「嗅覚受容体」の版間の差分

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 嗅覚受容体は[[Gタンパク質共役型受容体]]ファミリーのうち、[[ロドプシン]]ファミリーとよばれるサブファミリーに属し、ヘリックス構造から成る7回膜貫通構造を有する('''図1''')。全てのGタンパク質共役型受容体に共通な配列の他、3番目の膜貫通領域細胞質側のMAYDRYVAICモチーフをはじめ、嗅覚受容体を特徴づける複数の配列をもつ。
 嗅覚受容体は[[Gタンパク質共役型受容体]]ファミリーのうち、[[ロドプシン]]ファミリーとよばれるサブファミリーに属し、ヘリックス構造から成る7回膜貫通構造を有する('''図1''')。全てのGタンパク質共役型受容体に共通な配列の他、3番目の膜貫通領域細胞質側のMAYDRYVAICモチーフをはじめ、嗅覚受容体を特徴づける複数の配列をもつ。


 [[哺乳類]]嗅覚受容体は、アミノ酸配列の相同性からクラスI、クラスIIに分類され、哺乳類嗅覚受容体の約10~20%がクラスIである <ref name=Niimura2007><pubmed></pubmed></ref>。認識するリガンドが、クラスIは親水性、クラスIIは疎水性といった傾向を示す<ref name=Freitag1998><pubmed>9839455</pubmed></ref>。
 [[哺乳類]]嗅覚受容体は、アミノ酸配列の相同性からクラスI、クラスIIに分類され、哺乳類嗅覚受容体の約10~20%がクラスIである <ref name=Niimura2007><pubmed>17684554</pubmed></ref>。認識するリガンドが、クラスIは親水性、クラスIIは疎水性といった傾向を示す<ref name=Freitag1998><pubmed>9839455</pubmed></ref>。


 嗅覚受容体の立体構造については、2023年3月、脊椎動物で初めて[[クライオ電子顕微鏡]]による結果が報告された。嗅覚組織以外の様々な組織でも発現する嗅覚受容体のうち、クラスIに属する[[OR51E2]]について、匂い分子としてはやや例外的な親水性リガンド、[[プロピオン酸]]との結合状態を示したものであり<ref name=Billesbølle2023><pubmed>36922591</pubmed></ref>、画期的な進展であるが、疎水性匂い分子と嗅覚受容体の一般的な結合様式を反映しているかについては、今後の展開が待たれる。
 嗅覚受容体の立体構造については、2023年3月、脊椎動物で初めて[[クライオ電子顕微鏡]]による結果が報告された。嗅覚組織以外の様々な組織でも発現する嗅覚受容体のうち、クラスIに属する[[OR51E2]]について、匂い分子としてはやや例外的な親水性リガンド、[[プロピオン酸]]との結合状態を示したものであり<ref name=Billesbølle2023><pubmed>36922591</pubmed></ref>、画期的な進展であるが、疎水性匂い分子と嗅覚受容体の一般的な結合様式を反映しているかについては、今後の展開が待たれる。
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 その他の嗅覚受容体については、構造が既知のGタンパク質共役型受容体の情報をもとにした、in silico解析、変異体解析により、匂い物質との相互作用モデルが複数例報告されており、いずれの場合もリガンド結合には、3, 5, 6番目の膜貫通領域のアミノ酸が重要とされている<ref name=Ahmed2018><pubmed>29632183</pubmed></ref><ref name=Bushdid2018><pubmed>29648835</pubmed></ref><ref name=Geithe2017><pubmed>28656349</pubmed></ref><ref name=Katada2005><pubmed>15716417</pubmed></ref>。
 その他の嗅覚受容体については、構造が既知のGタンパク質共役型受容体の情報をもとにした、in silico解析、変異体解析により、匂い物質との相互作用モデルが複数例報告されており、いずれの場合もリガンド結合には、3, 5, 6番目の膜貫通領域のアミノ酸が重要とされている<ref name=Ahmed2018><pubmed>29632183</pubmed></ref><ref name=Bushdid2018><pubmed>29648835</pubmed></ref><ref name=Geithe2017><pubmed>28656349</pubmed></ref><ref name=Katada2005><pubmed>15716417</pubmed></ref>。


 微量アミン関連受容体ファミリーもGタンパク質共役型受容体に分類され、ロドプシンファミリーに属するが、嗅覚受容体より[[モノアミン|生体アミン]]受容体に高い相同性を示す<ref name=Liberles2015><pubmed></pubmed></ref>。
 微量アミン関連受容体ファミリーもGタンパク質共役型受容体に分類され、ロドプシンファミリーに属するが、嗅覚受容体より[[モノアミン|生体アミン]]受容体に高い相同性を示す<ref name=Liberles2015><pubmed>25616211</pubmed></ref>。


 グアニル酸シクラーゼDは1回膜貫通型受容体であり、細胞外にリガンド結合領域を、細胞内に[[プロテインキナーゼ]]様ドメインを、C末端に触媒ドメインをもつ。
 グアニル酸シクラーゼDは1回膜貫通型受容体であり、細胞外にリガンド結合領域を、細胞内に[[プロテインキナーゼ]]様ドメインを、C末端に触媒ドメインをもつ。


 Membrane-spanning 4A receptorは4回膜貫通型タンパク質で、N末端、C末端をともに細胞質側に配置するトポロジーを示す<ref name=Greer2016><pubmed>27238024</pubmed></ref>('''図1''')。
 Membrane-spanning 4A receptorは4回膜貫通型タンパク質で、N末端、C末端をともに細胞質側に配置するトポロジーを示す<ref name=Greer2016><pubmed>27238024</pubmed></ref>('''図1''')。
   
 
=== 発現部位 ===
=== 発現部位 ===
 嗅覚受容体は、嗅上皮に存在する嗅神経細胞に発現する。嗅上皮は、ヒトの場合、鼻腔天井部の5 cm<sup>2</sup>程度の領域に存在し、嗅粘液層に覆われている。嗅神経細胞は嗅粘液層にむかって10本程度の線毛を伸ばしており、この上に発現する嗅覚受容体が嗅粘液層に溶け込んだ匂い物質を受容する。嗅覚受容体の発現様式には、1つの嗅神経細胞には1種類の受容体しか発現しない、「1神経細胞1受容体ルール」が存在する。同じ嗅覚受容体を発現する嗅神経細胞は嗅上皮上ではそれぞれ特定の領域に分布するが<ref name=RuizTejadaSegura2022><pubmed></pubmed></ref>、投射部位である脳の嗅球と呼ばれる領域では同じ部位に収束する。
 嗅覚受容体は、嗅上皮に存在する嗅神経細胞に発現する。嗅上皮は、ヒトの場合、鼻腔天井部の5 cm<sup>2</sup>程度の領域に存在し、嗅粘液層に覆われている。嗅神経細胞は嗅粘液層にむかって10本程度の線毛を伸ばしており、この上に発現する嗅覚受容体が嗅粘液層に溶け込んだ匂い物質を受容する。嗅覚受容体の発現様式には、1つの嗅神経細胞には1種類の受容体しか発現しない、「1神経細胞1受容体ルール」が存在する。同じ嗅覚受容体を発現する嗅神経細胞は嗅上皮上ではそれぞれ特定の領域に分布するが<ref name=RuizTejadaSegura2022><pubmed></pubmed></ref>、投射部位である脳の嗅球と呼ばれる領域では同じ部位に収束する。