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RNA干渉とはmRNAに対して相補的な配列をもつ一本鎖RNA([[wikipedia:ja:アンチセンス鎖|アンチセンス鎖]])、その逆鎖である一本鎖RNA([[wikipedia:ja:センス鎖|センス鎖]])からなる二本鎖RNAによって、遺伝子発現抑制効果を示す現象である。当初、[[線虫]]の遺伝子[[Lin-4]]遺伝子産物が、タンパク質をコードせずに遺伝子発現を制御することから示されたが、その後、[[wikipedia:ja:単細胞生物|単細胞生物]]から[[wikipedia:ja:哺乳動物|哺乳動物]]に至る様々な生物で内在性の小分子RNAがRNA干渉のメカニズムにより遺伝子制御に関わることが見いだされ、[[wikipedia:ja:発生|発生]]や[[wikipedia:ja:代謝|代謝]]、[[wikipedia:ja:感染|感染]]防御など生命維持に欠かせない多くの現象を制御し、生体の[[wikipedia:ja:恒常性|恒常性]]を維持する働きを有することが分かっている。RNA干渉関連分子の機能異常が発症原因となる疾患も見つかってきている。またさらに外来に二本鎖RNAを投与することによっても同様のメカニズムによって遺伝子発現を制御することができることから、RNA干渉は、遺伝子機能探索の技術として細胞や個体でも応用が可能で、創薬に繋がる大きな可能性を秘めている。 | RNA干渉とはmRNAに対して相補的な配列をもつ一本鎖RNA([[wikipedia:ja:アンチセンス鎖|アンチセンス鎖]])、その逆鎖である一本鎖RNA([[wikipedia:ja:センス鎖|センス鎖]])からなる二本鎖RNAによって、遺伝子発現抑制効果を示す現象である。当初、[[線虫]]の遺伝子[[Lin-4]]遺伝子産物が、タンパク質をコードせずに遺伝子発現を制御することから示されたが、その後、[[wikipedia:ja:単細胞生物|単細胞生物]]から[[wikipedia:ja:哺乳動物|哺乳動物]]に至る様々な生物で内在性の小分子RNAがRNA干渉のメカニズムにより遺伝子制御に関わることが見いだされ、[[wikipedia:ja:発生|発生]]や[[wikipedia:ja:代謝|代謝]]、[[wikipedia:ja:感染|感染]]防御など生命維持に欠かせない多くの現象を制御し、生体の[[wikipedia:ja:恒常性|恒常性]]を維持する働きを有することが分かっている。RNA干渉関連分子の機能異常が発症原因となる疾患も見つかってきている。またさらに外来に二本鎖RNAを投与することによっても同様のメカニズムによって遺伝子発現を制御することができることから、RNA干渉は、遺伝子機能探索の技術として細胞や個体でも応用が可能で、創薬に繋がる大きな可能性を秘めている。 | ||
== RNA干渉とは == | == RNA干渉とは == | ||
[[ファイル:RF00052.jpg|right|thumb| | [[ファイル:RF00052.jpg|right|thumb|200px|'''図1. Lin-4遺伝子産物の構造''']] | ||
[[image:RNA干渉.jpg|thumb|300px|'''図2. 外来二本鎖RNAによるRNA干渉のメカニズム'''<br>投与された二本鎖RNAは[[short interfering RNA]]([[siRNA]])に変換され、mRNAと[[RNA induced silencing complex]] ([[RISC]])を形成し、mRNAの不安定化を引き起こす。]] | |||
1993年、[[wikipedia:Victor Ambros|Victor Ambros]]博士らは、[[線虫|''C. elegans'']]のlin-4遺伝子産物がタンパク質をコードしないのにもかかわらず、[[lin-14]]遺伝子産物である[[LIN-14]]タンパク質の発現を負に調節する因子であることを見出した<ref name=ref5><pubmed>8252621</pubmed></ref>。この遺伝子産物は、ヘアピン型の小分子RNAであり、標的遺伝子と結合することにより機能すると考えられた(図1)。その後、[[microRNA]]([[miRNA]])と呼ばれるようになり、現在までに単細胞生物から哺乳動物に至る様々な生物で内在性の小分子RNAがRNA干渉のメカニズムにより遺伝子制御に関わることが見いだされ、発生や代謝、ウイルス感染防御など生命維持に欠かせない多くの現象を制御し、生体の恒常性を維持する働きを有することが分かっている<ref name=ref2 /> <ref name=ref3 /> <ref name=ref4 />。RNAi関連分子の機能異常が発症原因となる疾患も見つかってきている<ref name=ref6><pubmed>20735434</pubmed></ref>。 | 1993年、[[wikipedia:Victor Ambros|Victor Ambros]]博士らは、[[線虫|''C. elegans'']]のlin-4遺伝子産物がタンパク質をコードしないのにもかかわらず、[[lin-14]]遺伝子産物である[[LIN-14]]タンパク質の発現を負に調節する因子であることを見出した<ref name=ref5><pubmed>8252621</pubmed></ref>。この遺伝子産物は、ヘアピン型の小分子RNAであり、標的遺伝子と結合することにより機能すると考えられた(図1)。その後、[[microRNA]]([[miRNA]])と呼ばれるようになり、現在までに単細胞生物から哺乳動物に至る様々な生物で内在性の小分子RNAがRNA干渉のメカニズムにより遺伝子制御に関わることが見いだされ、発生や代謝、ウイルス感染防御など生命維持に欠かせない多くの現象を制御し、生体の恒常性を維持する働きを有することが分かっている<ref name=ref2 /> <ref name=ref3 /> <ref name=ref4 />。RNAi関連分子の機能異常が発症原因となる疾患も見つかってきている<ref name=ref6><pubmed>20735434</pubmed></ref>。 | ||
