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英語名 Stroop effect
 
{{box|text= 色つき文字に対する色命名時に見られる反応の遅延や葛藤現象をストループ効果(Stroop effect)(Stroop, 1935)と呼び,色名呼称課題を[[ストループ課題]]と呼ぶ。}}
 
== 心理学研究におけるストループ効果 ==
 複数の情報間の関係性によって,認知処理が遅延したり,間違いが起こる現象は認知的葛藤(Cognitive Conflict)と呼ばれ,認知処理の性質の検討のため,重要な位置を占めてきた。これまで,認知的葛藤を生じさせる課題は数多く提案されてきたが,この色つき文字を使用したストループ課題は,その代表として位置づけられる。ストループ効果は,心理学実験100選にも選出され、効果の堅固さから多くの領域で使用されてきた。
色つき文字に対する色命名時に見られる反応の遅延や葛藤現象をストループ効果(Stroop effect)(Stroop, 1935)と呼び,色名呼称課題をストループ課題と呼ぶ。また、色つき文字の文字呼称課題を逆ストループ課題と呼び,文字呼称時に不一致な色が反応を阻害する現象を逆ストループ効果と呼ぶ。一般に,ストループ効果に比べて逆ストループ効果は,小さいことが知られている。
 
 また,ストループ効果は,新たな研究パラダイムの登場とともに再び脚光を浴びるといった側面がる,古くて新しい現象である。ストループ効果研究に残された様々な課題をマクレオド(1991)はレヴューを行い、10個の課題をまとめている。心理学に端を発するStroop効果研究の裾野は広く、Stroop効果の(メカニズム)の研究、とStroop効果を用いた研究に大別することができる(図を作成)。今日では、後者の研究が中心になっている。注意、[[中央実行系]]、[[認知制御]]、コンフリクト・モニタリング、cognitive efficiency、task swiching、[[言語]]処理といった指標として用いられてきた。
 
== ストループ効果生起メカニズム ==
 原典であるストループ(1935)は,行動主義全盛期の研究であり,単語を読むといった学習が色を命名するといった学習よりも多くなされていることが,その規定因であると主張した。その後,1960年代の認知心理学の勃興以降では,入力から出力に至る情報処理プロセスそのものの検討材料にストループ効果は用いられてきた。特に,色命名と単語の音読との間で,色と文字の干渉の度合いが異なることから,色命名の処理と文字音読の処理がある程度並列的に進むことが仮定され,色命名に比べ文字処理は,自動性(注意を要さず不可避に処理が進むこと)が高いと考えられている。自動的処理のモデルかまた,今日では脳機能画像研究の進展に伴い,認知的葛藤の生起メカニズムの神経科学的基盤が検討されている。今日の生理心理学への展開に大きな契機を与えたのが、。
CohenのよるPDPモデルの提案によって
 → CohenのPDPモデル図
また、CohenのPDPモデルの臨床への応用は、Schoolerらによっていち早く行なわれている。
 
== Stroop課題のバリエーション ==
 ストループ効果研究には,その生起メカニズムの検討以外に,もう1つ大きな特徴がある。色つき文字を用いたストループ(1935)以降,多くの類似した課題(線画ストループ課題,カウンティング・ストループ課題,空間位置ストループ、[[情動]]ストループなど)が,生み出された点である(MacLeod, 1991,Williams et al. 1996などを参照のこと)。さまざまなバリエーションが提案されているが,要約すれば,刺激に2属性を求め,2属性間のconflictが反応に影響を与えていれば,すべてストループ効果(あるいはStroop like effect)と呼ばれている。また、刺激提示、反応計測においても、視覚提示、音声提示、キイ押し反応、音声による回答と、さまざまなバリエーションが存在する。
例えば,線画の中に絵と不一致な単語が重ねて印刷されている場合,絵の命名時間は,無意味つづりを絵の中に提示した場合より長くなる。この線画と単語を組み合わせたストループ課題は,線画ストループ課題と呼ばれ,線画と単語の意味の類似度の強さの検討などに用いられている。
 
追加
 
線画
 
カウンティング ⇒ Bush
 
情動Stroop
 
== ストループ効果と神経科学==
 今日のストループ効果研究の中心は,どのように認知的葛藤を制御しているのか,といった問題に移行している(Botvinick, Braver, Barch, Carter, & Cohen, 2001)。特に注目を浴びた研究は,コーエンを中心とした研究グループの行った脳機能画像研究(Kerns, Cohen, MacDonald, Cho, Stenger, & Carter, 2004)であり,認知的葛藤が起きているときの認知処理のコントロールに前部帯状回(anterior cingulate cortex)と[[前頭葉]](prefrontal)特に[[前頭前野]]背外側部dorsolateral prefrontalの関与が示された。

