「シュワン細胞」の版間の差分

編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
28行目: 28行目:


 NRG はEGFと相同性が高い分子で、チロシンキナーゼ受容体のErbを介してシグナル伝達を行う。NRG-1ならびにErb2/3を欠損させたマウスでは、末梢神経でシュワン前駆細胞およびシュワン細胞の欠損が観察される。このことから、NRGシグナルはシュワン細胞の発達に主要な役割を果たすと考えられており、二次的に神経細胞の発生にも影響を与える。
 NRG はEGFと相同性が高い分子で、チロシンキナーゼ受容体のErbを介してシグナル伝達を行う。NRG-1ならびにErb2/3を欠損させたマウスでは、末梢神経でシュワン前駆細胞およびシュワン細胞の欠損が観察される。このことから、NRGシグナルはシュワン細胞の発達に主要な役割を果たすと考えられており、二次的に神経細胞の発生にも影響を与える。
 シュワン細胞は軸索と接することによりDNA合成が促され、細胞増殖が活発になるが、そのメカニズムには軸索由来のNRGの関与が示唆されている。発生途中に軸索を除去するとシュワン細胞は脱落するが、NRG-1処置により生存が維持される。NRGあるいはその受容体のErb3のシグナルを中和すると、軸索シュワン細胞の増殖は低下する。このことから、軸索由来のNRGがシュワン細胞の増殖・生存の維持に寄与していると考えられている。 
 シュワン細胞は軸索と接することによりDNA合成が促され、細胞増殖が活発になるが、そのメカニズムには軸索由来のNRGの関与が示唆されている。発生途中に軸索を除去するとシュワン細胞は脱落するが、NRG-1処置により生存が維持される。NRGあるいはその受容体のErb3のシグナルを中和すると、軸索シュワン細胞の増殖は低下する。このことから、軸索由来のNRGがシュワン細胞の増殖・生存の維持に寄与していると考えられている。 
 NGR-1、Erb2,3、ならびにSox10欠損マウスではシュワン細胞の欠損が生じるが、さらに投射途中の後根神経節の神経細胞や運動神経細胞で神経細胞死も観察される。これは、シュワン細胞による神経細胞への栄養因子供給が欠如するためと示唆されている。
 NGR-1、Erb2,3、ならびにSox10欠損マウスではシュワン細胞の欠損が生じるが、さらに投射途中の後根神経節の神経細胞や運動神経細胞で神経細胞死も観察される。これは、シュワン細胞による神経細胞への栄養因子供給が欠如するためと示唆されている。
 ラット胎生14日ごろの末梢神経では、シュワン前駆細胞が神経の外縁部や内部に分布し、多くの軸索を包み込もうとしている。それらは互いにシート状の突起で連絡しはじめ、胎生18日に組織間隙との交通がないコンパクトな状態となり、軸索を束状化させる。NGRシグナル欠損マウスでは、異所性に併走する軸索がしばしば観察され、これはミエリンによる囲い込みが不完全な結果と示唆されている。すなわちNRGは間接的に軸索の束状化にも寄与する<ref><pubmed>18803318</pubmed></ref>。
 ラット胎生14日ごろの末梢神経では、シュワン前駆細胞が神経の外縁部や内部に分布し、多くの軸索を包み込もうとしている。それらは互いにシート状の突起で連絡しはじめ、胎生18日に組織間隙との交通がないコンパクトな状態となり、軸索を束状化させる。NGRシグナル欠損マウスでは、異所性に併走する軸索がしばしば観察され、これはミエリンによる囲い込みが不完全な結果と示唆されている。すなわちNRGは間接的に軸索の束状化にも寄与する<ref><pubmed>18803318</pubmed></ref>。


35行目: 37行目:
== 病態との関連 ==
== 病態との関連 ==


'''<big>腫瘍</big>'''
==== 腫瘍 ====
 
====== 神経鞘腫 ====== 
 
 全脳腫瘍の8.9%を占める。良性の腫瘍であり、成人に多く、女性は男性の1.4倍多い。頭蓋内の神経鞘腫は95%が第Ⅷ神経より発生する。第Ⅷ神経より発生する場合、ほとんどが前庭神経より発生する。Neurofibromatosis type (NF) 2遺伝子の関与が指摘されている。
 
====== 神経線維腫症 ======
 
 皮下や筋肉などの軟部組織に発生する良性の腫瘍。局所の圧痛が生じる。成人に見られ、男女差はない。NF1あるいはNF2が責任遺伝子と示唆されており、それぞれ神経線維腫症1型2型に分類され、どちらも難病指定されている。2型は聴神経鞘腫悪性化がしばしば観察され、神経鞘腫と合併することがある。
 
==== 脱髄疾患 ==== 


<big></big>&nbsp;'''神経鞘腫<br>''' 全脳腫瘍の8.9%を占める。良性の腫瘍であり、成人に多く、女性は男性の1.4倍多い。頭蓋内の神経鞘腫は95%が第Ⅷ神経より発生する。第Ⅷ神経より発生する場合、ほとんどが前庭神経より発生する。Neurofibromatosis type (NF) 2遺伝子の関与が指摘されている。
====== シャルコー・マリー・トゥース病タイプ ======


