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== インターロイキン1受容体アクセサリータンパク質様1とは == | == インターロイキン1受容体アクセサリータンパク質様1とは == | ||
IL1RAPL1遺伝子はX染色体p22.1–21.3領域の欠損に起因するX連鎖型非症候性知的障害(MRX)家系34の原因遺伝子としてポジショナルクローニングから、1999年にJ. Cherryらのグループによって同定された<ref><pubmed | IL1RAPL1遺伝子はX染色体p22.1–21.3領域の欠損に起因するX連鎖型非症候性知的障害(MRX)家系34の原因遺伝子としてポジショナルクローニングから、1999年にJ. Cherryらのグループによって同定された<ref name=Carrie1999><pubmed>10471494</pubmed></ref>[1]。インターロイキン-1受容体付属サブユニット (Interleukin-1 receptor accessory protein; IL-1RAP)とおよそ50%のアミノ酸配列相同性があったことから、インターロイキン-1受容体付属サブユニット様タンパク質 (Interleukin-1 receptor accessory protein-like, IL1RAPL)と名付けられた。直後の2000年には系統的にIL-1受容体ファミリー遺伝子の探索と機能解析を進めていたJ.E. Simsらのグループがヒトゲノム配列データベースの相同性検索から、新たに2つのインターロイキン-1受容体ファミリーメンバーを発見し、TIGIRR (three immunoglobulin domain-containing IL-1 receptor-related)-1およびTIGIRR-2として報告した<ref name=Born2000><pubmed>10882729</pubmed></ref>[2]。TIGIRR-2とIL1RAPLは同一タンパク質であり、以後、IL1RAPL/TIGIRR-2はIL1RAPL1として、TIGIRR-1はIL1RAPL2として統一表記されるようになった。 | ||
== 構造 == | == 構造 == | ||
ヒトIL1RAPL1タンパク質はN末端のシグナルペプチドを含めて696アミノ酸より構成される1型膜貫通タンパク質である(図1)。細胞外領域に3つのイムノグロブリン様 (Ig)ドメインを持ち、細胞内領域にToll/Interleukin-1受容体 (TIR)ドメインを1つ持つ。このドメイン配置はIL-1受容体ファミリーの共通構造である。細胞内領域のTIRドメインよりもC末端側にはおよそ150アミノ酸より構成されるC末端領域を持つ。この領域はパラログであるIL1RAPL2とIL-1RAPの神経細胞特異的スプライスバリアント(IL-1RAPb)には存在するが、他のIL-1受容体ファミリータンパク質には存在しない(図1)<ref><pubmed | ヒトIL1RAPL1タンパク質はN末端のシグナルペプチドを含めて696アミノ酸より構成される1型膜貫通タンパク質である(図1)。細胞外領域に3つのイムノグロブリン様 (Ig)ドメインを持ち、細胞内領域にToll/Interleukin-1受容体 (TIR)ドメインを1つ持つ。このドメイン配置はIL-1受容体ファミリーの共通構造である。細胞内領域のTIRドメインよりもC末端側にはおよそ150アミノ酸より構成されるC末端領域を持つ。この領域はパラログであるIL1RAPL2とIL-1RAPの神経細胞特異的スプライスバリアント(IL-1RAPb)には存在するが、他のIL-1受容体ファミリータンパク質には存在しない(図1)<ref name=Smith2009><pubmed>19481478</pubmed></ref>[3]。細胞外領域のIgドメイン内には多数のN型糖鎖付加部位が存在し、糖鎖の付加を受けている<ref name=Carrie1999><pubmed>10471494</pubmed></ref><ref name=Yamagata2015><pubmed>25908590</pubmed></ref>[1][4]。C末端には1型 PDZ ドメイン結合モチーフが存在する(機能については後述)<ref name=Pavlowsky2010><pubmed>20096586</pubmed></ref>[5]。また、細胞外領域の1番目と2番目のIgドメイン、あるいは1から3番目のIgドメインをコードする分泌型と考えられるスプライスバリアント転写物も報告されている<ref name=Carrie1999><pubmed>10471494</pubmed></ref>[1]。 | ||
== サブファミリー == | == サブファミリー == | ||
