「脳死」の版間の差分

43 バイト追加 、 2021年2月27日 (土)
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== 国内外の動向 ==
== 国内外の動向 ==
=== 国際的動向 ===
=== 国際的動向 ===
 現在なお、脳死に関する議論は米国を中心に行なわれている。脳死の概念をめぐる議論に大きな変化は無いが、脳死判定方法の啓発、そのためのpracticalなさまざまなツール、機会を米国神経学会および米国Neurocritical Care Society (NCS)が積極的に提供していることが近年の特徴である。米国神経学会ガイドライン(2010年)は、practicalで有用なツール「Checklist for determining brain death」をパワーポイントスライドとして提供している <ref name=Wijdicks2010></ref>[10]。先述のWijdicks教授は、「The Comatose Patient」(2014年)で、自身による貴重なビデオクリップを多数提供しており、正統的な脳死判定の実際を供覧する一方<ref name=E.F.M.2014>Wijdicks E.F.M. (2014)<br>The Comatose Patient, Oxford University Press, [https://doi.org/10.1093/med/9780199331215.001.0001 PDF]</ref>[23]、新たなシミュレーションモデルを発表している<ref name=Hocker2015><pubmed>25898887</pubmed></ref>[24]。またシカゴ大学によるワークショップ<ref name=The2019>'''The University of Chicago (2019).'''<br>Brain Death Simulation Workshop</ref>[25]のほか、とくに充実しているものとして米国Neurocritical Care SocietyによるBrain Death Determination Course<ref name=Neurocritical2020> Neurocritical Care Society (2020).<br>Brain Death Determination Course</ref> [26]がある。
 現在なお、脳死に関する議論は米国を中心に行なわれている。脳死の概念をめぐる議論に大きな変化は無いが、脳死判定方法の啓発、そのためのpracticalなさまざまなツール、機会を米国神経学会および米国Neurocritical Care Society (NCS)が積極的に提供していることが近年の特徴である。米国神経学会ガイドライン(2010年)は、practicalで有用なツール「Checklist for determining brain death」をパワーポイントスライドとして提供している <ref name=Wijdicks2010></ref>[10]。先述のWijdicks教授は、「The Comatose Patient」(2014年)で、自身による貴重なビデオクリップを多数提供しており、正統的な脳死判定の実際を供覧する一方<ref name=E.F.M.2014>'''Wijdicks, E.F.M. (2014).'''<br>The Comatose Patient, Oxford University Press, [https://doi.org/10.1093/med/9780199331215.001.0001 PDF]</ref>[23]、新たなシミュレーションモデルを発表している<ref name=Hocker2015><pubmed>25898887</pubmed></ref>[24]。またシカゴ大学によるワークショップ<ref name=The2019>'''The University of Chicago (2019).'''<br>Brain Death Simulation Workshop</ref>[25]のほか、とくに充実しているものとして米国Neurocritical Care SocietyによるBrain Death Determination Course<ref name=Neurocritical2020> '''Neurocritical Care Society (2020).'''<br>Brain Death Determination Course</ref> [26]がある。


 2020年8月、The World Brain Death Projectによる脳死判定標準化に向けた事実上の初のガイドラインが公表された<ref name=Greer2020></ref> [19]。国家間、国内(とくに米国)における脳死[brain death (BD)/death by neurologic criteria (DNC)]、後者は欧米では頻用される)診断の現状を明らかにするとともに、標準化のための用語統一、脳死判定基準の推奨が明記された。脳死判定基準に関しては、(1)瞳孔正中位・散大、対光反射消失、(2)角膜反射、眼球頭反射、前庭反射、咳反射、咽頭反射の消失、(3)疼痛刺激に対して顔面の動き無し、(4)脳を介する運動反応無し、(5)無呼吸テスト、が推奨された。さらに可能であれば全脳死、脳幹死は用いずBD/DNCという用語を用いること、成人ではルーティンの脳波検査は行わないこと、地域のクライテリアを尊重すること、などが推奨されている。
 2020年8月、The World Brain Death Projectによる脳死判定標準化に向けた事実上の初のガイドラインが公表された<ref name=Greer2020></ref> [19]。国家間、国内(とくに米国)における脳死[brain death (BD)/death by neurologic criteria (DNC)]、後者は欧米では頻用される)診断の現状を明らかにするとともに、標準化のための用語統一、脳死判定基準の推奨が明記された。脳死判定基準に関しては、(1)瞳孔正中位・散大、対光反射消失、(2)角膜反射、眼球頭反射、前庭反射、咳反射、咽頭反射の消失、(3)疼痛刺激に対して顔面の動き無し、(4)脳を介する運動反応無し、(5)無呼吸テスト、が推奨された。さらに可能であれば全脳死、脳幹死は用いずBD/DNCという用語を用いること、成人ではルーティンの脳波検査は行わないこと、地域のクライテリアを尊重すること、などが推奨されている。


