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Makotourushitani (トーク | 投稿記録) 細 (→病因と病態仮説) |
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<font size="+1">竹島多賀夫</font><br> | <font size="+1">竹島多賀夫</font><br> | ||
'' | ''社会医療法人寿会 富永病院 脳神経内科・頭痛センター''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> | DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2015年9月23日 原稿完成日:2015年12月22日 一部改訂:2021年6月3日<br> | ||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0141446 漆谷 真] | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0141446 漆谷 真](滋賀医科大学 医学部 脳神経内科)<br> | ||
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英語名:headache、cephalalgia 独:Kopfschmerz 仏:céphalée、mal de tête | |||
{{box|text= | |||
頭痛を主症状とする疾病は頭痛性疾患としてまとめられている。他に原因となる疾患が無いものを一次性頭痛、他の疾患によるものを二次性頭痛とする。一次性頭痛は、片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛が代表的である。頭痛診断は、国際頭痛学会から公開されている国際頭痛分類と診断基準(第3版、2018)に従う。一次性頭痛は通常生命を脅かすことはないが、生活に支障をきたし健康寿命を短縮させる疾病であり対策が求められている。片頭痛は閃輝暗点等の前兆の有無により、前兆のある片頭痛と前兆のない片頭痛に大別される。片頭痛発作にはセロトニン作動薬であるトリプタンが奏功する。急性期治療薬のみでは十分な治療効果が得られない場合は片頭痛予防薬を用いる。カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)は片頭痛の病態に深く関与しており、抗CGRP抗体、抗CGRP受容体抗体、CGRP拮抗薬が新規の片頭痛治療薬として開発されている。また、片頭痛の頻度が増加する慢性片頭痛が注目されている。緊張型頭痛は頭痛の頻度により反復性と慢性に細分類されている。群発頭痛と類縁の頭痛性疾患が三叉神経・自律神経性頭痛としてまとめられ疾患概念が整理されてきた。二次性頭痛には様々な疾患によって引き起こされる頭痛がある。片頭痛など、一次性頭痛が他の疾患により増悪したのか、他の疾患により新たな二次性頭痛が発生したのかは常に考慮が必要である。 | |||
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==定義== | ==定義== | ||
頭痛は頭部の一部あるいは全体の[[痛み]]の総称。後頭部と[[ | 頭痛は頭部の一部あるいは全体の[[痛み]]の総称。後頭部と[[wj:頚|頚]](後頚部)の境界、眼の奥の痛みも頭痛として扱う。頭皮の[[wj:外傷|外傷]]や[[wj:化膿|化膿]]などによる頭の表面の一部の痛みは通常は頭痛には含めない。 頭痛は、[[発熱]]や[[腹痛]]と同様に症状の名称であるが、慢性的に頭痛発作を繰り返す場合は頭痛性疾患(headache disorder)として扱う。 | ||
==メカニズムと疼痛感受部位== | ==メカニズムと疼痛感受部位== | ||
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==頭痛の分類と診断 国際頭痛分類第3版== | ==頭痛の分類と診断 国際頭痛分類第3版== | ||
