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''東邦大学医学部医学科生理学講座統合生理学分野''<br> | ''東邦大学医学部医学科生理学講座統合生理学分野''<br> | ||
<font size="+1">大久保 洋平</font><br> | <font size="+1">大久保 洋平</font><br> | ||
'' | ''東京大学 / 医学(系)研究科(研究院)''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> | DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年5月6日 原稿完成日:2016年6月15日<br> | ||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/haruokasai 河西 春郎](東京大学 大学院医学系研究科)<br><br> | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/haruokasai 河西 春郎](東京大学 大学院医学系研究科)<br><br> | ||
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}} | }} | ||
[[ファイル: | [[ファイル:calciumstores.jpg|400px|thumb|right|細胞内カルシウムストアによるカルシウムイオン(Ca<sup>2+</sup>)の取り込みと放出]] | ||
==細胞内カルシウムシグナル== | ==細胞内カルシウムシグナル== | ||
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===小胞体へのカルシウムイオン取り込み=== | ===小胞体へのカルシウムイオン取り込み=== | ||
小胞体内腔へのカルシウムイオン取り込みを担う[[カルシウムイオンポンプ]]は、[[筋小胞体/小胞体カルシウムATPアーゼ]]([[sarco/endoplasmic reticulum Ca<sup>2+</sup>-ATPase]]; [[SERCA]])である。SERCAは小胞体膜に局在し、[[ATP]]を分解することによってカルシウムイオンを濃度勾配に逆らい取り込む<ref><pubmed> 8388268 </pubmed></ref>。SERCAの活性は細胞質カルシウムイオンの除去によるカルシウムシグナル形成のみならず、小胞体内腔の高いカルシウムイオン濃度の維持に不可欠である。 | 小胞体内腔へのカルシウムイオン取り込みを担う[[カルシウムイオンポンプ]]は、[[筋小胞体/小胞体カルシウムATPアーゼ]]([[sarco/endoplasmic reticulum Ca2+-ATPase|sarco/endoplasmic reticulum Ca<sup>2+</sup>-ATPase]]; [[SERCA]])である。SERCAは小胞体膜に局在し、[[ATP]]を分解することによってカルシウムイオンを濃度勾配に逆らい取り込む<ref><pubmed> 8388268 </pubmed></ref>。SERCAの活性は細胞質カルシウムイオンの除去によるカルシウムシグナル形成のみならず、小胞体内腔の高いカルシウムイオン濃度の維持に不可欠である。 | ||
実際に[[タプシガルギン]]などのSERCA[[阻害薬]]を処置することで、小胞体内腔のカルシウムイオン濃度が大きく減少する(カルシウムイオン枯渇)。カルシウムイオン枯渇により、小胞体膜上の[[STIM1]]を介して細胞膜のカルシウムイオンチャネル[[Orai]]が活性化される([[容量依存性カルシウムイオン流入]])。これは小胞体内腔のカルシウムイオン濃度を維持するための[[恒常性]]機構であると期待される<ref><pubmed> 22914293 </pubmed></ref>。 | 実際に[[タプシガルギン]]などのSERCA[[阻害薬]]を処置することで、小胞体内腔のカルシウムイオン濃度が大きく減少する(カルシウムイオン枯渇)。カルシウムイオン枯渇により、小胞体膜上の[[STIM1]]を介して細胞膜のカルシウムイオンチャネル[[Orai]]が活性化される([[容量依存性カルシウムイオン流入]])。これは小胞体内腔のカルシウムイオン濃度を維持するための[[恒常性]]機構であると期待される<ref><pubmed> 22914293 </pubmed></ref>。 | ||
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==ミトコンドリア== | ==ミトコンドリア== | ||
[[ミトコンドリア]]は[[ATP]]合成などを担う[[細胞内小器官]] | [[ミトコンドリア]]は[[ATP]]合成などを担う[[細胞内小器官]]であるが、カルシウムイオンの取り込みおよび放出機構を有しており、細胞内カルシウムストアとしても機能する。 | ||
===ミトコンドリアへのカルシウムイオン取り込み=== | ===ミトコンドリアへのカルシウムイオン取り込み=== | ||
