9,444
回編集
細編集の要約なし |
|||
1行目: | 1行目: | ||
英語名:Near-infrared spectroscopy 英略号:NIRS 独:Nahinfrarotspektroskopie 仏:Spectroscopie proche infrarouge | 英語名:Near-infrared spectroscopy 英略号:NIRS 独:Nahinfrarotspektroskopie 仏:Spectroscopie proche infrarouge | ||
近赤外線スペクトロスコピーは、[[wikipedia:JA:近赤外|近赤外]]領域の光を物質に照射し、透過してきた光の性質(強度など)を解析して、非破壊的に対象物の構成成分を分析する方法で、食品科学や[[wikipedia:JA:農業|農業]]など様々な領域で用いられている。生体への応用は、1977年に[[wikipedia:JA:デュ-ク大学|デュ-ク大学]]のJöbsisが近赤外光を用いて動物の[[wikipedia:JA:心臓|心臓]]や[[脳]]の[[wikipedia:JA:酸素|酸素]]化状態を非侵襲的に計測したのが始めてで<ref name=ref1><pubmed>929199</pubmed></ref>、以後、生体組織における[[wikipedia:JA:血流|血流]]・酸素代謝モニタ法として研究・開発が進められてきた。さらに、1990年代になってNIRSが神経活動に連動した[[脳血流]]変化に伴う[[wikipedia:JA:ヘモグロビン|ヘモグロビン]](Hb)変化をとらえることができるということが相次いで報告され、本法は新しい脳機能イメージング法(functional NIRS、 | 近赤外線スペクトロスコピーは、[[wikipedia:JA:近赤外|近赤外]]領域の光を物質に照射し、透過してきた光の性質(強度など)を解析して、非破壊的に対象物の構成成分を分析する方法で、食品科学や[[wikipedia:JA:農業|農業]]など様々な領域で用いられている。生体への応用は、1977年に[[wikipedia:JA:デュ-ク大学|デュ-ク大学]]のJöbsisが近赤外光を用いて動物の[[wikipedia:JA:心臓|心臓]]や[[脳]]の[[wikipedia:JA:酸素|酸素]]化状態を非侵襲的に計測したのが始めてで<ref name=ref1><pubmed>929199</pubmed></ref>、以後、生体組織における[[wikipedia:JA:血流|血流]]・酸素代謝モニタ法として研究・開発が進められてきた。さらに、1990年代になってNIRSが神経活動に連動した[[脳血流]]変化に伴う[[wikipedia:JA:ヘモグロビン|ヘモグロビン]](Hb)変化をとらえることができるということが相次いで報告され、本法は新しい脳機能イメージング法(functional NIRS、 fNIRS)としても注目されるようになった。NIRSの応用例の詳細については専門誌の特集号<ref name=ref2><pubmed>22006894</pubmed></ref>や総説<ref name=ref3>'''M Ferrari, V Quaresima.'''<br>A brief review on the history of human functional near-infrared spectroscopy (fNIRS) development and fields of application.<br>''NeuroImage'' 2012 (in press) (doi:10.1016/j.neuroimage.2012.03.049)</ref>などを参照していただき、ここではfNIRSを中心に基礎的事項を解説する。 | ||
18行目: | 18行目: | ||
=== 脳活動領域におけるNIRS信号 === | === 脳活動領域におけるNIRS信号 === | ||
局所の脳活動の増加に伴ってその領域の酸素・[[wikipedia:JA:グルコース|グルコース]]消費が亢進して脳血流が増加する現象は、[[神経-血管-代謝カップリング]]と呼ばれており、この現象の存在によって脳血流や代謝変化の計測から脳の活動状態を知ることができる。この場合、血流増加の程度は酸素消費増加のそれを上回るため<ref name=ref8><pubmed>3485282</pubmed></ref>、 NIRS計測では、活動領域でoxy-Hbとt-Hbの増加、deoxy-Hbの減少を認めることが多いが、t-Hbとdeoxy- | 局所の脳活動の増加に伴ってその領域の酸素・[[wikipedia:JA:グルコース|グルコース]]消費が亢進して脳血流が増加する現象は、[[神経-血管-代謝カップリング]]と呼ばれており、この現象の存在によって脳血流や代謝変化の計測から脳の活動状態を知ることができる。この場合、血流増加の程度は酸素消費増加のそれを上回るため<ref name=ref8><pubmed>3485282</pubmed></ref>、 NIRS計測では、活動領域でoxy-Hbとt-Hbの増加、deoxy-Hbの減少を認めることが多いが、t-Hbとdeoxy-Hbは脳血流の変化量によって必ずしもそのような変化を示さない場合がある。たとえば、脳血流の変化が小さい場合には、oxy-Hbとdeoxy-Hbは鏡像的に変化しt-Hbの変化は認められない。また、deoxy-Hbは静脈血の酸素化状態のみならず血液量によっても変化するため、脳血流増加が大きい場合は細静脈も拡張してdeoxy-Hbが増加し、[[wikipedia:JA:静脈血|静脈血]]の酸素化によるdeoxy-Hbの減少を相殺あるいはそれを上回って増加を示すことがある。一方、oxy-Hbの変化方向は常に脳血流のそれと同じで、NIRS計測におけるoxy-Hbは局所脳血流変化の良い指標である<ref name=ref9><pubmed>11299252</pubmed></ref>。 | ||
NIRS信号は[[wikipedia:JA:動脈|動脈]]、[[wikipedia:JA:細動脈|細動脈]]、[[wikipedia:JA:毛細血管|毛細血管]]、[[wikipedia:JA:細静脈|細静脈]]、[[wikipedia:JA:静脈|静脈]]のうち、どの血管のHb情報をもつのかということがしばしば問題にされている。単純に考えると静脈血の占める割合が多いので静脈血に由来すると思われるが、脳賦活領域では脳表から脳内へ垂直に走る軟膜動脈(細動脈)まで逆行性に拡張が生じるため、動脈、毛細血管内Hbの濃度変化は無視できないと考えられる。従って、各血管内Hb変化のNIRS信号に対する寄与度は、検出光の伝播経路内における血管分布によって異なると考えられる。 | NIRS信号は[[wikipedia:JA:動脈|動脈]]、[[wikipedia:JA:細動脈|細動脈]]、[[wikipedia:JA:毛細血管|毛細血管]]、[[wikipedia:JA:細静脈|細静脈]]、[[wikipedia:JA:静脈|静脈]]のうち、どの血管のHb情報をもつのかということがしばしば問題にされている。単純に考えると静脈血の占める割合が多いので静脈血に由来すると思われるが、脳賦活領域では脳表から脳内へ垂直に走る軟膜動脈(細動脈)まで逆行性に拡張が生じるため、動脈、毛細血管内Hbの濃度変化は無視できないと考えられる。従って、各血管内Hb変化のNIRS信号に対する寄与度は、検出光の伝播経路内における血管分布によって異なると考えられる。 | ||
== 応用<ref name=ref2> | == 応用<ref name=ref2><pubmed>22006894</pubmed></ref><ref name=ref3>'''M Ferrari, V Quaresima.'''<br>A brief review on the history of human functional near-infrared spectroscopy (fNIRS) development and fields of application.<br>''NeuroImage'' 2012 (in press) (doi:10.1016/j.neuroimage.2012.03.049)</ref> == | ||
=== 組織血流・酸素代謝モニタ === | === 組織血流・酸素代謝モニタ === |