2015年11月9日 (月) 14:32時点における版

英語名 Stroop effect

 色つき文字に対する色命名時に見られる反応の遅延や葛藤現象をストループ効果(Stroop effect)(Stroop, 1935)と呼び,色名呼称課題をストループ課題と呼ぶ。

心理学研究におけるストループ効果

 複数の情報間の関係性によって,認知処理が遅延したり,間違いが起こる現象は認知的葛藤(Cognitive Conflict)と呼ばれ,認知処理の性質の検討のため,重要な位置を占めてきた。これまで,認知的葛藤を生じさせる課題は数多く提案されてきたが,この色つき文字を使用したストループ課題は,その代表として位置づけられる。ストループ効果は,心理学実験100選にも選出され、効果の堅固さから多くの領域で使用されてきた。 色つき文字に対する色命名時に見られる反応の遅延や葛藤現象をストループ効果(Stroop effect)(Stroop, 1935)と呼び,色名呼称課題をストループ課題と呼ぶ。また、色つき文字の文字呼称課題を逆ストループ課題と呼び,文字呼称時に不一致な色が反応を阻害する現象を逆ストループ効果と呼ぶ。一般に,ストループ効果に比べて逆ストループ効果は,小さいことが知られている。

 また,ストループ効果は,新たな研究パラダイムの登場とともに再び脚光を浴びるといった側面がる,古くて新しい現象である。ストループ効果研究に残された様々な課題をマクレオド(1991)はレヴューを行い、10個の課題をまとめている。心理学に端を発するStroop効果研究の裾野は広く、Stroop効果の(メカニズム)の研究、とStroop効果を用いた研究に大別することができる(図を作成)。今日では、後者の研究が中心になっている。注意、中央実行系認知制御、コンフリクト・モニタリング、cognitive efficiency、task swiching、言語処理といった指標として用いられてきた。

ストループ効果生起メカニズム

 原典であるストループ(1935)は,行動主義全盛期の研究であり,単語を読むといった学習が色を命名するといった学習よりも多くなされていることが,その規定因であると主張した。その後,1960年代の認知心理学の勃興以降では,入力から出力に至る情報処理プロセスそのものの検討材料にストループ効果は用いられてきた。特に,色命名と単語の音読との間で,色と文字の干渉の度合いが異なることから,色命名の処理と文字音読の処理がある程度並列的に進むことが仮定され,色命名に比べ文字処理は,自動性(注意を要さず不可避に処理が進むこと)が高いと考えられている。自動的処理のモデルかまた,今日では脳機能画像研究の進展に伴い,認知的葛藤の生起メカニズムの神経科学的基盤が検討されている。今日の生理心理学への展開に大きな契機を与えたのが、。 CohenのよるPDPモデルの提案によって  → CohenのPDPモデル図 また、CohenのPDPモデルの臨床への応用は、Schoolerらによっていち早く行なわれている。

Stroop課題のバリエーション

 ストループ効果研究には,その生起メカニズムの検討以外に,もう1つ大きな特徴がある。色つき文字を用いたストループ(1935)以降,多くの類似した課題(線画ストループ課題,カウンティング・ストループ課題,空間位置ストループ、情動ストループなど)が,生み出された点である(MacLeod, 1991,Williams et al. 1996などを参照のこと)。さまざまなバリエーションが提案されているが,要約すれば,刺激に2属性を求め,2属性間のconflictが反応に影響を与えていれば,すべてストループ効果(あるいはStroop like effect)と呼ばれている。また、刺激提示、反応計測においても、視覚提示、音声提示、キイ押し反応、音声による回答と、さまざまなバリエーションが存在する。 例えば,線画の中に絵と不一致な単語が重ねて印刷されている場合,絵の命名時間は,無意味つづりを絵の中に提示した場合より長くなる。この線画と単語を組み合わせたストループ課題は,線画ストループ課題と呼ばれ,線画と単語の意味の類似度の強さの検討などに用いられている。

追加

線画

カウンティング ⇒ Bush

情動Stroop

ストループ効果と神経科学

 今日のストループ効果研究の中心は,どのように認知的葛藤を制御しているのか,といった問題に移行している(Botvinick, Braver, Barch, Carter, & Cohen, 2001)。特に注目を浴びた研究は,コーエンを中心とした研究グループの行った脳機能画像研究(Kerns, Cohen, MacDonald, Cho, Stenger, & Carter, 2004)であり,認知的葛藤が起きているときの認知処理のコントロールに前部帯状回(anterior cingulate cortex)と前頭葉(prefrontal)特に前頭前野背外側部dorsolateral prefrontalの関与が示された。