「ロドプシン」の版間の差分

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 膜タンパク質であるロドプシンの分子特性はその膜環境に大きく依存する。ただし、ヘリックス領域に囲まれている発色団の光化学的な特性([[wikipedia:JA:分子吸光係数|分子吸光係数]]、[[wikipedia:JA:量子収率|量子収率]]、[[wikipedia:JA:光感受性|光感受性]]など)は膜環境による影響を受けにくい。一方で、中間体や活性状態の平衡、寿命や生成速度等は膜環境の影響を顕著に受ける。  
 膜タンパク質であるロドプシンの分子特性はその膜環境に大きく依存する。ただし、ヘリックス領域に囲まれている発色団の光化学的な特性([[wikipedia:JA:分子吸光係数|分子吸光係数]]、[[wikipedia:JA:量子収率|量子収率]]、[[wikipedia:JA:光感受性|光感受性]]など)は膜環境による影響を受けにくい。一方で、中間体や活性状態の平衡、寿命や生成速度等は膜環境の影響を顕著に受ける。  


 桿体外節の円盤膜はPC([[wikipedia:phosphatidylcholine]])やPE(wikipedia:JA:phosphatidylethanolamine)を主成分とし、他にもPS(wikipedia:JA:phosphatidylserine)やPI(wikipedia:JA:phosphatidylinositol)を含むことが知られている。また膜のwikipedia:JA:コレステロール含有量によってロドプシンの活性状態とその前駆体の平衡が変化することが知られている。
 桿体外節の円盤膜はPC([[wikipedia:phosphatidylcholine|phosphatidylcholine]])やPE([[wikipedia:phosphatidylethanolamine|phosphatidylethanolamine]])を主成分とし、他にもPS([[wikipedia:phosphatidylserine|phosphatidylserine]])やPI([[wikipedia:phosphatidylinositol|phosphatidylinositol]])を含むことが知られている。また膜の[[wikipedia:JA:コレステロール|コレステロール]]含有量によってロドプシンの活性状態とその前駆体の平衡が変化することが知られている。


== '''シッフ塩基プロトン・対イオン'''  ==
== '''シッフ塩基プロトン・対イオン'''  ==
 ロドプシン中でのレチナールはリシン残基とシッフ塩基結合をしている。分子内でレチナールが共有結合しているのは、いつでも光受容出来るように発色団をタンパク質内に留めておく働きがある。さらにシッフ塩基を介したこの共有結合はロドプシンの機能発現にも重要な役割を果たしている。  
 ロドプシン中でのレチナールはリシン残基とシッフ塩基結合をしている。分子内でレチナールが共有結合しているのは、いつでも光受容出来るように発色団をタンパク質内に留めておく働きがある。さらにシッフ塩基を介したこの共有結合はロドプシンの機能発現にも重要な役割を果たしている。  


 ロドプシンが可視光(最大吸収波長500nm)を受容できるのは、このシッフ塩基の窒素原子がプロトン化しているからである。レチナールやレチナールシッフ塩基は吸収極大波長が紫外部にあり、紫外光しか吸収することができない。一方、レチナールシッフ塩基がプロトン化すると、分子内の二重結合系が非局在化され、その結果、吸収極大波長が可視部に移動する。
 ロドプシンが[[wikipedia:JA:可視光|可視光]](最大吸収波長500nm)を受容できるのは、このシッフ塩基の[[wikipedia:JA:窒素|窒素]]原子が[[wikipedia:JA:プロトン|プロトン]]化しているからである。レチナールやレチナールシッフ塩基は吸収極大波長が[[wikipedia:JA:紫外部|紫外部]]にあり、紫外光しか吸収することができない。一方、レチナールシッフ塩基がプロトン化すると、分子内の[[wikipedia:JA:二重結合|二重結合]]系が非局在化され、その結果、吸収極大波長が可視部に移動する。


