「カリウムチャネル」の版間の差分

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<font size="+1">[http://researchmap.jp/kazuharu_furutani 古谷 和春]、[http://researchmap.jp/read0042758 倉智 嘉久]</font><br>
''大阪大学 医学系研究科''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年5月23日 原稿完成日:2013年8月20日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/2rikenbsi 林 康紀](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
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英:potassium channel、英略語:K<sup>+</sup> channel 独:Kaliumkanal 仏:canal potassique
英:potassium channel、英略語:K<sup>+</sup> channel 独:Kaliumkanal 仏:canal potassique


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 カリウムチャネルは[[wikipedia:ja:カリウムイオン|カリウムイオン]]を選択的に透過させる[[イオンチャネル]]である。[[静止膜電位]]の形成や電気的な細胞応答、[[シナプス伝達]]やカリウム濃度の[[wikipedia:ja:恒常性|恒常性]]維持に関わっている。100種類以上の遺伝子群から構成されているが、六回膜貫通型の「[[カリウムチャネル#電位依存性カリウムチャネル|電位依存性カリウムチャネル]]」と「[[カリウムチャネル#カルシウム活性化カリウムチャネル|カルシウム活性化カリウムチャネル]]」、二回膜貫通型の「[[カリウムチャネル#内向き整流性カリウムチャネル|内向き整流性カリウムチャネル]]」、四回膜貫通型の「[[カリウムチャネル#Two-pore domainカリウムチャネル|Two-pore domainカリウムチャネル]]」に大別される。
 カリウムチャネルは[[wikipedia:ja:カリウムイオン|カリウムイオン]]を選択的に透過させる[[イオンチャネル]]である。[[静止膜電位]]の形成や電気的な細胞応答、[[シナプス伝達]]やカリウム濃度の[[wikipedia:ja:恒常性|恒常性]]維持に関わっている。100種類以上の遺伝子群から構成されているが、六回膜貫通型の「[[カリウムチャネル#電位依存性カリウムチャネル|電位依存性カリウムチャネル]]」と「[[カリウムチャネル#カルシウム活性化カリウムチャネル|カルシウム活性化カリウムチャネル]]」、二回膜貫通型の「[[カリウムチャネル#内向き整流性カリウムチャネル|内向き整流性カリウムチャネル]]」、四回膜貫通型の「[[カリウムチャネル#Two-pore domainカリウムチャネル|Two-pore domainカリウムチャネル]]」に大別される。
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==カリウムチャネルとは==
==カリウムチャネルとは==
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 [[アセチルコリン]]AChなどの神経活動制御因子は遅延整流性カリウム電流を抑制することで、閾膜電位付近の興奮性を高め、発火頻度やシナプス入力に対する応答性を制御する。[[ムスカリン性ACh受容体]]の活性化に共役したカリウム電流がよく研究されており、この電流はムスカリン muscarinから[[M電流]]と呼ばれている。神経系においては、主にKv7.2(KCNQ2)/Kv7.3(KCNQ3)から構成されているイオンチャネルがこの電流を担っていると考えられている。
 [[アセチルコリン]]AChなどの神経活動制御因子は遅延整流性カリウム電流を抑制することで、閾膜電位付近の興奮性を高め、発火頻度やシナプス入力に対する応答性を制御する。[[ムスカリン性ACh受容体]]の活性化に共役したカリウム電流がよく研究されており、この電流はムスカリン muscarinから[[M電流]]と呼ばれている。神経系においては、主にKv7.2(KCNQ2)/Kv7.3(KCNQ3)から構成されているイオンチャネルがこの電流を担っていると考えられている。


 このイオンチャネルの活性には[[細胞膜]]の内側に存在しているリン脂質PIP<sub>2</sub>との結合が必要であり、Gq共役型のGPCR、例えば[[M<sub>3</sub> ACh]]受容体の刺激はホスホリパーゼCを活性化し、膜のPIP<sub>2</sub>を減少させることでチャネルの活性を抑制すると考えられている。
 このイオンチャネルの活性には[[細胞膜]]の内側に存在しているリン脂質PIP<sub>2</sub>との結合が必要であり、Gq共役型のGPCR、例えばM<sub>3</sub>アセチルコリン受容体の刺激は[[ホスホリパーゼC]]を活性化し、膜のPIP<sub>2</sub>を減少させることでチャネルの活性を抑制すると考えられている。