3つのIgドメインと1つの細胞内TIRドメインの共通ドメイン構成をもつ9つのIL-1受容体ファミリーメンバーの一員である(図1, 2)<ref | 3つのIgドメインと1つの細胞内TIRドメインの共通ドメイン構成をもつ9つのIL-1受容体ファミリーメンバーの一員である(図1, 2)<ref name=Rivers-Auty2018><pubmed>29559685</pubmed></ref>[6]。アミノ酸配列はIL-RAPとの間で約50%、パラログのIL1RAPL2との間で62%保存されている。その他のメンバーとの相同性は15~25%程度である。ヒトゲノム中で、IL1RAPL1、IL1RAPL2、IL-1RAP遺伝子(IL1RAP)を除くすべてのIL-1受容体ファミリーメンバー遺伝子は2番染色体の長腕(2q12)にタンデムに並んで存在する。一方、IL1RAPL1及びIL1RAPL2はそれぞれX染色体の短腕(Xp22.1-21.3)と長腕(Xq22)に、IL1RAPは3番染色体長腕(3q28)に存在する。後述するように、他のIL-1受容体ファミリーメンバーとは異なり、IL1RAPL1、IL1RAPL2、IL-1RAPはシナプスオーガナイザーとして機能することからもこれら3つの遺伝子が他とは別個の進化をたどったことが窺える。 | ||
== 発現 == | == 発現 == | ||
マウスIl1rapl1 mRNAは胎生10.5日の胎児から成体までの脳に広く発現することが示されている<ref><pubmed | マウスIl1rapl1 mRNAは胎生10.5日の胎児から成体までの脳に広く発現することが示されている<ref name=Carrie1999><pubmed>10471494</pubmed></ref>[1]. 主に神経細胞に発現するが、グリア細胞にも発現が確認されている。成体の脳内では広範な領域に発現するが、特に嗅球、嗅内皮質、歯状回を含む海馬、頭頂皮質、乳頭体、乳頭体上核に特に高い発現が確認されている。大脳皮質内では2/3層の、海馬歯状回では顆粒層の錐体細胞に高い発現が確認されている。神経細胞内では興奮性シナプス後部(スパイン)に局在する<ref name=Pavlowsky2010><pubmed>20096586</pubmed></ref><ref name=Yoshida2011><pubmed>21940441</pubmed></ref>[5][7]。 | ||
== 機能 == | == 機能 == | ||
=== 分子機能 === | === 分子機能 === | ||
==== IL-1ファミリーサイトカインの受容体として ==== | ==== IL-1ファミリーサイトカインの受容体として ==== | ||
IL-1ファミリーサイトカイン(リガンド)がリガンド結合受容体サブユニットに結合するとリガンド結合受容体サブユニットの構造が変化し、この構造変化が付属サブユニット(シグナル伝達サブユニット)をリクルートする。このリガンドに依存した受容体の会合に伴う細胞内領域TIRドメインの2量体化がNFκBの活性化などの細胞内シグナルを惹起する<ref><pubmed | IL-1ファミリーサイトカイン(リガンド)がリガンド結合受容体サブユニットに結合するとリガンド結合受容体サブユニットの構造が変化し、この構造変化が付属サブユニット(シグナル伝達サブユニット)をリクルートする。このリガンドに依存した受容体の会合に伴う細胞内領域TIRドメインの2量体化がNFκBの活性化などの細胞内シグナルを惹起する<ref name=Fields2019><pubmed>31281320</pubmed></ref> [8]。当初、IL1RAPL1はリガンド結合受容体サブユニットとしても、付属サブユニットとしても機能しないことが報告された<ref name=Born2000><pubmed>10882729</pubmed></ref> [2]。一方、神経細胞にIL-1βを添加した際に惹起されるJNKの活性化にIL1RAPL1が必要であるとの報告もあり[9]、古典的なIL-1シグナルに関与するか否かは長年にわたり謎であったが、炎症抑制性のIL-1ファミリーサイトカインの1つであるIL-38がマクロファージやγδ型T細胞のIL1RAPL1を介して炎症応答を抑制することが報告された<ref name=Mora2016><pubmed>26892022</pubmed></ref><ref name=Han2019><pubmed>30995480</pubmed></ref> [10][11]。 | ||
==== シナプスオーガナイザーとしての分子機能 ==== | ==== シナプスオーガナイザーとしての分子機能 ==== | ||