頭痛の系統的分類は1962年に[[wj:アメリカ国立衛生研究所|米国衛生研究所]]のad-hoc委員会で作成された分類が、いわゆる"''ad hoc''分類"として広く認知されていた<ref name=ref1>''Headache AHCoCo'''<br>Classification of headache. <br>''Journal of the American Medical Association.''179:717-718, 1962.</ref>。1988年には[[ | 頭痛の系統的分類は1962年に[[wj:アメリカ国立衛生研究所|米国衛生研究所]]のad-hoc委員会で作成された分類が、いわゆる"''ad hoc''分類"として広く認知されていた<ref name=ref1>''Headache AHCoCo'''<br>Classification of headache. <br>''Journal of the American Medical Association.''179:717-718, 1962.</ref>。1988年には[[wj:国際頭痛学会|国際頭痛学会]]が頭痛分類と診断基準の初版<ref name=ref2><pubmed>3048700</pubmed></ref>を刊行し、2004年に第2版<ref name=ref3><pubmed>14979299</pubmed></ref>、2013年に第3版beta版<ref name=ref4><pubmed>23771276</pubmed></ref>が公開されている。第2版<ref name=ref5>'''日本頭痛学会・国際頭痛分類普及委員会訳'''<br>国際頭痛分類第2版 新訂増補日本語版<br>東京: ''医学書院''; 2007.</ref>、第3版beta版の日本語版<ref name=ref6>'''日本頭痛学会・国際頭痛分類委員会訳'''<br>国際頭痛分類第3版beta版<br>東京: ''医学書院''; 2014.</ref>が書籍として刊行されており、[[wj:日本頭痛学会|日本頭痛学会]]の[https://www.jhsnet.org/kokusai_new_2015.html Webサイト]で全文を閲覧できる。 | ||
[[ | [[wj:国際頭痛分類|国際頭痛分類]]は[[wj:国際疾病分類|国際疾病分類]]との整合性に配慮されており、分類は階層化されている。さらに、各頭痛の[[操作的診断基準]]が記載されている。第1部 [[一次性頭痛]]、第2部 [[二次性頭痛]]、第3部:[[有痛性脳神経ニューロパチー]]、他の顔面痛およびその他の頭痛に大別され、14のグループに分類されている(表1)。ICHD-3βの頭分類は階層的に作成されており、コード番号が割り振られている。各頭痛性疾患には操作的診断基準が掲載されている。 | ||
[[一次性頭痛]]は、頭痛の原因となる他の患がなく、頭痛そのものが障害となっている神経疾患である。[[片頭痛]]、[[緊張型頭痛]]、[[三叉神経・自律神経性頭痛]]([[群発頭痛]])が代表的である。 | [[一次性頭痛]]は、頭痛の原因となる他の患がなく、頭痛そのものが障害となっている神経疾患である。[[片頭痛]]、[[緊張型頭痛]]、[[三叉神経・自律神経性頭痛]]([[群発頭痛]])が代表的である。 | ||
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|+ 表1.国際頭痛分類第3版beta版(ICHD-3β)の大項目(グループ) | |+ 表1.国際頭痛分類第3版beta版(ICHD-3β)の大項目(グループ) | ||
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| '''第1部:[[一次性頭痛]]'''<br> 1.[[片頭痛]]<br> 2.[[緊張型頭痛]]<br> 3.[[三叉神経・自律神経性頭痛]] | | '''第1部:[[一次性頭痛]]'''<br> 1.[[片頭痛]]<br> 2.[[緊張型頭痛]]<br> 3.[[三叉神経・自律神経性頭痛]](trigeminal autonomic cephalalgias, TACs)<br> 4.その他の一次性頭痛疾患 | ||
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| '''第2部:[[二次性頭痛]]''' <br> 5.頭頸部外傷・傷害による頭痛<br> 6.頭頸部血管障害による頭痛<br> 7.非血管性頭蓋内疾患による頭痛<br> 8.物質またはその離脱による頭痛<br> 9.[[ | | '''第2部:[[二次性頭痛]]''' <br> 5.頭頸部外傷・傷害による頭痛<br> 6.頭頸部血管障害による頭痛<br> 7.非血管性頭蓋内疾患による頭痛<br> 8.物質またはその離脱による頭痛<br> 9.[[wj感染症|感染症]]による頭痛<br> 10.[[wj:ホメオスターシス|ホメオスターシス]]障害による頭痛<br> 11.[[wj:頭蓋骨|頭蓋骨]]、[[wj:頸|頸]]、[[眼]]、[[wj:耳|耳]]、[[wj:鼻|鼻]]、[[wj:副鼻腔|副鼻腔]]、[[wj:歯|歯]]、[[wj:口|口]]あるいはその他の顔面・頸部の構成組織の障害による頭痛あるいは顔面痛<br> 12.[[精神疾患]]による頭痛 | ||
