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英語名:Septin 英語略名:SEPT  
英語名:Septin 英語略名:SEPT  


 セプチンは[[真核生物]]に保存された重合性[[グアノシン三リン酸]](GTP)結合蛋白質ファミリーの総称である。セプチン重合体は多様な分子の足場ないし拡散障壁となり、[[樹状突起]]・軸索・[[繊毛]]・[[鞭毛]]の形成、[[微小管]]系やアクトミオシン系の制御、[[細胞分裂]]、分泌小胞の[[エキソサイトーシス]]など多彩な生命現象に関与する<ref><pubmed>16186812</pubmed></ref>。ヒトでは優性変異型''SEPT9'' が家族性神経痛性筋萎縮症の原因となるほか<ref><pubmed>18478031</pubmed></ref>、[[パーキンソン病]]や[[統合失調症]]では複数のセプチンの量的・質的異常が随伴する。  
 セプチンは[[真核生物]]に保存された重合性[[グアノシン三リン酸]](GTP)結合蛋白質ファミリーの総称である。セプチン重合体は多様な分子の足場ないし拡散障壁となり、[[樹状突起]]・軸索・[[繊毛]]・[[鞭毛]]の形成、[[微小管]]系やアクトミオシン系の制御、[[細胞分裂]]、分泌小胞の開口放出など多彩な生命現象に関与する<ref><pubmed>18478031</pubmed></ref>。ヒトでは優性変異型''SEPT9'' が家族性神経痛性筋萎縮症の原因となるほか<ref><pubmed>16186812</pubmed></ref>、[[パーキンソン病]]や[[統合失調症]]では複数のセプチンの量的・質的異常が随伴する。  


== 歴史  ==
== 歴史  ==
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== 神経系における生理機能  ==
== 神経系における生理機能  ==


 セプチンを最も大量に発現する組織が神経系であることやヒトの精神・神経・筋疾患との関連から神経系におけるセプチン機能に関心が集まっている。[[ショウジョウバエ]]の致死性セプチン変異体''pnut''は初期胚の表割(細胞膜形成/cellularization)の異常を呈し、神経系の形質は不明であるが、眼の光受容細胞R7を欠損する''sina''変異体の[[エンハンサー]]であることが知られている。線虫の運動障害(''unc'')変異体として見出されたセプチン欠損変異体''unc-59/-61''では細胞分裂は顕在化せず、神経突起形成ないしガイダンスの異常を呈する<ref><pubmed>12941631</pubmed></ref>。マウスでは脳におけるセプチンの発現・局在パターンは[[サブユニット]]や細胞ごとに大きく異なる。[[Image:図3.jpg|330px|thumb|right|図3:神経細胞やグリア細胞の特定の膜ドメインにおけるセプチンクラスター]]
 セプチンを最も大量に発現する組織が神経系であることやヒトの精神・神経・筋疾患との関連から神経系におけるセプチン機能に関心が集まっている。[[ショウジョウバエ]]の致死性セプチン変異体''pnut''は初期胚の表割(細胞膜形成/cellularization)の異常を呈し、神経系の形質は不明であるが、眼の光受容細胞R7を欠損する''sina''変異体の[[エンハンサー]]であることが知られている。線虫の運動障害(''unc'')変異体として見出されたセプチン欠損変異体''unc-59/-61''では細胞分裂は顕在化せず、神経突起形成ないしガイダンスの異常を呈する<ref><pubmed>12941631</pubmed></ref>。マウスでは脳におけるセプチンの発現・局在パターンは[[サブユニット]]や細胞ごとに大きく異なる。[[Image:図3.jpg|330px|thumb|right|図3:ニューロンやグリアの特定の膜ドメインにおけるセプチンクラスター]]
例えばSEPT3,5は神経細胞に発現して[[樹状突起スパイン]]や軸索末端に局在し、SEPT2,4は[[グリア細胞]]に発現して突起の特定の膜ドメインを裏打ちする(図3)<ref><pubmed>11064363</pubmed></ref>。これまでに報告されたセプチン遺伝子欠損マウスのうち、''Sept7'',''9''の欠損は胎生致死となる一方、''Sept3'',''4'',''5'',''6''の欠損による神経系の異常は軽度なレベルにとどまる<ref><pubmed>19588878</pubmed></ref>。後者の理由として同じグループに属する機能重複遺伝子による代償が推測されるが、興味深い事実も明らかになってきた。例えば''Sept4''欠損マウスでは聴覚性プレパルス抑制の減弱から、黒質-線条体投射系のドパミンニューロンの軸索末端においてドパミン代謝機構がダウンレギュレーションしていることがわかった<ref><pubmed>17296554</pubmed></ref>。一方、''Sept5''欠損マウスでは聴覚系シナプスcalyx of Heldの軸索末端におけるシナプス小胞の開口放出の調節が異常となる<ref><pubmed>20624595</pubmed></ref>。いずれも足場ないし拡散障壁機能の欠損によるものと想定されるが、詳細なメカニズムの解明や他のニューロンやグリアにおけるセプチン機能の探索は今後の課題である。  
例えばSEPT3,5はニューロンに発現して[[樹状突起スパイン]]や軸索末端に局在し、SEPT2,4はグリアに発現して突起の特定の膜ドメインを裏打ちする(図3)<ref><pubmed>11064363</pubmed></ref>。これまでに報告されたセプチン遺伝子欠損マウスのうち、''Sept7'',''9''の欠損は胎生致死となる一方、''Sept3'',''4'',''5'',''6''の欠損による神経系の異常は軽度なレベルにとどまる<ref><pubmed>19588878</pubmed></ref>。後者の理由として同じグループに属する機能重複遺伝子による代償が推測されるが、興味深い事実も明らかになってきた。例えば''Sept4''欠損マウスでは聴覚性プレパルス抑制の減弱から、黒質-線条体投射系のドパミンニューロンの軸索末端においてドパミン代謝機構がダウンレギュレーションしていることがわかった<ref><pubmed>17296554</pubmed></ref>。一方、''Sept5''欠損マウスでは聴覚系シナプスcalyx of Heldの軸索末端におけるシナプス小胞の開口放出の調節が異常となる<ref><pubmed>20624595</pubmed></ref>。いずれも足場ないし拡散障壁機能の欠損によるものと想定されるが、詳細なメカニズムの解明や他のニューロンやグリアにおけるセプチン機能の探索は今後の課題である。  
   
   
== 参考文献  ==
== 参考文献  ==
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