「シナプス前終末」の版間の差分

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== 構造==
== 構造==


 神経細胞はシナプスという構造を介して情報の伝達を行っている<ref>'''D Purves, GJ Augustine, D Fitzpatrick, WC Hall, AS LaMantia, JO McNamara, and LE White'''<br>Neuroscience, Fourth Edition<br>''Sinauer'':2011<br></ref>。神経細胞は情報を受容する細胞体と[[樹状突起]]、情報を出力する軸索から成る。軸索のシナプス結合部はやや膨大しており、シナプス前終末(presynaptic terminal)と呼ばれる。[[グルタミン酸]]を神経伝達物質とする[[興奮性シナプス]]では、シナプス前終末からシナプス後細胞の樹状突起上の[[スパイン]]へ情報が伝えられる(図1)。一方、[[GABA]]を伝達物質とする[[抑制性シナプス]]前終末は、樹状突起の幹および細胞体に接合する。シナプス前細胞と後細胞の間にはシナプス間隙(20 nm)があり、情報伝達の場を形成している。その中には数百のシナプス小胞(50 nm)が存在する。シナプス小胞がシナプス前終末の[[細胞膜]]と融合し、その中の神経伝達物質を[[開口放出]]([[エクソサイトーシス]];exocytosis)する領域は[[アクティブゾーン]]と呼ばれる。中枢シナプスにおけるアクティブゾーンは0.03-0.14 μm<sup>2</sup>の広さで<ref><pubmed>12486149</pubmed></ref><ref><pubmed>10097171</pubmed></ref>、膜が肥厚しているように見え、5-10個のシナプス小胞が結合している。
 神経細胞はシナプスという構造を介して情報の伝達を行っている<ref>'''D Purves, GJ Augustine, D Fitzpatrick, WC Hall, AS LaMantia, JO McNamara, and LE White'''<br>Neuroscience, Fourth Edition<br>''Sinauer'':2011<br></ref>。神経細胞は情報を受容する細胞体と[[樹状突起]]、情報を出力する軸索から成る。軸索のシナプス結合部はやや膨大しており、シナプス前終末(presynaptic terminal)と呼ばれる。[[グルタミン酸]]を神経伝達物質とする[[興奮性シナプス]]では、シナプス前終末からシナプス後細胞の樹状突起上の[[スパイン]]へ情報が伝えられる(図1)。一方、[[GABA]]を伝達物質とする[[抑制性シナプス]]前終末は、樹状突起の幹および細胞体に接合する。シナプス前細胞と後細胞の間にはシナプス間隙(20 nm)があり、情報伝達の場を形成している。その中には数百のシナプス小胞(50 nm)が存在する。シナプス小胞がシナプス前終末の[[細胞膜]]と融合し、その中の神経伝達物質を[[開口放出]]([[エクソサイトーシス]];exocytosis)する領域は[[アクティブゾーン]]と呼ばれる。中枢シナプスにおけるアクティブゾーンは0.03-0.14 μm<sup>2</sup>の広さで<ref><pubmed>12486149</pubmed></ref><ref><pubmed>10097171</pubmed></ref>、膜が肥厚しているように見え、5-10個のシナプス小胞が結合している(図2)。
 
[[ファイル:Spine EM.png|thumb|300px|right|'''図2 シナプスの電子顕微鏡像'''<br>AT:軸索終止、a:星状膠細胞、矢頭間:PSD、S:樹状突起棘、矢印:小胞体、スケールバー:200 nm。ヒト大脳皮質。[http://synapses.clm.utexas.edu/pubs/pubs.stm Synapseweb]より。許可を得て転載。]]
[[Image:Figure2.jpg|thumb|300px|'''図2 シナプス伝達'''<br>活動電位がシナプス前終末に到達すると、シナプス前終末の膜電位は脱分極し、電位依存性カルシウムチャネルからカルシウムイオンが流入する。それが引き金となり、アクティブゾーン上のシナプス小胞が膜融合して、神経伝達物質がシナプス間隙に開口放出される。放出された神経伝達物質はシナプス後細胞にある受容体に結合する。シナプス間隙に残存した神経伝達物質はトランスポーターによってシナプス前終末に再取り込みされ、シナプス小胞に充填される。]]
[[Image:Figure2.jpg|thumb|300px|'''図3 シナプス伝達'''<br>活動電位がシナプス前終末に到達すると、シナプス前終末の膜電位は脱分極し、電位依存性カルシウムチャネルからカルシウムイオンが流入する。それが引き金となり、アクティブゾーン上のシナプス小胞が膜融合して、神経伝達物質がシナプス間隙に開口放出される。放出された神経伝達物質はシナプス後細胞にある受容体に結合する。シナプス間隙に残存した神経伝達物質はトランスポーターによってシナプス前終末に再取り込みされ、シナプス小胞に充填される。]]


== 伝達物質放出とその制御==
== 伝達物質放出とその制御==
[[Image:Figure3.jpg|thumb|300px|'''図3 SNARE仮説'''<br>シナプス小胞にはシナプトブレビンが(v-SNARE)、細胞膜にはシンタキシンとSNAP-25が(t-SNARE)あり、それらが複合体を形成し、膜融合を促す。]]
[[Image:Figure3.jpg|thumb|300px|'''図4 SNARE仮説'''<br>シナプス小胞にはシナプトブレビンが(v-SNARE)、細胞膜にはシンタキシンとSNAP-25が(t-SNARE)あり、それらが複合体を形成し、膜融合を促す。]]
===シナプス小胞の形成===
===シナプス小胞の形成===
 シナプス小胞は、小胞膜上のトランスポーターのはたらきで神経伝達物質を内部に取り込む。まず[[液胞型プロトンポンプ]]が小胞内を酸性にし、膜を介した[[電気化学的勾配]]を作る。これが伝達物質取り込みのためのエネルギー源となり、選択的トランスポーターにより伝達物質は小胞内部に取り込まれる。シナプス前終末細胞質に存在する神経伝達物質は、低親和性の小胞型トランスポーターによりシナプス小胞に充填される。例えばグルタミン酸およびGABAの場合は、それぞれの[[小胞型トランスポーター]]である[[vglut]]、[[vgat]]が各々のシナプス小胞膜に局在している。
 シナプス小胞は、小胞膜上のトランスポーターのはたらきで神経伝達物質を内部に取り込む。まず[[液胞型プロトンポンプ]]が小胞内を酸性にし、膜を介した[[電気化学的勾配]]を作る。これが伝達物質取り込みのためのエネルギー源となり、選択的トランスポーターにより伝達物質は小胞内部に取り込まれる。シナプス前終末細胞質に存在する神経伝達物質は、低親和性の小胞型トランスポーターによりシナプス小胞に充填される。例えばグルタミン酸およびGABAの場合は、それぞれの[[小胞型トランスポーター]]である[[vglut]]、[[vgat]]が各々のシナプス小胞膜に局在している。