 レチナールはオプシンの内部に埋め込まれており、また、そのプロトン化シッフ塩基は疎水的な環境に位置している。そのためそのままでは非常に不安定である。オプシン内にはこの正電荷を安定化する対イオン(counterion)が存在する。ロドプシンではE113が対イオンとして働き<ref><pubmed> 2573063 </pubmed></ref>、H7のシッフ塩基プロトンの正電荷とH3の[[グルタミン酸]]の負電荷の間に塩橋(salt bridge)が形成される<ref><pubmed> 1356370 </pubmed></ref>。また対イオンはシッフ塩基のpKaを上げシッフ塩基の加水分解を防いでいる。対イオンは単独で働いているのではなく、構造水を含む水素結合ネットワークを形成して働いていると考えられている。
 レチナールはオプシンの内部に埋め込まれており、また、そのプロトン化シッフ塩基は疎水的な環境に位置している。そのためそのままでは非常に不安定である。オプシン内にはこの[[wikipedia:JA:正電荷|正電荷]]を安定化する対イオン(counterion)が存在する。ロドプシンではE113が対イオンとして働き<ref><pubmed> 2573063 </pubmed></ref>、H7のシッフ塩基プロトンの正電荷とH3の[[グルタミン酸]]の負電荷の間に塩橋(salt bridge)が形成される<ref><pubmed> 1356370 </pubmed></ref>。また対イオンはシッフ塩基の[[wikipedia:JA:pKa|pKa]]を上げシッフ塩基の加水分解を防いでいる。対イオンは単独で働いているのではなく、構造水を含む[[wikipedia:JA:水素結合|水素結合]]ネットワークを形成して働いていると考えられている。


[[Image:Central Ionic Lock.png|thumb|right|300px|'''図3:シッフ塩基・対イオン・塩橋'''<br />ヘッリックス7の296番目のリシン残基の正電荷とヘリックス3の対イオンの負電荷は塩橋を形成し、リガンド非結合状態の受容体で不活性状態を安定化する。11-cis-retinalが結合した状態でもシッフ塩基プロトンと対イオンの間で塩橋が生じ不活性状態を安定化する。]] <br>  
[[Image:Central Ionic Lock.png|thumb|right|300px|'''図3:シッフ塩基・対イオン・塩橋'''<br />ヘッリックス7の296番目のリシン残基の正電荷とヘリックス3の対イオンの負電荷は塩橋を形成し、リガンド非結合状態の受容体で不活性状態を安定化する。11-cis-retinalが結合した状態でもシッフ塩基プロトンと対イオンの間で塩橋が生じ不活性状態を安定化する。]] <br>  
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 ロドプシンは可視部に吸収極大を示す光受容タンパク質である。すでに述べたように、ロドプシンの可視部の吸収スペクトルは分子内に含まれているレチナールに由来する。有機溶媒中に溶かしたレチナールの吸収スペクトルは380 nm付近に吸収極大を示すが、レチナールがオプシン中のリシン残基とプロトン化したシッフ塩基を形成すると、500 nm付近に吸収極大がシフトする。有機溶媒中のプロトン化シッフ塩基は約440 nmに吸収極大を示す。そこで、440 nmからタンパク質の作用によって変化する差分を「オプシンシフト(Opsin shift)」と呼ぶ(図4a参照)。 このように、ロドプシンの吸収極大はプロトン化したレチナールシッフ塩基の吸収極大がまわりのアミノ酸残基によって調節されたものである<ref>''K Nakanishi, V Baloghair, M Arnaboli, K Tsujimoto, and B Honig'''<br>An External Point-Charge Model for Bacteriorhodopsin to Account for Its Purple Color<br>''J Am Chem Soc'':1980</ref>。実際、多くの動物のロドプシンは500nm付近に吸収極大を示すが、深海など極端な光環境下で生息する生物はそれぞれの光環境に適した吸収極大を示す。  
 ロドプシンは可視部に吸収極大を示す光受容タンパク質である。すでに述べたように、ロドプシンの可視部の吸収スペクトルは分子内に含まれているレチナールに由来する。有機溶媒中に溶かしたレチナールの吸収スペクトルは380 nm付近に吸収極大を示すが、レチナールがオプシン中のリシン残基とプロトン化したシッフ塩基を形成すると、500 nm付近に吸収極大がシフトする。有機溶媒中のプロトン化シッフ塩基は約440 nmに吸収極大を示す。そこで、440 nmからタンパク質の作用によって変化する差分を「オプシンシフト(Opsin shift)」と呼ぶ(図4a参照)。 このように、ロドプシンの吸収極大はプロトン化したレチナールシッフ塩基の吸収極大がまわりのアミノ酸残基によって調節されたものである<ref>''K Nakanishi, V Baloghair, M Arnaboli, K Tsujimoto, and B Honig'''<br>An External Point-Charge Model for Bacteriorhodopsin to Account for Its Purple Color<br>''J Am Chem Soc'':1980</ref>。実際、多くの動物のロドプシンは500nm付近に吸収極大を示すが、深海など極端な光環境下で生息する生物はそれぞれの光環境に適した吸収極大を示す。  