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| '''第3部:[[有痛性脳神経ニューロパチー]]、他の顔面痛およびその他の頭痛''' <br> 13.有痛性脳神経ニューロパチーおよび他の顔面痛<br> 14.その他の頭痛性疾患 | | '''第3部:[[有痛性脳神経ニューロパチー]]、他の顔面痛およびその他の頭痛''' <br> 13.有痛性脳神経ニューロパチーおよび他の顔面痛<br> 14.その他の頭痛性疾患 | ||
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|} | |} | ||
==一次性頭痛== | ==一次性頭痛== | ||
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==== 分類 ==== | ==== 分類 ==== | ||
前兆のある片頭痛と前兆のない片頭痛に大別される。ICHD- | 前兆のある片頭痛と前兆のない片頭痛に大別される。ICHD-3βでは表2のサブタイプ、サブフォームが規定されている。 | ||
頭痛分類における、[[前兆]](aura)は[[大脳皮質]]または[[脳幹]]の一過性局在性神経症候をさす。[[閃輝暗点]]が代表的である。[[視覚障害]]、[[感覚障害]]、[[失語性言語障害]]を典型的前兆としている。 | 頭痛分類における、[[前兆]](aura)は[[大脳皮質]]または[[脳幹]]の一過性局在性神経症候をさす。[[閃輝暗点]]が代表的である。[[視覚障害]]、[[感覚障害]]、[[失語性言語障害]]を典型的前兆としている。 | ||
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====病因と病態仮説==== | ====病因と病態仮説==== | ||
歴史的には、血管説、神経説、[[セロトニン]]学説、[[ | 歴史的には、血管説、神経説、[[セロトニン]]学説、[[wj:血小板|血小板]]説などが提唱されてきた。近年の神経科学的知見から、片頭痛の疼痛は、脳硬膜の三叉神経血管系の[[神経原性炎症]]とその後惹起される神経感作が主たる病態と理解されている(三叉神経血管説<ref name=ref10><pubmed>8217498</pubmed></ref>)。神経原性炎症には[[カルシトニン遺伝子関連ペプチド]]([[CGRP]])が重要な関与をしている。この他、発痛物質[[サブスタンスP]]、セロトニン、[[ヒスタミン]]なども神経原性炎症の進展に関与すると考えられている。 | ||
前兆のある片頭痛でみられる、閃輝暗点は、大脳皮質[[後頭葉]][[視覚野]]で発生する皮質拡延性抑制がその本態であると考えられている<ref name=ref11><pubmed>11287655</pubmed></ref> <ref name=ref12>'''古和久典'''<br>片頭痛のメカニズム In: 竹島多賀夫、ed. 頭痛治療薬の考え方、使い方<br>東京: ''中外医学社''; 2015:9-16.</ref>。 | 前兆のある片頭痛でみられる、閃輝暗点は、大脳皮質[[後頭葉]][[視覚野]]で発生する皮質拡延性抑制がその本態であると考えられている<ref name=ref11><pubmed>11287655</pubmed></ref> <ref name=ref12>'''古和久典'''<br>片頭痛のメカニズム In: 竹島多賀夫、ed. 頭痛治療薬の考え方、使い方<br>東京: ''中外医学社''; 2015:9-16.</ref>。 | ||
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#[[トリプタン]]:セロトニン作動薬: セロトニンアナログ: [[スマトリプタン]]、[[ゾルミトリプタン]]、[[エレトリプタン]]、[[リザトリプタン]]、[[ナラトリプタン]]などがある。片頭痛特異的治療薬として広く使用されている。 | #[[トリプタン]]:セロトニン作動薬: セロトニンアナログ: [[スマトリプタン]]、[[ゾルミトリプタン]]、[[エレトリプタン]]、[[リザトリプタン]]、[[ナラトリプタン]]などがある。片頭痛特異的治療薬として広く使用されている。 | ||
#[[ゲパント]]:CGRP[[拮抗薬]](本邦未承認) | #[[ゲパント]]:CGRP[[拮抗薬]](本邦未承認) | ||
