「脳弓下器官」の版間の差分

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===位置・構造===
===位置・構造===
 第三脳室の吻側背側に[[海馬交連]]が形成する壁面上の正中部に位置し、大半が[[脳室]]側に突出している。この位置は脳脊髄液が[[側脳室]]から第三脳室に向かって流れる[[室間孔]]に近い。脳弓下器官には、[[前大脳動脈]]から分岐して[[脈絡叢]]に通じる動脈から血管が分岐し、内部で毛細血管網を形成している。血管の一部は小孔を有する[[有窓毛細血管]](fenestrated capillary)である。小孔を通じて各種イオンや血中[[ペプチド]]が脳弓下器官内に拡散すると考えられる。
 第三脳室の吻側背側に[[海馬交連]]が形成する壁面上の正中部に位置し、大半が[[脳室]]側に突出している。この位置は脳脊髄液が[[側脳室]]から第三脳室に向かって流れる[[室間孔]]に近い。脳弓下器官には、[[前大脳動脈]]から分岐して[[脈絡叢]]に通じる動脈から血管が分岐し、内部で毛細血管網を形成している。血管の一部は小孔を有する[[有窓毛細血管]](fenestrated capillary)である。小孔を通じて各種イオンや血中[[ペプチド]]が脳弓下器官内に拡散すると考えられる。
=== 神経結合 ===
=== 神経結合 ===
====出力====
====出力====
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=== 発現するセンサー分子及び受容体 ===
=== 発現するセンサー分子及び受容体 ===
 脳弓下器官に発現するセンサータンパク質としては、体液[[ナトリウムセンサー]][[Nax]]<ref name=ref3><pubmed>11027237</pubmed></ref>、[[カルシウムセンサー]][[CaR]]<ref name=ref4><pubmed>9030412</pubmed></ref>、浸透圧の感知に関与するとされる[[TRPV4]]チャンネル<ref name=ref5><pubmed>11081638</pubmed></ref>や[[水チャンネル]]の[[AQP-4]]<ref name=ref6><pubmed>9548213</pubmed></ref>が報告されている。ペプチド受容体としては、[[アンジオテンシンII]]受容体<ref name=ref7><pubmed>1577995</pubmed></ref>、[[アミリン]]受容体<ref name=ref8><pubmed>14715154</pubmed></ref>、[[カルシトニン]]受容体<ref name=ref9><pubmed>6320949</pubmed></ref>、[[ナトリウム利尿ペプチド]]受容体<ref name=ref10><pubmed>2852316</pubmed></ref>、[[エストロゲン]]受容体α<ref name=ref11><pubmed>10098943</pubmed></ref>、[[糖質コルチコイド]]受容体<ref name=ref12><pubmed>9582428</pubmed></ref>などの発現が報告されてきたが、さらに、近年のマイクロアレイ実験から[[エンドセリン]]や[[アディポネクチン]]、[[アペリン]]、[[エンドカンナビノイド]]、[[レプチン]]、[[プロラクチン]]、[[甲状腺ホルモン]]の受容体の発現が、他の脳領域に比べて脳弓下器官に多いと報告されている<ref name=ref13><pubmed>18832082</pubmed></ref>。
 脳弓下器官に発現するセンサータンパク質としては、体液[[ナトリウムセンサー]][[Nax]]<ref name=ref3><pubmed>11027237</pubmed></ref>、[[カルシウムセンサー]][[CaR]]<ref name=ref4><pubmed>9030412</pubmed></ref>、浸透圧の感知に関与するとされる[[TRPV4]]チャンネル<ref name=ref5><pubmed>11081638</pubmed></ref>や[[水チャンネル]]の[[AQP-4]]<ref name=ref6><pubmed>9548213</pubmed></ref>が報告されている。ペプチド受容体としては、[[アンジオテンシンII]]受容体<ref name=ref7><pubmed>1577995</pubmed></ref>、[[アミリン]]受容体<ref name=ref8><pubmed>14715154</pubmed></ref>、[[カルシトニン]]受容体<ref name=ref9><pubmed>6320949</pubmed></ref>、[[ナトリウム利尿ペプチド]]受容体<ref name=ref10><pubmed>2852316</pubmed></ref>、[[エストロゲン]]受容体α<ref name=ref11><pubmed>10098943</pubmed></ref>、[[糖質コルチコイド]]受容体<ref name=ref12><pubmed>9582428</pubmed></ref>などの発現が報告されてきたが、さらに、近年のマイクロアレイ実験から[[エンドセリン]]や[[アディポネクチン]]、[[アペリン]]、[[エンドカンナビノイド]]、[[レプチン]]、[[プロラクチン]]、[[甲状腺ホルモン]]の受容体の発現が、他の脳領域に比べて脳弓下器官に多いと報告されている<ref name=ref13><pubmed>18832082</pubmed></ref>。