 オプシンシフト以外にもロドプシンはレチナールの種類を変えることによって吸収スペクトルを変えることができる。多くの脊椎動物は通常ビタミンA1(retinal)を用いるが、魚類、両生類や爬虫類のなかにはA2 retinal (3,4-dehydroretinal) を用いるものもいる。 共役二重結合系が長いのでA2レチナールはA1に比べてより長波長に吸収を持つ(図4b参照)。従ってA1/A2の視物質は同じタンパク質でもそれぞれ違う色をもつ。Opsin+A1 retinalの視物質がRhodopsin(rhod=紅)と呼ばれるのに対してOpsin+A2 retinalはPorphyropsin(porphyr=紫)と呼ばれる。(無脊椎動物の視物質ではA1, A2 retinalの他にA3(3-hydroxyretina)やA4(4-hydroxyretinal) retinalが用いられる。図4c参照)カエル幼生(オタマジャクシ)のオプシンがA2レチナールを発色団とし、成体(カエル)になるとA1レチナールを発色団とするのは有名な話である。つまり、オタマジャクシは、濁った淡水でより透過に優れた長波長の光を利用するためにA2レチナールを利用していると言われている。また、魚類(特に淡水魚)などは2種類のレチナールを持ち、季節変動などの環境要因によってA1/A2レチナールを使い分けていると考えられている。  
 オプシンシフト以外にもロドプシンはレチナールの種類を変えることによって吸収スペクトルを変えることができる。多くの脊椎動物は通常ビタミンA1(retinal)を用いるが、[[wikipedia:JA:魚類|魚類]]、[[wikipedia:JA:両生類|両生類]]や[[wikipedia:JA:爬虫類|爬虫類]]のなかには[[wikipedia:JA:A2 retinal|A2 retinal]] (3,4-dehydroretinal) を用いるものもいる。 共役二重結合系が長いのでA2レチナールはA1に比べてより長波長に吸収を持つ(図4b参照)。従ってA1/A2の視物質は同じタンパク質でもそれぞれ違う色をもつ。Opsin+A1 retinalの視物質がRhodopsin(rhod=紅)と呼ばれるのに対してOpsin+A2 retinalはPorphyropsin(porphyr=紫)と呼ばれる。(無脊椎動物の視物質ではA1, A2 retinalの他にA3([[wikipedia:JA:3-hydroxyretina|3-hydroxyretina]])やA4([[wikipedia:JA:4-hydroxyretinal|4-hydroxyretinal]]) retinalが用いられる。図4c参照)カエル幼生([[wikipedia:JA:オタマジャクシ|オタマジャクシ]])のオプシンがA2レチナールを発色団とし、成体(カエル)になるとA1レチナールを発色団とするのは有名な話である。つまり、オタマジャクシは、濁った淡水でより透過に優れた長波長の光を利用するためにA2レチナールを利用していると言われている。また、魚類(特に淡水魚)などは2種類のレチナールを持ち、季節変動などの環境要因によってA1/A2レチナールを使い分けていると考えられている。  


