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== 定義と概要 == | == 定義と概要 == | ||
腹側線条体はHeimerらによって提唱された概念で<ref name=Heimer1975>Heimer, L.<br>'''The subcortical projections of the allocortex: similarities in the neural associations of the hippocampus, the piriform cortex, and the neocortex.'''<br>In ''Golgi Centennial Symposium: Perspectives in Neurobiology'' M Santini, Ed: 177-193 Raven Press New York. 1975 | 腹側線条体はHeimerらによって提唱された概念で<ref name=Heimer1975>Heimer, L.<br>'''The subcortical projections of the allocortex: similarities in the neural associations of the hippocampus, the piriform cortex, and the neocortex.'''<br>In ''Golgi Centennial Symposium: Perspectives in Neurobiology'' M Santini, Ed: 177-193 Raven Press New York. 1975</ref> 、[[側坐核]](the nucleus accumbens NAcc)を中心として、それに接する[[前交連]]より吻側の[[尾状核]]腹内側から内包の腹側へ続く領域、[[被殻]]腹内側、[[外側嗅索]]に接する[[前有孔質]](anterior perforated substance)を含む領域を含み、腹側は[[嗅結節]](olfactory tubercle)に続く。 | ||
</ref> 、[[側坐核]](the nucleus accumbens NAcc)を中心として、それに接する[[前交連]]より吻側の[[尾状核]]腹内側から内包の腹側へ続く領域、[[被殻]]腹内側、[[外側嗅索]]に接する[[前有孔質]](anterior perforated substance)を含む領域を含み、腹側は[[嗅結節]](olfactory tubercle)に続く。 | |||
腹側線条体の大半を占める側坐核は[[薬物中毒]]・[[統合失調症]]・[[強迫性障害]]・[[注意欠陥多動性障害]]等の[[精神疾患]]との関連が指摘され、多くの知見が報告されている。 | 腹側線条体の大半を占める側坐核は[[薬物中毒]]・[[統合失調症]]・[[強迫性障害]]・[[注意欠陥多動性障害]]等の[[精神疾患]]との関連が指摘され、多くの知見が報告されている。 | ||
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扁桃体は[[辺縁系]]の一部で、外界の[[情動]]的な情報を伝達していると考えられている。この扁桃体から背側線条体への投射はほとんど存在しない。腹側線条体への投射は扁桃体の[[基底核]]と[[副基底核]]大細胞部からである.外側部からの腹側線条体への投射は少ない. | 扁桃体は[[辺縁系]]の一部で、外界の[[情動]]的な情報を伝達していると考えられている。この扁桃体から背側線条体への投射はほとんど存在しない。腹側線条体への投射は扁桃体の[[基底核]]と[[副基底核]]大細胞部からである.外側部からの腹側線条体への投射は少ない. | ||
扁桃体は複数の核から成るが、嗅覚を除くすべてのmodalityの高度知覚処理に関わる[[基底外側複合体]](basolateral nuclear group, BLNG, [[外側核]]、[[基底核]]、[[副基底核]] the basal and accessory basal nucleiから成る)がshellを除く腹側線条体への主な入力元である<ref name=Iwai1987><pubmed>3611417</pubmed></ref><ref name=Pitkanen1997><pubmed>9364666</pubmed></ref><ref name=Russchen1987><pubmed></pubmed></ref> 。Shellへの扁桃体からの入力はやや複雑であり、基底外側複合体に加え、[[皮質核]]・[[内側核]]・[[中心核]]からの入力がある。中心核には外界(BLNGを介して)や体内の状態([[外側視床下部]]や脳幹を介して)の情報の入力があり、shellでは例えば外界の知覚入力と体内の例えば空腹という状態をあわせて、drive状態にすることに関与する。 | 扁桃体は複数の核から成るが、嗅覚を除くすべてのmodalityの高度知覚処理に関わる[[基底外側複合体]](basolateral nuclear group, BLNG, [[外側核]]、[[基底核]]、[[副基底核]] the basal and accessory basal nucleiから成る)がshellを除く腹側線条体への主な入力元である<ref name=Iwai1987><pubmed>3611417</pubmed></ref><ref name=Pitkanen1997><pubmed>9364666</pubmed></ref><ref name=Russchen1987><pubmed>3549796</pubmed></ref> 。Shellへの扁桃体からの入力はやや複雑であり、基底外側複合体に加え、[[皮質核]]・[[内側核]]・[[中心核]]からの入力がある。中心核には外界(BLNGを介して)や体内の状態([[外側視床下部]]や脳幹を介して)の情報の入力があり、shellでは例えば外界の知覚入力と体内の例えば空腹という状態をあわせて、drive状態にすることに関与する。 | ||
海馬はさらに限られた領域であるshell へ投射し、扁桃体からの投射とoverlapしている<ref name=Friedman2002><pubmed>12209848</pubmed></ref><ref name=Saunders1988><pubmed>2454246</pubmed></ref> 。 | 海馬はさらに限られた領域であるshell へ投射し、扁桃体からの投射とoverlapしている<ref name=Friedman2002><pubmed>12209848</pubmed></ref><ref name=Saunders1988><pubmed>2454246</pubmed></ref> 。 | ||
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腹側線条体は種を超えて[[快感]]・報酬・[[意欲]]・[[嗜癖]]・[[恐怖]]の情報処理に重要な役割を果たし、[[報酬獲得行動]]や[[薬物中毒]]の病態の責任部位であると考えられている。近年は[[徐波睡眠]]との関連も明らかになってきている<ref name=Oishi2017><pubmed>28963505</pubmed></ref> 。 | 腹側線条体は種を超えて[[快感]]・報酬・[[意欲]]・[[嗜癖]]・[[恐怖]]の情報処理に重要な役割を果たし、[[報酬獲得行動]]や[[薬物中毒]]の病態の責任部位であると考えられている。近年は[[徐波睡眠]]との関連も明らかになってきている<ref name=Oishi2017><pubmed>28963505</pubmed></ref> 。 | ||
=== 空間探索行動と行動選択 === | === 空間探索行動と行動選択 === | ||
[[げっ歯類]]において、側坐核coreの障害実験により、この領域が空間情報・目標・[[教師信号]]などの入力を受けゴールにたどり着くための[[行動選択]]([[空間探索行動]], spatial navigation)に関わる<ref name=Sargolini2003><pubmed>12888547</pubmed></ref><ref name=Ploeger1994><pubmed>7826515</pubmed></ref> ことが示された。神経活動記録でも、側坐核coreのmedium spiny neuronが、いわゆるplace cellに相当する特定の居場所での発火を示すこと<ref name=Shibata2001><pubmed> | [[げっ歯類]]において、側坐核coreの障害実験により、この領域が空間情報・目標・[[教師信号]]などの入力を受けゴールにたどり着くための[[行動選択]]([[空間探索行動]], spatial navigation)に関わる<ref name=Sargolini2003><pubmed>12888547</pubmed></ref><ref name=Ploeger1994><pubmed>7826515</pubmed></ref> ことが示された。神経活動記録でも、側坐核coreのmedium spiny neuronが、いわゆるplace cellに相当する特定の居場所での発火を示すこと<ref name=Shibata2001><pubmed>11738254</pubmed></ref><ref name=Mulder2004>15078566</pubmed></ref> 、さらにはその場所からの歩行の方向<ref name=Peoples1998><pubmed>9736676</pubmed></ref> によっても発火頻度が変化することが報告された。一方、shellの障害では、海馬からの入力が強いにもかかわらずそのような位置情報への影響は見られない。 | ||
=== 情動や意欲、意思決定 === | === 情動や意欲、意思決定 === | ||