ゼブラフィッシュ胚、大脳皮質および海馬由来培養神経細胞におけるIL1RAPL1のノックダウンが興奮性シナプスの形成を阻害することが報告されている<ref><pubmed | ゼブラフィッシュ胚、大脳皮質および海馬由来培養神経細胞におけるIL1RAPL1のノックダウンが興奮性シナプスの形成を阻害することが報告されている<ref name=Yoshida2011><pubmed>21940441</pubmed></ref><ref name=Yoshida2008><pubmed>18657618</pubmed></ref><ref name=Valnegri2011><pubmed>21926414</pubmed></ref>[7][12][13]。また、IL1RAPL1ノックアウトマウスの海馬CA1や大脳皮質2/3層の錐体細胞の樹状突起スパイン数の減少が確認されている<ref name=Pavlowsky2010><pubmed>20096586</pubmed></ref><ref name=Yasumura2014><pubmed>25312502</pubmed></ref>[5][14]。これらIL1RAPL1機能欠損による興奮性シナプスの減少はIL1RAPL1のシナプスオーガナイザーとしての機能が深く関係している。シナプスオーガナイザーはシナプスを分化誘導し成熟させる機能を持つタンパク質の総称であり、細胞接着タンパク質と分泌性タンパク質型のものが存在する。通常、細胞接着タンパク質タイプのシナプスオーガナイザーは、軸索末端と樹状突起のそれぞれに発現し、細胞外領域を介したトランスシナプティックな相互作用によってシナプス前終末と後終末の分化を誘導する。線維芽細胞等の非神経細胞に発現させ、その細胞を神経細胞と共培養した際に、近接する神経細胞に対してシナプス前終末あるいは後終末を分化誘導するようなタンパク質として定義されている。IL1RAPL1を発現する線維芽細胞とマウス大脳皮質初代培養神経細胞を共培養すると、線維芽細胞に接する神経軸索に興奮性のシナプス前終末が分化誘導されたことから、IL1RAPL1が興奮性のシナプスオーガナイザーであることが明らかになった<ref name=Yoshida2008><pubmed>18657618</pubmed></ref><ref name=Valnegri2011><pubmed>21926414</pubmed></ref>[12][13]。このシナプス前終末の誘導には軸索膜上の受容体チロシン脱リン酸化酵素PTPRDとの結合が不可欠である<ref name=Yamagata2015><pubmed>25908590</pubmed></ref><ref name=Yoshida2008><pubmed>18657618</pubmed></ref>[4][12](図3)。IL1RAPL1の細胞内領域には様々なシナプス後部タンパク質が相互作用することによって興奮性シナプス後部構造が分化誘導される。C末端の1型 PDZドメイン結合モチーフにはPSD95が結合し<ref name=Pavlowsky2010><pubmed>20096586</pubmed></ref>[5]、TIRドメインおよびそのC末端側の領域にはRhoGAP2<ref name=Valnegri2011><pubmed>21926414</pubmed></ref>[13]とMcf2-like<ref name=Hayashi2013><pubmed>23785489</pubmed></ref>[15]が結合することで興奮性シナプス後部が誘導される。また、IL1RAPL1の下流でJNKの活性化が起こり、PSD95のシナプス後部への局在が調節される<ref name=Pavlowsky2010><pubmed>20096586</pubmed></ref>[5]。IL1RAPL1のパラログであるIL1RAPL2およびIL-1RAPもシナプスオーガナイザーであり、PTPRDとの結合を介して興奮性シナプスを誘導する(図1)<ref name=Yoshida2012><pubmed>21940441</pubmed></ref>[16]。 | ||
==== その他の分子機能 ==== | ==== その他の分子機能 ==== | ||
IL1RAPL1の相互作用タンパク質として最初に同定されたのは、C末端領域を介して結合するNeuronal calcium sensor (NCS)1である<ref><pubmed | IL1RAPL1の相互作用タンパク質として最初に同定されたのは、C末端領域を介して結合するNeuronal calcium sensor (NCS)1である<ref name=Bahi2003><pubmed>12783849</pubmed></ref>[17]。PC12細胞ではIL1RAPL1とNCS1の結合によってN型電位依存性カルシウムチャネルが阻害され、神経突起の伸長やエキソサイトーシスが調節される<ref name=Gambino2007><pubmed>17502602</pubmed></ref> [18]。 | ||
