ−ニングは他の受容体と比べて遅く、1992年になってEvansらとKiefferらのグループがそれぞれ、372個のアミノ酸から成るδ受容体のクロ−ニングに成功した<ref name="ref7"><pubmed>1335167</pubmed></ref> <ref name="ref8"><pubmed>1334555</pubmed></ref>。δ受容体のクロ−ニング後、[[wikipedia:ja:PCR|PCR]] 法によるホモロジ−を利用した研究によってμおよびκ受容体のクロ−ニングの成功が相次いで報告された。μおよびκ受容体は、それぞれ398個と380個のアミノ酸から構成されている。明らかにされたμ-、δ-およびκ- | オピオイド受容体遺伝子のクロ−ニングは他の受容体と比べて遅く、1992年になってEvansらとKiefferらのグループがそれぞれ、372個のアミノ酸から成るδ受容体のクロ−ニングに成功した<ref name="ref7"><pubmed>1335167</pubmed></ref> <ref name="ref8"><pubmed>1334555</pubmed></ref>。δ受容体のクロ−ニング後、[[wikipedia:ja:PCR|PCR]] 法によるホモロジ−を利用した研究によってμおよびκ受容体のクロ−ニングの成功が相次いで報告された。μおよびκ受容体は、それぞれ398個と380個のアミノ酸から構成されている。明らかにされたμ-、δ-およびκ-オピオイド受容体間のアミノ酸配列の相同性は全体として約60%と高く、いずれも7回膜貫通型の[[Gタンパク質共役型受容体]]である。また、現在までにμ受容体遺伝子においていくつかのオルターナティブスプライシングを受ける[[wikipedia:ja:エクソン|エクソン]]が同定されており、これらの組み合わせの違いから数種類のスプライスバリアントによるμ受容体サブタイプの存在が報告されている。 | ||
=== | === オピオイド === | ||
Opium(オピウム)は日本語でアヘンのことであり、ケシの果実から抽出される。元来、鎮痛薬として使用されてきたが、19世紀に入るとその嗜好性、習慣性から医薬用外で大流行したため、鎮痛作用や鎮咳作用よりも「麻薬」という悪いイメージだけが残ってしまっている。 | |||
同時にアヘンからのモルヒネの単離精製に成功したことで、モルヒネ様作用をもつ薬剤の研究開発が進み、モルヒネやコデインといったアヘンからの精製物をopium、半合成誘導体をopiate、アヘン様合成薬剤をオピオイド(opioid)と呼び分けた。 | 同時にアヘンからのモルヒネの単離精製に成功したことで、モルヒネ様作用をもつ薬剤の研究開発が進み、モルヒネやコデインといったアヘンからの精製物をopium、半合成誘導体をopiate、アヘン様合成薬剤をオピオイド(opioid)と呼び分けた。 | ||
現在では、「オピオイド」と言う呼び名は、中枢神経や末梢神経に存在する特異的受容体(オピオイド受容体)への結合を介して作用を発現するモルヒネに類似する作用を持つ物質の総称として使われ、植物由来の天然のオピオイド、合成・半合成のオピオイド、体内で産生される内因性オピオイド(エンケファリン、ダイノルフィン、[[β-エンドルフィン]])などの分類が一般的となっている。 | 現在では、「オピオイド」と言う呼び名は、中枢神経や末梢神経に存在する特異的受容体(オピオイド受容体)への結合を介して作用を発現するモルヒネに類似する作用を持つ物質の総称として使われ、植物由来の天然のオピオイド、合成・半合成のオピオイド、体内で産生される内因性オピオイド(エンケファリン、ダイノルフィン、[[β-エンドルフィン]])などの分類が一般的となっている。 | ||
== | == 医療用麻薬としてのオピオイド == | ||
[[Image:麻薬2.png|thumb|350px|'''図2.代表的な医療用麻薬の化学構造式''']] | [[Image:麻薬2.png|thumb|350px|'''図2.代表的な医療用麻薬の化学構造式''']] | ||
本稿では、医療用麻薬としてのオピオイドについて述べる。オピオイドの主な薬理的用途は鎮痛薬である。 | |||
なお、オピオイドではない医療用麻薬もある。麻酔薬である[[ケタミン]]は、オピオイドではないが、医療用に用いられる麻薬である(平成19年1月1日から麻薬)。従って、ケタミンは麻薬性非オピオイド鎮痛薬に分類される。 | |||
=== 対象疾患 === | === 対象疾患 === |