# | #抗CGRP抗体、抗[[CGRP受容体]]抗体:開発中 | ||
'''予防薬''':頭痛発作頻度が高い場合、急性期治療薬で十分なQOL改善が得られない場合に使用する。[[Ca2+拮抗薬|Ca<sup>2+</sup>拮抗薬]]([[ロメリジン]]、[[ベラパミル]])、[[β遮断薬]]([[プロプラノロール]]、[[メトプロロール]])、[[抗てんかん薬]]([[バルプロ酸]]、[[トピラマート]])、[[抗うつ薬]]([[アミトリプチリン]])、[[アンジオテンシン受容体ブロッカー]] [[ARB]]([[カンデサルタン]])、[[ACE阻害剤]]([[リシノプリル]])などが使用される<ref name=ref16>'''慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会'''<br>II 片頭痛 3. 予防療法<br>In: 日本神経学会・日本頭痛学会編、ed. 慢性頭痛の診療ガイドライン 2013<br>東京: ''医学書院''; 2013:145-187.</ref>。漢方薬では、[[呉茱萸湯]]が有効とされている。[[ビタミンB2]] | '''予防薬''':頭痛発作頻度が高い場合、急性期治療薬で十分なQOL改善が得られない場合に使用する。[[Ca2+拮抗薬|Ca<sup>2+</sup>拮抗薬]]([[ロメリジン]]、[[ベラパミル]])、[[β遮断薬]]([[プロプラノロール]]、[[メトプロロール]])、[[抗てんかん薬]]([[バルプロ酸]]、[[トピラマート]])、[[抗うつ薬]]([[アミトリプチリン]])、[[アンジオテンシン受容体ブロッカー]] [[ARB]]([[カンデサルタン]])、[[ACE阻害剤]]([[リシノプリル]])などが使用される<ref name=ref16>'''慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会'''<br>II 片頭痛 3. 予防療法<br>In: 日本神経学会・日本頭痛学会編、ed. 慢性頭痛の診療ガイドライン 2013<br>東京: ''医学書院''; 2013:145-187.</ref>。漢方薬では、[[呉茱萸湯]]が有効とされている。[[ビタミンB2]]や、サプリメントの[[wj:ナツシロギク#利用|feverfew]]も有用性が示されている。 | ||
非薬物療法として、[[運動療法]]や、[[認知行動療法]]、[[リラクセーション]]、[[鍼灸療法]]もおこなわれる。片頭痛の運動療法は非発作時に実施する。頭痛発作中は運動により頭痛が増悪する。 | 非薬物療法として、[[運動療法]]や、[[認知行動療法]]、[[リラクセーション]]、[[鍼灸療法]]もおこなわれる。片頭痛の運動療法は非発作時に実施する。頭痛発作中は運動により頭痛が増悪する。 | ||
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1. 1.1「前兆のない片頭痛」の診断基準C とD を満たす<br> | 1. 1.1「前兆のない片頭痛」の診断基準C とD を満たす<br> | ||
2. 1.2「前兆のある片頭痛」の診断基準B とCを満たす<br> | 2. 1.2「前兆のある片頭痛」の診断基準B とCを満たす<br> | ||
3. | 3. 発症時には片頭痛であったと患者が考えており、トリプタンあるいは[[麦角誘導体]]で改善する | ||
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| D.ほかに最適なICHD-3の診断がない | | D.ほかに最適なICHD-3の診断がない | ||
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[[群発頭痛]]は、[[眼窩]]、眼窩周囲、前頭部、側頭部の三叉神経領域の激痛と、眼充血、流涙、鼻汁漏などの自律神経症状で特徴づけられる頭痛性疾患である。頭痛発作は15分から3時間程度の持続で連日おこり、数カ月間の群発期が過ぎると自然に消退する<ref name=ref6 />。 | [[群発頭痛]]は、[[眼窩]]、眼窩周囲、前頭部、側頭部の三叉神経領域の激痛と、眼充血、流涙、鼻汁漏などの自律神経症状で特徴づけられる頭痛性疾患である。頭痛発作は15分から3時間程度の持続で連日おこり、数カ月間の群発期が過ぎると自然に消退する<ref name=ref6 />。 | ||
2004年の国際頭痛分類第2版で、発作性片側頭痛などの群発頭痛類縁疾患と合わせて三叉神経・自律神経性頭痛(trigeminal autonomic cephalalgias, TACs)としてまとめられた。ICHD-3βではさらにサブタイプの追加整理がなされている(表6) | |||
==== 疫学 ==== | ==== 疫学 ==== | ||