[[Image:Rhodopsin spectrum and retinal.png|thumb|right|300px|'''図4:ロドプシンの吸収スペクトル'''<br />a:有機溶媒中のRetinalは380nmに吸収極大(λmax)を示すが、アミノ基を持つ化合物(例えばプロピルアミン)とシッフ塩基を形成してプロトン化されると、λmaxが440nmまでシフトする。さらにロドプシン中ではまわりのアミノ酸残基との相互作用によって、λmaxが約500 nmまでシフトする。この440nmからの差分をオプシンシフトと呼ぶ。つまり、オプシンシフトが大きいロドプシン類はより長波長側にλmaxを示す。ロドプシンの吸収スペクトルは可視部の吸収(αバンド)の他に、紫外領域に小さな吸収(βバンド)、280nm付近にタンパク質の芳香族アミノ酸残基に由来する吸収(γバンド)を示すのが特徴である。<br />b:桿体視物質、ロドプシンには2種類のレチナールが知られている。A2レチナールより構成するものを特にポルフィロプシンとよび、A1レチナールよりも共役二重結合系が長いのでより長波長の光を吸収することができる。一般的に多くの動物がA1レチナールを用いるが魚類、両生類や爬虫類等ではA2レチナールを用いるものが知られている。<br />c:無脊椎動物の視物質にはA1、A2レチナールの他にA3やA4レチナールを用いるものもある。発色団の種類に関わらずこれらの光受容タンパク質を総称してロドプシン類と呼ぶのが慣習である。]]  
[[Image:Rhodopsin spectrum and retinal.png|thumb|right|300px|'''図4:ロドプシンの吸収スペクトル'''<br />a:[[wikipedia:JA:有機溶媒|有機溶媒]]中のRetinalは380nmに吸収極大(λmax)を示すが、アミノ基を持つ化合物(例えば[[wikipedia:JA:プロピルアミン|プロピルアミン]])とシッフ塩基を形成してプロトン化されると、λmaxが440nmまでシフトする。さらにロドプシン中ではまわりのアミノ酸残基との相互作用によって、λmaxが約500 nmまでシフトする。この440nmからの差分をオプシンシフトと呼ぶ。つまり、オプシンシフトが大きいロドプシン類はより長波長側にλmaxを示す。ロドプシンの吸収スペクトルは可視部の吸収(αバンド)の他に、紫外領域に小さな吸収(βバンド)、280nm付近にタンパク質の[[wikipedia:JA:芳香族|芳香族]]アミノ酸残基に由来する吸収(γバンド)を示すのが特徴である。<br />b:桿体視物質、ロドプシンには2種類のレチナールが知られている。A2レチナールより構成するものを特にポルフィロプシンとよび、A1レチナールよりも共役二重結合系が長いのでより長波長の光を吸収することができる。一般的に多くの動物がA1レチナールを用いるが魚類、両生類や爬虫類等ではA2レチナールを用いるものが知られている。<br />c:無脊椎動物の視物質にはA1、A2レチナールの他にA3やA4レチナールを用いるものもある。発色団の種類に関わらずこれらの光受容タンパク質を総称してロドプシン類と呼ぶのが慣習である。]]  


= '''ロドプシンの光反応過程'''  =
= '''ロドプシンの光反応過程'''  =
 光を受容したロドプシンが活性状態に変化する過程を通常「ロドプシンの光反応過程」と呼ぶ。しかし、厳密には光が関与するのは発色団であるレチナールの光吸収と光異性化反応だけであり、活性状態に変化するタンパク質の構造変化は熱反応である<ref><pubmed> 11743865 </pubmed></ref>。ロドプシンの研究でノーベル賞を受賞したGeorge Wald博士は、この反応過程を写真を撮る過程になぞらえている。ロドプシンはカメラのフィルムのように光によって何らかの変化が生じるが、この変化は「現像」する過程によって初めて目に見えるものになるのである。ロドプシンでも同じように、光によって生じた変化が熱反応を経て活性状態の生成へとつながる<ref><pubmed> 4877437 </pubmed></ref>。
 光を受容したロドプシンが活性状態に変化する過程を通常「ロドプシンの光反応過程」と呼ぶ。しかし、厳密には光が関与するのは発色団であるレチナールの光吸収と[[wikipedia:JA:光異性化|光異性化]]反応だけであり、活性状態に変化するタンパク質の構造変化は熱反応である<ref><pubmed> 11743865 </pubmed></ref>。ロドプシンの研究でノーベル賞を受賞したGeorge Wald博士は、この反応過程を写真を撮る過程になぞらえている。ロドプシンはカメラのフィルムのように光によって何らかの変化が生じるが、この変化は「現像」する過程によって初めて目に見えるものになるのである。ロドプシンでも同じように、光によって生じた変化が熱反応を経て活性状態の生成へとつながる<ref><pubmed> 4877437 </pubmed></ref>。