 欧米では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック下における脳死判定について、無呼吸テストの代わりに各種補助検査を行うなどの指針、ガイドラインが公表されている<ref name=Brigham2020>Brigham and Women's Hospital (2020).<br>COVID-19 Clinical Guidelines: https://covidprotocols.org/</ref><ref name=Addendum2020>Addendum to Emory Healthcare's Brain Death Determination Policy effective 04/17/2020. https://www.emoryhealthcare.org/ui/pdfs/covid/medical-professionals/Brain Death Testing in the Setting of COVID-19.pdf</ref><ref name=Migdady2020><pubmed>32732294</pubmed></ref> [27][28][29]。
 欧米では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック下における脳死判定について、無呼吸テストの代わりに各種補助検査を行うなどの指針、ガイドラインが公表されている<ref name=Brigham2020>'''Brigham and Women's Hospital (2020).'''<br>COVID-19 Clinical Guidelines. [https://covidprotocols.org/ リンク]</ref><ref name=Addendum2020>Addendum to Emory Healthcare's Brain Death Determination Policy effective 04/17/2020. [https://www.emoryhealthcare.org/ui/pdfs/covid/medical-professionals/Brain%20Death%20Testing%20in%20the%20Setting%20of%20COVID-19.pdf PDF]</ref><ref name=Migdady2020><pubmed>32732294</pubmed></ref> [27][28][29]。


=== 国内動向 ===
=== 国内動向 ===
 わが国でも厚生労働省研究班、日本臓器移植関連学会協議会、日本脳死・脳蘇生学会、日本救急医学会脳死・臓器移植に関する委員会、日本蘇生協議会、日本神経学会神経救急セクション、日本神経救急学会、日本臨床救急医学会移植医療における救急医療のあり方に関する検討委員会等で、さまざまな議論、環境整備、ガイドライン策定等が進められている。
 わが国でも厚生労働省研究班、日本臓器移植関連学会協議会、日本脳死・脳蘇生学会、日本救急医学会脳死・臓器移植に関する委員会、日本蘇生協議会、日本神経学会神経救急セクション、日本神経救急学会、日本臨床救急医学会移植医療における救急医療のあり方に関する検討委員会等で、さまざまな議論、環境整備、ガイドライン策定等が進められている。


 2021年、上智大学生命倫理研究所が「死のしるし 脳死と臓器移植に関する教皇庁のワークショップ」を出版した<ref name=教皇庁科学アカデミー教皇庁科学アカデミー2021>'''教皇庁科学アカデミー教皇庁科学アカデミー著 (2021).'''<br>上智大学生命倫理研究所監訳. 死のしるし 脳死と臓器移植に関する教皇庁のワークショップ. 上智大学出版</pubmed></ref>[30]。これは教皇庁科学アカデミーが主催した、死の概念・基準としての「脳死」についてのワーキング・グループの記録(翻訳、訳注、新規解説)で、教皇庁が脳死反対論者を交え、世界を代表する神学・医学・哲学等の研究者、医師による徹底した議論を行った全記録である。日本の議論に一石を投じる大変有意義な書籍と言えよう。
 2021年、上智大学生命倫理研究所が「死のしるし 脳死と臓器移植に関する教皇庁のワークショップ」を出版した<ref name=教皇庁科学アカデミー教皇庁科学アカデミー2021>'''教皇庁科学アカデミー教皇庁科学アカデミー著 (2021).'''<br>上智大学生命倫理研究所監訳. 死のしるし 脳死と臓器移植に関する教皇庁のワークショップ. 上智大学出版</ref>[30]。これは教皇庁科学アカデミーが主催した、死の概念・基準としての「脳死」についてのワーキング・グループの記録(翻訳、訳注、新規解説)で、教皇庁が脳死反対論者を交え、世界を代表する神学・医学・哲学等の研究者、医師による徹底した議論を行った全記録である。日本の議論に一石を投じる大変有意義な書籍と言えよう。


==参考文献==
==参考文献==
<references />
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