群発頭痛の有病率は10万人あたり56~401人程度と報告されている<ref name=ref20>'''慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会'''<br>IV 群発頭痛 3. 群発頭痛およびその他の三叉神経・自律神経性頭痛にはどの程度の患者が存在するか.危険因子、増悪因子にはどのようなものが存在するか.<br>In: 日本神経学会・日本頭痛学会編、ed. 慢性頭痛の診療ガイドライン 2013<br>東京: ''医学書院''; 2013:221-222.</ref>。 | 群発頭痛の有病率は10万人あたり56~401人程度と報告されている<ref name=ref20>'''慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会'''<br>IV 群発頭痛 3. 群発頭痛およびその他の三叉神経・自律神経性頭痛にはどの程度の患者が存在するか.危険因子、増悪因子にはどのようなものが存在するか.<br>In: 日本神経学会・日本頭痛学会編、ed. 慢性頭痛の診療ガイドライン 2013<br>東京: ''医学書院''; 2013:221-222.</ref>。 | ||
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===頭頸部外傷・傷害による頭痛 === | ===頭頸部外傷・傷害による頭痛 === | ||
サブタイプには、5.1「頭部外傷による急性頭痛」、5.2「頭部外傷による持続性頭痛」、5.3「[[ | サブタイプには、5.1「頭部外傷による急性頭痛」、5.2「頭部外傷による持続性頭痛」、5.3「[[wj:むち打ち|むち打ち]]による急性頭痛」、5.4「むち打ちによる持続性頭痛」、5.5「開頭術による急性頭痛」、5.6「開頭術による持続性頭痛」が掲載されている。頭痛が3ヵ月を超えて続くものを持続性頭痛と定義している。 | ||
===頭頸部血管障害による頭痛 === | ===頭頸部血管障害による頭痛 === | ||
364行目: | 366行目: | ||
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|6.4 [[動脈炎]]による頭痛<br> | |6.4 [[動脈炎]]による頭痛<br> | ||
6.4.1 [[巨細胞性動脈炎]] | 6.4.1 [[巨細胞性動脈炎]](GCA)による頭痛<br> | ||
6.4.2 [[中枢神経系原発性血管炎]](PACNS)による頭痛<br> | 6.4.2 [[中枢神経系原発性血管炎]](PACNS)による頭痛<br> | ||
6.4.3 [[中枢神経系続発性血管炎]](SACNS)による頭痛<br> | 6.4.3 [[中枢神経系続発性血管炎]](SACNS)による頭痛<br> | ||
392行目: | 394行目: | ||
===非血管性頭蓋内疾患による頭痛=== | ===非血管性頭蓋内疾患による頭痛=== | ||
7.1 「頭蓋内圧亢進性頭痛」、7.2 「低[[髄液]]圧による頭痛」、7.3 「非感染性炎症疾患性頭痛」、7.4 「頭蓋内新生物による頭痛」、7.5 「髄注による頭痛」、7.6 「てんかん発作による頭痛」、7.7 | 7.1 「頭蓋内圧亢進性頭痛」、7.2 「低[[髄液]]圧による頭痛」、7.3 「非感染性炎症疾患性頭痛」、7.4 「頭蓋内新生物による頭痛」、7.5 「髄注による頭痛」、7.6 「てんかん発作による頭痛」、7.7 「[[キアリ奇形]]I 型(CM1)による頭痛」、7.8 「その他の非血管性頭蓋内疾患による頭痛」が掲載されている。キアリ奇形I 型(CM1)による頭痛は、咳嗽やヴァルサルヴァ手技により増悪することも特徴であり、4.1「一次性咳嗽性頭痛」との鑑別が重要である。 | ||
===物質またはその離脱による頭痛=== | ===物質またはその離脱による頭痛=== | ||
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|13.7 [[トロサ・ハント症候群]](Tolosa-Hunt syndrome) | |13.7 [[トロサ・ハント症候群]](Tolosa-Hunt syndrome) | ||
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|13.8 [[傍三叉神経性眼交感症候群]]([[レーダー症候群]]) 〔Paratrigeminal oculosympathetic( | |13.8 [[傍三叉神経性眼交感症候群]]([[レーダー症候群]]) 〔Paratrigeminal oculosympathetic( Raeder's) syndrome〕 | ||
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|13.9 [[再発性有痛性眼筋麻痺性ニューロパチー]](Recurrent painful ophthalmoplegic neuropathy) | |13.9 [[再発性有痛性眼筋麻痺性ニューロパチー]](Recurrent painful ophthalmoplegic neuropathy) | ||
