「受容野」の版間の差分

145 バイト追加 、 2012年4月15日 (日)
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[[Image:RetinalGanglisonCell.png|600px]]<br> 中心周辺拮抗型の受容野構造は2つのガウス関数の差分であるDOG(Difference of Gaussian)関数で表すことができる(図2A, Bの下段)<ref name=ref8><pubmed> 5862581 </pubmed></ref>。また線形性をもつために、細胞の応答は入力刺激とDOG関数の線形畳み込みで近似できる。ただし、このような近似が十分に成り立つ細胞とそうでない細胞が存在し、前者をX細胞、後者をY細胞という<ref name=ref9><pubmed> 16783910 </pubmed></ref>。  
[[Image:RetinalGanglisonCell.png|600px]]<br> 中心周辺拮抗型の受容野構造は2つのガウス関数の差分であるDOG(Difference of Gaussian)関数で表すことができる(図2A, Bの下段)<ref name=ref8><pubmed> 5862581 </pubmed></ref>。また線形性をもつために、細胞の応答は入力刺激とDOG関数の線形畳み込みで近似できる。ただし、このような近似が十分に成り立つ細胞とそうでない細胞が存在し、前者をX細胞、後者をY細胞という<ref name=ref9><pubmed> 16783910 </pubmed></ref>。  


 LGNの受容野構造は網膜神経節細胞とほぼ同一であり、中心周辺の同心円構造をもつ[10]。これは個々のLGNニューロンが1つの網膜神経節細胞からのみ投射を受けることで、その反応特性が形成されているためである。 [11]
 LGNの受容野構造は網膜神経節細胞とほぼ同一であり、中心周辺拮抗型の同心円構造をもつ。これは個々のLGNニューロンが1つの網膜神経節細胞からの投射のみで、その反応特性が形成されているためと考えられている <ref name=ref10><pubmed> 4093882 </pubmed></ref>。


=== 第一次視覚野(V1野)でみられる受容野構造  ===
=== 第一次視覚野(V1野)でみられる受容野構造  ===


 網膜神経節細胞あるいはLGNの細胞に細長いスリット光を呈示するとき、その向き(方位)を変えても反応は変化しない。このことは、これらの細胞の受容野構造が同心円状であることから予想できる。これにたいし、第一次視覚野の大部分の細胞はスリット光が特定の方位を向くときにのみ選択的に反応する。この方位選択性(orientation selectivity)と呼ばれる特性をもつ細胞の古典的受容野構造は以下の2種類のものがある<ref name=ref12><pubmed> 14403679 </pubmed></ref> <ref name=ref13><pubmed> 4966457 </pubmed></ref>。1つは明るい光に興奮応答するON領域と暗い光に応答するOFF領域が隣あって同じ向きに並んだ構造であり、このような構造をもつ細胞を単純型細胞(simple cell)と呼ぶ(図3A)。もう1種類はON領域とOFF領域が重なりあった細胞でこれを複雑型細胞(complex cell)と呼ぶ(図3B)。
 網膜神経節細胞あるいはLGNの細胞に細長いスリット光を呈示するとき、その向き(方位)を変えても反応は変化しない。このことは、これらの細胞の受容野構造が同心円状であることから予想できる。これにたいし、第一次視覚野の大部分の細胞はスリット光が特定の方位を向くときにのみ選択的に反応する。この方位選択性(orientation selectivity)と呼ばれる特性をもつ細胞の古典的受容野構造は以下の2種類のものがある<ref name=ref11><pubmed> 14403679 </pubmed></ref> <ref name=ref12><pubmed> 4966457 </pubmed></ref>。1つは明るい光に興奮応答するON領域と暗い光に応答するOFF領域が隣あって同じ向きに並んだ構造であり、このような構造をもつ細胞を単純型細胞(simple cell)と呼ぶ(図3A)。もう1種類はON領域とOFF領域が重なりあった細胞でこれを複雑型細胞(complex cell)と呼ぶ(図3B)。


