「体温調節の神経回路」の版間の差分

編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
78行目: 78行目:


 現在では、深部体温と末梢温度(主に皮膚温度)の情報が体温調節中枢で統合され、それに基づいて適切な体温調節反応の種類と強度が決定され、出力されるという考え方が主流である。こうした温度情報の統合と反応出力の決定に関わる中枢神経回路メカニズムについては分かっていないことが多い。しかし、視索前野から視床下部背内側部や淡蒼縫線核へ下行性抑制を行う投射ニューロンの発火活動が体温調節反応の出力強度を決定しているという上記のモデルに従えば、この投射ニューロンが、温ニューロンとしての温度感受性や、また感染時にプロスタグランジンE<sub>2</sub>を受容する機能を有する可能性があるが、証明は行われていない。
 現在では、深部体温と末梢温度(主に皮膚温度)の情報が体温調節中枢で統合され、それに基づいて適切な体温調節反応の種類と強度が決定され、出力されるという考え方が主流である。こうした温度情報の統合と反応出力の決定に関わる中枢神経回路メカニズムについては分かっていないことが多い。しかし、視索前野から視床下部背内側部や淡蒼縫線核へ下行性抑制を行う投射ニューロンの発火活動が体温調節反応の出力強度を決定しているという上記のモデルに従えば、この投射ニューロンが、温ニューロンとしての温度感受性や、また感染時にプロスタグランジンE<sub>2</sub>を受容する機能を有する可能性があるが、証明は行われていない。
== 心理ストレス性体温上昇の神経回路  ==
 心理ストレスを受けた際に体温が上昇する現象はヒトを含めた多くの哺乳類で観察される生理反応である。このストレス性体温上昇は、野生動物が天敵に狙われるなどした際に、[[中枢神経系]]や筋肉を温め、そのパフォーマンスを向上させることによって、直面した危機を切り抜け易くする意義があると考えられている。しかし、ヒトの場合、慢性的な社会ストレスによって上昇した体温が低下しない心因性発熱という症状につながることがあり、これは解熱剤が効かないことから臨床的な問題となる。
 心理ストレスモデルである社会的敗北ストレスをラットに与えることで生じる体温上昇を解析した研究から、ストレス性体温上昇には褐色脂肪組織熱産生が寄与することと、ストレスを受けた動物では淡蒼縫線核周辺の交感神経プレモーターニューロンが活性化することが明らかとなった<ref><pubmed>21978215</pubmed></ref>。また、視床下部背内側部や淡蒼縫線核のどちらのニューロンを抑制しても社会的敗北ストレスによる褐色脂肪組織熱産生と体温上昇反応が消失する。そして、光遺伝学的技術を用いて視床下部背内側部から淡蒼縫線核への神経連絡を特異的に刺激すると褐色脂肪組織熱産生、脈拍上昇、血圧上昇といったストレス性交感神経反応に類似した反応が惹起されることから、心理ストレス信号は視床下部背内側部から淡蒼縫線核の交感神経プレモーターニューロンへ伝達され、それによって体温上昇を含めた交感神経性のストレス反応が駆動されることがわかってきた<ref name="ref14" />。


== 関連項目  ==
== 関連項目  ==
44

回編集