'''神経線維腫症<br>''' 皮下や筋肉などの軟部組織に発生する良性の腫瘍。局所の圧痛が生じる。成人に見られ、男女差はない。NF1あるいはNF2が責任遺伝子と示唆されており、それぞれ神経線維腫症1型2型に分類され、どちらも難病指定されている。2型は聴神経鞘腫悪性化がしばしば観察され、神経鞘腫と合併することがある。 <br>
 下肢の筋緊張や感覚障害を特徴とする遺伝性の末梢神経障害。多くが若年(10-20歳)で発症し、ミエリンおよび軸索の傷害が進むにつれ広範に神経症状があらわれる。シャルコー・マリー・トゥース病タイプⅠでは、ミエリンの脱落および神経伝達速度の遅延が認められる。常染色体優性遺伝であり、中でもPMP22の変異の割合が最も高い。


<br>
====== ギランバレー症候群 ======


&nbsp;'''<big>脱髄疾患</big>'''
 急性多発性神経炎の一つで、四肢の神経障害に始まる。先行感染に伴うことから免疫系の異常な活性化が原因と考えられているが、原因は未だ不明な指定難病。脱髄に加え軸索傷害を伴う場合もある。急性・単相性の経過で、症状は4週間以内にピークを迎えた後に徐々に回復に向かうと言われているが、部分的に機能障害が残る。


'''シャルコー・マリー・トゥース病タイプⅠ<br>''' 下肢の筋緊張や感覚障害を特徴とする遺伝性の末梢神経障害。多くが若年(10-20歳)で発症し、ミエリンおよび軸索の傷害が進むにつれ広範に神経症状があらわれる。シャルコー・マリー・トゥース病タイプⅠでは、ミエリンの脱落および神経伝達速度の遅延が認められる。常染色体優性遺伝であり、中でもPMP22の変異の割合が最も高い。 <br>


'''ギランバレー症候群<br>''' 急性多発性神経炎の一つで、四肢の神経障害に始まる。先行感染に伴うことから免疫系の異常な活性化が原因と考えられているが、原因は未だ不明な指定難病。脱髄に加え軸索傷害を伴う場合もある。急性・単相性の経過で、症状は4週間以内にピークを迎えた後に徐々に回復に向かうと言われているが、部分的に機能障害が残る。 <br>
==== 神経回路の再生 ==== 


<br>
 中枢神経系と異なり、切断あるいは挫傷の後、細胞死を免れた末梢神経は再生する。再生能力が乏しい中枢神経であっても、移植した末梢神経組織の中では再生していく様子が、中枢神経損傷ラットの延髄と脊髄の間に坐骨神経を移植する実験から示されている<ref><pubmed>7360259</pubmed></ref>。このことから、末梢神経組織は中枢神経組織と比較し再生に適した環境と考えられている。
 
 神経回路の再生は、損傷により断片化された組織が除去された後に、軸索が再伸長して完成する。損傷を受け活性化したシュワン細胞は、マクロファージの遊走性を高める。その結果、損傷部分で断片化した神経組織の貧食が進み、軸索の再生に適した場を提供する。


&nbsp;'''<big>神経回路の再生</big>'''
 損傷部周囲のシュワン細胞は、脱分化し細胞増殖する。増殖したシュワン細胞は、Büngner’s bandと呼ばれる構造物を形成し、その内部を再生軸索が走行していく。ここにはNGF、GDNFなどの成長を促す因子は豊富が発現している。また、ラミニンやフィブロネクチンなど軸索伸長の足場となる因子も発現している。これらは単独で軸索伸長を促進、あるいはNGFなど作用を増大させると考えられている<ref><pubmed>19501085</pubmed></ref>


 中枢神経系と異なり、切断あるいは挫傷の後、細胞死を免れた末梢神経は再生する。再生能力が乏しい中枢神経であっても、移植した末梢神経組織の中では再生していく様子が、中枢神経損傷ラットの延髄と脊髄の間に坐骨神経を移植する実験から示されている<ref><pubmed>7360259</pubmed></ref>。このことから、末梢神経組織は中枢神経組織と比較し再生に適した環境と考えられている。<br> 神経回路の再生は、損傷により断片化された組織が除去された後に、軸索が再伸長して完成する。損傷を受け活性化したシュワン細胞は、マクロファージの遊走性を高める。その結果、損傷部分で断片化した神経組織の貧食が進み、軸索の再生に適した場を提供する。<br> 損傷部周囲のシュワン細胞は、脱分化し細胞増殖する。増殖したシュワン細胞は、Büngner’s bandと呼ばれる構造物を形成し、その内部を再生軸索が走行していく。ここにはNGF、GDNFなどの成長を促す因子は豊富が発現している。また、ラミニンやフィブロネクチンなど軸索伸長の足場となる因子も発現している。これらは単独で軸索伸長を促進、あるいはNGFなど作用を増大させると考えられている<ref><pubmed>19501085</pubmed></ref>。<br>


== '''参考文献'''  ==
== '''参考文献'''  ==