「身体図式」の版間の差分

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== マカクサルの大脳皮質を用いた電気生理学的知見 ==
== マカクサルの大脳皮質を用いた電気生理学的知見 ==


 Sakataら<ref name=ref6>'''Sakata, H.'''<br>Somatic sensory responses of neurons in the parietal association area (area 5) of monkeys.<br>In Kornhuber HH (eds): The somatosensory system, Georg Thieme, Stuttgart. (1975)</ref>は、サル頭頂葉[[5野]]から、上肢関節と皮膚の特定の組み合わせで決まる姿勢に選択的に反応するニューロンを記録した。たとえば、あるニューロンは両手を胸の前であわせる「合掌」の姿勢に選択的に反応した。こうしたニューロンは、身体部位の位置の変化を検出し、身体図式の更新に関わると考えられている。
 Sakataら<ref name=ref6>'''Sakata, H.'''<br>Somatic sensory responses of neurons in the parietal association area (area 5) of monkeys.<br>In Kornhuber HH (eds): The somatosensory system, Georg Thieme, Stuttgart. (1975)</ref>は、サル頭頂葉[[5野]]から、上肢関節と皮膚の特定の組み合わせで決まる姿勢に選択的に反応する[[ニューロン]]を記録した。たとえば、あるニューロンは両手を胸の前であわせる「合掌」の姿勢に選択的に反応した。こうしたニューロンは、身体部位の位置の変化を検出し、身体図式の更新に関わると考えられている。


 また、サル頭頂葉の5野と[[7野]]の境界からは、体性感覚情報だけで決まる姿勢に加えて、体性感覚と視覚情報の両方を統合するニューロンを記録した。たとえば、この種のニューロンは、肩内旋と肘屈曲という関節の組み合わせ、すなわち、 サルが手を口に近づける動作に選択的に反応し、遂行中の動作を多関節の組み合わせで識別していると考えられている。さらに、この種のニューロンでは、サルを閉眼させ上述の動作をサルに遂行させる場合よりも、開眼させ視覚情報を伴って動作させる場合の方が強く発火した。すなわち、視覚と体性感覚情報の両方を統合し、三次元空間における身体部位の位置を知覚する機能と考えられている。こうしたニューロンを、視覚と体性感覚を統合する多種(異種)感覚ニューロンと呼ぶ。
 また、サル頭頂葉の5野と[[7野]]の境界からは、体性感覚情報だけで決まる姿勢に加えて、体性感覚と視覚情報の両方を統合するニューロンを記録した。たとえば、この種のニューロンは、肩内旋と肘屈曲という関節の組み合わせ、すなわち、 サルが手を口に近づける動作に選択的に反応し、遂行中の動作を多関節の組み合わせで識別していると考えられている。さらに、この種のニューロンでは、サルを閉眼させ上述の動作をサルに遂行させる場合よりも、開眼させ視覚情報を伴って動作させる場合の方が強く[[発火]]した。すなわち、視覚と体性感覚情報の両方を統合し、三次元空間における身体部位の位置を知覚する機能と考えられている。こうしたニューロンを、視覚と体性感覚を統合する多種(異種)感覚ニューロンと呼ぶ。


 自分を取り巻く三次元空間は無限に広がっているように見えても、実際は、自分の手の届く範囲の空間が生存のためにもっとも重要である。頭頂連合野の[[VIP野]]および腹側運動前野の[[F4野]]の多種感覚ニューロンは、自分の身体の上肢、頭部の皮膚が触れられた時に反応し、また同じ身体部位の近接空間に視覚刺激を提示したときにも反応する。この時、視覚刺激はサルの皮膚表面に沿って動く刺激、あるいは接近させる刺激が有効なことから、身体図式が関わるもう一つの機能として、自分の手の届く範囲の空間(身体近接空間、ペリパーソナルスペース, peri-personal space)に侵入してくる物体と身体の関係を知覚し、その物体と身体の衝突を回避する防衛的機能が提唱されている。これらの領域では、身体近接空間の視覚と体性感覚刺激の両方に反応するニューロンに加えて、[[聴覚]]刺激に同時に反応するニューロンも記録される。異種感覚を統合するニューロンは、[[上側頭溝]]の尾側部<ref name=ref7><pubmed>2462027</pubmed></ref>や[[被殻]]<ref name=ref8><pubmed> 8131835</pubmed></ref>からも記録されている。
 自分を取り巻く三次元空間は無限に広がっているように見えても、実際は、自分の手の届く範囲の空間が生存のためにもっとも重要である。頭頂連合野の[[VIP野]]および腹側運動前野の[[F4野]]の多種感覚ニューロンは、自分の身体の上肢、頭部の皮膚が触れられた時に反応し、また同じ身体部位の近接空間に視覚刺激を提示したときにも反応する。この時、視覚刺激はサルの皮膚表面に沿って動く刺激、あるいは接近させる刺激が有効なことから、身体図式が関わるもう一つの機能として、自分の手の届く範囲の空間(身体近接空間、ペリパーソナルスペース, peri-personal space)に侵入してくる物体と身体の関係を知覚し、その物体と身体の衝突を回避する防衛的機能が提唱されている。これらの領域では、身体近接空間の視覚と体性感覚刺激の両方に反応するニューロンに加えて、[[聴覚]]刺激に同時に反応するニューロンも記録される。異種感覚を統合するニューロンは、[[上側頭溝]]の尾側部<ref name=ref7><pubmed>2462027</pubmed></ref>や[[被殻]]<ref name=ref8><pubmed> 8131835</pubmed></ref>からも記録されている。