内言語機能
英語名:Inner Speech, Inner Utterance
同義語:内語、内言
内言語機能とは
内言語機能は思考のための内なる言語活動で、外的な音声や書字を伴わないものである。広義の定義では、内言語機能はヒトの心を支える思考や知性の体系ともいえる。一般的に言語と定義されているのは内言語ではなく外へ発せられる外言語である。内言語はこの外言語と同じ形式の言語を、声を出さずに内なる発話として表出する場合もあれば、言語の形を伴わない言語以前の思考や概念としての形式である場合もある。機能的脳画像実験や心理実験においては実験タスク中に求められる言語応答を発話やボタン押しなしに頭の中で答えることを、内(言)語での応答と呼ぶ場合もある。
言語学者による内言語機能の考え方
近代言語学の父と呼ばれる19世紀の言語学者フェルディナンド・ソシュールは、内言語は「ラング」(言語規範、いわゆる言語、外言語)と性質を異にし、区別すべきものとしている。内言語に比較的類似したソシュールの用語として「ランガージュ」があげられる、これは概念を理解し、象徴化する能力を中心とした概念であるが、意識下、無意識下の思考の体系とも捉えられる[1]。言語学者のノーム・チョムスキーは、脳と心の中に実装された知識体系としての内言語・I言語(internalized language, I-language)とその産出物として外界に表出する現象としての外言語・E言語(externalized language, E-language)として区別した。内言語(I言語)は子どもが言葉を獲得する際、始めに得る言語の青写真とも定義される。チョムスキーは記述された外言語の表層を分析する伝統的な言語学手法による研究ではなく、内言語を対象として、言語を産みだすヒトの普遍的な能力を明らかにすべきであると主張した[2]。その最たる例が生成文法の研究である。
言語発達過程での内言語機能
言語を獲得途上の幼児は内言語機能が充分に発達していない。そのため、他者へ伝達することを目的とする言語以外に、単独発話である私的言語が多く観察される。心理学者ジャン・ピアジェはこの私的言語発話をegocentric speech(自己中心語)として捉え、この自己中心性が減少し社会的相互関係のある発話が充分に増加した時点で、成熟した言語が機能すると考えた。ピアジェはこのように自己中心語を肯定的な機能としては捉えなかったが、その一方で、心理学者レフ・ヴィゴツキーは、自己中心語は自分の考えや行動を判断したり調整したりする場面で使用されており、内言語を発達させる重要な役割を担っていると考えた。ヴィゴツキーの言語発達段階の第1段階である自分の欲求を示すだけの言語活動(例、ジュースほしい)から、成人と同様な内言語機能を使用する最終段階をつなぐのが、自己中心語であるとした。これらの段階を経て内言語と外言語が分化するとされている。このヴィゴツキーの考えを反映した内言語、外言語の区分は現在の発達心理学でも、しばしば有用されており、例えば内言語機能で自分への話しかけや思考の整理ができる発達障害児では、より(外)言語能力や高次認知能力が高いとする研究報告等がある[3]。
(執筆者:皆川泰代 担当編集委員:入來篤史)