=== 個体における機能 === | === 個体における機能 === | ||
独立に数系統のIl1rapl1遺伝子欠損マウスが作製され、脳の形態学的解析、電気生理学的解析、さらには行動解析を通してその個体での機能評価が進んでいる。Il1rapl1遺伝子欠損マウス系統では海馬錐体細胞の樹状突起形状の複雑化、スパイン密度の減少が観察されている<ref><pubmed | 独立に数系統のIl1rapl1遺伝子欠損マウスが作製され、脳の形態学的解析、電気生理学的解析、さらには行動解析を通してその個体での機能評価が進んでいる。Il1rapl1遺伝子欠損マウス系統では海馬錐体細胞の樹状突起形状の複雑化、スパイン密度の減少が観察されている<ref name=Pavlowsky2010><pubmed>20096586</pubmed></ref><ref name=Yasumura2014><pubmed>25312502</pubmed></ref><ref name=Montani2017><pubmed>28576939</pubmed></ref>[5][14][19]。電気生理学的な解析からは、小脳と扁桃体の局所的な興奮抑制バランスの変化が認められている<ref name=Gambino2009><pubmed>19811529</pubmed></ref><ref name=Houbaert2013><pubmed>23966701</pubmed></ref>[20][21]。行動解析からは、空間参照記憶、空間作業記憶、恐怖記憶の獲得と保持の障害が認められている<ref name=Valnegri2011><pubmed>21926414</pubmed></ref><ref name=Gambino2009><pubmed>19811529</pubmed></ref>[13][20]。また、社会性の増加、運動機能の亢進、行動量の亢進、不安様行動の減少も報告されている<ref name=Valnegri2011><pubmed>21926414</pubmed></ref>[13]。 | ||
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== 疾患との関わり == | == 疾患との関わり == | ||
IL1RAPL1遺伝子は元来、X染色体連鎖型の非症候性知的障害家系の原因遺伝子として同定された[1]。その後、IL1RAPL1遺伝子上のさまざまな変異が知的障害、自閉スペクトラム症、統合失調者患者から見つかっており、疾患候補遺伝子としてエビデンスの蓄積が期待される<ref><pubmed | IL1RAPL1遺伝子は元来、X染色体連鎖型の非症候性知的障害家系の原因遺伝子として同定された[1]。その後、IL1RAPL1遺伝子上のさまざまな変異が知的障害、自閉スペクトラム症、統合失調者患者から見つかっており、疾患候補遺伝子としてエビデンスの蓄積が期待される<ref name=Laumonnier2002><pubmed>12428212</pubmed></ref><ref name=Tabolacci2006><pubmed>16470793</pubmed></ref><ref name=Nawara2008><pubmed>19012350</pubmed></ref><ref name=Piton2008><pubmed>18801879</pubmed></ref><ref name=Piton2011><pubmed>20479760</pubmed></ref><ref name=Ramos-Brossier2015><pubmed>25305082</pubmed></ref><ref name=Kanwal2022><pubmed>36318984</pubmed></ref>[22][23][24][25][26][27][28]。欧州X連鎖型知的障害コンソーシアムの患者のスクリーニングから、IL1RAPL1変異に起因する知的障害はX連鎖型知的障害患者の1%程度を占めると見積もられている<ref name=Nawara2008><pubmed>19012350</pubmed></ref>[24]。 | ||
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[22][23][24][25][26][27][28]。欧州X連鎖型知的障害コンソーシアムの患者のスクリーニングから、IL1RAPL1変異に起因する知的障害はX連鎖型知的障害患者の1%程度を占めると見積もられている<ref><pubmed | |||
== 関連語 == | == 関連語 == | ||