「SYNGAP1」の版間の差分

1,553 バイト追加 、 2019年10月8日 (火)
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{{box|text= SynGAPは、ポストシナプスに局在するRasGAPタンパク質であり、CaMKIIの下流においてRasの活性を制御することで、シナプス可塑性に関与している。C末端のCoiled-CoilドメインやPDZリガンドを介しPSD-95と結合することで、PSD-95と共に液体-液体相転移現象を起こし、シナプス後膜肥厚 (postsynaptic density; PSD) という脂質二重膜を持たない細胞内小器官の生化学的基盤を提供していると考えられている。}}
{{box|text= SynGAPは、ポストシナプスに局在するRasGAPタンパク質であり、CaMKIIの下流においてRasの活性を制御することで、シナプス可塑性に関与している。C末端のCoiled-CoilドメインやPDZリガンドを介しPSD-95と結合することで、PSD-95と共に液体-液体相転移現象を起こし、シナプス後膜肥厚 (postsynaptic density; PSD) という脂質二重膜を持たない細胞内小器官の生化学的基盤を提供していると考えられている。}}
 
 
[[ファイル:Syngap Fig1.png|サムネイル|'''図1. SynGAPの構造'''<br>N末より、PHドメイン、C2ドメイン、GAPドメイン、コイルドコイル領域を持つ。&alpha;1アイソフォームのみ、PSD-95との結合に必要なPDZリガンドを持つ。N末にA,B,Cのスプライシングアイソフォーム、C末に&alpha;1,&alpha;2,&beta;,&gamma;のスプライシングアイソフォームを持つ。実際のスプライシングはN末、C末の組み合わせであるため、SynGAP A&alpha;1のように表記する。]]
[[ファイル:Syngap Fig2.png|サムネイル|'''図2. SynGAPの機能'''<br>
'''A.''' SynGAPは基底状態においてはシナプスに高度に蓄積し、Rasの活性を低く保っている。シナプスのNMDA受容体刺激により、CaMKIIが活性化されると、リン酸化され、スパインの外に分散し、AMPA受容体のシナプスへの挿入、スパイン肥大化を引き起こす。<br>
'''B.''' SynGAPはin vitroでPSD-95とPhase separationを引き起こす。シナプスにおける豊富な存在と、この生化学的性質は、SynGAP/PSD95複合体がPSDという脂質二重膜を持たない小器官の生化学的基盤を提供するのに適している。]]
[[ファイル:Syngap Fig3.png|サムネイル|'''図3. SynGAPの発達障害との関連'''<br>知的障害、自閉症などの発達障害において、SYNGAP1の変異が高頻度に見出されている。遺伝子の構造と、見つかった変異の一例を示す。]]
== イントロダクション ==
== イントロダクション ==
 SynGAP (Synaptic Ras-GTPase Activating Protein 1)は、シナプスに高度に蓄積する低分子GTP結合タンパク質Rasに対するGTPase活性化蛋白質 (RasGAP)である('''図1''')。Ca2+/カルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素II (CaMKII)の下流においてシナプス内のRasの活性を制御することで<ref name=Chen1998><pubmed>9620694</pubmed></ref><ref name=Kim1998><pubmed>9581761</pubmed></ref> 、シナプス可塑性(長期増強)の発現に深くかかわっている<ref name=Kim2003><pubmed>12598599</pubmed></ref><ref name=Komiyama2002><pubmed>12427827</pubmed></ref> 。RasGAPとして、基底状態ではRasに結合したGTPの加水分解を促進する([[GTP]]->[[GDP]])ことで、Rasの活性化を阻害しているが、NMDA型グルタミン酸受容体 (NMDAR)-CaMKIIシグナルに依存してリン酸化されることでシナプス外に移動し、結果的にNMDAR依存的にシナプスでのRasの活性化を誘導する('''図2A''')。これにより、AMPA型グルタミン酸受容体 (AMPAR)のシナプス後部への挿入やスパインの肥大化を引き起こす<ref name=Araki2015><pubmed>25569349</pubmed></ref> 。
 SynGAP (Synaptic Ras-GTPase Activating Protein 1)は、シナプスに高度に蓄積する低分子GTP結合タンパク質Rasに対するGTPase活性化蛋白質 (RasGAP)である('''図1''')。Ca2+/カルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素II (CaMKII)の下流においてシナプス内のRasの活性を制御することで<ref name=Chen1998><pubmed>9620694</pubmed></ref><ref name=Kim1998><pubmed>9581761</pubmed></ref> 、シナプス可塑性(長期増強)の発現に深くかかわっている<ref name=Kim2003><pubmed>12598599</pubmed></ref><ref name=Komiyama2002><pubmed>12427827</pubmed></ref> 。RasGAPとして、基底状態ではRasに結合したGTPの加水分解を促進する([[GTP]]->[[GDP]])ことで、Rasの活性化を阻害しているが、NMDA型グルタミン酸受容体 (NMDAR)-CaMKIIシグナルに依存してリン酸化されることでシナプス外に移動し、結果的にNMDAR依存的にシナプスでのRasの活性化を誘導する('''図2A''')。これにより、AMPA型グルタミン酸受容体 (AMPAR)のシナプス後部への挿入やスパインの肥大化を引き起こす<ref name=Araki2015><pubmed>25569349</pubmed></ref> 。