 CA1錐体細胞の樹状突起から計測される持続性のカリウム電流は電気生理学的な特性や薬理学的な特性(4-アミノピリジン(4-AP)よりもTEA感受性が高い)からHVA型のKv2サブファミリーであると考えられている(図5)。この電流は活動電位の中の膜電位で活性化される。神経細胞の高頻度発火の際にはこの電流が活性化し活動電位間の膜電位を過分極させる。
 CA1錐体細胞の樹状突起から計測される持続性のカリウム電流は電気生理学的な特性や薬理学的な特性(4-アミノピリジン(4-AP)よりもTEA感受性が高い)からHVA型のKv2サブファミリーであると考えられている(図5)。この電流は活動電位の中の膜電位で活性化される。神経細胞の高頻度発火の際にはこの電流が活性化し活動電位間の膜電位を過分極させる。
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 脳疾患では、神経性のM電流を欠損するKv7.2(KCNQ2)やKv7.3(KCNQ3)の機能欠損変異が[[家族性良性新生児痙攣]](Benign familial neonatal epilepsy、BFNE)の原因として報告されている <ref><pubmed>9430594</pubmed></ref><ref><pubmed>9872318</pubmed></ref><ref><pubmed>9425900</pubmed></ref><ref><pubmed>9425895</pubmed></ref>。また、Kv1.1の機能欠損変異が[[発作性運動失調症]](episodic ataxia、EA)を引き起こすこと知られている<ref><pubmed>7842011</pubmed></ref>。さらに、Kv7.4(KCNQ4)やKir4.1の変異が難聴に繋がることも分かっている。(KCNQ4遺伝子は[[wikipedia:ja:常染色体優性遺伝|常染色体優性遺伝]]形式を取るDFNA2の原因遺伝子として報告された)
 脳疾患では、神経性のM電流を欠損するKv7.2(KCNQ2)やKv7.3(KCNQ3)の機能欠損変異が[[家族性良性新生児痙攣]](Benign familial neonatal epilepsy、BFNE)の原因として報告されている <ref><pubmed>9430594</pubmed></ref><ref><pubmed>9872318</pubmed></ref><ref><pubmed>9425900</pubmed></ref><ref><pubmed>9425895</pubmed></ref>。また、Kv1.1の機能欠損変異が[[発作性運動失調症]](episodic ataxia、EA)を引き起こすこと知られている<ref><pubmed>7842011</pubmed></ref>。さらに、Kv7.4(KCNQ4)やKir4.1の変異が難聴に繋がることも分かっている。(KCNQ4遺伝子は[[wikipedia:ja:常染色体優性遺伝|常染色体優性遺伝]]形式を取るDFNA2の原因遺伝子として報告された)


 [[wikipedia:ja:腎|腎]]疾患、代謝性疾患で代表的なものは、[[wikipedia:ja:腎尿細管|腎尿細管]]上皮細胞頂上膜に局在するKir1.1(ROMK1)の異常が[[wikipedia:ja:代謝性アルカローシス|代謝性アルカローシス]]や[[wikipedia:ja:低K<sup>+</sup>血症|低K<sup>+</sup>血症]]を伴う[[wikipedia:ja:Bartter症候群|Bartter症候群]](II型)を引き起こすことが分かっている。さらにKir6.2、SUR1の変異による膵臓β細胞K<sub>ATP</sub>チャネルの機能獲得変異によって[[wikipedia:ja:新生児糖尿病|新生児糖尿病]](permenent neonatal diabetes)で、逆に機能欠損変異で[[wikipedia:ja:新生児持続性高インスリン性低血糖症|新生児持続性高インスリン性低血糖症]](Persistent hyperinsulinemic hypoglycemia of infancy、PHHI)などで見つかっている。
 [[wikipedia:ja:腎|腎]]疾患、代謝性疾患で代表的なものは、[[wikipedia:ja:腎尿細管|腎尿細管]]上皮細胞頂上膜に局在するKir1.1(ROMK1)の異常が[[wikipedia:ja:代謝性アルカローシス|代謝性アルカローシス]]や[[wj:低Kカリウム血症|低K<sup>+</sup>血症]]を伴う[[wikipedia:ja:Bartter症候群|Bartter症候群]](II型)を引き起こすことが分かっている。さらにKir6.2、SUR1の変異による膵臓β細胞K<sub>ATP</sub>チャネルの機能獲得変異によって[[wikipedia:ja:新生児糖尿病|新生児糖尿病]](permenent neonatal diabetes)で、逆に機能欠損変異で[[wikipedia:ja:新生児持続性高インスリン性低血糖症|新生児持続性高インスリン性低血糖症]](Persistent hyperinsulinemic hypoglycemia of infancy、PHHI)などで見つかっている。


 チャネル病の遺伝性を解析してみると、表現型が常染色体優性遺伝で遺伝されることが多い。カリウムチャネルはα、βサブユニットの複合体であるため、異常なサブユニットが一つでも入ることで複合体の機能が欠失するドミナントネガティブ効果でイオンチャネル機能が阻害されることがある。一方、[[wikipedia:ja:ハプロ不全|ハプロ不全]](haplo-insufficiency)で発病する場合も多く報告されている。しかもその場合、機能欠損変異のみならず機能獲得変異によるチャネル病も報告されている。このことはイオンチャネルの機能が欠損していても過剰になっていても生体にとっては不適で、言い換えると適切な発現レベルや活性の範囲が存在することを示している。
 チャネル病の遺伝性を解析してみると、表現型が常染色体優性遺伝で遺伝されることが多い。カリウムチャネルはα、βサブユニットの複合体であるため、異常なサブユニットが一つでも入ることで複合体の機能が欠失するドミナントネガティブ効果でイオンチャネル機能が阻害されることがある。一方、[[wikipedia:ja:ハプロ不全|ハプロ不全]](haplo-insufficiency)で発病する場合も多く報告されている。しかもその場合、機能欠損変異のみならず機能獲得変異によるチャネル病も報告されている。このことはイオンチャネルの機能が欠損していても過剰になっていても生体にとっては不適で、言い換えると適切な発現レベルや活性の範囲が存在することを示している。
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== 参考文献 ==
== 参考文献 ==


<references />  
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(執筆者:古谷和春、倉智嘉久 担当編集委員:尾藤晴彦)

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