「ゲノム編集」の版間の差分

 
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 [[ヒストン]]の修飾やDNAの[[メチル化]]などの[[エピジェネティクス|エピゲノミックな修飾]]は、[[脳形成]]や[[神経可塑性]]において重要な役割をもち、さらに、[[精神神経疾患]]の発症に関与することが報告されている。CRISPR/Casシステムを用いることにより、従来困難であった特定のゲノム領域のエピゲノミックな修飾状態を改変する「エピゲノム編集」が可能になった<ref><pubmed>28985525</pubmed></ref>。
 [[ヒストン]]の修飾やDNAの[[メチル化]]などの[[エピジェネティクス|エピゲノミックな修飾]]は、[[脳形成]]や[[神経可塑性]]において重要な役割をもち、さらに、[[精神神経疾患]]の発症に関与することが報告されている。CRISPR/Casシステムを用いることにより、従来困難であった特定のゲノム領域のエピゲノミックな修飾状態を改変する「エピゲノム編集」が可能になった<ref><pubmed>28985525</pubmed></ref>。


 ヒストンはメチル化や[[アセチル化]]などの[[翻訳後修飾]]を受け、転写の制御やクロマチン濃縮などに関与する。dCas9にヒストン修飾を導入する酵素([[ヒストンアセチル基転移酵素]]、[[ヒストン脱アセチル化酵素]]、[[リジンメチル基転移酵素]]、[[リジン脱メチル化酵素]]など)を融合させた人工タンパク質と標的ゲノム部位と相補的配列を持つガイドRNAを細胞に導入すると、標的遺伝子のエピゲノミックな修飾状態を改変できる。また、DNAを構成する4種類の塩基のなかでシトシンのみがメチル基の付加・除去を受け、転写を制御している。dCas9にDNAメチル化を制御する酵素(DNAメチル化酵素やDNA脱メチル化酵素)を融合させた人工タンパク質と標的ゲノム部位と相補的配列を持つガイドRNAを細胞に導入すると、標的ゲノム領域のDNAのメチル化状態を改変できる。しかし、一つのdCas9に対し一つのエピゲノム修飾因子を結合させてもエピゲノム制御は不十分であり、通常は、dCas9またはガイドRNAに複数のエピゲノム修飾因子を付加する系が使われている<ref><pubmed> 27571369</pubmed></ref>。
 ヒストンはメチル化や[[アセチル化]]などの[[翻訳後修飾]]を受け、転写の制御やクロマチン濃縮などに関与する。dCas9にヒストン修飾を導入する酵素([[ヒストンアセチル基転移酵素]]、[[ヒストン脱アセチル化酵素]]、[[ヒストンメチル基転移酵素|リジンメチル基転移酵素]]、[[ヒストン脱メチル化酵素|リジン脱メチル化酵素]]など)を融合させた人工タンパク質と標的ゲノム部位と相補的配列を持つガイドRNAを細胞に導入すると、標的遺伝子のエピゲノミックな修飾状態を改変できる。また、DNAを構成する4種類の塩基のなかでシトシンのみがメチル基の付加・除去を受け、転写を制御している。dCas9にDNAメチル化を制御する酵素(DNAメチル化酵素やDNA脱メチル化酵素)を融合させた人工タンパク質と標的ゲノム部位と相補的配列を持つガイドRNAを細胞に導入すると、標的ゲノム領域のDNAのメチル化状態を改変できる。しかし、一つのdCas9に対し一つのエピゲノム修飾因子を結合させてもエピゲノム制御は不十分であり、通常は、dCas9またはガイドRNAに複数のエピゲノム修飾因子を付加する系が使われている<ref><pubmed> 27571369</pubmed></ref>。


 [[wj:ルドルフ・イエーニッシュ|Rudolf Jaenisch]]のグループは、dCas9にTet1(シトシンのメチル基を除去する酵素)を融合させた人工タンパク質を用い、[[脆弱X症候群]]のiPS細胞モデルの治療に成功している<ref><pubmed>29456084</pubmed></ref>。脆弱X症候群では、[[FMR1]]遺伝子の転写開始より少し上流にあるCGGの繰り返し配列が増加しメチル化が促進され、FMR1遺伝子の発現が抑制されている。脆弱X症候群の患者から作成したiPS細胞に、FMR1遺伝子の転写開始より少し上流を標的にしたガイドRNAとdCas9-tet1を導入し、CGGの繰り返し配列のメチル基を外し、FMR1遺伝子の発現を回復させることに成功した。FMR1遺伝子の発現が回復した患者iPS細胞を神経細胞に分化させると、神経細胞の過活動が正常に戻った。
 [[wj:ルドルフ・イエーニッシュ|Rudolf Jaenisch]]のグループは、dCas9にTet1(シトシンのメチル基を除去する酵素)を融合させた人工タンパク質を用い、[[脆弱X症候群]]のiPS細胞モデルの治療に成功している<ref><pubmed>29456084</pubmed></ref>。脆弱X症候群では、[[FMR1]]遺伝子の転写開始より少し上流にあるCGGの繰り返し配列が増加しメチル化が促進され、FMR1遺伝子の発現が抑制されている。脆弱X症候群の患者から作成したiPS細胞に、FMR1遺伝子の転写開始より少し上流を標的にしたガイドRNAとdCas9-tet1を導入し、CGGの繰り返し配列のメチル基を外し、FMR1遺伝子の発現を回復させることに成功した。FMR1遺伝子の発現が回復した患者iPS細胞を神経細胞に分化させると、神経細胞の過活動が正常に戻った。