ミトコンドリアへのカルシウムイオンの取り込みを主に担っているのは、ミトコンドリア[[内膜]]上に存在する、[[ミトコンドリアカルシウムユニポーター]](mitochondrial calcium uniporter; MCU)と呼ばれるカルシウムイオンチャネルである<ref><pubmed> 21685886 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 21685888 </pubmed></ref>。ミトコンドリアカルシウムユニポーターは細胞質カルシウムイオン濃度上昇に依存して開口し、ミトコンドリア[[ミトコンドリア|マトリックス]]内外の大きな電位差に従い、細胞質からカルシウムイオンを流入させる。ミトコンドリアカルシウムユニポーターの開口を制御するタンパク質も近年報告されている<ref><pubmed> 23101630 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 24231807 </pubmed></ref>。 | |||
また、カルシウムイオントランスポーターとして[[Letm1]]が同定されている<ref><pubmed> 19797662 </pubmed></ref>。マトリックスへのカルシウムイオン取り込みと[[ | また、カルシウムイオントランスポーターとして[[Letm1]]が同定されている<ref><pubmed> 19797662 </pubmed></ref>。マトリックスへのカルシウムイオン取り込みと[[wj:プロトン|プロトン]]汲み出しを共役する[[Ca2+/H+アンチポーター|Ca<sup>2+</sup>/H<sup>+</sup>アンチポーター]]であると考えられる。 | ||
===ミトコンドリアからのカルシウムイオン放出=== | ===ミトコンドリアからのカルシウムイオン放出=== | ||
ミトコンドリアからカルシウムイオンを放出する分子として、ミトコンドリア内膜に存在する[[Na+/Ca2+アンチポーター|Na<sup>+</sup>/Ca<sup>2+</sup>アンチポーター]](Na<sup>+</sup>/Ca<sup>2+</sup> exchanger; NCLX)が挙げられる<ref><pubmed> 20018762 </pubmed></ref>。また、生理的条件下では開口しないものの、過剰なカルシウムイオン濃度上昇や[[ | ミトコンドリアからカルシウムイオンを放出する分子として、ミトコンドリア内膜に存在する[[Na+/Ca2+アンチポーター|Na<sup>+</sup>/Ca<sup>2+</sup>アンチポーター]](Na<sup>+</sup>/Ca<sup>2+</sup> exchanger; NCLX)が挙げられる<ref><pubmed> 20018762 </pubmed></ref>。また、生理的条件下では開口しないものの、過剰なカルシウムイオン濃度上昇や[[アポトーシス]]誘発因子[[Bax]]などによって開く、[[ミトコンドリア膜透過性遷移孔]](mitochondrial permeability transition pore; mPTP)というチャネル状の構造体が存在する。開口するとミトコンドリア内膜および[[外膜]]の透過性が大きく亢進し、カルシウムイオンを含むさまざまな物質が漏出する。 | ||
===ミトコンドリアの細胞内カルシウムストアとしての意義=== | ===ミトコンドリアの細胞内カルシウムストアとしての意義=== | ||
カルシウムイオンの取り込みと放出を通じて、カルシウムウェーブやカルシウムオシレーションの形成に寄与している<ref><pubmed> 16415789 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 7566122 </pubmed></ref> | カルシウムイオンの取り込みと放出を通じて、カルシウムウェーブやカルシウムオシレーションの形成に寄与している<ref><pubmed> 16415789 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 7566122 </pubmed></ref>。また、mPTPはカルシウムイオンとともに[[wj:シトクロムC|シトクロムC]]を放出させ、[[カスパーゼ]]経路を介した[[細胞死]]を引き起こす<ref><pubmed> 10393078 </pubmed></ref>。 | ||
ミトコンドリアは[[mitofusin2]]などの因子を介して、小胞体と近接して局在する<ref><pubmed> 19052620 </pubmed></ref>。これにより、小胞体から放出されたカルシウムイオンがミトコンドリアに効率的に取り込まれる<ref><pubmed> 9624056 </pubmed></ref>。このような小胞体とミトコンドリアの連関は、局所的なATP合成の活性化などを促す役割があると考えられる<ref><pubmed> 20655468 </pubmed></ref>。 | ミトコンドリアは[[mitofusin2]]などの因子を介して、小胞体と近接して局在する<ref><pubmed> 19052620 </pubmed></ref>。これにより、小胞体から放出されたカルシウムイオンがミトコンドリアに効率的に取り込まれる<ref><pubmed> 9624056 </pubmed></ref>。このような小胞体とミトコンドリアの連関は、局所的なATP合成の活性化などを促す役割があると考えられる<ref><pubmed> 20655468 </pubmed></ref>。 |