[[Image:V1RF.png|600px]]<br>  単純型細胞の古典的受容野は、X細胞の受容野と同様、強い線形性を示し、自身のON領域、OFF領域ともっともよくあった刺激を最適とする。たとえば2次元サイン波を刺激とする場合、その明暗がON領域、OFF領域とマッチするような方位、空間周波数(spatial frequency)(=周期の逆数)、位相(phase)をもつものが最適となる(図3A参照)。この仕組みが単純型細胞の方位選択性、空間周波数選択性、位相選択性の基盤になっている。ON、OFF領域が伸びる軸、大きさ、位置関係は細胞に様々であり、したがって単純型細胞は全体として様々な方位、空間周波数、位相に選択性を示す。単純型細胞の古典的受容野は線形性が強く、視覚刺激にたいする応答は、その受容野構造と刺激波形の線形畳み込み(linear convolution)を行った結果に、0以下の信号を出力しない半波整流(half rectification)をとおすことで十分予測できる。[14]
[[Image:V1RF.png|600px]]<br>  単純型細胞の古典的受容野は、X細胞の受容野と同様、強い線形性を示し、自身のON領域、OFF領域ともっともよくあった刺激を最適とする。たとえば2次元サイン波を刺激とする場合、その明暗がON領域、OFF領域とマッチするような方位、空間周波数(spatial frequency)(=周期の逆数)、位相(phase)をもつものが最適となる(図3A参照)。この仕組みが単純型細胞の方位選択性、空間周波数選択性、位相選択性の基盤になっている。ON、OFF領域が伸びる軸、大きさ、位置関係は細胞に様々であり、したがって単純型細胞は全体として様々な方位、空間周波数、位相に選択性を示す。単純型細胞の古典的受容野は線形性が強く、視覚刺激にたいする応答は、その受容野構造と刺激波形の線形畳み込み(linear convolution)を行った結果に、0以下の信号を出力しない半波整流(half rectification)をとおすことで十分予測できる<ref name= ref13><pubmed> 722589  </pubmed></ref> <ref name= ref14><pubmed> 1450099  </pubmed></ref>。


 複雑型細胞も、単純型細胞と同程度の強い方位選択性や空間周波数選択性を示す。しかし、複雑型細胞は位相に感受性を示さず、受容野内部に入る刺激なら位置によらず同じ方位選択性、空間周波数選択性を示す。このような性質は複雑型細胞が単純型細胞から入力を受け取ることで出来上がると考えられている。この仕組みについては後述する。  
 複雑型細胞も、単純型細胞と同程度の強い方位選択性や空間周波数選択性を示す。しかし、複雑型細胞は位相に感受性を示さず、受容野内部に入る刺激なら位置によらず同じ方位選択性、空間周波数選択性を示す。このような性質は複雑型細胞が単純型細胞から入力を受け取ることで出来上がると考えられている。この仕組みについては後述する。  
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[[Image:GaborFilter.png|500px]]  
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 様々な形のガボール型受容野構造が視野の各位置に一セット揃っており、その結果、画像情報は、網膜視細胞での画素表現から、V1野の単純型細胞のレベルでは、ガボール関数のセットを基底成分とする表現へと変換されて伝達されることになる。この表現には画像情報を効率的に伝達する上でいくつかの望ましい特性がある。第一に、分解された画像成分は高次視覚野へと伝達されて利用されるので、初期の段階では画像情報は失われないようにする必要があるが、ガボール関数を用いた分解表現ではそれが十分実現されていることが示されている<ref>'''J. G. Daugman '''<br>Complete discrete 2-D Gabor transforms by neural networks for image analysis and compression. <br>IEEE Transactions on In Acoustics, Speech and Signal Processing: 1988, 36(7), 1169-1179.</ref>。さらに、ガボール関数により、自然画像はスパースコーディング(sparse coding)という非常に効率のよい方式で伝達できることも知られており、視覚系が自然界の膨大な画像情報を少ないエネルギーで伝送できる鍵になっていると考えられている <ref name= ref16><pubmed> 8637596 </pubmed></ref>。  
 様々な形のガボール型受容野構造が視野の各位置に一セット揃っており、その結果、画像情報は、網膜視細胞での画素表現から、V1野の単純型細胞のレベルでは、ガボール関数のセットを基底成分とする表現へと変換されて伝達されることになる。この表現には画像情報を効率的に伝達する上でいくつかの望ましい特性がある。第一に、分解された画像成分は高次視覚野へと伝達されて利用されるので、初期の段階では画像情報は失われないようにする必要があるが、ガボール関数を用いた分解表現ではそれが十分実現されていることが示されている<ref>'''J. G. Daugman '''<br>Complete discrete 2-D Gabor transforms by neural networks for image analysis and compression. <br>IEEE Transactions on In Acoustics, Speech and Signal Processing: 1988, 36(7), 1169-1179.</ref>。さらに、ガボール関数により、自然画像はスパースコーディング(sparse coding)という非常に効率のよい方式で伝達できることも知られており、視覚系が自然界の膨大な画像情報を少ないエネルギーで伝送できる鍵になっていると考えられている <ref name= ref15><pubmed> 8637596 </pubmed></ref>。  


=== 単純型細胞の時空間受容野構造と運動方向選択性、両眼受容野構造  ===
=== 単純型細胞の時空間受容野構造と運動方向選択性、両眼受容野構造  ===
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