視蓋

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大島 登志男
早稲田大学 理工学術院 先進理工学部
DOI:10.14931/bsd.10125 原稿受付日:2023年2月27日 原稿完成日:2023年3月15日
担当編集委員:藤田 一郎(大阪大学 大学院生命機能研究科)

英:tectum 独:Tectum 仏:tectum

 哺乳類の上丘に相当する脊椎動物の脳部位で、中脳の背側に位置し、視覚、聴覚、体性感覚、前庭感覚の入力を受け、情報処理を行なう。捕食者/獲物の弁別に必要であり、逃避行動や捕食行動に関与する

図1. ゼブラフィッシュ稚魚の脳の背側からの観察図
左目の網膜神経節細胞からの投射は視交叉を経て右の視蓋(赤)へ至る。点線位置の断面が図2に示されている。文献[1]著者提供の図による。

組織学的特徴

 哺乳類上丘に相当する脊椎動物の脳部位で、中脳の背側に位置し、視覚聴覚体性感覚前庭感覚の入力を受ける(図1)。

 
図2. ゼブラフィッシュ成魚視蓋の層構造
RGCs:網膜神経節細胞、SM:帯状層、SO:視神経層、SFGS:浅線維層および浅灰白層、SGP:深灰白層、 SFP:深線維層、 PVL (PGZ):脳室周囲層(脳室周囲灰白層)。文献[1]著者提供の図による。

 層構造を有し、表層で網膜から視覚入力を受け、深層から後脳へ運動指令を送る。硬骨魚類キンギョ[2]ゼブラフィッシュ[3]を例にあげると、表面から深部に向かって以下のように区別される(図2)。

帯状層stratum marginale):縦隆起torus longitudinalis)からの投射を受ける。
視神経層s. opticum):視神経線維からなる。
浅線維層および浅灰白層s. fibrosum et griseum superficiale):視神経線維、脊髄視蓋線維橋視蓋線維が投射するとともに、局所回路ニューロン(local circuit neuron)が多く存在する。
深灰白層s. griseum profundum):視蓋遠心路は主にこの層の細胞を起始とする。
深線維層s. fibrosum profundum):視蓋遠心線維に加え、両側視蓋を結ぶ交連線維からなる。
脳室周囲層s. periventricularまたはperiventricular gray zone (PGZ)):視神経層にまで達する長い上行性の樹状突起をもつ神経細胞よりなる。これらの神経細胞はグルタミン酸作動性、GABA作動性に加えグリシン作動性のものが含まれる[4]。キンギョやゼブラフィッシュなどの硬骨魚類の視蓋PGZでは成体神経新生が観察される[5]

 網膜から視神経を介して位置保存的な規則的投射があり、視蓋には網膜部位局在構造レチノトピー)すなわち視野地図が形成されている。網膜鼻側部,側頭側部,背側部,腹側部に由来する視神経線維は各々,反対側視蓋の尾側部,吻側部,腹側部,背側部と連絡する。これにより、網膜上に結ばれた像が各部分の相対的な位置関係を保ったまま視蓋に再現されることになる(図3)。この規則的な軸索投射の形成にはEph-ephrinを介したメカニズム[6]が働いている。

 
図3. ゼブラフィッシュ稚魚における網膜視蓋投射の視覚トポグラフィー
A:前方、B:後方、D:背側、V:腹側。 文献[1]著者提供の図による。

機能

 捕食者/獲物の弁別に必要であり、逃避行動捕食行動に関与する。

 視蓋は元来視覚の中枢として発達してきたもので、魚類両生類爬虫類鳥類においては、視神経線維のほとんどが反対側の視蓋に投射する。さらに脊髄、三叉神経核側線・聴覚領域からも多くの投射があり、視覚に加え触覚や前庭・聴覚領域などからの入力を統合する中枢であるともいえる[1]。また、深層の遠心性神経を活性化することにより、、頭、体が刺激方向へ向かう定位運動や、刺激から逃れる逃避運動が誘導される[1]。キンギョを用いた実験では、視蓋の局所的電気刺激により刺激部位依存的に眼と尾の特定の運動パターンが引き起こされ、トポグラフィックな運動地図の存在が示唆される[1] [7]

関連項目

参考文献

  1. 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 Isa, T., Marquez-Legorreta, E., Grillner, S., & Scott, E.K. (2021).
    The tectum/superior colliculus as the vertebrate solution for spatial sensory integration and action. Current biology : CB, 31(11), R741-R762. [PubMed:34102128] [PMC] [WorldCat] [DOI]
  2. Meek, J., & Schellart, N.A. (1978).
    A Golgi study of goldfish optic tectum. The Journal of comparative neurology, 182(1), 89-122. [PubMed:81216] [WorldCat] [DOI]
  3. Corbo, C.P., Othman, N.A., Gutkin, M.C., Alonso, A.d.e.l. .C., & Fulop, Z.L. (2012).
    Use of different morphological techniques to analyze the cellular composition of the adult zebrafish optic tectum. Microscopy research and technique, 75(3), 325-33. [PubMed:21823204] [PMC] [WorldCat] [DOI]
  4. Robles, E., Smith, S.J., & Baier, H. (2011).
    Characterization of genetically targeted neuron types in the zebrafish optic tectum. Frontiers in neural circuits, 5, 1. [PubMed:21390291] [PMC] [WorldCat] [DOI]
  5. Raymond, P.A., & Easter, S.S. (1983).
    Postembryonic growth of the optic tectum in goldfish. I. Location of germinal cells and numbers of neurons produced. The Journal of neuroscience : the official journal of the Society for Neuroscience, 3(5), 1077-91. [PubMed:6842282] [PMC] [WorldCat] [DOI]
  6. Flanagan, J.G., & Vanderhaeghen, P. (1998).
    The ephrins and Eph receptors in neural development. Annual review of neuroscience, 21, 309-45. [PubMed:9530499] [WorldCat] [DOI]
  7. Herrero, L., Rodríguez, F., Salas, C., & Torres, B. (1998).
    Tail and eye movements evoked by electrical microstimulation of the optic tectum in goldfish. Experimental brain research, 120(3), 291-305. [PubMed:9628416] [WorldCat] [DOI]