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動物や植物に限らず多くの生物はmiRNAを発現する<ref name=ref7><pubmed>11081512</pubmed></ref> <ref name=ref8><pubmed>14744438</pubmed></ref>。miRNAは恒常的であるが、各miRNAの発現は個体において時空間的に調節されている。 | 動物や植物に限らず多くの生物はmiRNAを発現する<ref name=ref7><pubmed>11081512</pubmed></ref> <ref name=ref8><pubmed>14744438</pubmed></ref>。miRNAは恒常的であるが、各miRNAの発現は個体において時空間的に調節されている。 | ||
[[wikipedia:ja:ゲノム|ゲノム]]上に位置するmiRNA遺伝子から発現したmiRNA転写産物は一本鎖RNAであるが、ヘアピン構造をとることを特徴とする<ref name=ref9><pubmed>21245828</pubmed></ref> <ref name=ref10><pubmed>20661255</pubmed></ref> <ref name=ref11><pubmed>21116305</pubmed></ref>。核でまず[[RNaseIIIドメイン]]をもった[[Drosha]]によって第一次プロセシングを受け[[細胞質]]へ移行する。細胞質ではDicerによって第二次プロセシングを受け、二本鎖miRNAとして切り出される。その後1本鎖となったmiRNAは、siRNAと同様にArgonauteタンパク質と結合することによって[[miRISC]]を形成する。哺乳動物のmiRNAの場合、標的mRNAへの対合には[[シード配列]]とよばれる5’末端から2~7塩基が関わる。つまり、siRNAと異なり、標的RNAとの対合がmiRNAの5’末端から10塩基目と11塩基目まで及ばないため、Argonauteタンパク質は標的RNAを切断する事が出来ない。miRISC には[[GW182]]タンパク質を介して[[RNA分解酵素]]が結合するが、これら因子の助けを借りて、miRISCは標的RNAの不安定性を導く。標的mRNAの[[wikipedia:ja: | [[wikipedia:ja:ゲノム|ゲノム]]上に位置するmiRNA遺伝子から発現したmiRNA転写産物は一本鎖RNAであるが、ヘアピン構造をとることを特徴とする<ref name=ref9><pubmed>21245828</pubmed></ref> <ref name=ref10><pubmed>20661255</pubmed></ref> <ref name=ref11><pubmed>21116305</pubmed></ref>。核でまず[[RNaseIIIドメイン]]をもった[[Drosha]]によって第一次プロセシングを受け[[細胞質]]へ移行する。細胞質ではDicerによって第二次プロセシングを受け、二本鎖miRNAとして切り出される。その後1本鎖となったmiRNAは、siRNAと同様にArgonauteタンパク質と結合することによって[[miRISC]]を形成する。哺乳動物のmiRNAの場合、標的mRNAへの対合には[[シード配列]]とよばれる5’末端から2~7塩基が関わる。つまり、siRNAと異なり、標的RNAとの対合がmiRNAの5’末端から10塩基目と11塩基目まで及ばないため、Argonauteタンパク質は標的RNAを切断する事が出来ない。miRISC には[[GW182]]タンパク質を介して[[RNA分解酵素]]が結合するが、これら因子の助けを借りて、miRISCは標的RNAの不安定性を導く。標的mRNAの[[wikipedia:ja:翻訳 (生物学)|翻訳]]を阻害することも知られる。つまり、siRNAとmiRNAでは標的RNAの発現抑制の分子メカニズムが異なることを特徴とする。 | ||
=== PIWI interacting RNA === | === PIWI interacting RNA === | ||
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Argonauteタンパク質は[[PAZドメイン]]と[[MIDドメイン]]を介してsiRNAと結合する。標的RNAの切断は、PIWIドメインが担う。切断はsiRNAの5’末端から10塩基目と11塩基目をつなぐ[[wikipedia:ja:リン酸|リン酸]]基に相対する部位で起こり、その切り口は、5'末端にリン酸基を、3'末端は[[wikipedia:ja:水酸基|水酸基]]をもつことを特徴とする。 | Argonauteタンパク質は[[PAZドメイン]]と[[MIDドメイン]]を介してsiRNAと結合する。標的RNAの切断は、PIWIドメインが担う。切断はsiRNAの5’末端から10塩基目と11塩基目をつなぐ[[wikipedia:ja:リン酸|リン酸]]基に相対する部位で起こり、その切り口は、5'末端にリン酸基を、3'末端は[[wikipedia:ja:水酸基|水酸基]]をもつことを特徴とする。 | ||
==疾患との関わり== | ==疾患との関わり== |