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[[ヒト]]の非侵襲的イメージングでは腹側線条体が報酬の予測・評価・報酬予測誤差の表現や、動機に基づいた学習に関与していることが示されたが、報酬の時間的予測については結論に差異がある<ref name=Knutson2001><pubmed>11459880</pubmed></ref><ref name=Pagnoni2002><pubmed>11802175</pubmed></ref><ref name=Tanaka2004><pubmed>15235607</pubmed></ref><ref name=ODoherty2004><pubmed>15087550</pubmed></ref><ref name=Kuhnen2005><pubmed>16129404</pubmed></ref> 。 | [[ヒト]]の非侵襲的イメージングでは腹側線条体が報酬の予測・評価・報酬予測誤差の表現や、動機に基づいた学習に関与していることが示されたが、報酬の時間的予測については結論に差異がある<ref name=Knutson2001><pubmed>11459880</pubmed></ref><ref name=Pagnoni2002><pubmed>11802175</pubmed></ref><ref name=Tanaka2004><pubmed>15235607</pubmed></ref><ref name=ODoherty2004><pubmed>15087550</pubmed></ref><ref name=Kuhnen2005><pubmed>16129404</pubmed></ref> 。 | ||
Nicolaらは腹側被蓋野・内側前頭葉・扁桃体基底外側複合体の、側坐核単一細胞の発火への影響を調べた。[[ラット]]が音を弁別してレバー押しやnose pokeで反応することを学習すると、側坐核ニューロンは音に反応するが、腹側被蓋野・内側前頭葉・扁桃体からの入力をブロックすると側坐核ニューロンの発火が弱まり、弁別反応の正解率も低下する<ref name=Yun2004><pubmed>15044531</pubmed></ref> <ref name=Ishikawa2008><pubmed>18463262</pubmed></ref> | Nicolaらは腹側被蓋野・内側前頭葉・扁桃体基底外側複合体の、側坐核単一細胞の発火への影響を調べた。[[ラット]]が音を弁別してレバー押しやnose pokeで反応することを学習すると、側坐核ニューロンは音に反応するが、腹側被蓋野・内側前頭葉・扁桃体からの入力をブロックすると側坐核ニューロンの発火が弱まり、弁別反応の正解率も低下する<ref name=Yun2004><pubmed>15044531</pubmed></ref> <ref name=Ishikawa2008><pubmed>18463262</pubmed></ref> <ref name=Ambroggi2008><pubmed>18760700</pubmed></ref> 。したがって、これらの領域からの情報が側坐核で統合することが刺激―行動に必須であると結論付けられた。 | ||
一方、側坐核は報酬などの目的達成のためのオペラント条件付けそのものというより、現在進行中の行動から、一定の時間を経て別の行動に変化する過程に重要であるという意見がある<ref name=Cardinal2001><pubmed>11375482</pubmed></ref><ref name=Cardinal2002><pubmed>12034134</pubmed></ref><ref name=Nicola2007><pubmed>16983543</pubmed></ref> 。さらに、サルの腹側線条体細胞の特徴として、例えば視覚刺激→行動という単一試行の課題では課題に反応する細胞の割合は10%前後だが、複数のステップを経て報酬を得るような[[多試行報酬スケジュール課題]]では反応する細胞が60%前後と非常に多い。これらはスケジュールのうち特定の段階で、視覚手がかりへの応答や運動への応答報酬投与に応答する<ref name=Shidara1998><pubmed>9502820</pubmed></ref> 。 | 一方、側坐核は報酬などの目的達成のためのオペラント条件付けそのものというより、現在進行中の行動から、一定の時間を経て別の行動に変化する過程に重要であるという意見がある<ref name=Cardinal2001><pubmed>11375482</pubmed></ref><ref name=Cardinal2002><pubmed>12034134</pubmed></ref><ref name=Nicola2007><pubmed>16983543</pubmed></ref> 。さらに、サルの腹側線条体細胞の特徴として、例えば視覚刺激→行動という単一試行の課題では課題に反応する細胞の割合は10%前後だが、複数のステップを経て報酬を得るような[[多試行報酬スケジュール課題]]では反応する細胞が60%前後と非常に多い。これらはスケジュールのうち特定の段階で、視覚手がかりへの応答や運動への応答報酬投与に応答する<ref name=Shidara1998><pubmed>9502820</pubmed></ref> 。 |