508行目: | 510行目: | ||
頭痛の存在は確実であるが、正確な頭痛の分類に必要な情報が不足している場合には「詳細不明の頭痛」としてコード化しておく。 | 頭痛の存在は確実であるが、正確な頭痛の分類に必要な情報が不足している場合には「詳細不明の頭痛」としてコード化しておく。 | ||
付記: 頭痛性疾患の同義語と用語の変遷について簡単に記す。頭痛名は国際頭痛分類第3版beta版に従うのが原則であり、特に頭痛研究、専門的頭痛診療では厳密に準拠して使用する必要がある。以前の文献には異なる名称が用いられていたものが多数あり、疾患理解の進歩、概念の変遷に伴い名称が変更されてきている。 | |||
* 前兆のない片頭痛(Migraine without aura): 「前兆を伴わない片頭痛」と訳されていたが国際頭痛分類第2版日本語版(2004)で「前兆のない片頭痛」に改訂された。普通型片頭痛(common migraine)、単純片側頭痛(hemicrania simplex)は前兆のない片頭痛(Migraine without aura)とほぼ同義である。 | |||
* 前兆のある片頭痛(migraine with aura):同様に「前兆を伴う片頭痛」から改訂された。典型的または古典的片頭痛(classic or classical migraine)は前兆のある片頭痛(migraine with aura)とほぼ同義である。 | |||
* 脳幹性前兆を伴う片頭痛(migraine with brainstem aura): 脳底動脈片頭痛(basilar artery migraine)、脳底片頭痛(basilar migraine)、脳底型片頭痛(basilar-type migraine)とほぼ同義である。以前は脳底動脈の収縮による虚血が中心的病態と考えられたが、脳底動脈の関与のエビデンスが乏しいことから「脳底型」に変更され、さらに「脳幹性前兆」に変更された。Migraine stupor、confusional migraineは意識障害を伴う片頭痛発作に用いられた用語であるが、多くは「脳幹性前兆を伴う片頭痛」あるいは、「遷延性前兆で脳梗塞を伴わないもの」に該当する。現在は頭痛診断名としては用いない。 | |||
* 片頭痛の合併症(complications of migraine):表2に示したサブフォームがある。以前用いられた複雑(型)片頭痛(complicated migraine, complex migraine)は研究者により内容が異なる。通常の片頭痛とは異なるという意味で用いられる場合と、前兆の遷延や脳梗塞の併発に用いられる場合などがあった。 | |||
* 片頭痛に関連する周期性症候群(episodic syndromes that may be associated with migraine)には、表2に示すごとく腹部片頭痛(abdominal migraine)や、良性発作性めまい(benign paroxysmal vertigo)が含まれる。これら頭痛以外の症状が発作性反復性に発現し片頭痛と同等と考えられるものを、片頭痛等価症(migraine equivalent)と記載されることがある。ICHD-2では小児周期性症候群(片頭痛に移行することが多いもの)[childhood periodic syndromes that are commonly precursor of migraine]として記載されていた。 | |||
* 緊張型頭痛(tension-type headache): 緊張性頭痛(tension headache)、筋収縮性頭痛(muscle contraction headache)はほぼ同義に使用されてきた。ストレス頭痛(stress headache)、本態性頭痛(essential headache)、特発性頭痛(idiopathic headache)および心因性頭痛(psychogenic headache)も大部分は現在の緊張型頭痛に該当するが、個々の研究により定義が異なり、片頭痛の一部が含まれる場合や、精神疾患による頭痛、身体化障害による頭痛が含まれると考えられる場合などがある。 | |||
* 群発頭痛(Cluster headache):毛様体神経痛(ciliary neuralgia)、ヒスタミン性頭痛(histaminic cephalalgia)、ホートン頭痛(Horton's headache)などの記載が用いられていたが、現在はほとんど使用されなくなった。 | |||
==参考文献== | ==参考文献== | ||
<references /> | <references /> |