== '''光反応'''  ==
== '''光反応'''  ==
 ロドプシンの最初のステップはレチナールの光吸収と光異性化反応である。暗状態で結合している11-cis-retinalは光を受容するとall-trans-retinalに異性化する。レチナールの光異性化反応は溶液中でも起こるが、ロドプシン中での異性化反応は非常に高効率、高速で起こることが特徴である。溶液中のレチナールは20%程度の異性化効率(量子収率)しか示さないが、ロドプシン中のレチナールは65%の異性化効率を示す。そして200フェムト秒(200×10<sup>−15</sup>秒)<ref><pubmed> 1925597 </pubmed></ref>で起こるレチナールの光異性化反応は現在知られている最も速い化学反応の一つである。ロドプシン中でのレチナールの構造やその光反応性は近傍のアミノ酸残基によって調節されている。
 ロドプシンの最初のステップはレチナールの光吸収と光異性化反応である。暗状態で結合している11-cis-retinalは光を受容するとall-trans-retinalに異性化する。レチナールの光異性化反応は溶液中でも起こるが、ロドプシン中での異性化反応は非常に高効率、高速で起こることが特徴である。溶液中のレチナールは20%程度の異性化効率(量子収率)しか示さないが、ロドプシン中のレチナールは65%の異性化効率を示す。そして200フェムト秒(200×10<sup>−15</sup>秒)<ref><pubmed> 1925597 </pubmed></ref>で起こるレチナールの光異性化反応は現在知られている最も速い[[wikipedia:JA:化学反応|化学反応]]の一つである。ロドプシン中でのレチナールの構造やその光反応性は近傍のアミノ酸残基によって調節されている。


== '''熱反応'''  ==
== '''熱反応'''  ==
 ロドプシン中でのレチナールの異性化反応は超高速で起こる。そのため、まわりのタンパク質部分はレチナールの異性化による構造変化についていけず、異性化直後のレチナールは非常にねじれた構造をとる。その結果、レチナールの吸収スペクトルは大幅に長波長シフトする。また、光子のエネルギーの約70%はレチナールの構造ポテンシャルエネルギーとして蓄えられ、このエネルギーを使ってレチナール近傍のアミノ酸残基との相互作用が変化し、最終的にタンパク質全体の構造変化が誘起され、活性状態が生成する。
 ロドプシン中でのレチナールの異性化反応は超高速で起こる。そのため、まわりのタンパク質部分はレチナールの異性化による構造変化についていけず、異性化直後のレチナールは非常にねじれた構造をとる。その結果、レチナールの吸収スペクトルは大幅に長波長シフトする。また、光子のエネルギーの約70%はレチナールの[[wikipedia:JA:構造ポテンシャルエネルギー|構造ポテンシャルエネルギー]]として蓄えられ、このエネルギーを使ってレチナール近傍のアミノ酸残基との相互作用が変化し、最終的にタンパク質全体の構造変化が誘起され、活性状態が生成する。


 レチナールの「ねじれ」の解消およびタンパク質部分の構造変化に伴って、光を吸収したロドプシンは種々の準安定な状態を経て変化していく。この準安定な状態を中間体と呼び、光吸収後から、フォト(photo)、バソ(batho)、ルミ(lumi)、メタ(meta)と名付けられた中間体が同定されている。これらの中間体は異なる吸収スペクトルを持つので、スペクトル変化によって熱反応を観測することができる<ref><pubmed> 13613341 </pubmed></ref>。反応の最終段階ではシッフ塩基のプロトンが対イオンに移動し、380 nmに吸収極大を示すメタロドプシンⅡ(Metarhodopsin II, Meta II)が生成する。Meta IIはGタンパク質活性化能をもつロドプシンの活性状態である<ref><pubmed> 6288450 </pubmed></ref>。  
 レチナールの「ねじれ」の解消およびタンパク質部分の構造変化に伴って、光を吸収したロドプシンは種々の準安定な状態を経て変化していく。この準安定な状態を中間体と呼び、光吸収後から、フォト(photo)、バソ(batho)、ルミ(lumi)、メタ(meta)と名付けられた中間体が同定されている。これらの中間体は異なる吸収スペクトルを持つので、スペクトル変化によって熱反応を観測することができる<ref><pubmed> 13613341 </pubmed></ref>。反応の最終段階ではシッフ塩基のプロトンが対イオンに移動し、380 nmに吸収極大を示すメタロドプシンⅡ(Metarhodopsin II, Meta II)が生成する。Meta IIはGタンパク質活性化能をもつロドプシンの活性状態である<ref><pubmed> 6288450 </pubmed></ref>。