=== 体液ナトリウムレベル感知機構 ===
=== 体液ナトリウムレベル感知機構 ===
 センサー分子の中で、生理機能が最もよくわかっているのはNaxである。Naxは[[電位依存性ナトリウムチャンネル]]と構造的に近いが電位感受性を示さないチャンネル分子である<ref name=ref14><pubmed>17350991</pubmed></ref>。細胞外のナトリウムレベルが平常レベルから上昇したことに応答して開口する<ref name=ref15><pubmed>11992118</pubmed></ref>。脳弓下器官においては[[エンドセリン3]]([[ET-3]])が発現しており、[[ETBR受容体|ET<sub>B</sub>R受容体]]を介した信号伝達によりNaxのナトリウム濃度感受性を高めている<ref name=ref16><pubmed>23541371</pubmed></ref>。さらに脱水時には、このET-3の発現が上昇することがわかっている<ref name=ref16 />。
 センサー分子の中で、生理機能が最もよくわかっているのはNaxである。Naxは[[電位依存性ナトリウムチャンネル]]と構造的に近いが電位感受性を示さないチャンネル分子である<ref name=ref14><pubmed>17350991</pubmed></ref>。細胞外のナトリウムレベルが平常レベルから上昇したことに応答して開口する<ref name=ref15><pubmed>11992118</pubmed></ref>。脳弓下器官においては[[エンドセリン3]]([[ET-3]])が発現しており、[[ETBR受容体|ET<sub>B</sub>R受容体]]を介した信号伝達によりNaxのナトリウム濃度感受性を高めている<ref name=ref16><pubmed>23541371</pubmed></ref>。さらに脱水時には、このET-3の発現が上昇することがわかっている<ref name=ref16 />。


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==疾患との関わり==
==疾患との関わり==
 血中ナトリウムレベルが持続的に高い症状を示す、[[wj:本態性高ナトリウム血症|本態性高ナトリウム血症]]の一部の患者の体内において、Naxに対する[[wj:自己抗体|自己抗体]]の産生が報告された。Naxを発現している上衣細胞やアストロサイトは脳弓下器官の神経細胞を保護する役目も果たしており、[[wj:補体|補体]]活性化によるNax陽性グリア細胞の損傷によって抗利尿ホルモンの分泌を制御する神経の活動制御に異常を来たしたものと考えられた<ref name=ref19><pubmed>20510856</pubmed></ref>。この患者では、脱水時の抗利尿ホルモンの分泌応答がなく、口渇感も欠損していた。
 血中ナトリウムレベルが持続的に高い症状を示す、[[wj:本態性高ナトリウム血症|本態性高ナトリウム血症]]の一部の患者の体内において、Naxに対する[[wj:自己抗体|自己抗体]]の産生が報告された。Naxを発現している上衣細胞やアストロサイトは脳弓下器官の神経細胞を保護する役目も果たしており、[[wj:補体|補体]]活性化によるNax陽性グリア細胞の損傷によって抗利尿ホルモンの分泌を制御する神経の活動制御に異常を来たしたものと考えられた<ref name=ref19><pubmed>20510856</pubmed></ref>。この患者では、脱水時の抗利尿ホルモンの分泌応答がなく、口渇感も欠損していた。


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== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
*[[神経ペプチド]]
*[[神経ペプチド]]


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
<references />
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